
日本では、花といえば「桜」をイメージされる方が多いと思います。
しかし、平安時代初め頃までは、花は「梅」を主に指していました。
梅はまだ寒さが残る中、他の花に先がけて咲く花「春告草(はるつげくさ)」です。梅の花の色は、主に白、紅、淡紅があり、梅の種類は300以上あるとされています。
梅は、その香りと美しい花の姿が尊重され、日本の雅を好む多くの俳人に読まれてきました。
寒さの残る中、春の花々に先駆けて咲く梅の花を見ると…
梅一輪 一輪ほどの 暖かさ
服部嵐雪大好きなこの俳句を思い出しました🌸#高知城#梅#ファインダー越しの私の世界ᅠ #写真が好きな人と繋がりたい #photograph #ふぉと pic.twitter.com/ZtDhbWDasN
— カコ (@yoko53535) February 15, 2019
今回は、「梅」に関する有名俳句20選をご紹介します。
梅を季語に使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 梅が香に 昔の一字 あはれなり 』
季語:梅(春)
現代語訳:梅の香りをかぐと、「昔」の一字がことさらあわれに感じられる。
「昔」とは、ここでは故人を意味します。昨年なくなった故人を、梅の香りによって思い出し悼んでいる句です。
【NO.2】井原西鶴
『 梅の花 になひおこせよ 植木売り 』
季語:梅の花(春)
現代語訳:植木屋よ、梅の花をかついで届けてくれ。
「になひおこせよ」は、「荷ひおこせよ」の意味です。菅原道真の和歌「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」を踏んで作られています。井原西鶴らしい、洒落に富んだ句です。
【NO.3】惟然
『 梅の花 あかいはあかいは あかいはな 』
季語:梅の花(春)
現代語訳:梅の花、赤いは赤いは赤いなあ。
句の終わりの「は」「な」は、詠嘆を表す助詞です。平仮名で「あかいはあかいはあかいはな」と繰り返し、軽く楽しい句になっています。
【NO.4】小林一茶
『 せなみせへ 作兵衛店の 梅だんべへ 』
季語:梅(春)
現代語訳:兄さん見なさい、作兵衛のお店の梅だ。
小林一茶独特の、方言を使った俳句です。江戸郊外の葛飾の地の方言を使っています。
「せな」は「兄」。「みせへ」は「見なさい」の意味です。「店」は「だな」と読みます。梅を見ながらのんびりと散策を楽しんでいる一茶の場面が、方言を使うことでよく表現されています。
【NO.5】正岡子規
『 蠣殻の うしろに白し 梅の花 』
季語:梅(春)
現代語訳:牡蠣(かき)を食べたあとの殻の後ろに、白い梅の花が咲いている。
「蠣殻」は「かきがら」と読みます。食べた後の牡蠣の殻が地面に転がっていて、その後ろに梅の花が白くぼんやりと咲いています。
【NO.6】捨女
『 梅が香は おもふきさまの 袂(たもと)かな 』
季語:梅(春)
現代語訳:梅の香りを自分の袖にとめて、あなたさまを想うつてにすることだ。
【NO.7】中村草田男
『 勇気こそ 地の塩なれや 梅真白(うめましろ) 』
季語:梅(春)
現代語訳:勇気こそ地面の塩となれ、梅が真っ白に咲く。
「地の塩」は聖書マタイ伝の言葉で、世のために尽くし、献身する人のことです。
「梅真白」(うめましろ)の言葉で、勇敢な様子を表しています。
【NO.8】荒木田守武
『 とび梅や かろがろしくも 神の春 』
季語:梅(春)
現代語訳:空を軽々と飛んだ梅。神の春のことである。
【NO.9】内藤鳴雪
『 夕月や 納屋も厩(うまや)も 梅の影 』
季語:梅(春)
現代語訳:空には夕月がのぼり、納屋にも厩にも美しい梅の影がかかっている。
【NO.10】飯田蛇笏
『 山川の とどろく梅を 手折るかな 』
季語:梅(春)
現代語訳:山を流れる川音がとどろく中、梅を手で折ろうとすることだ。
梅を季語に使った有名俳句【後半10句】
【NO.1】夏目漱石
『 佶倔(きつくし)な 梅を画(えが)くや 謝春星(しゃしゅんせい) 』
季語:梅(春)
意味:曲がりくねった梅の枝を画いたであろう 謝春星は。
「きつくつな うめをえがくや しゃしゅんせい」と読みます。
「きつくつ」とは、曲がりくねっている、または窮屈であるという意味です。
「謝春星」とは、与謝蕪村の俳号です。
与謝蕪村の画く梅が「きつくつ」としている、と夏目漱石が評している句です。
【NO.2】梶井基次郎
『 梅咲きぬ 温泉(いでゆ)は爪の 伸び易(やす)き 』
季語:梅(春)
意味:梅が咲いた。温泉に入ると爪が伸びやすくなる。
【NO.3】水原秋櫻子
『 水滴の 凍るゆふべぞ 梅にほふ 』
季語:梅(春)
意味:滴り落ちる水も凍ってしまう夕暮れ時に、梅の香りが漂ってくることだ。
【NO.4】山口青邨
『 草を焼く 煙流れて 梅白し 』
季語:梅(春)
意味:草を焼く煙が白く流れゆく先に、梅も白く咲いている。
【NO.5】石田波郷
『 梅の香や 吸ふ前に息は 深く吐け 』
季語:梅(春)
意味:梅の香りを吸う前には、息を深く吐け。
【NO.6】尾崎放哉
『 児をつれて 小さい橋ある 梅林 』
季語:梅(春)
意味:子どもを連れて梅林を歩いていると、小さな橋があったことだ。
【NO.7】内藤鳴雪
『 野の梅や 折らんとすれば 牛の声 』
季語:梅(春)
意味:野梅を折ろうとすると、牛の声が聞こえてきた。
【NO.8】松尾芭蕉
『 梅が香に のつと日の出る 山路哉 』
季語:梅(春)
意味:梅の香りが漂う山の路で、朝日がぱっと明るく昇ってくる。
【NO.9】与謝蕪村
『 しら梅に 明る夜ばかりと なりにけり 』
季語:しら梅(春)
意味:白梅が美しく光る夜明けとなったことだ。
この句は、与謝蕪村の辞世の句で、病に臥せる与謝蕪村の枕元で門人が書き留めたものです。蕪村は、享年68歳。自分の夜は「しら梅に明る夜ばかり」となったと、自身の死を悟っています。
【NO.10】服部嵐雪
『 梅一輪 一輪ほどの 暖かさ 』
季語:梅(春)
意味:梅が一輪咲いた。それを見ると、一輪ほど周りが暖かくなったように感じられることだ。
この句は松尾芭蕉の弟子、服部嵐雪の詠んだ句で、梅の句として現在でも有名です。
冬を終え、春の始まりを告げるように咲いた梅の花一輪。
「いちりんほどのあたたかさ」と平仮名で繰り返すことにより、梅を見つけた作者の心が、ほんのりと温まった様子が伝わってきます。
以上、梅に関する有名俳句集でした!
今回は「梅」の有名俳句20選をご紹介しました。
梅はその芳しい香りと美しさから、まさに花木の王者といえます。そのため、数々の梅を詠んだ俳句には気品があふれるものが多くあるのです。
梅が咲いた時には、その美しい様子と香りを味わいながら、梅の俳句を楽しんでみてください。