五・七・五の十七音に四季を織り込み、詠み手の心情や情景を詠みこむ俳句。
名句と聞くと、「松尾芭蕉(まつおばしょう)」の作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
秋田便の飛行機から見る月山が好きです。
今日は残念ながら雲に隠れていましたが、松尾芭蕉の句を思い出しました。
雲の峰
いくつ崩れて
月の山 pic.twitter.com/Iq9dJpeJlo— Fサポ (@Fsuppo_BBA) June 13, 2015
今回は、俳聖と称された松尾芭蕉の人物像、俳句の特徴や代表作を徹底解説します。
ぜひ参考にしてみてください。
目次
松尾芭蕉の特徴や人物像
(松尾芭蕉 出典:Wikipedia)
松尾芭蕉(まつお ばしょう)は、江戸時代初めの元禄期に活躍した俳人です。当時は言葉遊びでしかなかった俳諧(はいかい)を、芸術の領域まで高め、俳聖とも称されました。
芭蕉が目指したのは、さび、しおり、細み、軽みなどを重んじ、静寂の中の自然の美や人生観を詠みこんだ俳句でした。幽玄・閑寂を尊ぶ句風は「蕉風(しょうふう)」と呼ばれ、多くの共感や賞賛をよび日本各地に広まっていきます。
芭蕉は10代後半に仕えた主君の影響により俳諧を学び始め、江戸へ出て武士や商人に俳句を教える傍ら、俳諧師として生きることを決意します。
多くの門人を従え、俳諧の世界で成功を収めた芭蕉ですが、40歳を過ぎるころから全国を巡礼しながら俳句を詠むという生き方にたどり着きます。
各地を旅する芭蕉は俳句だけでなく、東北・北陸での旅路をまとめた日本紀行文学の最高傑作とも言われる『奥の細道』を残しています。最後は大阪に向かって旅立った道中で体調を崩し、51歳の生涯に幕を閉じました。
次に、松尾芭蕉の代表的な俳句を季節(春夏秋冬)別に紹介していきます。
松尾芭蕉の有名俳句・代表作【50選】
(松尾芭蕉 出典:Wikipedia)
春の俳句【10選】
【NO.1】
『 古池や 蛙飛び込む 水の音 』
季語:蛙(春)
現代語訳:古い池に蛙飛び込む音が聞こえてくる、なんて静かなのだろう
【NO.2】
『 行く春や 鳥啼き魚の 目は泪 』
季語:行く春(春)
現代語訳:春が過ぎ去ろうとしていることに鳥は鳴いて悲しみ、魚は目に涙が浮かべている。より悲しみがわき上がってくる。
【NO.3】
『 山里は 万歳遅し 梅の花 』
季語:梅(春)
現代語訳:辺鄙(へんぴ)な山里では梅の花が咲く頃になって、ようやく万歳がやってきたことだ。
【NO.4】
『 山路きて 何やらゆかし すみれ草 』
季語:すみれ草(春)
現代語訳:山路を辿ってきて、ふと、道端にひっそりと咲くすみれの花を見つけ、なんとなく心惹かれることよ。
【NO.5】
『 草臥れて 宿借るころや 藤の花 』
季語:藤の花(春)
現代語訳:一日の旅に疲れ、そろそろ宿を求める頃合になってきた。ふと見ると、藤の花が見事に咲き垂れている。
【NO.6】
『 しばらくは 花の上なる 月夜かな 』
季語:花(春)
現代語訳:今を盛りと咲き誇る花の上に月が照っている。しばらくは月下の花見ができそうだ。
【NO.7】
『 ほろほろと 山吹散るか 滝の音 』
季語:山吹(春)
現代語訳:滝が激しい音を立てて岩間に流れ落ち、岸辺に咲く山吹の花は風も吹かないのにほろほろと散る。
【NO.8】
『 花の雲 鐘は上野か 浅草か 』
季語:花の雲(春)
現代語訳:見渡せば雲と見間違うほど、桜が咲き誇っている。聞こえてくる鐘の音は上野の寛永寺であろうか、それとも浅草の浅草寺であろうか。
【NO.9】
『 梅が香に のつと日の出る 山路哉 』
季語:梅(春)
現代語訳:早春の明け方、梅の香りが漂う山路を歩いていると、山並みの向こうに朝日がのっと昇ってきた。
【NO.10】
『 草の戸も 住み替はる代ぞ 雛の家 』
季語:雛(春)
現代語訳:この住み慣れた草の庵も住み変わる時が来た。雛人形を飾るような小さな女の子のいる家族が住むだろう。
夏の俳句【17選】
【NO.1】
『 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 』
季語:蝉(夏)
現代語訳:なんて静かなのだろう。石にしみ入るように蝉が鳴いている。
【NO.2】
