五・七・五の十七音で情景や心情を詠む俳句。
これまでに多くの人々が、優れた俳句を詠んできました。
古池や蛙飛び込む水の音 pic.twitter.com/mOKMQhrI
— 山下陽光 (@ccttaa) January 28, 2012
閑かさや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉 蝉の写真を撮りました。 pic.twitter.com/EjWwKSVr
— Seiichi Amano (@seiichiamano) August 12, 2012
今回は、「覚えておきたい有名な俳句」を35句紹介していきます。
俳句は季節別(春→夏→秋→冬→新年→無季順)に紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
覚えておきたい有名な俳句【春編/おすすめ7句】
【NO.1】与謝蕪村
『 菜の花や 月は東に 日は西に 』
季語:菜の花(春)
意味:菜の花が一面に咲いている中、月が東から昇り、太陽は西に沈みかけている。
東から西へ、視線が大きく移動することにより、広い空間が表現されています。一面に咲く菜の花が、西日を受けて輝く明るい景色が想像できる一句です。
【NO.2】高浜虚子
『 鎌倉を 驚かしたる 余寒あり 』
季語:余寒(春)
意味:鎌倉やそこに住む人々を驚かせた、突然の寒波があった。
鎌倉は比較的温暖な気候の土地として知られていました。しかし、そこに突然の寒波が訪れました。その時の鎌倉の様子と作者自身の驚きが表現されています。
【NO.3】中村汀女
『 柔らかに 岸踏みしなふ 芦の角 』
季語:芦の角(春)
意味:芦の新芽を見ようと一歩踏み出すと、柔らかな感触で足元がしなる。
「芦(あし)の角」は水辺に生える芦の新芽のことです。角のような形をした芦の新芽を見つけた喜びと、ちょっとした驚きが詠まれています。春の水辺らしい様子の描写です。
【NO.4】山口誓子
『 せりせりと 薄氷杖の なすままに 』
季語:薄氷(春)
意味:杖の先で薄氷をつついてみると、少しの力で氷が割れ動いてしまった。
「せりせり」という擬態語が絶妙な一句です。薄氷が割れて破片が重なる様子や、子どものように無邪気に氷に触れてみる作者の様子が感じられます。
【NO.5】松本たかし
『 たんぽぽや 一天玉の 如くなり 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:たんぽぽが咲いている。天の丸さが分かるほど晴れ渡る春の空だ。
たんぽぽと春の空の美しい情景が浮かんでくる句です。「天が丸い」と感じたということですから、作者は寝転がってこの春の空を眺めていたのではないでしょうか。
【NO.6】阿波野青畝
『 山又山 山桜又 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:山脈がどこまでも続いており、山桜もあちこちに咲いていることだ。
すべて漢字を用いることで山脈のごつごつした漢字を表現しています。山桜はソメイヨシノなどよりも淡い色をしています。山桜の咲く山脈の美しい様子が想像できます。
【NO.7】河東碧梧桐
『 赤い椿 白い椿と 落ちにけり 』
季語:椿(春)
意味:赤い椿と白い椿が、樹の下に色鮮やかな様子で落ちている。
覚えておきたい有名な俳句【夏編/おすすめ8句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声 』
季語:蝉(夏)
意味:静かだなぁ。岩にしみ入るように蝉が鳴いている。
旅の途中で立石寺という山寺を訪れた際の句です。芭蕉は眼下に見える広大な大地から、現実離れした「閑かさ」を感じました。蝉が鳴いても心は「閑か」だったのです。
【NO.2】松尾芭蕉
『 夏草や 兵どもが 夢の跡 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が青々と生い茂る。かつて栄華を極めた者たちが力を振るっていたこの場所は、今は草が生い茂る夢の跡となってしまった。
旅の途中で平泉を訪れた際の句です。平泉はかつて奥州藤原氏が栄華を極めた場所
でした。芭蕉は草が生い茂る平泉を見て、人間や人間社会の儚さを強く感じていました。
【NO.3】中村草田男
『 万緑の 中や吾子の歯 生え初むる 』
季語:万緑(夏)
意味:一面に青々と緑が生い茂る中、我が子にも初めて歯が生え始めてきたことよ。
我が子の成長への喜びと、生命の美しさが「万緑」によって視覚的に表現されています。また、「万緑」の緑と「歯」の白という色彩の対比も見事な句です。
【NO.4】芥川龍之介
『 兎も 片耳垂るる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:兎も片耳が垂れてしまうほどの大暑の日の厳しい暑さであるなぁ。
