【宝井其角の有名俳句 20選】松尾芭蕉十哲のひとり!!俳句の特徴や人物像・代表作など徹底解説!

 

五七五の十七音で構成される定型詩「俳句」。

 

短い音の中に季節を表す季語を詠みこみ、心情や風景を自在に表現します。

 

今回は、松尾芭蕉の弟子として名高い「宝井其角(たからい きかく)」について、人物像や作風、有名俳句を20句ご紹介します。

 

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さっそくご紹介していきます!

宝井其角の人物像や俳句の特徴

(宝井其角 出典:Wikipedia

 

宝井其角(たからい きかく)は1661(寛文元)年に江戸の下町で医者の子として生まれました。

 

始めは母方の榎本姓を名乗っていましたが、後に自ら宝井と改めています。文芸や四書五経などの教養に親しむほか、医学にも精通していたと言われています。

 

15歳で松尾芭蕉の門下となり、漢詩調の俳句の流行の担い手となりました。芭蕉からの評価は高く、「草庵に梅桜あり 門人に其角嵐雪有り」と記すほどで、芭蕉門下の筆頭として扱われていました。

 

27歳のときに宗匠となり、多くの句集を出版します。その中でも、芭蕉のわび・さびとは違った「洒落風」という作風を生み出しています。芭蕉没後も蕉門を率いていましたが、若い頃からの深酒が祟り、1707(宝永4)年に47歳という若さでこの世を去っています。

 

其角の作風としては、伊達を好んでわかりやすく口語調で詠まれる洒落風という一派を興したことで知られています。其角の豪胆かつ情けの深い性格は忠臣蔵のエピソードにも取り入れられるほどで、作者の性格がそのまま俳句にも反映されていたようです。

 

宝井其角の有名俳句・代表作【20選】

 

【NO.1】

『 鴬の 身を逆(さかさま)に はつね哉 』

季語:鶯(春)

意味:鶯が、体をさかさまにして枝に止まって今年の春初めての鳴き声をあげていることだ。

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同じ松尾芭蕉の弟子である向井去来には「ありえない事を詠んでいる」と批判される句ですが、作者の俳句としてとても有名な句です。実際に器用にさかさまにとまっている鶯を見たのか、作者の想像の中での出来事なのか、考えさせられる句になっています

【NO.2】

『 すごすごと 摘やつまずや 土筆 』

季語:土筆(春)

意味:もくもくと土筆を摘んでいる人がいる。

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「すごすごと」から始まる土筆をテーマに詠まれた際の一句です。土筆摘みといえば春の野遊びの一つですが、この句では楽しげというよりは義務感のようなものを感じさせます。

【NO.3】

『 花に酒 僧とも侘ん 塩ざかな 』

季語:花(春)

意味:花には酒だ。僧侶と飲むには侘びが必要だろう、塩を肴に酒を飲もう。

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酒好きの其角ならではの一句です。「塩ざかな」とは塩魚のことではなく、塩をお酒のつまみにして飲んでいます。僧侶との花見酒なのだから、塩を肴にすることは侘びだとお酒を片手に楽しんでいる様子が浮かんでくる表現です

【NO.4】

『 猫の子の くんづほぐれつ 胡蝶哉 』

季語:猫の子(春)

意味:猫の子たちが、くんずほぐれつ胡蝶と戯れていることよ。

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猫の子どもたちが、ひらひらと舞う蝶に向かってじゃれついている長閑な春の一コマです。お互いの体に乗り上げてでも蝶を捕まえようとしている様子が「くんづほぐれつ」から伝わってきます。

【NO.5】

『 小坊主や 松にかくれて 山ざくら 』

季語:山ざくら(春)

意味:上野の寛永寺で働く小坊主たちよ。松の影に出たり入ったりしている中で山桜が咲いている。

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「東叡山にあそぶ」という前書きがついている句です。東叡山とは上野の寛永寺のことで、小坊主が忙しそうに働いている中で山桜を目当てに集まっている観光客の賑わいが今にも聞こえてきそうな句になっています

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夏になるとお風呂上がりに薄着で涼む人もいるのではないでしょうか。江戸時代の夕涼みといえば縁側で風を楽しむことなので、女性ではそうもいきません。うちわで扇ぎながら浴衣でくつろぐ姿が目に見えるようです。

【NO.7】

『 今朝たんと 飲めや菖(あやめ)の 富田酒 』

季語:菖(夏)

意味:今日は端午の節句で菖蒲の根を漬ける酒があるので、富田の酒をたんと飲めるぞ。

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菖とは端午の節句で使う菖蒲のことで、根や葉を漬けた酒が振る舞われていました。そのため、誰にはばかることなくお酒として有名な現在の大阪府高槻市にある富田の酒を飲めると喜んでいます。なお、この句は「けさたんと のめやあやめの とんたさけ」と回文になっていることで有名です。

【NO.8】

『 越後屋に 衣さく音や 更衣 』

季語:更衣(夏)

意味:呉服屋である越後屋で、夏物の生地を切り売りする音がするなぁ。そろそろ更衣の季節だ。

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越後屋とは今の三越の前身となった呉服屋です。其角が活躍する20年ほど前に創業した新しい店で、当時の流行りのものを詠んだ俳句になっています。

【NO.9】

『 切られたる 夢は誠か 蚤(のみ)のあと 』

季語:蚤(夏)

