
「世界で最も短い詩」といわれている俳句。
五七五のわずか17音という非常に短い言葉の中にさまざまな思いを込めて、読み手に想像や連想を喚起させる奥深い文芸です。
今回は、昭和初期の「ホトトギス」の黄金時代を築いたといわれている「山口誓子」の有名は句(代表作)を春夏秋冬ごとにご紹介します。
山口誓子の人物像と作風
(山口誓子 出典:Wikipedia)
山口誓子(やまぐち せいし)は、明治34年(1901年)に現在の京都府左京区で生まれました。
本名は新比古(ちかひこ)といいます。水原秋桜子、高野素十、阿波野青畝とともに「ホトトギスの四S」と評価されました。
大正8年(1919年)に第三高等学校(現在の京都大学)に入学すると、本格的に俳諧の道へ入ります。写生重視の「ホトトギス」から新興俳句運動の「馬酔木」と移り、新興俳句運動の指導者的存在となっていきました。
従来の俳句にはなかった都会的な要素を積極的に取込み、知的で即物的な句風が特徴です。そして、映画倫理に基づく連作俳句を試みたことでも知られています。
山口誓子の有名俳句・代表作【16選】
春の俳句【4選】
【NO.1】
『 流氷や 宗谷の門波 荒れやまず 』
季語:流氷
現代語訳:海の上を流氷が漂っているよ。宗谷海峡に立つ波は激しく荒れ、止むことがない。
【NO.2】
『 暖かき 燈が廚より 雪にさす 』
季語:暖かき
現代語訳:夕飯時、温かい灯りが台所からもれ、雪の上に写っているよ。
【NO.3】
『 桜さく 前より紅気 立ちこめて 』
季語:桜
現代語訳:桜が満開の季節となった。前方から桜の花の紅気がどんどん押し寄せてくるようだよ。
【NO.4】
『 春水と 行くを止むれば 流れ去る 』
季語:春水
現代語訳:春の川の流れに合わせて歩いていたが、ふと足を止めるとあっと言う間に流れ去っていったよ。
夏の俳句【4選】
【NO.1】
『 炎天の 遠き帆やわが こころの帆 』
季語:夏
現代語訳:日差しが強い真夏の空の下、遠くに船の帆が見える。あの帆は、私の志の帆でもあるのだよ。
【NO.2】
『 匙なめて 童たのしも 夏氷 』
季語:夏氷
現代語訳:小さい子どもが、かき氷をひと匙すくうごとにスプーンをなめて楽しんでいるよ。
【NO.3】
『 ピストルが プールの硬き 面にひびき 』
季語:プール
現代語訳:競泳会場でスタートを固唾をのんで見守る中、スタートを告げるピストルの音が響き渡った。
【NO.4】
『 いづくにも 虹のかけらを 拾ひ得ず 』
季語:虹
現代語訳:美しい虹は、消えてしまうと、もうどこにもその一片すら拾うことができないのだなぁ。
秋の俳句【4選】
【NO.1】
『 かりかりと 蟷螂蜂の かほを食む 』
季語:蟷螂
現代語訳:「かりかり」と音を立てて、カマキリが蜂のかおを食べていることよ。
【NO.2】
『 突き抜けて 天上の紺 曼珠沙華 』
季語:曼珠沙華
現代語訳:秋の澄んだ青空は突き抜けるように高い。そこへ真っ赤な花をつけた曼珠沙華が、やはり天を突き抜けるように背を伸ばして咲いているよ。
【NO.3】
『 秋天の 下雀斑の こまやかに 』
季語:秋天
現代語訳:清々しいある秋晴れの日。こまかいそばかすが印象的な子がいるよ。
【NO.4】
『 秋の雲 天のたむろに 寄りあへる 』
季語:秋の雲
現代語訳:秋の空に浮かぶ雲が、一つまた一つと寄ってきて、いつの間にか大きな塊となったよ。
冬の俳句【4選】
【NO.1】
『 スケートの 紐結ぶ間も はやりつつ 』
季語:冬
現代語訳:楽しみにしていたスケート。スケート靴に履き替え、靴紐を結んでいる間も心は早く氷の上を滑りたいとはやっていることだよ。
【NO.2】
『 風雪に たわむアンテナの 声を聴く 』
季語:風雪
現代語訳:吹雪でたわむアンテナから、まるで話し声のような音が聴こえるよ。
【NO.3】
『 海に出て 木枯らし帰る ところなし 』
季語:木枯らし
現代語訳:吹きすさぶ木枯らしは海に出て行くと、行き場を失い、もう陸に帰ることもない。
【NO.4】
『 除夜の鐘 吾が身の奈落 より聞ゆ 』
季語:除夜の鐘
現代語訳:除夜の鐘が、自分の身体の奥底から聞こえてくるようだよ。
さいごに
いかがでしたか?
今回は、山口誓子が残した俳句の中でも特に有名な作品を現代語に訳し、そこに込められた意味など簡単な感想をご紹介してきました。
即物非情(感情や主観を交えず、ものそのものをありのままに捉える)の作風が特徴の山口誓子の作品は、鋭い視点で描かれ、とても魅力的なものばかりですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!