「大暑」とは、一年で最も暑さが厳しく感じられる頃で、陰暦では六月中旬、新歴では七月二十三日頃です。あえて字足らず・字余りとすることで、暑さを際立たせています。
【NO.5】星野立子
『 美しき 緑走れり 夏料理 』
季語:夏料理(夏)
意味:美しい緑色が走っている夏の料理であるよ。
夏料理の爽やかさを詠んだ句です。具体的にどんな料理なのかは述べられていませんが、「緑色が走っている」という表現から野菜たっぷりの料理が想像できます。
【NO.6】鷹羽狩行
『 母の日の てのひらの味 塩むすび 』
季語:母の日(夏)
意味:母の日に、昔母が握ってくれた塩むすびの味をふと思い出したことだ。
【NO.7】与謝蕪村
『 鮎くれて よらで過ぎ行く 夜半の門 』
季語:鮎(夏)
意味:鮎をくれた友人が、うちに寄らないで過ぎていく夜半の門だ。
「夜半」とは午前0時の前後30分ほどの時間のことで、江戸時代では外を出歩くにはかなり遅い時間でした。寄って休んでいけという作者の言葉に頷かずに行ってしまった友人を見つめての一句です。
【NO.8】黛まどか
『 旅終へて よりB面の 夏休 』
季語:夏休(夏)
意味:旅を終えてからB面の夏休みが始まる。
「B面」とはレコードなどに見られたもので、メインの曲のA面に対してサブの曲のB面という意味です。メインである旅は終わりましたが、まだ続く夏休みをサブのB面に例えています。
覚えておきたい有名な俳句【秋編/おすすめ7句】
【NO.1】飯田蛇笏
『 くろがねの 秋の風鈴 鳴りにけり 』
季語:秋風鈴(秋)
意味:黒鉄でできた風鈴が、秋の風に吹かれて鳴っていることだ。
夏には涼しさを感じさせた風鈴の音色ですが、秋の風に吹かれて鳴る音はどこか寂しげです。思わず風鈴を見る作者の様子や鉄の黒い輝き、秋の気配を想像させる句です。
【NO.2】正岡子規
『 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 』
季語:柿(秋)
意味:柿を食べていると法隆寺の鐘の音が聞こえてきて、秋を感じたことだ。
作者が法隆寺の近くの茶店で休憩している際の句です。「秋」という語は句中にはありませんが、「柿」や「鐘の音」によって秋の訪れを感じる作者の様子が浮かんできます。
【NO.3】杉田久女
『 朝顔や 濁り初めたる 市の空 』
季語:朝顔(秋)
意味:早朝に花開く朝顔の美しいことよ。市場の上の空が明るく濁り始め、一日が始まる。
朝顔の開花への喜びと、早朝から朝へ向かう微妙な変化を表した句です。「濁り初めたる」からは、新しい一日へのわずかな失望や、期待が感じられます。
【NO.4】橋本多佳子
『 いなびかり 北よりすれば 北を見る 』
季語:いなびかり(秋)
意味:北からの稲光に照らされたので、私は北を見ました。
まるで自画像のような句だと言われています。美しい女性であったとされる作者。彼女が稲光に照らされると同時に、北の方角をぱっと向く様子や横顔が想像できます。
【NO.5】三橋鷹女
『 この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉 』
季語:夕紅葉(秋)
意味:この夕光に染まる紅葉の樹を登ったら、鬼女となってしまうだろう。
「この樹登らば」の字余りにより、美しさに惹かれる切迫した心情を表現しています。「鬼女」になりそうなほどの夕紅葉の美しさは、少し恐ろしさも感じられます。
【NO.6】松尾芭蕉
『 荒海や 佐渡に横たふ 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:荒海が目の前にあるなぁ。前方に佐渡の上に横たわるように天の川が出ている。
「海」「島」「星」という自然のダイナミックさを詠んだ一句です。佐渡の島影が天の川の明かりによってほんのりと見える中で、荒れている日本海の様子が浮かんできます。
【NO.7】小林一茶
『 名月を 取ってくれろと 泣く子かな 』
季語:名月(秋)
意味:あの名月を取っておくれよと泣く子だなぁ。
この句は作者が自分の娘を背負って月見をしているときに詠まれた一句です。背後で月をねだって泣く我が子がとても可愛らしいと感じています。
覚えておきたい有名な俳句【冬&新年編/おすすめ8句】
【NO.1】水原秋桜子
『 冬菊の まとふはおのが ひかりのみ 』
季語:冬菊(冬)
意味:冬の菊は、自分の放つ光だけをまとって咲いているのだ。
花が咲くことの少ない冬に、美しく咲く菊の様子を詠んだ句です。「まとふ」(=身につける)という語で擬人法が用いられています。冬菊の強さと美しさが感じられます。
【NO.2】正岡子規
『 日のあたる 石にさはれば つめたさよ 』
季語:つめたさ(冬)
意味:温もりを求めて日の当たる石に触ってみると、なんと冷たいことよ。