『 五月雨を 集めてはやし 最上川 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:梅雨の雨(さみだれ)を集め水かさが増している、最上川の急流よ。
【NO.3】
『 夏草や 兵どもが 夢の跡 』
季語:夏草(夏)
現代語訳:今や夏草が生い茂るばかりだが、かつては武士達が栄誉を夢見て奮戦した跡地である。
【NO.4】
『 田一枚 植えて立ち去る 柳かな 』
季語:田植え(夏)
現代語訳:柳にたたずみ懐古の情にふけっている間に、農民たちは田を一枚植え終わり立ち去った。思わず時が経ったのだと、私も柳の元を立ち去った。
【NO.5】
『 暑き日を 海にいれたり 最上川 』
季語:暑き日(夏)
現代語訳:一日の暑さを最上川が海に流し入れてくれた。ようやく夕方の涼を得られることだ。
【NO.6】
『 五月雨を 降り残してや 光堂 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:何もかも朽ちさせてしまう五月雨も、この光堂だけは振り残したのだろうか。金色の堂宇が今も光輝いていることよ。
【NO.7】
『 あらたふと 青葉若葉の 日の光 』
季語:青葉若葉(夏)
現代語訳:ああ、尊くありがたいことよ。この日光の霊山の青葉若葉に降り注ぐ日の光は。
【NO.8】
『 おもしろうて やがて悲しき 鵜舟かな 』
季語:鵜舟(夏)
現代語訳:賑やかに行われる鵜飼いは風情があり面白いものだ。しかし時間が経つにつれて悲しい気分になってくる。
【NO.9】
『 暫時は 滝に籠るや 夏の初 』
季語:夏(げ)(夏)
現代語訳:滝の裏にある岩窟に篭っていると、まるで夏行(げぎょう)をしている修行僧のようで、身も引き締まることよ。
【NO.10】
『 木啄も 庵はやぶらず 夏木立 』
季語:夏木立(夏)
現代語訳:寺を壊してしまうというキツツキも、この庵だけは壊さないでいたのだろう。夏の木立の間に小さな庵が見える。
【NO.11】
『 雲の峰 いくつ崩れて 月の山 』
季語:雲の峰(夏)
現代語訳:雲の峰がいくつ崩れると、あの神々しい姿である月山になるのだろうか。
【NO.12】
『 象潟(きさかた)や 雨に西施(せいし)が ねぶの花 』
季語:ねぶの花(夏)
現代語訳:象潟に雨が降っている。雨に濡れてねぶの花がうちしおれている姿は、古代中国の西施がまぶたを伏せて憂いている姿のようだ。
【NO.13】
『 語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな 』
季語:湯殿/湯殿詣で(夏)
現代語訳:掟として湯殿詣での詳細を語ることができない。ただありがたさに袂を濡らすばかりである。
【NO.14】
『 若葉して 御目の雫 ぬぐはばや 』
季語:若葉(夏)
現代語訳:この周りの若葉で、鑑真和上の目の雫をぬぐってさしあげたいなぁ。
【NO.15】
『 世の人の 見付けぬ花や 軒の栗 』
季語:栗/栗の花(夏)
現代語訳:世の中の人はひっそり咲いていて見つけられない花なのだ、この栗の花は。
【NO.16】
『 野を横に 馬牽(ひき)むけよ ほととぎす 』
季語:ほととぎす(夏)
現代語訳:野原を横切るときにホトトギスの声が聞こえた。馬を鳴き声の方に向けてくれ。
【NO.17】
『 蚤虱(のみしらみ) 馬の尿(しと)する 枕もと 』
季語:蚤虱(夏)
現代語訳:ノミやシラミが枕元で跳ね、馬が尿をする音まで聞こえてくることだ。
秋の俳句【16選】
【NO.1】
『 名月や 池をめぐりて 夜もすがら 』
季語:名月(秋)
現代語訳:名月を眺めながら池の周りを歩いていたら、いつの間にか夜が明けてしまった
【NO.2】
『 菊の香や 奈良には古き 仏たち 』
季語:菊(秋)
現代語訳:菊の香りが漂う奈良の町、その香りの中に古い仏像たちがひっそりとたたずんでいる
【NO.3】
『 秋深き 隣は何を する人ぞ 』
季語:秋深き(秋)
現代語訳:いよいよ秋も深まり、隣の人は何をしているのだろうか。
【NO.4】
『 この道や 行く人なしに 秋の暮れ 』
季語:秋の暮れ(秋)
現代語訳:秋の夕暮れ時に、この道を行く人は誰ひとりいない。道を行く私は何と寂しいことだ。
【NO.5】
『 物言えば 唇寒し 秋の風 』
季語:秋の風(秋)
