五七五の十七音で構成され季語を詠み込む俳句は、江戸時代に成立した詩です。
江戸時代には多くの俳人たちが生まれ、それぞれの流派ごとに違った作風の俳句が生まれました。
梅一輪 一輪程のあたたかさ
この俳句は、江戸時代の俳人服部嵐雪の作品で余りにも有名な句です。
一輪に鼻を近づけると馥郁と… pic.twitter.com/UVTEU8rPMD— 大出嘉徳 (@yoshinori_ohide) January 28, 2016
今回は、「江戸時代」に詠まれた有名な俳句を20句ご紹介します。
江戸時代に詠まれた有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 古池や 蛙飛び込む 水の音 』
季語:蛙(春)
意味:古い池があるなぁ。カエルが飛び込む水の音がするほど静かだ。
この句は古池の静けさを直接俳句に詠み込まずに強調しています。松尾芭蕉の代表作とも言える俳句で、江戸時代にはすでによく知られた一句でした。
【NO.2】松尾芭蕉
『 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 』
季語:蝉(夏)
意味:なんという静けさだろう。まるで岩にしみ入るように蝉の声が響いている。
この句は『奥の細道』で、山形県にある立石寺に立ち寄ったときに詠まれた句です。山奥というだけではない静謐さが、不動である岩に音がしみているようだという表現から伝わってきます。
【NO.3】松尾芭蕉
『 荒海や 佐渡に横とう 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:目の前には荒海が広がっているなぁ。空には佐渡ヶ島の上に横たわるように天の川が広がっている。
この句は『奥の細道』で新潟県出雲崎に立ち寄った際に詠まれました。目の前に広がる大海原と、黒く見える佐渡の島影、上空に広がる天の川と、海と地上と天を一度に詠んだ壮大な句になっています。
【NO.4】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
意味:旅の途中で病に伏しても、夢の中ではなお枯れ野を駆け巡っている。
松尾芭蕉の生前最後の句として有名な俳句です。作者は大阪への旅の途中で病床に伏しましたが、「枯野を廻るゆめ心」とするかどうか推敲を重ねるほど俳諧の道に生きた人生であったことが伺えます。
【NO.5】与謝蕪村
『 菜の花や 月は東に 日は西に 』
季語:菜の花(春)
意味:菜の花が咲いているなぁ。月が東に出て、日は西に沈んでいく。
この句は1774年の3月23日に詠まれました。この年の春分の日は3月21日で、昼と夜がちょうど同じ時間になる時期であることが、月と太陽を同時に表現していることから伝わってきます。
【NO.6】与謝蕪村
『 夏河を 越すうれしさよ 手に草履 』
季語:夏河(夏)
意味:夏の川を裸足で越えるのはうれしいことだなぁ。手には脱いだ草履を持っている。
この句は京都府与謝野町を流れる野田川で遊んだときに詠まれたものです。一説によれば作者の母方の実家が近辺にあり、幼い頃の郷愁を詠んだ句とも言われています。
【NO.7】与謝蕪村
『 子狐の かくれ貌なる 野菊哉 』
季語:野菊(秋)
意味:小狐がかくれんぼをしているように隠れている野菊の花畑よ。
【NO.8】与謝蕪村
『 寒月や 門なき寺の 天高し 』
季語:寒月(冬)
意味:寒い夜に冬の月が冴え渡っているなぁ。視界をさえぎる門のない寺は空が高く見える。
冬は空気が乾燥していて月が美しく輝く季節です。立派な門のない小さなお寺では、空を仰ぐと視界いっぱいの夜空と月がより際立つように見えます。
【NO.9】小林一茶
『 雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る 』
季語:雀の子(春)
意味:雀の子よ、そこをおどきなさい、そこをおどきなさい。今からお馬が通りますよ。
「そこのけ」とは元々大名行列の先払いで「そこを退き去れ(のきされ)」という言葉が元になっています。また、「対馬祭」という狂言で「馬場退け馬場退けお馬が参る」というフレーズがあり、この表現を元にしたとも言われています。
【NO.10】小林一茶
『 やれ打つな 蝿が手をすり 足をする 』
季語:蝿(夏)
意味:これこれ、ハエを打ってはいけない。手をすり足をすり命乞いをしているようではないか。
