俳句は江戸時代に連歌から「発句」として独立して成立しました。
明治期に入ると正岡子規によって「俳句」としての芸術性が取り上げられ、それまでの価値観の転換や、激動の時代を経て、多くの俳句の作風が成立しました。
正岡子規(1867~1902)
本名は常規、または升。愛媛県松山市出身。東大国文科中退。近代に屹立し、俳句・短歌の革新に功績を残した。 pic.twitter.com/9ca0JJ6pdM
— ひげ紫呉 (@n_a0109) February 12, 2014
山口誓子(1901~1994)は、京都出身の俳人である。高浜虚子に師事し『ホトトギス』で活躍した。都会的な題材を明快に詠む作風を樹立し、俳句の近代化に貢献した。
「燃えさかり 筆太となる 大文字」
の句碑が( )条大橋東詰にある。 pic.twitter.com/HKDEUWa5XU
— 京都検定1級 練習問題 (@cc_kentei_kyoto) May 8, 2015
今回は、明治期から第二次世界大戦の終戦後までの近代に詠まれた有名俳句30選をご紹介します。
近代おすすめ有名俳句【前半15句】
【NO.1】正岡子規
『 毎年よ 彼岸の入りに 寒いのは 』
季語:彼岸の入り(春)
意味:毎年のことだよ。春のお彼岸の日になっても寒いのは。
【NO.2】正岡子規
『 夏草や ベースボールの 人遠し 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が茂っているなぁ。あの頃楽しんでいた野球をしている人たちが遠くに見える。
【NO.3】正岡子規
『 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 』
季語:柿(秋)
意味:柿を食べれば、昔の人も聞いただろう法隆寺の鐘が鳴り響いた。
【NO.4】正岡子規
『 いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 』
季語:雪(冬)
意味:なんども雪の深さを尋ねているなぁ。
作者が病床についている冬の間の出来事を詠んだ句です。雪が降っていても直接見に行けないので、家にいる人たちにどれだけ積もったかと何度も聞いている様子を詠んでいます。
【NO.5】高浜虚子
『 一つ根に 離れ浮く葉や 春の水 』
季語:春の水(春)
意味:春の水面に離れて浮いている葉があるが、よく見たらその葉の茎は一つの根で繋がっていた。
【NO.6】高浜虚子
『 白牡丹と いふといへども 紅ほのか 』
季語:牡丹(夏)
意味:白牡丹とはいうけども、その中心部はほんのりとした紅色になっている。
【NO.7】高浜虚子
『 秋空を 二つに断てり 椎大樹 』
季語:秋空(秋)
意味:秋の空を二つに断っている椎の大樹だ。
【NO.8】高浜虚子
『 遠山に 日の当たりたる 枯野かな 』
季語:枯野(冬)
意味:夕日が当たる遠い山の裾野に、日が暮れていく枯れ野が広がっていることだ。
【NO.9】河東碧梧桐
『 一軒家も過ぎ 落葉する風のままに行く 』
季語:無季
意味:集落の端にある一軒家も過ぎて、落ち葉が舞うような風が吹くままに歩いていく。
【NO.10】河東碧梧桐
『 赤い椿 白い椿と 落ちにけり 』
季語:椿(春)
意味:赤い椿と白い椿が花を落としている。
【NO.11】水原秋桜子
『 高嶺星 蚕飼(こがい)の村は 寝しづまり 』
季語:蚕飼(春)
意味:山頂に星が輝いている。蚕を飼っている村は物音ひとつなく寝静まっている。
【NO.12】水原秋桜子
『 滝落ちて 群青世界 とどろけり 』
季語:滝(夏)
意味:滝の水が轟音を立てながら落ちてきて、群青色に染まっていた世界に轟いている。
【NO.13】阿波野青畝
『 山又山 山桜又 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:どこを見渡しても山が見え、山々にはたくさんの山桜が咲き誇っている。