意味:夢の中で切られたと思って起きたのは本当だったのだろうか。ただノミに噛まれた跡がある。

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『去来抄』による評価では、物事を大袈裟にして詠んでいると批評されています。師である松尾芭蕉からは、作者はなんでもない風景を俳句にまで昇華させられる才能があると評された一句です

【NO.10】

『 夕立や 田をみめぐりの 神ならば 』

季語:夕立(夏)

意味:夕立よ降ってくれ。田を見て巡る三囲神社の神様ならば。

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「みめぐり」が「見巡り」と「三囲」に掛かっています。三囲神社とは東京都向島にある神社で、雨乞いの祈祷が行われている際に詠まれた俳句です。実際に雨が降ったという逸話が残されています

 

 

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月の光で庭先にある松の木の影が畳にうつっているという、外の光と家の中の影を対比した一句です。中国の漢詩に月光で花の影がうつるというものがありますが、その詩を下地にしています

【NO.12】

『 十五から 酒をのみ出て けふの月 』

季語:けふの月(秋)

意味:15歳のときから酒を飲み続けて、今日の仲秋の名月を眺めていることよ。

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其角の酒好きのエピソードが最も表れている一句です。「けふの月」とは「今日の月」と書き、仲秋の名月のことを表します。毎年月見酒を楽しみ続けて今日を迎えたという酒の席での喜びを詠んでいます。

【NO.13】

『 生綿取る 雨雲たちぬ 生駒山 』

季語:生綿取る(秋)

意味:綿の実から綿を取っていると、雨雲が立ち込め始めた生駒山だ。

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「生綿取る」とは綿の実から綿の繊維を取る作業です。生駒山は奈良県にある霊山で、多くの神社が付近にあります。雨が降ってしまうと綿が濡れてしまうので、大急ぎで収穫作業をしていたことでしょう。

【NO.14】

『 かはらけの 手ぎは見せばや 菊の花 』

季語:菊(秋)

意味:酒をつがれた陶器に見事な菊の花が描かれているが、酒でよく見えないので飲み干して菊の花をよく見たいものだ。

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「かはらけ」は本来は土器のことですが、この句では見事な菊の花が描かれた陶器のことです。菊の花を見たいとお酒を飲み干していますが、菊を褒めているようで実はお酒が飲みたいという酒豪の其角らしいエピソードでもあります

【NO.15】

『 稲こくや ひよこを握る 藁の中 』

季語:稲こく(秋)

意味:稲こきをしているなぁ。藁の中に潜んでいたヒヨコを握ってしまっている。

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稲こきとは脱穀のことで、竹製の箸や千歯こきと呼ばれる道具で稲の藁と籾殻を分けていました。その藁を掴んだと思ったら、藁の中に隠れていたひよこも握ってしまったという微笑ましいエピソードです

【NO.16】

『 なきがらを 笠にかくすや 枯尾花(かれおだな) 』

季語:枯尾花

意味:師匠の亡骸を笠で隠そう。あの枯尾花のように。

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師である松尾芭蕉が亡くなったあと、追悼として刊行された『枯尾花』の1番目を飾った句です。作者は芭蕉の高弟の中で唯一臨終を看取った弟子のため、笠で隠そうとする表現に深い悲しみを感じます

【NO.17】

『 あれきけと 時雨来る夜の 鐘の声 』

季語:時雨(冬)

意味:あれを聞けと時雨が来る夜に鳴る鐘の音よ。

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「あれきけと」で示されているのが、時雨の音なのか鐘の音なのかで解釈の分かれる句です。鐘の音で起こされると時雨が降っていたという状況なので、どちらとも取れる一句になっています

【NO.18】

『 雑水の などころならば 冬ごもり 』

季語:冬ごもり

意味:父の故郷である堅田は雑炊が有名な場所であるから、師匠はあたたかい冬ごもりを楽しんでおられるだろう。

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この句は師である松尾芭蕉が、作者の父の故郷である滋賀県大津市の堅田という場所に滞在していると聞いて詠まれた句です。堅田の地の雑炊は他の俳人にも詠まれるほど有名なため、冬の心配はなさそうだという優しさが感じられます。

【NO.19】

『 初雪や 門に橋あり 夕間暮 』

季語:初雪(冬)

意味:初雪が降ったなぁ。我が家の門の前には橋がある。夕暮れで暗くなってきた中で雪の白が浮かんで見える。

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夕暮れの暗さと雪の白さを対比した句です。誰かが雪で白く染まった橋を渡って訪ねてくるかもしれないという期待が込められています。

【NO.20】

『 七種や 跡にうかるる 朝がらす 』

季語:七種(新年)

意味:七草粥を作ろう。唐土の鳥が渡ってこない間に作ろうとはやし立てているが、今日も朝からカラスが浮かれて元気なことだ。

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江戸時代の七草粥は、「唐土の鳥が 日本の土地へ 渡らぬさきに なずな七種 はやしてほとと」という七草囃子ではやし立てられながら作られていました。唐土の鳥は渡ってこないけれど、近所のカラスは朝から浮かれているという対比を面白がっています

以上、宝井其角が詠んだ有名俳句でした!

 

 

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今回は、芭蕉の高弟であり、洒落風を興した宝井其角について紹介してきました。
其角の俳句はわかりやすく口語調で親しみやすいものや、俳句自体が回文になっているような遊び心のあるものなど変幻自在です。
宝井其角の口語調の俳句は現在の俳句論とも切っても切れないものですので、ぜひ参考にしてみてください。