「落ち葉」とは、落葉広葉樹が10月から12月にかけて紅葉しその葉が落ちる現象のことです。
落ち葉は「冬の季語」に分類され、「落葉」という表記のほかに「銀杏落葉」「朴落葉」など木の種類を付けた季語や、「春落葉」といった冬以外に葉を落とす現象も季語になっています。
今回は、そんな「落ち葉」について詠んだおすすめ有名俳句を30句紹介していきます。
冬中に四季あり④「秋のにおい」
冬の里山に秋の残り香を見つけました。「落葉」は冬の季語になっていますが、その匂いには、秋が終わりを告げ冬が始まるという情趣が詰まっているように思います。 pic.twitter.com/KSGePyoUOf
— ちゃん太 (@chantadragon) January 21, 2015
日課の見回り 落ち葉は「冬の季語」紅葉は「秋の季語」 pic.twitter.com/6a5ON13gBA
— 鈴月 手毬 (@K3moon) December 14, 2015
「落ち葉」に関する有名俳句【前編10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 百歳(ももとせ)の 気色を庭の 落葉哉 』
季語:落葉(冬)
意味:100年という長い歴史を感じる庭に降り積もる落ち葉であることだなぁ。
この句は滋賀県彦根市にある古いお寺で詠まれた句です。古い寺の庭に積もる落ち葉に、100年の歴史の風情を感じています。
【NO.2】松尾芭蕉
『 宮人よ 我名を散らせ 落葉川 』
季語:落葉(冬)
意味:宮司よ、そこに書かれた私の名を散らしてくれ。その川に浮かぶ落ち葉のように。
この句は『笈の小文』にまとめられていて、1684年の10月に三重県の多度権現で詠まれた句です。「落書」とありどこかに句を書き付けたと考えられますが、畏れ多いのでどうか私の名は川に落ちた落ち葉のように散らしてくれとお願いしているユーモアのある句になっています。
【NO.3】与謝蕪村
『 待ち人の 足音遠き 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:待ち人の足音が遠くに聞こえる落ち葉の道だなぁ。
落ち葉は踏みしめると音がします。作者の待ち人は後ろから近づいてきているのでしょうか、音の大きさからまだ遠くにいるなぁと風情を楽しんでいる句です。
【NO.4】与謝蕪村
『 西吹けば 東にたまる 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:西に風が吹けば、東の方にたまる落ち葉であることだ。
風が吹いた方角に落ち葉がたまるというただの現象を詠んだ句です。しかし、風に身を任せる落ち葉に自分自身を重ねているという説もあるため、この場合は「なるようにしかならない」というやるせない心象を詠んだ句になります。
【NO.5】小林一茶
『 焚くほどは 風がくれたる おち葉哉 』
季語:おち葉(冬)
意味:火を焚くほどの葉は、吹いてくる風がくれた落ち葉であるよ。
この句は1815年の日記に見える句ですが、1819年に詠まれた「風がもてくる」と変えただけの良寛の句が存在しているため、混同されがちです。「風が落ち葉をくれる」と擬人化して詠んでいるため、作者らしい世界観が見て取れます。
【NO.6】小林一茶
『 淋しさや おち葉が下の 先祖達 』
季語:おち葉(冬)
意味:淋しいことだなぁ。落ち葉の下に眠るご先祖さまたちは。
秋の彼岸をすぎて落葉の時期を迎えると、こまめに掃除をしなければお墓は落ち葉に埋もれてしまいます。淋しいと感じているため、手入れをされていない無縁仏を見て詠んだのかもしれません。
【NO.7】小林一茶
『 猫の子が ちよいと押へる おち葉哉 』
季語:おち葉(冬)
意味:猫の子供がちょいと押さえる落ち葉だなぁ。
【NO.8】正岡子規
『 吹きたまる 落葉や町の 行き止まり 』
季語:落葉(冬)
意味:吹きたまっている落ち葉があるなぁ。ここは町の行き止まりだ。
路地裏や周りを建物に囲まれた広場などに落ち葉がたまっているのを見たことがある人も多いでしょう。時期的に年の瀬がせまっていることもあり、どこか侘しい光景です。
【NO.9】正岡子規
『 団栗(どんぐり)の 共に掃かるる 落葉哉 』
季語:落葉(冬)
意味:どんぐりが共に掃かれてきた落ち葉であることだ。
