
「夜桜」とは、夜の桜そのものや夜の花見のことを示す晩春の季語になっています。
この季語を使った俳句には、夜桜見物の様子や夜と桜の対比など、視覚や聴覚に訴える句が多いのが特徴です。
夜桜を 優しく包む おぼろ月#俳句 pic.twitter.com/70A9Y9Q6Iw
— すずミスト (@suzu_mist) April 2, 2015
今回は、そんな夜桜を季語に使った俳句を20句ご紹介していきます。
夜桜を季語に使った有名俳句【10選】
【NO.1】 小林一茶
『 夜桜や 天の音楽 聞し人 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜だ。天上の音楽を聞いている人がいる。
一茶の句にはめずらしい、幻想的な一句です。夜桜の下に人がいたのか、夜桜自体を擬人化しているのか、どこからともなく聞こえる音楽に聞き入っている情景を詠んでいます。
【NO.2】高井几董
『 夜桜に 青侍(あおざむらい)が 音頭かな 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜の下で、青侍が音頭を取っていることだ。
青侍(あおざむらい)とは、階級の低い若い武士のことです。この句は江戸時代の俳句ですが、夜の花見の宴席で若い人が音頭を取って盛り上げる光景は現在でもよく見るため、不思議な心持ちになります。
【NO.3】正岡子規
『 夜桜や 蒔絵(まきえ)に似たる 三日の月 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜だ。まるで蒔絵に似ているような三日月が見える。
【NO.4】水原秋桜子
『 夜桜の 雨夜咲き満ち たわわなり 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜が雨の夜に満開になって、花が重そうにたわわになっていることだ。
満開の桜の花が雨の水分を含んで重く垂れ下がっている様子を詠んでいます。「たわわなり」というまるで果実のように花を表現しているのが面白い句です。
【NO.5】高野素十
『 夜桜の 一枝長き 水の上 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜の一枝だけ長い枝が水の上にある。
川沿いの桜の木でしょうか、1本だけ長い桜の枝が水の上に浮いて花を咲かせている、そんな光景が浮かびます。夜だけあって白い花も浮かび上がって見えてきそうです。
【NO.6】阿部みどり女
『 夜桜や 遠くに光る 潦(にわたずみ) 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜だ。遠くに雨が降って水たまりになっている水が光っている。
潦(にわたずみ)とは、雨が降って地上を流れていく水のことです。雨上がりの夜の桜の向こうに、街灯か月明かりに照らされた水たまりが光っています。
【NO.7】尾崎紅葉
『 夜桜の 鐘聞得たり 寒山寺(かんざんじ) 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜が咲いている夜に、鐘の音が聞こえてくる。寒山寺のようだ。
この句は下地として唐の時代の「楓橋夜泊」があります。「姑蘇城外寒山寺 夜半鐘声到客船」という句があり、夜に聞こえてきた鐘を寒山寺のものに例えた一句です。
【NO.8】高浜年尾
『 誰も来て ゐぬ夜櫻や 寂として 』
季語:夜櫻(春)
意味:見物人が誰も来ていない夜桜よ。静寂の中に寂しげに立っている。
「誰も来てゐぬ」の部分が句またがりの一句です。普段は見物客があふれているからこその静寂がより際立っています。
【NO.9】富田木歩
『 夜櫻や 街あかりさす 雲低し 』
季語:夜櫻(春)
意味:夜桜よ。街の明かりが差している、雲が低い夜だ。
低い雲のくもり空の夜は、街灯を反射してわずかに明るい空の夜になります。夜空に浮かぶ夜桜と街灯、くもり空というコントラストが美しい句です。
【NO.10】今井つる女
『 夜桜に 後ろの闇の ありてこそ 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜の美しさは、桜の後ろの闇があってこそである。
夜の桜は闇夜に白い花が浮かび上がる姿が美しいものです。この句では桜を引き立たせる夜の闇に焦点をあて、「ありてこそ」という強調を使っています。
夜桜を季語に使った一般人オリジナル俳句【10選】
【NO.1】
『 ぼんぼりの 照らす夜桜 色めきて 』
季語:夜桜(春)
意味:ぼんぼりが照らしている夜桜よ。華やかに色づいている。
【NO.2】
『 夜桜や 古代史の謎 肴にす 』
季語:夜桜(春)
意味:ずっと歴史を見続けてきただろう夜桜よ。古代史の謎を肴にしてお酒を飲もう。
桜の古木を見ながらの句でしょうか。夜桜を見ながらはるか昔の時代の謎に思いを馳せてお酒をたしなむ、ぜいたくなひと時です。
【NO.3】
『 夜桜の 息づく闇の 白さかな 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜が息づいている、闇に浮き立つ白さであることよ。
夜の闇と夜桜の白い花の対比の句です。生き生きと咲いている白い花の美しさを称えています。
【NO.4】
『 床に臥し 夜桜一句 ひねりけり 』
季語:夜桜(春)
意味:床に寝転びながら、「夜桜」という題材で一句ひねりだした。
この句を詠んだまさにその状況を歌っている面白い句です。夜桜を題材にどんな句がいいだろうとあれこれ考えているのか、実際に寝転んで夜桜を見ながら考えているのか、想像の余地があります。
【NO.5】
『 夜桜の よはくへ月の あがりけり 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜が一面に咲き誇る空の、花のない余白の部分に月が上ってきたことだ。
一面に広がる夜桜の花に対して、その花のない夜空を「余白」と詠んでいます。「あがりけり」と表現することで、花の中から月が顔を出した情景が浮かんでくる句です。
【NO.6】
『 夜遊びや 夜桜見るを 口実に 』
季語:夜桜(春)
意味:夜遊びをしよう。夜桜を見に行くことを口実にして。
夜桜見物で賑わう人たちにつられたのか、二人でこっそりと抜け出す口実にしたのか、「夜遊び」という言葉だけで大いに想像できます。春の暖かな陽気と夜桜が遊びという浮かれた陽気に合っている句です。
【NO.7】
『 夜桜の 花びら碗に 宴の宵 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜の花びらがコップに落ちてきた。宴会の夜のことだ。
夜の花見の宴会の一コマです。はらはらと散る夜桜の花びらがコップに入る、シンプルながら風流な光景になっています。
【NO.8】
『 夜桜の 下鉄棒を 一回転 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜の下にある鉄棒で一回転してみる。
鉄棒があるので、公園の桜の木の下でしょうか。夜という誰にも見られていない時間帯に、童心に戻って遊んでみた一句です。
【NO.9】
『 夜桜の 蕾のなかの あしたかな 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜のつぼみの中には明日があるんだなぁ。
まだ咲いていない桜の花のつぼみを明日ととらえる、詩的な一句です。今日咲いていないつぼみも明日になれば咲いている、だからつぼみの中に明日があると詠嘆を用いて詠んでいます。
【NO.10】
『 夜桜を 待ってゐられぬ 歳になる 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜を見るのを待っていられない年齢になった。
夜に1人で出かけられるくらい成長した子供の心境とも、残り少ない人生で夜桜を心待ちにしている心境とも取れる味わい深い句です。ワクワクする気持ちを感じ取るか、残り少なさに焦りを感じ取るか、どちらを感じたでしょうか。
以上、夜桜をテーマにした俳句でした!
今回は、「夜桜」を題材にした俳句を、有名なもの10選とオリジナルの俳句10選にわけて紹介してきました。
夜桜と夜のコントラストを称えるもの、夜桜に想いを託すものなど、いろいろな解釈の俳句があります。
夜に桜を見上げたら、感じたことを一句詠んでみてはいかがでしょうか。