夏は山や川、海、食べ物など多くの季語を用いて、暑さや暑さの中の涼しさを詠むことが多い季節です。
初夏から梅雨を経て真夏へとうつり変わっていく様子は多くの俳句の題材となっています。
閑さや岩にしみいる 蝉のこえ
芭蕉
夏の暑さもしーんとした山形の宝珠山立石寺の境内に脚を踏み入れると、そこは 喧騒から切り離された特別な空間、幾百年の歳月に清められた聖域だった pic.twitter.com/eBYNhUNd8v
— Rich (@richkaneda1) July 10, 2015
今回は、「夏の季語」を含む有名な俳句【40選】を紹介していきます。
目次
知っておきたい!夏の季語【一例】
夏の季語は、旧暦で4月から6月、現在の暦では5月から7月頃のものを指します。
以下に夏の季語の一例を挙げていきます。
【夏の季語】
夏・暑し・涼し・風薫る・雷・雲の峰・汗・団扇・ところてん・昼寝・浴衣・祭・郭公・ヒキガエル・ホトトギス・蠅・夏草・夏木立・青葉・麦の秋・立夏・柏餅・更衣(ころもがえ)・初鰹・卯の花・薔薇・牡丹・タケノコ・麦・葉桜・五月雨・梅雨・蛍・紫陽花・秋近し・梅干・炎天・瓜・向日葵・蓮・夕顔・鮎・夕立・コガネムシ・百日紅
次に夏の有名俳句を紹介していくよ!
夏のおすすめ有名俳句①【10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 』
季語:蝉(夏)
意味:静かな山寺だなぁ。蝉の声がまるで岩にしみ入るように聞こえてくる。
【NO.2】松尾芭蕉
『 五月雨を 集めてはやし 最上川 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨を集めるようにして早い流れとなる最上川だ。
【NO.3】松尾芭蕉
『 雲の峰 いくつ崩れて 月の山 』
季語:雲の峰(夏)
意味:あの入道雲がいくつ崩れると月山になるのだろう。
【NO.4】松尾芭蕉
『 夏草や 兵どもが 夢の跡 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が茂っているなぁ。かつて栄華を極めた兵たちの夢の跡のようだ。
この句は『おくのほそ道』で、奥州平泉の古戦場を一望したときの一句です。あれほどまでに栄華を極め争った奥州藤原氏の居城も、今や夏草の生い茂る跡地になっているという無常観をよく表しています。
【NO.5】松尾芭蕉
『 あらたふと 青葉若葉の 日の光 』
季語:青葉若葉(夏)
意味:なんと尊いことか。青葉若葉から漏れる日光に照らされた日光の山々は。
【NO.6】与謝蕪村
『 鮎くれて よらで過ぎ行く 夜半の門 』
季語:鮎(夏)
意味:友人が鮎をくれたが、夜も遅いから寄っていけと言ったのに過ぎて行ってしまった門だ。
【NO.7】与謝蕪村
『 五月雨や 大河を前に 家二軒 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨が何日も降り続いているなぁ。大雨で増水して大河となった川の前に家が二軒寄り添うようにぽつんと建っている。
【NO.8】与謝蕪村
『 夏河を 越すうれしさよ 手に草履 』
季語:夏河(夏)
意味:夏の川を裸足で越す嬉しさよ。手に草履を持って川を越そう。
【NO.9】与謝蕪村
『 ほととぎす 平安城を 筋違に 』
季語:ほととぎす(夏)
意味:ホトトギスが鳴きながら、平安京の跡地を筋違いに飛んでいった。
【NO.10】与謝蕪村
『 夕立や 草葉をつかむ むら雀 』
季語:夕立(夏)
意味:夕立が降ってきたなぁ。雨宿りをしようとして、草葉を掴むようにして裏に隠れる雀の群れだ。
夏のおすすめ有名俳句②【10句】
【NO.1】小林一茶
『 やれ打つな 蝿が手をすり 足をする 』
季語:蝿(夏)
意味:ああ打たないでくれ。ハエが手をすり、足をすりながら命乞いをしている。
【NO.2】小林一茶
『 やせ蛙 負けるな一茶 これにあり 』
季語:やせ蛙/ヒキガエル(夏)
意味:やせているヒキガエルよ、負けてくれるな。一茶がここで応援しているぞ。
【NO.3】小林一茶
『 大の字に 寝て涼しさよ 淋しさよ 』
季語:涼し(夏)
意味:大の字になって誰に気兼ねすることなく寝て涼しさを感じるなぁ。だが独りの淋しさも感じることだ。
【NO.4】小林一茶
『 涼風の 曲がりくねって きたりけり 』
季語:涼風(夏)
意味:涼しい風が曲がりくねった道を通ってやってきた。
【NO.5】小林一茶
『 蟻の道 雲の峰より つづきけん 』
季語:雲の峰(夏)
意味:このアリの行列は、彼方の入道雲の方から続いてきているのだろうか。
【NO.6】松尾芭蕉
『 野を横に 馬牽(ひき)むけよ ほととぎす 』
季語:ほととぎす(夏)
意味:馬に乗って草原を横切っていると、ホトトギスの声が聞こえた。馬子よ、馬をそちらの方向に引き向けておくれ。
【NO.7】松尾芭蕉
『 象潟(きさかた)や 雨に西施が ねぶの花 』
季語:ねぶの花(夏)
意味:象潟の美しい風景だ。雨に打たれてうつむくねぶの花がまるで西施のようである。
【NO.8】内藤鳴雪
『 もらひくる 茶碗の中の 金魚かな 』
