【中村吉右衛門の有名俳句 20選】初代・歌舞伎役者!!俳句の特徴や人物像・代表作など徹底解説!

 

俳句は五七五の十七音の韻律に季節を表す季語を詠み込む詩です。

 

明治から大正にかけては多くの近代俳句の作風が生まれ、伝統的な花鳥風月を詠むものから韻律にとらわれない自由律俳句までさまざまな俳句が作られました。

 

今回は、歌舞伎役者であるとともに俳人としても高名だった「初代・中村吉右衛門(なかむら きちえもん)」の有名俳句を20句紹介します。

 

 

俳句仙人
ぜひ参考にしてください。

 

中村吉右衛門の人物像や作風

(初代・中村吉右衛門 文化勲章を胸に 出典:Wikipedia)

 

初代・中村吉右衛門(なかむら きちえもん)は1886年(明治19年)に東京都の浅草で生まれました。

 

3代目中村歌六の次男で、兄弟たちも歌舞伎役者である役者一家です。襲名をせず生涯「中村吉右衛門」の名で通し、後に名跡へと昇格させました。

 

6代目尾上菊五郎と並んで「菊吉時代」と言われるほどの力量と人気を誇った中村吉右衛門は、日置流という弓術や俳句も玄人だったことで知られています。

 

俳句は高浜虚子に学び、「ホトトギス」に投句もしていました。1954年(昭和29年)に亡くなったときは高浜虚子が追悼句を作っています。

 

 

初代中村吉右衛門の作風は、歌舞伎役者という特殊な職業を日常として詠むものです。芝居の役名や歌舞伎座など多くの歌舞伎関連の言葉が見られます。

 

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終生を役者として過ごす歌舞伎役者の感性は近代俳人たちとはまた違った観点から日常を詠んでいることで有名です。

 

中村吉右衛門の有名俳句・代表作【20選】

 

【NO.1】

『 道かへて 櫻の道を 歌舞伎座へ 』

季語:櫻(春)

意味:いつも通る道を変えて、桜が咲いている道を歩いて歌舞伎座へむかおう。

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桜が見事に咲いている道があると、いつも通る道ではなくてもそちらを通る人も多いでしょう。作者は京都にある南座と呼ばれる歌舞伎座で公演を行うことが多かったため、京都の風景だと思われます。

【NO.2】

『 土筆籠 風呂場に忘れ 置かれあり 』

季語:土筆(春)

意味:土筆の入った籠が風呂場に忘れて置かれている。

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土筆摘みは古くから続く春の遊びです。お風呂場で土筆と自分の泥を流していたのか、すっかり忘れて置き去りにされている籠を面白おかしく詠んでいます。

【NO.3】

『 春寒(しゅんかん)や 乞食姿の 出来上る 』

季語:春寒(春)

意味:春になったがまだ寒いなぁ。乞食の姿の役が出来上がった。

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ここで詠まれている「乞食」とは歌舞伎の役柄の1つと言われていますが、具体的にどの演目なのかは言及されていません。また歌舞伎役者はかつて「河原乞食」と呼ばれていたことも踏まえている可能性もあります。

【NO.4】

『 鶯の 鳴くがままなる わらび狩 』

季語:わらび狩(春)

意味:ウグイスが鳴くがままにわらび狩りに出かけよう。

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ワラビなどの山菜を取りに出かけることも春の行事の1つでした。ここではウグイスの鳴き声に誘われるように遊びに行こうと誘っています。

【NO.5】

『 温泉の町に 銀座もありて 目刺売る 』

季語:目刺(春)

意味:温泉街にも銀座があるようだ。銀色に光る目刺しを売っている。

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メザシの銀色を銀座の銀に掛けた一句です。歌舞伎では地方へ興行に行くことも多く、海沿いの温泉街への興行だったのでしょう。

【NO.6】

『 温泉の 多き土地なり 夏芝居 』

季語:夏芝居(夏)

意味:温泉が多い土地だ、夏の芝居に訪れるこの地は。

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歌舞伎は6月から7月にかけては興行を休むことが多いですが、若手の役者たちが地方で興行を行うことがあります。これを「夏芝居」と言い、作者も温泉街のお客さんを相手に芝居をしていたのが伺える句です。

【NO.7】

『 弟子達の 弓の稽古や 若楓 』

季語:若楓(夏)

意味:弟子たちの弓の稽古を見ていると楓の若葉が茂る時期になった。

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作者は「日置流」という弓術の最高位である「重藤」の腕前だったと言われています。歌舞伎ではなく弓術の弟子たちを指導する新鮮さを楓の若葉に例えている一句です。

【NO.8】

『 東山 すだれ越しなる 楽屋かな 』

季語:すだれ(夏)

意味:すだれ越しに東山を見る楽屋だなぁ。

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南座のある祇園からは東山が良く見えていました。すだれ越しに青々とした東山の風景を見ることで夏が来たことを実感しています。

【NO.9】

『 幕ごとに 汗の衣裳を 干しに出し 』

季語:汗(夏)

意味:幕が終わるごとに汗をかいた衣装を干しに出すほどだ。

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どれだけ冷房技術が発達しても、ライトに照らされながら舞台の上で動いていると汗をかくものです。幕が終わるごとに衣装を干さなければならないほど汗でぐっしょりだ、という夏場の役者たちの大変さを詠んでいます。

