初夏の風物詩としてもおなじみの「蛍」。
みなさんは、実際に「蛍」を見たことがありますか?
最近は、河川の汚染やコンクリートでの護岸がすすみ、見ることができる場所も以前と比べて、少なくなってきました。
今回はそんな「蛍」にまつわる俳句(俳人名句+一般作品)を30句紹介していきます。
大蛍 ゆらりゆらりと 通りけり(小林一茶) #俳句 pic.twitter.com/HGKL8AqiRX
— iTo (@itoudoor) June 7, 2013
蛍(ホタル)を季語に使った有名俳句【15選】
【NO.1】 山口誓子
『 蛍獲て 少年の指 みどりなり 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:蛍をつかまえてかごに入れようとしている少年の指が、蛍の光で緑色に光っている。
この句は、山口誓子が招かれて蛍を見に行った際に、案内してくれた少年を詠んだものです。美しい緑色の光を放つ蛍を、少年がそっとつまんで指が染まるように見えた、一瞬の鮮やかさが切り取られています。
【NO.2】小林一茶
『 大蛍 ゆらりゆらりと 通りけり 』
季語:大蛍(夏)
現代語訳:夏の夜を大きな蛍が、ゆらりゆらりと光を放って飛んでいくよ。
大蛍は、大きな源氏蛍ではないかと言われています。蛍は、まっすぐではなく弧を描いたように飛びます。「ゆらりゆらり」という表現から、一茶のおおらかな性格と、のんびりと蛍を見つめる様子が想像できる句です。
【NO.3】与謝蕪村
『 学問は 尻から抜ける ほたる哉 』
季語:ほたる(夏)
現代語訳:学問の知識をいくらつめこんでも、ほたるの光のようにお尻から抜けていってしまうなあ。
【NO.4】夏目漱石
『 かたまるや 散るや蛍の 川の上 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:蛍が、川の上でひとつにかたまったり、ばらばらに散ったりして飛んでいる。
蛍の光が川の上で、わっと集まったり、離れたりする様子を表現しています。読んでいて、無数の光が動く幻想的な光景が浮かんでくる一句です。漱石が山口県の田舎で見た風景ではないか、とされています。
【NO.5】高浜虚子
『 蛍火の 今宵の闇の 美しき 』
季語:蛍火(夏)
現代語訳:蛍の発する光で、今日の夜の闇が引き立って、ことさら美しく見える。
【NO.6】加賀千代女
『 川ばかり 闇は流れて 蛍かな 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:川辺にまるで、闇が川のように流れているように見え、その上を蛍が飛んでいる。
夜に蛍が飛んでいる川を「闇が流れる」と表現する、千代女の発想が素晴らしい句です。川が流れ、蛍が飛ぶといういつも見ている風景が、この表現で一気に幻想的な風景に変わります。
【NO.7】寺山修司
『 蛍来て ともす手相の 迷路かな 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:手のひらに蛍がとまって、私の迷路のような手相を照らしている。
手相を迷路と表現するユニークな句です。蛍にとっても、手相は迷路のように感じたのかもしれません。そっと、手のひらにのった蛍へのあたたかいまなざしが感じられます。
【NO.8】正木ゆう子
『 蛍火や 手首細しと 掴まれし 』
季語:蛍火(夏)
現代語訳: 蛍が飛んでいる、手首が細いと(恋人に)手をつかまれた。
蛍は恋の句で詠まれることが多いです。一緒に蛍を見に行ったのでしょうか。蛍の飛ぶ光の中で、手に触れられて、はっとした作者の様子がわかります。
【NO.9】池田澄子
『 じゃんけんで 負けて蛍に 生まれたの 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:じゃんけんをして何に生まれてくるかを決めたのですが、負けたので蛍に生まれることになりました。
小さな蛍に生まれることは、じゃんけんの勝ち負けのように、偶然のことなのかもしれません。光って消える短い命の蛍に、一生のはかなさと命の大切さを込めた句です。
【NO.10】飯田蛇笏
『 たましひの たとへば秋の ほたる哉 』
季語:秋のほたる(秋)
現代語訳:亡くなった人の魂が、例えてみれば、まるで秋のほたるのように薄く青白い光を放って闇に消えていこうとしている。
この句は蛇笏が友人の芥川龍之介の死を悼んで作った句です。「蛍」は夏の季語ですが、夏の終わりから秋にかけて、弱々しく光る蛍を「秋のほたる」と言います。故人への悲しみが伝わってきます。
【NO.11】 松尾芭蕉
『 此ほたる 田ごとの月に くらべみん 』
季語:ほたる(夏)
現代語訳:この蛍たちを田毎の月と比べて見てみよう。
「田ごとの月」とは棚田の水面に月が映っている様子を表しています。蛍の光も月のように棚田ごとに映っていたのか、比べて見てみようという風流な一句です。
【NO.12】渡辺白泉
『 蛍より 麺麭(パン)を呉れろと 泣く子かな 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:蛍よりパンをくれよと泣く子がいるなぁ。