季語:金魚(夏)
意味:もらってきた金魚を茶碗の中に入れて歩くと、金魚がゆらゆらと揺れることだ。
【NO.9】夏目漱石
『 叩かれて 昼の蚊を吐く 木魚かな 』
季語:蚊(夏)
意味:僧侶が木魚を叩き始めると、中にいた蚊が驚いたように飛び立つ姿が木魚が吐き出したように見えるなぁ。
【NO.10】阿波野青畝
『 牡丹百 二百三百 門一つ 』
季語:牡丹(夏)
意味:牡丹の花が百、二百、三百と数え切れないほどに咲いている。牡丹の花々の奥には門が一つ建っている。
夏のおすすめ有名俳句③【10句】
【NO.1】正岡子規
『 梅雨晴れや ところどころに 蟻の道 』
季語:梅雨晴れ(夏)
意味:梅雨の晴れ間だなぁ。地上に出てきたのか、ところどころにアリが行列を作っている。
【NO.2】正岡子規
『 紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘 』
季語:紫陽花(夏)
意味:紫陽花が咲いているなぁ。昨日の花の色が誠で、今日の花の色は嘘なのだろうか。
【NO.3】正岡子規
『 ずんずんと 夏を流すや 最上川 』
季語:夏(夏)
意味:ずんすんと暑い夏を流すような最上川の流れだ。
【NO.4】正岡子規
『 夏嵐 机上の白紙 飛び尽す 』
季語:夏嵐(夏)
意味:夏の強い風が吹いた。机の上に置いてあった白紙が飛んでいってしまったなぁ。
【NO.5】正岡子規
『 夏草や ベースボールの 人遠し 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が茂っているなぁ。野球をしている人達が遠くに見える。
【NO.6】高浜虚子
『 金亀虫(こがねむし) 擲つ(なげうつ)闇の 深さかな 』
季語:金亀虫(夏)
意味:コガネムシを夜の庭に放り投げたところ、あっという間に見えなくなって闇の深さに驚いたことだ。
【NO.7】高浜虚子
『 夏山や よく雲かかり よく晴るる 』
季語:夏山(夏)
意味:緑が鮮やかな夏の山だなぁ。山頂にはよく雲がかかっていて、空はよく晴れている。
【NO.8】高浜虚子
『 炎天の 地上花あり 百日紅(さるすべり) 』
季語:百日紅(夏)
意味:炎天下の地上に、百日紅の花が咲いている。
【NO.9】高浜虚子
『 白牡丹と いふといへども 紅ほのか 』
季語:白牡丹(夏)
意味:白牡丹という名前とはいえども、よくみるとうっすらと紅色がほのかにさしていることだよ。
【NO.10】山口素堂
『 目には青葉 山ほととぎす 初鰹 』
季語:青葉(夏)/ほととぎす(夏)/初鰹(夏)
意味:山の青葉が見え、ほととぎすの声が聞こえて、初鰹を味わう初夏が来た。
夏のおすすめ有名俳句④【10句】
【NO.1】山口誓子
『 夏の河 赤き鉄鎖の はし浸る 』
季語:夏の河(夏)
意味:夏の川に、錆止めの赤いペンキの塗られた鉄の鎖の端が浸されている。
【NO.2】西東三鬼
『 おそるべき 君等の乳房 夏来る 』
季語:夏来る(夏)
意味:おそるべきことに君たちが胸を強調する服装をする夏が来る。
【NO.3】宝井其角
『 夕涼み よくぞ男に 生まれけり 』
季語:夕涼み(夏)
意味:夕涼みをしよう。薄着で涼めるとはよくぞ男に生まれたものだ。
この句の作者はおそらく浴衣姿で夕涼みをしているものと思われます。当時の浴衣はまだ下着のような意味合いが強く、女性が外に着ていくのははばかられる服装でした。
【NO.4】日野草城
『 ところてん 煙のごとく 沈みをり 』
季語:ところてん(夏)
意味:ところてんが束になって、煙のように皿の中に沈んでいく。
【NO.5】水原秋桜子
『 滝落ちて 群青世界 とどろけり 』
季語:滝(夏)
意味:滝が落ちて、群青色の世界に轟くような音を立てている。
【NO.6】篠原鳳作
『 向日葵の 日を奪はんと 雲走る 』
季語:向日葵(夏)
意味:ヒマワリの花を照らしていた太陽を奪おうと、雲がものすごい速さで迫ってくる。
【NO.7】森澄雄
『 ぼうたんの 百のゆるるは 湯のやうに 』
季語:ぼうたん/牡丹(夏)
意味:百くらい咲く牡丹の花が揺れているのは、まるで湯けむりのように見える。
【NO.8】草間時彦
『 逢いに行く 開襟の背に 風溜めて 』
季語:開襟(夏)
意味:君に会いに行こう。開襟のシャツの背中に風が溜まるくらい早く移動して。
大きく襟の開いたシャツは風通しの良い服です。そんなシャツの背中に風が溜まるほど膨らむということから、自転車などかなりのスピードで走って誰かに会いに行こうとしている様子が伺えます。
【NO.9】黛まどか
『 旅終へて よりB面の 夏休 』
季語:夏休(夏)
意味:旅を終えて、これからはB面のような夏休みを過ごします。
【NO.10】神野紗希
『 飛び込みの もう真っ白な 泡の中 』
季語:飛び込み(夏)
意味:プールに飛び込むと、もう周りは真っ白な泡の中にいる。
以上、「夏の季語」を含む有名俳句40選でした!
旧暦と新暦に1ヶ月程度の違いがあって少しわかりにくいところがある夏の季語ですが、暑さを風物詩として楽しみながら一句詠んでみてはいかがでしょうか。