
四季折々の美しさや読み手の心情を表現する「俳句」の世界。
五・七・五の十七音という限られた文字数で、情緒や風景を伝えるという広がりを持った表現が魅力です。
名句を残した俳人といえば、「江戸の三大俳人」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
今回はその内の一人・与謝蕪村の有名俳句(代表作)をご紹介します。
与謝蕪村の、「春雨や小磯の小貝ぬるヽほど」って、俳句大好き♥
雨の匂いや、磯の香りがこの一句から、ふぁ~んと漂う感じがなんとも言えず好きなのさ! (画像はお借りしました)#与謝蕪村 pic.twitter.com/7d9S9yvwXM— ruitaro (@ruinojyo55) June 1, 2018
与謝蕪村の人物像と作風
(与謝蕪村 出典:Wikipedia)
与謝蕪村(1644~1694年)は江戸時代中期に活躍した俳人で、松尾芭蕉・小林一茶とともに「江戸の三大俳人」に数えられた人物です。
摂津国(現在の大阪府都島区)に生まれた蕪村は、芭蕉に大きな影響を受け、江戸にでて俳諧を学び始めます。
のちに芭蕉の旅をなぞるため、北関東から東北までを中心に長い放浪生活を送っていることからも、憧れの強さがうかがいしれます。
蕪村は芭蕉没後、独創性を失い衰退していく俳諧を憂い、格調高いものに復興させようと「蕉風回帰」を唱えました。こうした取り組みと、写実的で抒情豊かな句風で当時の俳諧を牽引したことから、「中興の祖」とも称されています。
また、独学でありながら画の才能を発揮した蕪村は、俳人としてではなく画家で生計を立てていました。俳諧と画を融合させた「俳画」の創始者となり、後に文人画(文人・知識人の描く絵画)を究めていきます。
画家としての一面は句作にも大きく影響しており、優れた色彩感覚と写実的な手法によって「絵のように俳句を詠む」ことを得意としました。蕪村の句を詠むと、その情景が読み手にも一枚の絵のように浮かんでくることでしょう。
与謝蕪村の有名俳句・代表作【15選】
春の俳句【3選】
【NO.1】
『 春の海 終日のたり のたりかな 』
現代語訳:空はうららかに晴れ渡り、春の海には波がゆるやかにうねりを描いて、1日中のたりのたりと寄せては返している。
季語:春の海
【NO.2】
『 菜の花や 月は東に 日は西に 』
現代語訳:一面、菜の花が咲いている。今まさに月が東から登ってきて、太陽は西に沈んでゆくところだ。
季語:菜の花
【NO.3】
『 春雨や ものがたりゆく 蓑と傘 』
現代語訳:春雨がしとしっと降りそそぐ中を、蓑を着た人と傘をさした人が何事か話しながら、ゆっくりと歩いていく。
季語:春雨
夏の俳句【6選】
【NO.1】
『 夏河を 越すうれしさよ 手に草履 』
現代語訳:夏の川を、はだしで渡るのは嬉しいことだなあ。手に草履を持って。
季語:夏河
【NO.2】
『 夕立や 草葉をつかむ むら雀 』
現代語訳:夕立がやってきたことだ。雀の群れが雨宿りのために草の葉をつかんで隠れようとしている。
季語:夕立
【NO.3】
『 愁ひつつ 岡に登れば 花いばら 』
現代語訳:心に憂いを抱きながら岡に登ると、そこには花いばらがひっそりと咲いていた。
季語:花いばら
【NO.4】
『 五月雨や 大河を前に 家二軒 』
現代語訳:五月雨が降り続き水かさを増した川が、激しい勢いで流れている。そのほとりには家が二件、ぽつんと建っている。
季語:五月雨
【NO.5】
『 不二ひとつ うづみ残して 若葉かな 』
現代語訳:富士山だけを残して、見渡す限り若葉が地上を埋め尽くしていることだなあ。
季語:若葉
【NO.6】
『 牡丹散りて うち重なりぬ ニ三片 』
現代語訳:美しく咲き誇っていた牡丹の花がはらりと散り始め、大きな花びらが二、三片、静かに重なり合っている。
季語:牡丹
秋の俳句【3選】
【NO.1】
『 鳥羽殿へ 五六騎いそぐ 野分かな 』
現代語訳:野分が吹き荒れる中、五、六騎の武士たちが、鳥羽殿を目指して一目散に駆けていくことだ。
季語:野分
【NO.2】
『 朝顔や 一輪深き 淵の色 』
現代語訳:朝顔が鮮やかに咲きそろう中、ただ一輪、深い淵のように濃い藍色をした花がある。
季語:朝顔
【NO.3】
『 山は暮れて 野は黄昏の すすきかな 』
現代語訳:山はとっぷりと日が暮れてしまったが、野原にはぼんやりと黄昏の光が残り、すすきの穂が白く浮き上がって見えることだなあ。
季語:すすき
冬の俳句【3選】
【NO.1】
『 斧入れて 香におどろくや 冬木立 』
現代語訳:冬枯れした木を斧で切りつけてみると、鮮烈な香りがしてきたので驚いたことだ。
季語:冬木立
【NO.2】
『 寒月や 門なき寺の 天高し 』
現代語訳:寒い夜、空には冴えわたった月が出ている。門もない小さな寺の上には、澄み切った空が天高く広がっている。
季語:寒
【NO.3】
『 宿かせと 刀投げ出す 吹雪かな 』
現代語訳:激しい吹雪の中、旅の侍が家に飛び込んできて「一夜の宿を貸してくれ」というより早く、腰の刀を投げ出した。
季語:吹雪
さいごに
今回は与謝蕪村が残した名句の中から、春夏秋冬にあわせ代表作をご紹介してきました。
叙情性豊かで絵画的な俳句の世界をお楽しみいただけたのではないでしょうか。
蕪村の句風は写実的でありながら、目の前の風景をそのまま表現するというよりは、懐古的憧憬や理想化された空想世界を多く詠んでいます。
これこそが蕪村の最大の魅力であり、現代を生きる私たちの心に響くゆえんなのでしょう。