
空から舞い落ちる、白く美しい「雪」。
冬の風景を代表する「雪」は古来より多くの句に詠まれてきました。
雪の朝
二の字二の字の
下駄の跡
細見綾子小学生の頃、勉強した有名な俳句を思い出しました。
こちらは下駄ではなく、靴ですが。 pic.twitter.com/QiBfdlSDxc— 荻野 栞 (@ogishio110607) January 14, 2018
今回は、「雪」の有名俳句20選をご紹介します。
雪を季語に使った有名俳句集【前半10選】
【NO.1】正岡子規
『 いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 』
季語:雪
現代語訳:雪がどのくらい積もったか、その深さを何度も何度も聞いたことだ。
この句は、正岡子規が病床で詠んだ句です。病に臥せり、雪を見ることができない子規は、雪がどのくらい積もっているのか、何度も母や妹に尋ねたそうです。
【NO.2】小林一茶
『 これがまあ つひの栖か 雪五尺 』
季語:雪
現代語訳:雪が五尺も深く積もる田舎。ここが自分の余生をすごすところなのか。
「栖」は「すみか」と読みます。五十歳を迎えた一茶は、長い旅を終え故郷に戻ります。雪が5メートルも降り積もるような田舎で、自分の一生を終えるのかと諦めの気持ちを感じています。亡き父の遺産問題を解決するために故郷に帰った際の歌です。
【NO.3】松尾芭蕉
『 馬をさえ ながむる雪の 朝哉(あしたかな) 』
季語:雪
現代語訳:乗っている馬を止めて降り始めた雪を眺める。
「朝」は「あした」と読みます。旅の途中雪が降り始め、思わず馬の手綱を抑えて、明日の朝は雪の旅となると芭蕉は考えたのでしょう。
【NO.4】室生犀星
『 ゆきふると いひしばかりの 人しづか 』
季語:ゆき
現代語訳:「雪が降っていますよ」とだけしか言わない人。あとは静かに雪を眺めている。
【NO.5】西東山鬼
『 限りなく 降る雪何を もたらすや 』
季語:雪
現代語訳:いつ止むかわからない程に降り続く雪。この雪は、この世に何をもたらすのであろうか、いや、もたらしてほしい。
【NO.6】飯田蛇笏
『 降る雪や 玉のごとくに ランプ拭く 』
季語:雪
現代語訳:外では雪が降り続いている。夜にならないうちにランプの手入れをする。宝石を磨くように丁寧に拭くことだ。
【NO.7】永井荷風
『 湯帰りや 燈ともしころの 雪もよひ 』
季語:雪
現代語訳:銭湯から出ると、もう日が暮れている。通りには燈(あかり)がともり、もう雪が降りそうな空だ。
【NO.8】宗因
『 となん一つ 手紙のはしに 雪の事 』
季語:雪
現代語訳:手紙の端に、雪のことをひとこと書いた。
【NO.9】臼田亜浪
『 雪散るや 千曲の川音 立ち来り 』
季語:雪
現代語訳:降り積もった雪が風で舞い散った。千曲の川音がますます高まって聞こえてきた。
【NO.10】萩原井泉水
『 わらやふる ゆきつもる 』
季語:ゆき
現代語訳:わらぶき屋根の家に、雪がしんしんと積もってゆく。
雪を季語に使った有名俳句集【後半10選】
【NO.1】橋本多佳子
『 雪の日の 浴身一指 一趾愛し(いっしかなし) 』
季語:雪
意味:雪の日の浴室で、愛おしむように自分の手の指、足の指を一本ずつ丁寧に洗うことだ。
「浴身一指一趾愛し」は、「よくしんいっしいいっしかなし」と読みます。
作者が、胆のうの手術のために入院する直前に、自宅の入浴のことを詠んだ句です。外は雪が降る中、病の体を愛おしみ、丁寧に洗う作者の姿が切なく感じます。
【NO.2】石田波郷
『 雪は しづかにゆたかにはやし 屍室(かばねしつ) 』
季語:雪
意味:雪は静かにかなりの速さで、しんしんと降っている。霊安室の屋根にも降り続いている。
【NO.3】室井其角
『 我が雪と おもへばかろし 笠の上 』
季語:雪
意味:笠に降り積もる雪も、自分のものだと思えば軽く感じることだ。
【NO.4】前田普羅
『 この雪に 昨日はありし 音声かな 』
季語:雪
意味:この雪に、昨日はそこにいた妻の音声が聞こえることだ。
【NO.5】田 捨女
『 雪の朝 二の字二の字の 下駄のあと 』
季語:雪
意味:雪の朝、表には誰かが歩いた下駄の跡が、二の字二の字の形になって雪に残っている。
【NO.6】向井去来
『 おうおうと いへど敲くや 雪の門 』
季語:雪
意味:雪の降りしきる中、門を誰かが叩いている。「おうおう」と返事をしたが、聞こえないのかまだ叩き続けている。
【NO.7】大野林火
『 本買へば 表紙が匂ふ 雪の暮 』
季語:雪
意味:新しい本を買うと、表紙から真新しいインクの匂いがする、雪の夕暮れ時のことだ。
【NO.8】小林一茶
『 雪とけて 村いっぱいの 子ども哉 』
季語:雪
意味:雪がとけて、村にはたくさんの子どもたちの声があふれてきた。
【NO.9】原石鼎
『 雪に来て 見事な鳥の だまり居る 』
季語:雪
意味:雪の景色の中、美しい鳥が飛んできて黙って木にとまっている。
何の鳥かわからない「見事な鳥」。その語句の響きと、雪の対比が美しい句です。
「だまり居る」と擬人法を使うことで、鳥の存在感を増しています。
【NO.10】大島蓼太
『 ともし火を 見れば風あり 夜の雪 』
季語:雪
意味:雪が降りしきる夜、行燈の火を見ると揺れていて風が吹いていることに気づくことだ。
以上、雪に関する有名俳句集でした!
「雪」の有名俳句20選をご紹介しました。
季語「雪」は日本の美しい冬の景色を表現できるものです。楽しい場面、切ない心情、しんしんと降り積もる美しい風景など、「雪」の俳句には様々な世界があります。
雪の美しさは、はかなさは、実際に雪を感じるとより理解できるものです。
雪が降ってきたときは、ぜひ雪の俳句を詠んでみましょう。