「やれ」とは感嘆の意味を表しますが、ここでは呼びかけとして使っています。ハエは手足をこすり合わせる動作をしますが、その動きを命乞いと見て見逃してやろうと呼びかけている句です。
江戸時代に詠まれた有名俳句【後半10句】
【NO.11】小林一茶
『 名月を 取ってくれろと 泣く子かな 』
季語:名月(秋)
意味:あの空の名月を取っておくれよと泣く子供がいることだ。
この句は作者が自分の娘を背負って歩いていた様子を詠んだ句です。小林一茶の『おらが春』には子供たちの様子がよく出てきていて、子煩悩な作者の姿が伺えます。
【NO.12】小林一茶
『 うまさうな 雪がふうはり ふわりかな 』
季語:雪(冬)
意味:おいしそうな牡丹雪がふわりふわりと落ちてくるなぁ。
牡丹雪はふわふわと落ちてくる大きい塊の雪です。子供の頃に食べられるのではないかと追いかけていた人も多いのではないでしょうか。
【NO.13】加賀千代女
『 朝顔に 釣瓶とられて もらひ水 』
季語:朝顔(秋)
意味:朝顔のツルが釣瓶に巻き付いている。切ってしまうのは忍びないのでご近所に水をもらいに行こう。
【NO.14】宝井其角
『 鶯の 身を逆(さかさま)に はつね哉 』
季語:鶯(春)
意味:鶯が体を逆さまにして初鳴きをしていることだ。
この句は同じ芭蕉一門の向井去来が記した『去来抄』で議論の的となったことで有名な俳句です。現実的ではないという批評と、わかりやすく伊達を好む作風が表れているという評価が分かれている句です。
【NO.15】服部嵐雪
『 梅一輪 一輪ほどの 暖かさ 』
季語:梅/寒梅(冬)
意味:梅が一輪だけ咲いている。寒い冬だが、その一輪の梅を見ると微かな暖かさを感じることだ。
この句は梅と表現されていますが、詠まれたのは冬の時期のため季語としては冬の「寒梅」になります。一輪だけの早咲きの梅を見て、寒い中にも春を思わせる花に暖かさを感じている句です。
【NO.16】向井去来
『 柿ぬしや 梢(こずえ)はちかき あらし山 』
季語:柿(秋)
意味:柿の持ち主よ。この木は風がとても強い嵐山の近くにあるから気をつけた方がよい。
この俳句は向井去来が営んだ「落柿舎」という庵の由来となった話に出てくる有名な俳句です。柿を買い取った商人が、収穫前に柿が落ちてしまったことに対して返金を求めてきたエピソードから「落柿舎」と名付けられました。
【NO.17】池西言水
『 木枯らしの 果てはありけり 海の音 』
季語:木枯らし(冬)
意味:木枯らしにも果てはあるのだ。海の音がごうごうと響き渡る。
作者はこの俳句で一躍有名となり、「木枯らしの言水」と呼ばれていました。地上で吹き荒れている木枯らしも、追いかけていくと海へとたどり着き、海の音にかき消されていく風景を詠んでいます。
【NO.18】山口素堂
『 目には青葉 山ほととぎす 初鰹 』
季語:青葉(夏)、ほととぎす(夏)、初鰹(夏)
意味:目に映るのは青葉、聞こえてくるのは山のホトトギスの声、初鰹がおいしい初夏の季節だ。
3つの季語を持つ初夏の季重なりの句としてとても有名な一句です。初夏の風物詩を視覚、聴覚、味覚の3つで余すことなく堪能する俳句になります。
【NO.19】上島鬼貫
『 行水の 捨てどころなし 虫の声 』
季語:虫の声(秋)
意味:行水をした水を捨てるところがないくらいあちらこちらで虫の声がしている。
「行水」は現在でもカラスの行水という言葉に残っているように、身体を水で洗い流すことを言います。その時に使った水を捨てようとしたところ、虫の声がどこからでも響いていて捨て場所に困っている様子を詠んだ句です。
【NO.20】河合曽良
『 卯の花を かざしに関の 晴着かな 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花を髪飾りにさして関所を越える晴れ着としましょう。
この句は『奥の細道』に同行した筆者が、福島県の白河の関所跡に差し掛かった時に詠んだ句です。白河の関所では正装して越えるべきだと平安時代の歌人も書き残すほど、歌枕として有名な場所でした。
以上、江戸時代に詠まれた有名俳句でした!
今回は、江戸時代に詠まれた有名俳句を20句ご紹介しました。
江戸時代の有名な俳句は誰もが教科書で習うような俳句が多くあります。
また、作風も簡易でわかりやすいものから古典を下地に詠まれるもの、漢文風のものなど多くの種類があるため、ぜひ読み比べてみてください。