【NO.10】

『 清瀧(きよたき)の 向うの宿の 西日かな 』

季語:西日(夏)

意味:清瀧の向こうの宿に西日がゆっくりと落ちていくなぁ。

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「清瀧」という地名は多くありますが、作者が京都を活動拠点にしていたことを考えると京都府にある嵯峨清瀧地区のことでしょう。渓谷で知られている景勝地で、西日に照らされた美しさが詠嘆の「かな」から読み取れます。

 

【NO.11】

『 台風の去つて 玄海灘の月 』

季語:台風(秋)

意味:台風が去って玄界灘に美しい月が昇る。

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台風一過といえば晴天を思い浮かべますが、この句では月の美しさを詠んでいます。玄界灘は荒れた海としても有名ですが、穏やかで静かな海を月が煌々と照らしている様子が浮かぶ句です。

【NO.12】

『 新築の ガラス障子や 秋の雨 』

季語:秋の雨(秋)

意味:新築の建物のガラス障子越しに秋の雨を眺めている。

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「ガラス障子」は障子紙の部分をガラスに変えたもので、下部をガラスにする雪見障子などがあります。障子では紙に遮られて見られなかった雨を室内から眺めている様子を詠んでいますが、新築の建物特有の香りも漂ってくる句です。

【NO.13】

『 秋の蚊を 追へぬ形の 仁木(にっき)かな 』

季語:秋の蚊(秋)

意味:舞台の上にいるので、まとわりつく秋の蚊を追い払えない仁木弾正である。

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「仁木」とは「伽羅先代萩」という演目に登場する仁木弾正のことです。舞台で仁木役を演じていた作者は蚊に狙われているのがわかっていても払うことができず、鼻を刺されてしまったと後に解説しています。

【NO.14】

『 破蓮(やれはす)の 動くを見ても せりふかな 』

季語:破蓮(秋)

意味:破れた蓮の葉が動くのを見ていても自然と台詞が口をついて出てくるなぁ。

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「破蓮」は「はちす」とも読み、夏が過ぎて破れた蓮の葉のことです。作者は常に芝居のことを考えていて、何を見ても自然とその事柄に関連する台詞が口から出てきたことが詠嘆の「かな」から伺えます。

【NO.15】

『 さまざまに 転がしてみる 木の実かな 』

季語:木の実(秋)

意味:さまざまな方向に転がしても、どこから見ても木の実だなぁ。

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木の実をころころと転がして色々な方向から見るというシンプルな表現の句です。シンプルながら作者の歌舞伎役者としての鋭い感性から、木の実のさまざまな一面を切り取って観察しているのが目に浮かぶようでもあります。

【NO.16】

『 冬霧や 四条を渡る 楽屋入 』

季語:冬霧(冬)

意味:冬になって霧が出ているなぁ。四条通を渡って楽屋に入ろう。

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作者の活動した京都の南座は「四条通」にあります。これはかつての平安京の四条大路という大きな道にあたり、当時から変わらないだろう京都の冬の霧を見ながら歴史ある歌舞伎座へ向かう風情を感じる一句です。

【NO.17】

『 白粉(おしろい)の 残りてゐたる 寒さかな 』

季語:寒さ(冬)

意味:白粉が残っている顔を見て今日の芝居を振り返っている。外は寒くなったことだ。

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歌舞伎役者は白粉を使って顔に化粧を施します。その白粉がまだ少し残っている状態で物思いにふけっている句ですが、「寒さ」と詠んでいることから今日の芝居の反省をしているのかもしれません。

【NO.18】

『 冬ざれの 猫の描きある 杉戸かな 』

季語:冬ざれ(冬)

意味:冬になり辺りは枯れている様子だ。猫が描いてある杉戸との対比が面白いなぁ。

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「杉戸」とは杉の1枚板で作られる戸で、廊下や縁側によく使われていました。外の様子に言及していることから、冬ざれの屋外と猫が遊んでいる屋内の杉戸を対比していると考えられる句です。

【NO.19】

『 雪の日や 雪のせりふを くちずさむ 』

季語:雪(冬)

意味:雪が降っている日だ。雪を見ながら、雪に関連する台詞を口ずさんでいる。

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「常に芝居」という作者の姿勢が見える一句です。歌舞伎には雪の日を舞台にしたものもあり、実際の雪の風景を見ながら芝居の一節を思い出しているのでしょう。

【NO.20】

『 女房も 同じ氏子や 除夜詣 』

季語:除夜詣(暮)

意味:妻も同じ氏子なのだ。除夜詣をしよう。

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作者と妻は同じ浅草神社の氏子だったと言われています。「三社さま」と呼ばれて慕われている浅草神社は、浅草寺に負けず劣らず除夜詣や初詣の客が多いことで有名です。

以上、中村吉右衛門の有名俳句20選でした!

 

 

 

俳句仙人

今回は、中村吉右衛門の作風や人物像、有名俳句を20句紹介しました。

歌舞伎役者の中には俳句を嗜む者も多く、吉右衛門もまたその1人です。歌舞伎にまつわる多くの俳句は他の俳人と一線を画しています。
同時代の俳人とはまた違った俳句が多いので、ぜひ読み比べてみてください。