【松本たかしの有名俳句 20選】昭和時代の俳人!!俳句の特徴や人物像・代表作など徹底解説!

 

俳句は五七五の十七音で構成される短い詩で、季節を表す季語を詠みこむことによって短い中にさまざまな情景を展開できます。

 

今回は、大正から昭和にかけて活躍した俳人「松本たかし」の有名俳句を20句紹介します。

 

 

俳句仙人
ぜひ参考にしてください。

 

松本たかしの人物像や作風

 

松本たかしは、1906年(明治39年)に現在の東京都千代田区猿楽町に生まれました。

 

一家は代々宝生流の能楽師で、弟の松本惠雄は人間国宝になったことでも有名です。

 

幼少期は能の稽古に励んでいましたが、14歳で肺尖カタルと診断され、療養生活に入りました。その際に高浜虚子に師事していた父が置いていった『ホトトギス』を読み、俳句に興味を持ち始めます。1923年に自身も高浜虚子に師事し、1926年には能楽師の道を諦めて俳人としての活動を開始します。

 

療養や疎開のために静岡、鎌倉、岩手などに転々と住居を移していましたが、戦後に再び上京し句作を続けます。俳句のほかに宝生流の師であった宝生九郎をモデルにした『初神鳴』を発表するなど、俳句以外の創作にも精力的に取り組みました。

 

しかし、1956年(昭和31年)に脳の病に倒れ、同年5月に亡くなっています。

 

 

松本たかしは生家が能楽師だったこともあり、「生来の芸術上の貴公子」と評されていました。

 

そのため、「たかし楽土」とも呼ばれる格調の高い典雅な俳句を得意としており、比喩が含まれる俳句が多いことでも知られています。

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また、松本たかしの俳句は能役者の一家出身であったことが影響しているのか、美しい自然を写生的に捉えているのが特徴です。

 

松本たかしの有名俳句・代表作【20選】

 

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「チチポポ」という擬音が面白い一句です。作者は病で能楽師の道を断念しましたが、個人的な楽しみとして舞っていたと言われています。

【NO.2】

『 水浅し 影もとどめず 山葵(わさび)生ふ 』

季語:山葵(春)

意味:浅い清流に、緑で影もとどめないくらいワサビが生えている。

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ワサビが生えているのは水のきれいな清流です。冬の緑が少ない清流沿いが春になって緑豊かになり、ワサビも青々としている様子を詠んでいます。

【NO.3】

『 濃山吹(こやまぶき) 墨をすりつつ 流し目に 』

季語:山吹(春)

意味:八重に咲くように濃く山吹の花が咲いている。墨をすりながら流し目にそれを見ている。

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真っ黒な墨と黄色い山吹が美しい一句です。墨をすることが作者にとって特別ではないことが、流し目で花を眺めながら行っていることからわかります。

【NO.4】

『 春月の 病めるが如く 黄なるかな 』

季語:春月(春)

意味:春の月が、まるでどこか病気のように黄色に見えているなぁ。

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月は上がる位置や季節、その日の天気によって色を変えるため、白のほかに赤や黄色に見えることがあります。そんな中で、黄色く見えている月を「病めるが如く」と表現したのは作者自身の病気に例えたのでしょう。

【NO.5】

『 大空に 唸れる虻(あぶ)を 探しけり 』

季語:虻(春)

意味:大空のどこかでぶんぶんと唸っている虻を探していた。

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どこかでアブが飛んでいる音がするのに、広がるのは大空で姿を見つけることができないとキョロキョロしている句です。広い空の中から1匹の虫を見つけるのは難しく、それだけに大空に吸い込まれそうな様子を表しています。

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火の粉を金粉に例えて、明かりに集まる蛾が焼かれそうなほどの距離で飛び回っている姿を「すさまじき」と称しています。炎に焼かれながらも美しく飛び回る蛾たちの生命力を賛美する句です。

【NO.7】

『 羅(うすもの)を ゆるやかに着て 崩れざる 』

季語:羅(夏)

意味:薄絹で作られた単衣をゆるやかに着ているように見えるのに、姿勢が崩れていない人がいる。

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「羅」とは薄い絹で作られた夏の着物です。暑い中でも身を崩さないでいる矜恃を詠んでいますが、同時に自身の句作への決意表明と取ることもできます。

【NO.8】

『 色町に かくれ住みつつ 菖蒲葺(あやめふ)く 』

季語:菖蒲葺く(夏)

意味:色町に隠れ住んでいる身だが、せめてもの風流として菖蒲を生けよう。

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「色町」とは夜に賑わう町のことです。何かの事情があって隠れるように夜の街に住んでいる人が、それまでの生活を忘れないように菖蒲を生ける風習を続けています。

