【中村草田男の俳句16選】代表作(有名句)はこれ!!俳句の特徴や人物像など徹底解説!

 

五七五のわずか17音で四季の美しさや人間の心情を詠みあげる「俳句」。

 

最近では小学校の国語の授業の中でも取り上げられるなど、認知度は急上昇しています。テレビ番組の影響もあり、俳句を実際に作っている方も多いのではないでしょうか。

 


今回は、強い個性と思想性で有名な「中村草田男」の俳句(代表作)をご紹介します。

 

草田男が詠んだ数多くの俳句の中から、春、夏、秋、冬の代表的な作品をそれぞれご紹介していきます。

 

中村草田男の人物像や作風

 

中村草田男(なかむら くさたお)は、明治34年(1901年)に 清国福建省で生まれた俳人です。本名は中村清一郎といいます。

 

日本への帰国後は、愛媛県の松山と東京をいったりきたりしながら成長しました。

 

若いころの草田男はドイツの哲学者であるニーチェの著書を愛読し、西洋思想にも影響されながら、いつしか文学の道を志すことになります。

 

加藤楸邨や石田波郷らとともに、人間探求派の俳人といわれた草田男は、自然を写生するように観察しながら心理描写を投影していく表現方法を作り上げました。

 

中村草田男は、思想や観念をテーマとする現代俳句の道筋を作った人物だといわれています。

 

中村草田男の有名俳句・代表作【16選】

春の俳句【4選】

【NO.1】

『 勇気こそ 地の塩なれや 梅真白 』

季語:梅

現代語訳:梅は小花でもよく香りが立ちます。塩は少量でも塩辛く、少しの勇気が世界を変えるのです。

俳句仙人
この句の背景は第二次世界大戦の学徒出陣です。「地の塩」は「唯一無二」を表し、出陣する学徒たちのことを思い、「あなたたちは唯一無二の存在(地の塩)なのだ。どうか死を選ばないといった勇気を持ってほしい」と祈ったのではないでしょうか。

 

【NO.2】

『 焼跡に 遺る三和土や 手毬つく 』

季語:手毬

現代語訳:空襲で焼け落ちてしまった家の跡に、わずかに残っている三和土(たたき)。そこで子どもたちが手毬をついていることだよ。

俳句仙人
敗戦直後の正月風景を描いています。通りがかりにふと見かけた子たちの毬をつく姿に、作者はどれほど癒されたことでしょうか。戦争ですべてを焼かれ、大切な人を失った絶望の中に、一筋の希望が見えたそんな瞬間を詠んだ句です。

 

【NO.3】

『 とらへたる 蝶の足がきの にほひかな 』

季語:蝶

現代語訳:蝶を捕えたところ、蝶は逃げようと懸命に足をもがいている。全身でもがくものだから、蝶の匂いが香ってくるようだよ。

俳句仙人
無造作に捕まえた蝶が想像以上に暴れ、逃げようと必死に足をもがいている様子が思い浮かびます。足をもがき、全身で暴れることで、その匂いを周囲にばらまいているのでしょう。蝶の必死さが匂いを通して伝わってきます。

 

【NO.4】

『 校塔に 鳩多き日や 卒業す 』

季語:卒業

現代語訳:卒業式当日。改めて校塔を見上げると、今日はなんと鳩の多いことか。

俳句仙人
淡彩的な描写が、卒業式の日のしみじみとした明るさを伝えている一句です。この春もまた学園を巣立っていく若者たちを「鳩」が象徴しているように捉えられます。

 

夏の俳句【4選】

俳句仙人
「長子は家を継ぐもの」という当時の風習を蟾蜍(ひきがえる)が象徴しています。このように古いしきたりによって長子である自らの宿命を表していると解釈することができます。俳句の世界でやっていこうといった決意表明の表れではないかといわれています。

 

俳句仙人
はるか沖の方まで広がる海。そして目の前に咲くはまなすの赤い花。遠近法を巧みに使い、奥行きのある情景が目に浮かびます。

 