落ち葉に隠れていたどんぐりが、落ち葉掃除の際に一緒に掃かれてきた、というよくある風景を詠んでいます。気が付かずに焚き火にするとたまにどんぐりが爆ぜるため、混ざらないように気をつけていたのでしょう。
【NO.10】高浜虚子
『 大空の 深きに落葉 舞ひ上る 』
季語:落葉(冬)
意味:大空が青く深い色をたたえているところに、落ち葉が風で舞い上がっているのがよく見える。
夏までは葉が茂ってよく見えなかった空が、冬になって葉が落ちたことによってよく見えるようになります。また、空気が乾燥してより青く見えるので、風で舞い上がる落ち葉との対比がよりダイナミックになる句です。
「落ち葉」に関する有名俳句【中編10句】
【NO.11】高浜虚子
『 ひらひらと 深きが上の 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:深く積もっている落ち葉の上に、またひらひらと落ち葉が落ちてくるなぁ。
落ち葉は林などでは積もったあとに腐葉土として堆積していきます。ふかふかとした落ち葉だった土の上に、さらに今年の落ち葉がひらひらと落ちてくる様子を詠んだ句です。
【NO.12】夏目漱石
『 吹き上げて 塔より上の 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:風で吹き上げられて、あの塔の上まで舞い上がっていった落ち葉であることだ。
この句は作者が正岡子規に送り、添削してもらった句です。元の句では「塔より高き」でしたが、「上」とすることで下から上まで舞い上がっていく風と落ち葉の勢いを感じます。
【NO.13】飯田蛇笏
『 山晴れを ふるへる斧や 落葉降る 』
季語:落葉(冬)
意味:山が晴れたので、震えるように振るう斧だなぁ。落ち葉が降ってくる寒い日だ。
【NO.14】飯田龍太
『 手が見えて 父が落葉の 山歩く 』
季語:落葉(冬)
意味:下草がないので手が見えて、父親が落ち葉の積もる山を歩いている。
まず「手が見えて」と始まるところで、自然と視点が山の中にいる人に合わさります。そこから父、落ち葉、山と視点が広がっていくことで、まるで映像のような表現になっている句です。
【NO.15】水原秋桜子
『 むさしのの 空真青なる 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:武蔵野の空が真っ青な場所の色とりどりの落ち葉であることだ。
武蔵野と聞いて連想するのは、埼玉県南部に広がっていた雑木林でしょう。真っ青な青空に広がる雑木林と色とりどりの落ち葉という、絵画のような一句です。
【NO.16】水原秋桜子
『 啄木鳥や 落葉をいそぐ 牧の木々 』
季語:啄木鳥(秋)
意味:キツツキがこつこつと音を立てているなぁ。まるで追い立てられるように落葉。急ぐ牧場の木々だ。
キツツキが木を叩く音と振動に、まるで追い立てられるように葉を落としていく木々を見ての一句です。「いそぐ」とあるように、急速に葉を落としていく木々に秋が過ぎていくことを惜しんでいます。
【NO.17】種田山頭火
『 なんぼう考へても おんなじことの 落葉ふみあるく 』
季語:無季
意味:何度考えても同じことと、落ち葉の敷き詰められた道を踏み歩く。
「落葉」と季語は入っていますが、作者の心象風景を詠んだ自由律俳句のため無季語とされます。かつて青々と茂っていた葉を踏みしめて歩く様子は、諦念と一種の悟りを感じさせる表現です。
【NO.18】河東碧梧桐
『 一軒家も過ぎ 落葉する風のままに行く 』
季語:無季
意味:村の果ての一軒家も通り過ぎ、落葉した葉を運んでいる風に吹かれるままに行く。
この句は無季自由律俳句のため、実際に落ち葉の中を歩いている訳ではなく、作者の心象を詠んだ句です。集落から離れたところに建っている一軒家も通り過ぎて、人家を離れ1人で冷たい風に吹かれながら歩いていく、孤独な旅人の姿を詠んだ句です。
【NO.19】日野草城
『 高きより ひらひら月の 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:高いところからひらひらと月の光に照らされて舞い散る落ち葉であるなぁ。
月夜の晩に舞い散る落ち葉を詠んだ句です。まるで月からひらひらと落ちてくるような幻想的な雰囲気を醸し出しています。
【NO.20】中村草田男
