
世界中の人々から愛され、親しまれている日本の伝統芸能「俳句」。五七五のわずか17音で綴られた物語は、時代を経て現代の私たちの心に響きます。
今回は、青春を感じさせる叙情句や人間探求派で有名な「石田波郷」の代表作品(有名俳句)をご紹介します。
石田波郷の人物像と作風
(石田波郷 出典:Wikipedia)
石田波郷(いしだはきょう)は、昭和6年(1931年)に 愛媛県で生まれた俳人です。
本名は哲大(てつひろ)といいます。
19歳頃に上京し、新興俳句運動の中心人物であった水原秋桜子に師事していました。
波郷の作品は、初期の頃は青春あふれるものが多く、31歳の頃に結核を患い、闘病生活を送るようになってからは人間性を詠んだものが多く残されています。
生涯に渡って入退院を繰り返し、晩年は自らの闘病生活を見つめた句が多いのが特徴です。
そんな波郷の作品は「人間探求派」と呼ばれ、多くの人々に親しまれています。
石田波郷の有名俳句・代表作【16選】
春の俳句【4選】
【NO.1】
『 バスを待ち 大路の春を うたがはず 』
季語:春
現代語訳:バスを待ちながら神田の大通りに立っている。陽の光がうららかで、木々が芽吹いていたり…、あぁ、間違いなく春が来ているよ。
【NO.2】
『 初蝶や 吾が三十の 袖袂 』
季語:初蝶
現代語訳:あぁ、この春初めて見る蝶(初蝶)だ。自分も三十路。袖から袂を羽にしてみたりして…。
【NO.3】
『 立春の 米こぼれおり 葛西橋 』
季語:立春
現代語訳:今日は立春だ。葛西橋を歩いていると、米粒がところどころに落ちているのを見つけたよ。
【NO.4】
『 はこべらや 焦土のいろの 雀(すずめ)ども 』
季語:はこべら
現代語訳:ハコベがぽつぽつと咲いている焼け野原に、地面と同じ色(焦土のいろ)にすすけた雀が群がっているよ。
夏の俳句【4選】
【NO.1】
『 泉への 道後れゆく 安けさよ 』
季語:夏
現代語訳:目的地は泉だとわかっているから、前を行く人々の後を少し遅れてついて行けば、安心して行けるよ。
【NO.2】
『 噴水の しぶけり四方に 風の街 』
季語:噴水
現代語訳:噴水のしぶきがあちらこちらに飛び散っているよ。噴水の涼しい風が強く吹きすさぶ街だなぁ。
【NO.3】
『 プラタナス 夜も緑なる 夏は来ぬ 』
季語:夏は来ぬ
現代語訳:街路樹のプラタナスの葉は、昼は強い日差しに照らされたが緑に輝き、夜になるとそのプラタナスの緑が映ったかのように夜空も緑に染まる。いよいよ夏の到来だ。
【NO.4】
『 六月の 女すわれる 荒筵 』
季語:六月
現代語訳:六月のある日、戦争ですべてが焼き尽くされ、何も残っていない「荒筵」に、女が一人座っているよ。
秋の俳句【4選】
【NO.1】
『 吹きおこる 秋風鶴を あゆましむ 』
季語:秋風
現代語訳:突然吹きおこった秋風に押されるかのように、鶴が歩き出したよ。
【NO.2】
『 雁や のこるものみな 美しき 』
季語:雁
現代語訳:夕空を一群の雁が鳴きながら渡っていったよ。残される皆様は、本当に素晴らしい方々ばかりであったと、今更ながら思います。
【NO.3】
『 今生は 病む生なりき 烏頭(とりかぶと) 』
季語:烏頭
現代語訳:自分の一生は病んでいる期間の方が多かった。どうか鳥頭よ、私の病に効いておくれよ。
【NO.4】
『 朝顔の 紺の彼方の 夕日かな 』
季語:朝顔
現代語訳:朝顔の紺色の彼方に、過ぎ去った日々のことを思い浮かべる夕暮れどきだよ。
冬の俳句【4選】
【NO.1】
『 霜柱 俳句は切字 響きけり 』
季語:霜柱
現代語訳:霜柱は柱が折れることによって音が響くが、俳句はやはり「切字」で余韻を奏でる。
【NO.2】
『 霜の墓 抱き起されし とき見たり 』
季語:霜
現代語訳:病に寝込む我が身が抱き起され、その時墓を見た。
【NO.3】
『 雪はしづかに ゆたかにはやし 屍室(かばねしつ) 』
季語:雪
現代語訳:しんしんと静かに降り積もる雪よ、あちらには死者が眠る屍室が見える。
【NO.4】
『 綿虫や そこは屍の 出でゆく門 』
季語:綿虫
現代語訳:あそこにいるのは綿虫かなぁ。そちらの門は屍(死んだ者)が出て行く扉だ。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
今回は、石田波郷が残した俳句の中でも特に有名な作品を現代語に訳し、そこに込められた意味など簡単な感想をご紹介してきました。
青春あふれるものや人間性を詠んだものが多いといわれている石田波郷の作品はきらきらと眩しく、そして晩年の作品は死と向き合った人間味あふれる作品が中心となっています。
どれも奥深く、魅力的なものばかりですね。