この句は小林一茶の「名月を とってくれろと 泣く子かな」を下敷きにしています。戦後まもなくの食糧難の時代を詠んだ句で、蛍で遊ぶよりもお腹がすいたと泣く子供を切なげに見守っている一句です。
【NO.13】桂信子
『 ゆるやかに 着てひとと逢ふ ほたるの夜 』
季語:ほたる(夏)
現代語訳:ゆるやかに衣服を着て人と会う蛍の夜だ。
【NO.14】高橋淡路女
『 蛍火の 静かに消ゆる 愁ひかな 』
季語:蛍火(夏)
現代語訳:蛍火のように静かに消える愁いであることだ。
蛍の光は音を立てずに静かに明滅します。愁いを抱えていた作者も、そんな蛍を見ているうちに気持ちが晴れていったようです。
【NO.15】山口誓子
『 蛍火に 天蓋の星 うつり去り 』
季語:蛍火(夏)
現代語訳:蛍火に天蓋の星の光がうつって去っていったようだ。
蛍(ホタル)をテーマに詠まれた一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 手から手へ 思ひを伝へ 初蛍 』
季語:初蛍(夏)
意味:今年初めての蛍をつかまえて、自分の思いとともに自分の手から相手の手へ渡した。
【NO.2】
『 きもだめし 蛍の光で こしぬかす 』
季語:蛍(夏)
意味:肝試しをしていたら、蛍の光で驚いて腰を抜かしてしまった。
小学生の作ったかわいらしい句です。蛍の光は人の魂にも例えられることもあります。びっくりした様子が目に浮かびます。
【NO.3】
『 里の夜 ホタルの橋に 友来たる 』
季語:ホタル(夏)
意味:夜になった里、ホタルがたくさん飛んでいる橋に友達が集まってきた。
小学生の詠んだ句です。ホタルがたくさん飛んでいる地域に住んでいて、「ホタルの橋」と呼んでいるのでしょうか。十七音で情景をわかりやすく伝えています。
【NO.4】
『 漆黒の ピアノも眠る 蛍の夜 』
季語:蛍(夏)
意味:暗い夜になり漆黒のピアノも静かになっている、蛍は暗闇の中で飛び交っている。
【NO.5】
『 村一つ 眠るダム湖に 蛍落つ 』
季語:蛍(夏)
意味:村が一つ沈んでしんとしているダム湖に、蛍が落ちていくように舞っている。
少しさみしさも感じられる、背景への想像がふくらむ句です。村の沈む大きなダムと儚い蛍の小ささと、光と闇の対比が込められている句です。
【NO.6】
『 暗闇で ホタルが光り 道案内 』
季語:ホタル(夏)
意味:暗闇でホタルが光っていて、道案内をしてくれているようだ。
小学生の詠んだ句です。光るホタルがまるで、道案内をしているかのように、光っている様子が想像できます。作者の蛍への優しい気持ちが感じられます。
【NO.7】
『 ひとりとて 胸中に棲む 蛍の火 』
季語:蛍の火(夏)
意味:ひとりでも、この胸の中には蛍の光のように消えない思いがある。
蛍の光は、はかないですが明るさがあります。作者は何かを決意しているのでしょうか、それとも思いを抱いているのでしょうか。光に何かメッセージ性があるようです。
【NO.8】
『 年老し 母を背負ひて 蛍見ゆ 』
季語:蛍(夏)
意味:年を取った母を背負って、蛍を見ました。
小さい頃は、自分がおんぶされていて蛍を見ていたのに、今はその母を背負って蛍を見ているという時の流れを感じます。小さくなってしまった母と淡い蛍の光に、少しさみしい思いが感じられます。。
【NO.9】
『 宵闇に 蛍来いよと 童歌 』
季語:蛍(夏)
意味:月の出ていない夕闇に、蛍来いよと童歌をうたっている。
「蛍来い」という童謡を聞いたことがあるかもしれません。月の出ていない時間に、蛍を呼ぶ子供たちの明るい歌声が想像できます。のどかな風景が目に浮かびます。
【NO.10】
『 やはらかき 湯桶の音や 夕蛍 』
季語:夕蛍(夏)
意味:夕方に蛍が飛び始め、お風呂に入る木の湯桶の音がやわらかく響いている。
【NO.11】
『 蛍火や 幻想の宵 酔いしれて 』
季語:蛍(夏)
意味:蛍火がよく見える。幻想的な宵に酔いしれるようだ。
【NO.12】
『 蛍飛ぶ 月の明かりを 友として 』
季語:蛍(夏)
意味:蛍が飛んでいる。月の明かりを友にして。
同じ夜に輝くものとして、月の光を友にしているようだと例えている面白い一句です。月明かりの下で飛ぶ蛍はさぞ美しいことでしょう。
【NO.13】
『 垂直に 逃れし蛍 闇に消ゆ 』
季語:蛍(夏)
意味:垂直に逃れていった蛍が闇に消えていった。
蛍を捕まえようとして逃げられたのか、上に飛んでいって見失った様子を詠んだ句です。1度逃げられてしまうと見失うほどの夜の暗さも表現しています。
【NO.14】
『 手をつなぐ 子らの歓声 蛍舞ふ 』
季語:蛍(夏)
意味:手を繋いでいる子供たちの歓声が響く、蛍が舞う夜だ。
【NO.15】
『 ついさつき あの世見て来た あの蛍 』
季語:蛍(夏)
意味:あの蛍はついさっきあの世を見てきたのではないだろうか。
昔から蛍は人の魂に例えられることが多い昆虫です。この句では「あの蛍」と限定することで、誰かの魂なのではないかと強調しています。
以上、蛍を季語に使った俳句集でした!
今回は「蛍(ホタル)」の俳句を紹介しました。
見かけることの少なくなってきた蛍ですが、日本では昔から、蛍狩りや蛍鑑賞が初夏の風物詩でした。
蛍の俳句を詠んで、情景を想像し風情を楽しんでみてはいかがでしょうか。