『 大学に 来て踏む落葉 コーヒー欲る(ほる) 』
季語:落葉(冬)
意味:久しぶりに大学に来ると落ち葉の季節で踏みしめて歩く。学食のコーヒーが飲みたいなぁ。
大学生の日常の様子を詠んだ句というよりは、気がつけば落ち葉の季節になるくらい久しぶりに大学に来た人の感傷を詠んだ句です。コーヒーはどこでも飲めますが、「その大学で飲むコーヒー」もまた久しぶりなのでしょう。
「落ち葉」に関する有名俳句【後編10句】
【NO.21】炭太祇
『 人疎し 落葉のくぼむ 森の道 』
季語:落葉(冬)
意味:人が来ない場所だ。落ち葉がくぼんでいる森の道が続いている。
人が来ないために踏み跡などがなく、少しくぼんだ場所がそのまま残されている森の様子を詠んでいます。江戸時代では今のように宅地が拡がっていなかったため、多くの「森の道」があったことでしょう。
【NO.22】向井去来
『 賽銭を 落して払ふ 落葉かな 』
季語:落葉(冬)
意味:賽銭を落として、拾った時に払う落ち葉だなぁ。
落ち葉が積もっている場所に賽銭を落としてしまい、葉を落としながら拾い上げたときの様子を詠んでいます。すぐに拾い上げたなら「払う」という表現はあまり使わないため、落とした場所が明確でなく探していたのかもしれません。
【NO.23】星野立子
『 落葉吹き たまりしところ 古墳あり 』
季語:落葉(冬)
意味:落ち葉が吹き溜まったところに古墳がある。
作者の父である高浜虚子には古墳を詠んだ句がいくつかあります。作者も古墳の土の盛り上がりに落ち葉が吹き溜まりになっている様子を面白く眺めている一句です。
【NO.24】高浜虚子
『 ほこほこと 落葉が土に なりしかな 』
季語:落葉(冬)
意味:ほこほこと落ち葉が土になっていくのだなぁ。
秋から冬にかけて地面に落ちた紅葉は、やがて腐葉土となって土壌へと変化していきます。目に見える変化ではありませんが、「ほこほこ」という擬音を使うことでどこか親しみやすく感じさせる句です。
【NO.25】正岡子規
『 谷底に とどきかねたる 落葉哉 』
季語:落葉(冬)
意味:谷底に届かなかった落ち葉が見えているなぁ。
紅葉した木々に囲まれた谷を見下ろしている一句です。途中の岩などに落ち葉が引っかかって、谷底まで到達できなかったのだなと考えている面白い句になっています。
【NO.26】杉田久女
『 わが歩む 落葉の音の あるばかり 』
季語:落葉(冬)
意味:私の歩いている落ち葉の音があるばかりだ。
静かな場所で、自分が落ち葉を踏んで歩いている音しかしないという感慨深さを詠んだ句です。作者は話し声も誰かの歩いている音も聞こえないほどの静けさの中で、何を思っていたのでしょう。
【NO.27】西東三鬼
『 落葉して 木々りんりんと 新しや 』
季語:落葉(冬)
意味:落葉して木々がりんりんと新しくなっていくようだ。
【NO.28】富安風生
『 すずかけ落葉 ネオンパと赤く パと青く 』
季語:落葉(冬)
意味:すずかけの木の葉が落ちていく。ネオンがパッと赤く、パッと青く変化していく。
ネオンサインのある都会で見る落葉とネオンの光という、自然と人工物の対比を詠んだ句です。ネオンも色を変えていきますが、少しずつ変わる落葉と違って「パと」変わっていきます。
【NO.29】山口青邨
『 朴落葉 いま銀となり うらがへる 』
季語:朴落葉(冬)
意味:朴の木の落ち葉だ。今銀色になった事で裏返ったことがわかる。
朴(ほお)の木の落ち葉は裏側が銀色に見えることで知られています。紅葉の中で目に飛び込んできた銀色に、朴の葉が「今」裏返ったのだと瞬間を切り取った一句です。
【NO.30】鈴木真砂女
『 落葉焚き 人に逢ひたくなき日かな 』
季語:落葉焚き(冬)
意味:落ち葉を焚き付けていると、人に会いたくない日になるなぁ。
最近では落ち葉を自宅で焼くことは無くなりましたが、焚き火をすると臭いが全身について落ちなくなります。そのため今日は誰にも会いたくないなぁとこぼしている、日常の一コマを詠んだ句です。
以上、落ち葉に関するおすすめ有名俳句30選でした!
今回は、「落ち葉」に関する有名な俳句を30句紹介しました。
近づいてくる冬に侘しさを感じる句から、色とりどりの色彩を詠む句まで、幅広い表現が見られます。
はらはらと散る落ち葉や道に敷き詰められた落ち葉を見て、ぜひこの機会に一句詠んでみてはいかがでしょうか。