五月雨(さみだれ)とは「旧暦の5月頃(現在の6月頃)に降る長雨=梅雨」のことを意味します。
今回は、「五月雨」に関するオススメ有名俳句を30句紹介していきます。
五月雨や桶の輪切るる夜の声(松尾芭蕉) #俳句 #夏 pic.twitter.com/HNhtpetLrI
— iTo (@itoudoor) June 28, 2015
目次
俳句の季語「五月雨」について
「五月雨(さみだれ・さつきあめ)」とは、旧暦5月(現代の6月から7月頃)に降る長雨のこと、つまり現代における「梅雨」を指します。
「五月雨」の語源には、田の神(さがみ)が下垂(したた)るという意味で、旧暦の5月にあたるため「五月雨」とされたなどの所説があります。
「梅雨」は時期を含めますが、「五月雨」は梅雨に降る雨そのもののことです。
五月雨は緑色って、歌にもありますが、梅雨時の雨に濡れる緑はほんとに美しく感じます。
本来なら五月雨は六月ですが、今年は入梅が早かったため緑も柔らかで、例年より鮮やかに感じます。#五月雨#梅雨#山 pic.twitter.com/VZq9yhJ0wI— 松浦 明人 (@aki923) May 17, 2021
五月雨を季語に使った有名俳句集【前編10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 五月雨を あつめて早し 最上川 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が集まり最上川へ流れ込んでいる。危険を感じるほど濁流となっていることだ。
「五月雨」の句といえば、この句を思い浮かべる方も多いでしょう。
最上川は、山形県内に流れる大河川で、日本三大急流のひとつ。他は、富士川と播磨川です。芭蕉は、実際に最上川の下りの船に乗り、急流を体験したことからこの句を詠いました。「最上川」という名詞を使い、体言止めになっています。
【NO.2】与謝蕪村
『 さみだれや 大河を前に 家二軒 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が降り続き、濁流となった大河がごうごうと流れている。その大河を前にして、家が寄り添うように二軒立っている。
この句を読むと、まるで絵を見ているように情景を思い浮かべることができます。
降り続いた雨により、大河となった川の流れの恐ろしさ。脇に建っている二軒の家に視線を当てることで、一層濁流の恐怖が際立つように感じられます。
【NO.3】向井去来
『 湖の 水まさりけり 五月雨 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨によって、湖の水が増し迫力を増していることだ。
【NO.4】大島蓼太
『 五月雨や ある夜ひそかに 松の月 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が降り続いているが、ある夜ふと夜空を見上げてみると、松の木に月がひっそりとかかっているのが見えた。
【NO.5】夏目成美
『 五月雨や 三日みつめし 黒茶碗 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨の中、三日の間黒茶碗を見つめたことだ。
【NO.6】園女
『 五月雨に 胡桃かたまる 山路かな 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨の中、胡桃の実が集まって実っている山の路でのことだ。
【NO.7】小林一茶
『 五月雨や 胸につかへる 秩父山 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が、秩父山を胸に迫るように感じさせられる。
【NO.8】村上鬼城
『 五月雨や 起き上がりたる 根無草 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:根がちぎれ枯れかけていた草が、梅雨の雨を浴びて再び根を出して起き上がってきたことだ。
【NO.9】正岡子規
『 五月雨や 上野の山も 見飽きたり 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:何日も続く五月雨の中で、上野の山も見飽きてしまった。
【NO.10】中村汀女
『 さみだれや 船がおくるる 電話など 』
季語:さみだれ(夏)
現代語訳:五月雨が降る中、入港が送れる知らせの電話がかかって来るなどしたことだ。
五月雨を季語に使った有名俳句集【中編10句】
【NO.11】夏目漱石
『 五月雨も 中休みかよ 今日は 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨も一休みしているのか、今日は。
【NO.12】鍵和田ゆう子
『 さみだれは つぶやきつづけ 焼き豆腐 』
季語:さみだれ(夏)
意味:五月雨は、焼き豆腐のようにつぶやき続けよ。
【NO.13】細谷不句