俳句仙人
夏ならではの生い茂る草木の生命力に、草田男は純粋に感動しています。抱き上げ、けらけらと笑うわが子の口の中に小さな白い歯が見えます。「万緑」の力強さと「吾子」の可憐さが巧みに対比されています。

 

【NO.4】

『 六月の 氷菓一盞の 別れかな 』

季語:六月

現代語訳:六月のある日。最後は氷菓を一緒に食し、慌ただしく別れたよ。

俳句仙人
この句の「氷菓」はアイスクリームだといわれています。杯を交わして別れたいところですが、そんな時間もなく、氷菓「一盞(いっさん)」の別れとなったようです。慌ただしく分かれの時間が来てしまったことが伺えます。

 

秋の俳句【4選】

俳句仙人
草田男が高浜虚子一行の北海道旅行に同行したとき、青函連絡船からの眺めを詠んだ一句です。紺青の海以外に何一つ見えない大海原と、遠くに見える水平線が目に浮かぶようです。海を題材にした非常にスケールの大きい作品ですね。

 

俳句仙人
葡萄の房から実を一粒一粒手でちぎり、よく噛み締めて食べる様子を、言葉を一語一語丁寧に、吟味しながら読んだり書いたりする行為にたとえています。言葉をもっと大切にすることを改めて意識させてくれる一句です。

 

【NO.3】

『 友もやや 表札古りて 秋に棲む 』

季語:秋

現代語訳:久しぶりに友を訪問したところ、表札がやや古び、落ち着いた感じの面持ちになっていた。「秋に棲む」といった表現がふさわしいほど、自然の趣が感じられるよ。

俳句仙人
「家の表札がやや古びていた」ことに焦点をあてることで、友とは長らくあっていなかったことが想像できます。日常生活の中でのちょっとした気づきが上手く五七五で表現されています。

 

【NO.4】

『 仔馬爽やか 力のいれ処 ばかりの身 』

季語:爽やか

現代語訳:天高く、仔馬が飛び跳ねるようにして、牧場を駆け回っているよ。

俳句仙人
全力で遊んでいる仔馬の様子は、いかにも爽やかです。仔馬は脚や首、胴、すなわち全身の筋肉という筋肉を使って躍動しています。それを「力のいれ処(ど)ばかりの身」と表現することで、仔馬の存在が生き生きと描かれています。

 

冬の俳句【4選】

俳句仙人
句碑にもなっているこちらの句は、高浜虚子をうならせたことでも有名な作品です。鏡のように正確に枝を映す冬の水面は、ピンと張りつめたような緊張が感じられます。

 

俳句仙人
「降る雪」の後に切れ字「や」を持ってくることで、しんしんと降り積もる雪を印象付けています。20年ぶりに母校の小学校を訪れた際に詠まれたといわれています。校舎から飛び出してきた子供たちの姿に、自分の少年時代を重ねています。

 

【NO.3】

『 木葉髪 文芸永く 欺きぬ 』

季語:木葉髪

現代語訳:秋から冬にかけて、抜け毛が多くなる季節だ。

俳句仙人
作者は、麗しく、未来を信じた文芸の世界だが、今こうして中年の秋、気づけばすべてが虚妄であったのではなかろうか…といった感情にとらわれています。秋から冬にかけて抜け毛が多くなることになぞらえ、これまで自分が信じてきた文芸そのものに裏切られるのではないか、といったふとしたわびしさが伝わってきます。

 

【NO.4】

『 あたゝかき 十一月も すみにけり 』

季語:十一月

現代語訳:11月とはいえ、まだ暖かい。そんな11月を暮らしているよ。

俳句仙人
1年の中でも11月という何の行事もない中途半端で地味な月に焦点をあてて詠んだ一句です。これから本格的な冬を迎える前の暖かい一日が伝わってきます。

 

さいごに

 

今回は、中村草田男が残した俳句の中でも特に有名な作品を現代語に訳し、そこに込められた意味など簡単な感想をご紹介してきました。

 

草田男氏の作品は、人々の日常生活や人間性に根ざした作風が特徴的です。

 

どの句も鋭い視点で描かれ、とても魅力的なものばかりですね。