日本の夏をイメージさせる代表的なものといえば、蝉の鳴き声です。
おはようございます。朝から蝉の鳴き声がうるさいス、すっかり夏だね pic.twitter.com/EQKJFZsy
— yu-ji1968🇬🇧🇯🇵🐈 (@yu_ji1968) July 20, 2012
今回は、蝉の鳴き声から生まれた「蝉時雨(せみしぐれ)」という季語を使った俳句を20句ご紹介します。
蝉時雨とは?
「蝉時雨(せみしぐれ)」とは、たくさんの蝉が一斉に鳴いている様子を意味する「夏の季語」です。
蝉たちは、一斉に鳴きだしたり一斉に鳴きやんだりします。その様子を、冬の降ったり止んだりを繰り返す「時雨(しぐれ)」に例えて作られた季語が、「蝉時雨」です。
時雨のように、蝉の声が木の上の方から降ってくることを意味します。
ちなみに、「蝉時雨」で表現される蝉の種類は、特に決まっていません。
夏の終わりに鳴く「ヒグラシ」を詠った句が多いですが、色々な種類の蝉で詠むことができます。
蝉時雨を季語に使った有名俳句【10選】
【NO.1】正岡子規
『 汗を吹く 茶屋の松風 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、茶屋で休んでいると、かいた汗に心地よく吹く松風が吹く。
蝉時雨が響く炎天下の中、茶屋で休憩している作者。そこに涼しい松風が吹いて、汗をかいた体を癒してくれます。
読み手にも、心地よい松風が感じられるような句です。
【NO.2】石橋秀野
『 蝉時雨 子は担送車に 追ひつけず 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、子どもは私が乗る担送車に追いつくことができない。
「担送車(たんそうしゃ)」とは、患者を運ぶ移動式のベッド、ストレッチャーのことです。
前書に、「七月二十一日入院」とあります。作者は、その年の九月二十六日に亡くなっており、この句が絶筆のものとなりました。
蝉時雨の音が響く中、作者が乗った担送車を追いかける幼い子の姿が、ありありと目に浮かびます。幼子を残し、38歳という若さで亡くなることになる作者の無念な気持ちが、表現されています。
【NO.3】石橋辰之助
『 蝉時雨 野川のひかり 木がくれに 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、野原を流れる小川の光が、木の影に隠れながら輝いている。
【NO.4】阿部みどり女
『 うれしさは かなしみとなり 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、嬉しさが悲しみとなったことだ。
蝉時雨の音を聞き、嬉しい気持ちが悲しみになった。この句での蝉時雨は、ヒグラシなどの物悲しい蝉の声を連想させます。
【NO.5】村上鬼城
『 石に沁む(しむ) 石工(いしく)の汗や 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、石工の汗が落ち、石にしみを作っていることだ。
【NO.6】中村草田男
『 聖代(せいだい)めく 蝉時雨にぞ めぐりあへる 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:聖代の時代のような蝉時雨に、めぐりあえたことだ。
「聖代(せいだい)」とは、知徳にすぐれた天子がおさめた時代のことです。
係助詞「ぞ」を使い、結びが連用形「めぐりあへる」となる、係り結びの句法を使っています。
係り結びを使うことで、「かつての知徳の天子が治めた時代と同じ、蝉時雨にめぐりあうことができた」という作者の感動が強く表現されています。
【NO.7】加藤楸邨
『 蝉時雨 中に鳴きやむ ひとつかな 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中でひとつ鳴きやんでいることだなあ。
一斉に蝉たちが鳴く蝉時雨の中で、一匹の蝉が鳴きやんだ様子。
切れ字「かな」を用いることで、作者が蝉の声に耳をすませている中で気づいた感動に、余韻をもたせています。
【NO.8】飯田蛇笏
『 桟(かけはし)や 荒瀬(あらせ)をこむる 蝉しぐれ 』
季語:蝉しぐれ(夏)
現代語訳:荒瀬に蝉時雨の音がいっぱいに集まっている、架け橋であることだなあ。
「桟(かけはし)」とは、水の上を通るためにかけ渡した橋のことです。
「荒瀬(あらせ)」とは、岩や石が見え隠れする、水量が多く流れが急な川の場所のことです。
【NO.9】大野林火