【NO.14】阿波野青畝
『 牡丹百 二百三百 門一つ 』
季語:牡丹(夏)
意味:牡丹の花が百個、二百個、三百個も咲いているお寺の一つの門だ。
【NO.15】山口誓子
『 海に出て 木枯らし帰る ところなし 』
季語:木枯らし(冬)
意味:海に出ると、木枯らしには帰るべき陸地はないのだ。
近代おすすめ有名俳句【後半15句】
【NO.1】山口誓子
『 突き抜けて 天上の紺 曼珠沙華 』
季語:曼珠沙華(秋)
意味:突き抜けるような紺色の秋空の下で、真っ赤な曼珠沙華が咲いている。
【NO.2】高野素十
『 空をゆく ひとかたまりの 花吹雪 』
季語:花吹雪/落花(春)
意味:ひとかたまりになった花吹雪が空を飛んでいく。
【NO.3】高野素十
『 ひつぱれる 糸まつすぐや 甲虫 』
季語:甲虫(夏)
意味:カブトムシの角に付けた糸が引っ張られてまっすぐになっているなぁ。
【NO.4】飯田蛇笏
『 おりとりて はらりとおもき すすきかな 』
季語:すすき(秋)
意味:折って取ると、はらりと手に重く感じるススキであることだ。
【NO.5】村上鬼城
『 残雪や ごうごうと吹く 松の風 』
季語:残雪(春)
意味:残雪が残っているなぁ。その上をごうごうと松の葉が音を立てるくらい強い風が吹いている。
【NO.6】西東三鬼
『 おそるべき 君等の乳房 夏来る 』
季語:夏来る(夏)
意味:胸など体型を隠さなくなった女性たちがおそろしい夏が来る。
【NO.8】荻原井泉水
『 月光ほろほろ 風鈴に戯れ 』
季語:風鈴(夏)
意味:月の光がほろほろと風鈴に戯れるように降り注いでいる。
【NO.9】種田山頭火
『 分け入っても 分け入っても 青い山 』
季語:無季
意味:道無き道をわけいってもわけいっても青い山が続いていく。
【NO.10】種田山頭火
『 焼き捨てて 日記の灰の これだけか 』
季語:無季
意味:今までの日記を焼き捨てたが、残った灰はたったこれだけなのか。
五七五の韻律は守られていますが、この句には季語がありません。作者は旅に出る際にこれまでの日記を燃やし、あれほどあった日記とたったこれだけの灰になってしまうのかという寂しさを詠んでいます。
【NO.11】久保田万太郎
『 湯豆腐や いのちのはての うすあかり 』
季語:湯豆腐(冬)
意味:湯豆腐から薄く白い湯気が立ち上っているなぁ。命の果てにある薄明かりとはこの煙のようなものだろうか。
【NO.12】日野草城
『 ところてん 煙のごとく 沈みをり 』
季語:ところてん(夏)
意味:容器から押し出されたところてんが、まるで白い煙のように皿の底に沈んでいく。
【NO.13】加藤楸邨
『 木の葉ふりやまず いそぐな いそぐなよ 』
季語:木の葉ふり(冬)
意味:木の葉がはらはらと降り止まない。いそぐな、そんなに急いで散っていかずに急がないでくれ。
落葉の季節をむかえ、紅葉した葉がやむことなく降っています。この句を詠んだときの作者は病床に伏していて、「いそぐな」の繰り返しが自身の状態への焦りを表しているようです。
【NO.14】中村草田男
『 秋の航 一大紺 円盤の中 』
季語:秋(秋)
意味:秋の海を船が進んでいく。あたりは一面紺色の海で、まるで紺の円盤の中にいるようだ。
大海原のど真ん中にいる風景が浮かんでくる句です。難しい漢字を多用していますが、不思議とどのような風景なのか写真のように浮かんでくる面白い一句になっています。
【NO.15】石田波郷
『 プラタナス 夜も緑なる 夏は来ぬ 』
季語:夏は来ぬ(夏)
意味:緑色に茂っているプラタナスの葉が、夜でも上を見上げると街灯で照らされた緑の葉が輝いている。夏の時期の到来だ。
以上、近代の有名俳句30選でした!
花鳥風月を重んじる作風や、そこから発展して自由な表現を追求する作風、自身の思ったことを素直に詠む作風など、多くの種類の俳句が発展した時期です。
同じ作者でも時期ごとに作風が異なってくるため、読み比べてみてはいかがでしょうか。