【NO.9】

『 これよりの 百日草の 花一つ 』

季語:百日草(夏)

意味:これからは百日草が咲く暑い夏が来るのだと、花をひとつ見て思ったことだ。

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「百日草」とは初夏から秋にかけて咲く花で、オレンジや赤、ピンクなど発色の良い花を咲かせます。美しい花からは夏に負けない生命力を感じますが、逆にこれから来る夏の暑さを思い浮かべて辟易している面白い句です。

【NO.10】

『 洗髪乾きて 月見草ひらく 』

季語:月見草(夏)

意味:洗った髪が乾いたら、月見草の花が開くところを見かけた。

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「月見草」は夕方に花を開く植物です。作者がお風呂上がりに髪を乾かしていたらちょうど月見草が咲く場面に遭遇した風景ですが、夕方の涼しい風に揺られる髪や花が思い浮かびます。

 

【NO.11】

『 月光の 走れる杖を はこびけり 』

季語:月(秋)

意味:月光が走っているような夜に杖を運んでいる。

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作者は病気のため、常に杖を持ち歩いていたと言われています。走る月光と杖を運ばなければならない自身を対比しているようにも見えますが、美しい月夜の散歩を楽しんでいるようにも見える句です。

【NO.12】

『 渋柿の 滅法生りし 愚さよ 』

季語:柿(秋)

意味:渋柿が滅法生っている愚かさだ。

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渋柿は処理をすればおいしく食べられますが、もいですぐ食べることはでかません。そんな渋柿が「滅法」と表現されるほど実ってしまったことにがっくりきている様子が見えるようです。

【NO.13】

『 ひたと閉づ 玻璃戸(はりど)の外の 風の菊 』

季語:菊(秋)

意味:ひたと閉めているガラス戸の外に、風に揺られる菊の花が見える。

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菊の花は種類によりますが、大きく重い花なのであまり揺れません。そんな菊が揺れているほどの強風はガラス戸によって遮られた屋内までは届かず、ぼんやりと風に揺れる菊を眺めています。

【NO.14】

『 うつし世の 月を真上の 踊かな 』

季語:踊(秋)

意味:現世の月を真上に頂く盆踊りであることだ。

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「うつき世」はこの世、「踊」は盆踊りを表します。この句は先祖の供養のために盆踊りをしている人達という地上と、その盆踊りを月という天上からの視点で眺めているご先祖さまの2つを表しているという解釈がある句です。

【NO.15】

『 鎌倉の 夏も過ぎけり 天の川 』

季語:天の川(秋)

意味:鎌倉の夏も過ぎていった。美しい天の川が見える。

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作者は病気の療養のために鎌倉に滞在したことがありました。天の川が美しく見えたことで、暑かった夏がすぎて段々と涼しくなっていくことを期待しています。

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障子が主な建具であった時代は、新年をむかえる前に障子を新しくはりかえていました。はりかえられて真っ白になった障子にさす光を見ながら、春の訪れを待っている様子を詠んだ句です。

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焚き火の明かりを眺めているとつい時間を忘れてしまうことがあります。気がついたらとっぷりと日が暮れていて、焚き火の光がより一層際立っている様子が目に見えるようです。

【NO.18】

『 雪だるま 星のおしゃべり ぺちゃくちゃと 』

季語:雪だるま(冬)

意味:雪だるまが、ちかちかと瞬く星がぺちゃくちゃとおしゃべりをしているのを聞いている。

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星の瞬きをおしゃべりと例え、夜中にじっと佇む雪だるまが聞き入っているように感じるというユーモアのある一句です。昼間は自身を作った子供たちのおしゃべりを聞いていただろう雪だるまが、夜は星のおしゃべりを聞いています。

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作者は比喩をよく使い、「如き俳句」とも言われています。この句でも貴重な小春日和を、貴重な玉に例えて天からの授かりものであると詠んでいる句です。

【NO.20】

『 夢に舞ふ 能美しや 冬籠(ふゆごもり) 』

季語:冬籠(冬)

意味:夢の中で舞っていた能のなんと美しいことか。目覚めたら冬ごもりの部屋の中であった。

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作者は肺尖カタルを患ったことにより能楽師の道を閉ざされています。個人的な楽しみのために舞うことはあれど舞台に立つことは叶わず、夢の中の理想と現実である「冬籠」が美しくも残酷な対比になっている一句です。

以上、松本たかしの有名俳句20選でした!

 

 

俳句仙人

今回は、松本たかしの作風や人物像、有名俳句を20句ご紹介しました。
松本たかしの俳句は能役者の一家出身であったことが影響しているのか、美しい自然を写生的に捉えているのが特徴です。
大正から昭和にかけての俳句は多くの作風がありますので、ぜひ読み比べてみてください。