現代語訳:口を開くと 秋の冷たい風が唇に触れて 寒々しい気分になる
【NO.6】
『 むざんやな 甲の下の きりぎりす 』
季語:きりぎりす(現在のコオロギ)(秋)
現代語訳:なんと憐れにいたわしいことよ。かつては勇壮に戦った斎藤実盛の甲の下で、今はコオロギが鳴くばかりである。
【NO.7】
『 蛤の ふたみにわかれ 行く秋ぞ 』
季語:行く秋(秋)
現代語訳:深まり行く秋、蛤の殻と身を引き裂くように、再び悲しい別れの時がきたことだ。
【NO.8】
『 荒海や 佐渡に横たふ 天の川 』
季語:天の川(秋)
現代語訳:暗く荒れ狂れ狂う日本海の向こうには佐渡島が見える。空を見上げると天の川が佐渡の方へと横たわっている。
【NO.9】
『 一家に 遊女もねたり 萩と月 』
季語:萩(秋)
現代語訳:同じ屋根の下に華やかな遊女も居合わせて眠っている。庭では萩の花が咲いて月が照っている。
【NO.10】
『 石山の 石より白し 秋の風 』
季語:秋の風(秋)
現代語訳:石山の白く晒された石よりも白く感じる秋の風だ。
【NO.11】
『 山中や 菊はたおらぬ 湯の匂 』
季語:菊(秋)
現代語訳:この山中に湧く温泉の香りであれば、不老長寿を約束するという菊の花も手折る必要がないというものだ。
【NO.12】
『 あかあかと 日はつれなくも 秋の風 』
季語:秋の風(秋)
現代語訳:あかあかと照りつける日の光は立秋を過ぎたにもかかわらず辛いものだ。吹いてくる風だけが秋の気配を運んでくる。
【NO.13】
『 義朝の 心に似たり秋の風 』
季語:秋の風(秋)
現代語訳:妻の常盤御前を想っている、源義朝の悲しげな心によく似た秋の風が吹いている。
【NO.14】
『 文月や 六日も常の 夜には似ず 』
季語:文月(秋)
現代語訳:明日がいよいよ七夕だと思うと、前日の6日もいつもの夜とは思えないものだなぁ。
【NO.15】
『 今日よりや 書付消さん 笠の露 』
季語:露(秋)
現代語訳:今日からは「同行二人」の書付も消さなければならない。笠の露と私の涙で消してしまおう。
【NO.16】
『 早稲の香や 分け入る右は 有磯海 』
季語:早稲(秋)
現代語訳:早めに実る稲の香りがするなぁ。分け行って進む右手には有磯海が広がっている。
冬の俳句&無季俳句【7選】
【NO.1】
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
現代語訳:旅の途中、病床に臥しながらも、夢の中では今なお草木が枯れた冬の野を駆け巡っている。
【NO.2】
『 面八句を 庵の柱に 懸け置く 』
季語:なし
現代語訳:初表八句を書き記した懐紙を、芭蕉庵の柱に残しておく
【NO.3】
『 かねて耳 驚かしたる 二堂開帳す 』
季語:なし
現代語訳:以前からその評判を聞いていた二堂がちょうど開帳していた。
【NO.4】
『 あら何ともなや 昨日は過ぎて 河豚(ふぐと)汁 』
季語:河豚汁(冬)
現代語訳:ああ何ともなかったようだ。河豚汁を食べた昨日は過ぎ去って今日を迎えることができた。
【NO.5】
『 いざさらば 雪見にころぶ 所まで 』
季語:雪見(冬)
現代語訳:さあお暇しましょう。雪を見に転ぶところまで行ってみましょう。
【NO.6】
『 人々を しぐれよ宿は 寒くと 』
季語:しぐれ/時雨(冬)
現代語訳:句会の座敷が寒くなっても構わない。集まった人々とともに時雨の風情と詫びを楽しもうではないか。
【NO.7】
『 海くれて 鴨のこえほのかに 白し 』
季語:鴨(冬)
現代語訳:海に夕暮れが来て、ほのかに白い影から鴨の声がする。
さいごに
(松尾芭蕉 出典:Wikipedia)
今回は、松尾芭蕉の代表的な俳句を50句紹介しました。
芭蕉が残したひとつひとつの句に込められた想いや背景を知ると、俳句への理解が深まるだけでなく、松尾芭蕉という人となりも伝わってくるような気がします。
芭蕉は生前「平生即ち辞世なり(常日頃から詠む俳句は辞世の句のつもりで詠んでいる)」ということを門人達に伝えていました。
一日一日を大切に、目の前のことに全力を注ぐ芭蕉の生き方は、現代を生きる私たちにも通じる信念だといえるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。