『 蝉時雨 庇(ひさし)の下を 通(かよ)ひ路に 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中、ひさしの下を通い路にすることだ。
「庇(ひさし)」とは、家の縁側などの上部にある小屋根のことです。
「通ひ路(かよいじ)」とは、人々が行き交う道のことをいいます。
蝉時雨が鳴り響く中、真夏の照りつける太陽を避け、人々が庇の陰を通っていく様子を詠っています。
【NO.10】横光利一
『 橙(だいだい)青き 丘の別れや 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
現代語訳:蝉時雨の中で、橙がまだ青い丘での別れであることだなあ。
橙(だいだい)がまだ青く実っている丘での別れ。切れ字「や」で印象を深めています。「青き」と色の語があり、夏の場面が印象的な句です。
蝉時雨を季語に使った一般の方の俳句ネタ【10選】
【NO.1】
『 蝉時雨 青き切手を 選びけり 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:蝉時雨の中、青い切手を選んだことだ。
【NO.2】
『 蝉時雨 木々の間を 埋め尽くす 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:蝉時雨の音が、木々の間を埋め尽くしている。
たくさんの蝉が一斉に鳴く止むを繰り返す、蝉時雨。
木々が隣接している中で、蝉の強い生命力が伝わってきます。
【NO.3】
『 告白は 直球勝負 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:好きな人に告白する、恋の直球勝負。
蝉時雨の音が響く中、どきどき緊張した作者の気持ちが伝わってきます。
【NO.4】
『 せみしぐれ 入場無料の オーケストラ 』
季語:せみしぐれ(夏)
意味:蝉時雨の音の中、入場無料のオーケストラを聴きに行く。
【NO.5】
『 登山口 エールのような 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:大山(だいせん)の登山口でエールを送ってくれるように蝉時雨が響いている。
「大山(だいせん)」とは、鳥取県にある山のことです。
今から大山を登ろうとしているとき、その背中に蝉たちがエールを送るかのように鳴いている。「エール」の語がとても印象的です。
【NO.6】
『 言いそびれていることがあります 蝉しぐれ 』
季語:蝉しぐれ(夏)
意味:言いそびれていることがあります 蝉時雨の中で。
「言いそびれていることがあります」と、「字余り」でかつ「句またがり」の句になっています。「蝉しぐれ」が鳴り響く中で、誰かに言おうとしているのに言えない作者の想い。
二つの対比が面白く印象深い句です。
【NO.7】
『 蝉時雨 君と出会って 止みにけり 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:蝉時雨の音が、君と出会った瞬間止んでしまった。
出会った瞬間に、うるさい程に響いていた蝉時雨の音が聞こえなくなった。
恋に落ちた瞬間を、読み手に想像させる句です。
【NO.8】
『 北竜湖 水の底まで 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:北竜湖の水の底まで蝉時雨の音が響いているようだ。
「北竜湖」とは長野県飯山市にある、火山の爆発によってできた天然の湖のことです。
湖の底まで蝉時雨の音が響くと想像する、作者のすぐれた感覚が伝わります。
【NO.9】
『 イヤホンの 外で奏でる 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:イヤホンの外で蝉時雨が音を奏でている。
イヤホンをつけ、自分だけが聞く音楽。その外ではたくさんの蝉が鳴く様子。
中と外で、音の世界の対比が面白く表現されています。
【NO.10】
『 島一つ 占領したる 蝉時雨 』
季語:蝉時雨(夏)
意味:島を一つ占領したかのように、蝉時雨が鳴り響いている。
以上、蝉時雨を季語に使ったオススメ俳句でした!
今回は「蝉時雨」の句をご紹介しました。
蝉の音は、古来より多くの日本人の心をとらえてきました。
「蝉時雨」は、蝉の鳴き声を天から降ってくる「時雨」の様子と重ねた、美しい季語です。
ぜひ、夏の象徴的な「蝉時雨」の句を楽しんでください。