『 五月雨に 帆船を慕ふ 燕かな 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨の中、帆船を慕ってついていく燕が飛んでいることだ。
【NO.14】鶴田卓池
『 五月雨や 猫かりに来る 船の者 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨の中、船からの使いが猫を借りに来た。
【NO.15】杉木望一
『 五月雨の 晴れて犬なく 日和かな 』
季語:五月雨(夏)
意味:降り続いていた五月雨がやっと晴れた。その晴れ間に向かって犬が鳴いていることだ。
【NO.16】与謝蕪村
『 五月雨や 滄海を衝く 濁水 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨が長く降り続き、どろどろの濁り水となった川が、この青い海に注ぎ込んでいくことだ。
【NO.17】高桑蘭更
『 さみだれや 鼠の廻る 古屑籠 』
季語:さみだれ(夏)
意味:五月雨が長く続いている中、鼠が古いつづらの中を走り回っている。なんとも憂鬱だ。
【NO.18】松尾芭蕉
『 五月雨や 桶の輪切るる 夜の声 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨が降り続く中、桶の竹の輪が耐え切れずはじけ切れてしまった。そしてその後は夜の雨の音のみである。
【NO.19】阿波野青畝
『 さみだれの あまだればかり 浮御堂 』
季語:さみだれ(夏)
意味:五月雨の雨垂れの音ばかりがする、浮御堂でのことだ。
「浮御堂(うきみどう)」とは、滋賀県大津市、琵琶湖の上に建てられた仏堂のことです。湖の面に浮かんでいるように見えることから、浮御堂とよばれます。
浮御堂から雨垂れが湖に落ちていきます。その雨垂れの音に、浮御堂にいる作者が浸っている情景です。
【NO.20】晋子
『 五月雨や 傘に付たる 小人形 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨が降り続くので、五月人形の兜を雨傘に替えてあることだ。
五月雨を季語に使った有名俳句集【後編10句】
【NO.21】松尾芭蕉
『 五月雨を 降り残してや 光堂 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が降り残したような輝きの光堂だ。
「光堂」とは中尊寺金色堂のことです。金色の輝きは五月雨の最中でも負けず、まるでそこだけ雨が降り残したようだと称えています。
【NO.22】与謝蕪村
『 さみだれや 田ごとの闇と 成にけり 』
季語:さみだれ(夏)
現代語訳:五月雨が降っているなぁ。田毎の月ならぬ田毎の闇になってしまっている。
「田毎の月」とは棚田の水面一つ一つに月が浮かんでいる風景のことですが、ここでは「田ごとの闇」と表現しています。月のでない雨の晩なので、田んぼにも闇しか映っていないことを残念に思っている一句です。
【NO.23】炭太祇
『 目の覚める 時を朝なり 五月雨 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:目の覚める時を朝としよう、五月雨が降っている。
【NO.24】高浜虚子
『 五月雨の 夕雲早し 木曽の里 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨をもたらす夕方の雲が早く動いている木曽の里だ。
【NO.25】高浜虚子
『 五月雨や 魚とる人の 流るべう 』
季語:五月雨(夏)
現代語訳:五月雨が降っているなぁ。川が増水して魚を取っている人が流れてしまいそうだ。
【NO.26】原石鼎
『 五月雨の ひびきばかりや 古山家 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨の雨音の響きばかりが聞こえる古い山の中の家だ。
【NO.27】日野草城
『 濡れそぼつ 松の幽さ(かそけさ)よ 五月雨 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨で濡れてびしょびしょになった松が今にも消えそうなことだ。
【NO.28】高橋淡路女
『 五月雨の うたかたをみて 遊びけり 』
季語:五月雨(夏)
意味:五月雨のうたかたを見て遊んでいる。
【NO.29】久保田万太郎
『 さみだれや 澄みわたりたる 水の底 』
季語:さみだれ(夏)
意味:五月雨が降っている。雨で洗われたのか水の底が澄み渡っている。
【NO.30】大野林火
『 洋傘の 柄をつたふさみだれ 腕をつたふ 』
季語:さみだれ(夏)
意味:洋風の傘の柄をつたう五月雨が、そのまま腕にもつたってきた。
以上、五月雨に関する有名俳句集でした!
今回は「五月雨」に関する有名俳句を30句紹介しました。
「五月雨」は日本の梅雨を表現できる・風情ある言葉です。
作者によって「五月雨」の様々なとらえ方・表現方法があります。
「五月雨」の言葉で、読み手は梅雨の世界を思い描くことができるのです。
数々の俳人が詠んだ「五月雨」の美しさ・日本独特の感性の素晴らしさを、ぜひ味わってみてください。