光り輝き、熱を帯びているように見える「日のあたる石」を写実的に詠んでいます。触れた時の冷たさを詠むことで、視覚だけでなく触覚にも訴えかける句です。
【NO.3】中村草田男
『 降る雪や 明治は遠く なりにけり 』
季語:雪(冬)
意味:雪が降ってきた。いつのまにか明治の時代は遠く過ぎ去ってしまったのだなぁ。
降ってきた雪を見ながら、しみじみと感傷にひたる様子や心情を詠んだ句です。俳句では切れ字は1回とされていますが、この句では「や」「けり」が使われています。
【NO.4】寺山修司
『 枯野ゆく 棺のわれふと 目覚めずや 』
季語:枯野(冬)
意味:もし私が死んだら、枯野を進む葬列で棺の中の私は目覚めるだろうか。
作者の代表句と言われています。「棺のわれ」の部分は、元は「棺のひと」や「棺の友」としていたそうですが、最終的に「棺のわれ」に書き改められました。
【NO.5】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
意味:旅の途中で病気に倒れても、夢はあの枯れ野を駆け巡っている。
松尾芭蕉の人生最後の句として有名な句です。作者はこの旅で死ぬつもりは全くなく、病床でも「なほかけ廻る夢心」とどちらがいいか推敲しているほど生涯俳人であり続けました。
【NO.6】山口誓子
『 学問の さびしさに堪へ 炭をつぐ 』
季語:炭(冬)
意味:1人でする試験勉強の寂しさに耐えながら、白くなった火鉢へと新しい炭を入れる。
この句は作者が大学生のときに試験勉強をしている最中を詠んだ句です。あたりはしんと静まり、火鉢の炭も白く燃え尽きる中で1人寂しく炭をつぐ姿に学問の世界の厳しさが伺えます。
【NO.7】水原秋桜子
『 羽子板や 子はまぼろしの すみだ川 』
季語:羽子板(新年)
意味:羽子板の豪華な挿絵を見ると、我が子の幻を追う「隅田川」の母を思い出すことだ。
能や歌舞伎で演じられる「隅田川」では、我が子を亡くし、狂女となった母が子の幻と対面します。作者も戦時中に子を亡くしており、哀しく切ない気持ちが詠まれています。
【NO.8】小林一茶
『 元日や 上々吉の 浅黄空 』
季語:元日(新年)
意味:元日だなぁ。空は限りなく藍色に近い青い空で、この上なく縁起がいい。
「上々吉」は「この上なく縁起がいいこと」、「浅葱色」とは「藍に近い青色」のことです。この句では元旦の空が快晴だったことから、元旦から縁起のいい日だと満足しています。
覚えておきたい有名な俳句【無季(自由律)編/おすすめ5句】
【NO.1】種田山頭火
『 分け入つても分け入つても青い山 』
季語:なし
意味:山道を分け入ってどんどん進んで行くが、青い山が続くばかりだ。
五・七・五の形にとらわれずに自由に詠む「自由律俳句」の代表句とも言われるほど有名な句です。「分け入つても分け入つても」から作者自身の徒労感が感じられます。尾崎放哉が亡くなった3日後に詠まれており、放哉への敬意も込められた句です。
【NO.2】尾崎放哉
『 せきをしてもひとり 』
季語:なし
意味:せきをするが私は一人だ。たった一人で死を迎えようとしているのだ。
自由律俳句史上最も有名な句です。死期のせまった者の、力のない、弱々しい咳と強い孤独感が表現されています。寂しく悲しい句ですが、どこか清々しさも感じさせます。
【NO.3】荻原井泉水
『 月光ほろほろ 風鈴に戯れ 』
季語:なし
意味:月光がほろほろと輝き、風鈴と戯れている。
月の光が差し込む様子を「ほろほろ」と表現しているのが面白い句です。月の光が風鈴を照らし出して、戯れているように輝いています。
【NO.4】種田山頭火
『 うしろすがたの しぐれてゆくか 』
季語:なし
意味:後ろ姿が時雨の中を歩いていくなぁ。
この句では「しぐれ」が冬の季語にあたりますが、季語として使用しない心象風景などを詠む自由律俳句のため無季俳句とする説が一般的です。時雨のしとしとと降る雨の中を歩いていく後ろ姿を眺める寂しさや心細さを詠んでいます。
【NO.5】尾崎放哉
『 こんなよい月を 一人で見て寝る 』
季語:なし
意味:こんなに良い月を1人で見て寝る。
「月」は秋の季語ですが、ここでは普遍的なものとして詠まれているため無季の俳句となります。昔から月を見て宴をするのが一般的でしたが、ただ1人で独り占めするかのように寝転がって見る月の贅沢さを詠んだ句です。
以上、覚えておきたいおすすめ有名俳句でした!
さいごに
今回は、覚えておきたい有名な俳句を35句紹介してきました。
同じ季節でも作者によって描写の仕方が異なり、それぞれの違いや良さが感じられたのではないでしょうか。
また、俳句には季語を入れない「自由律俳句」というものもあります。決まりなどにとらわれすぎず、自由に楽しく俳句を詠んでみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。