俳句は五七五の十七音で構成される詩で、江戸時代に成立しました。
十七音の中に四季を表す季語を詠むことでさまざまな情景や心情を表します。
今回は、「孤独」な気持ちになる・孤独に関連する有名俳句を36句紹介していきます。
今こそ種田山頭火 悲しみと寂しさを抱え、さまよい続けた俳人。その弱きは現代人の孤独を支える。 泥沼の日々を放浪 惑い詠む 弱さをさらけ出せる「強さ」 (『朝日新聞』)http://t.co/gW6V5nulh6 pic.twitter.com/i2s9304iIa
— 黙翁 (@TsukadaSatoshi) September 29, 2015
目次
孤独な気持ちを詠んだ有名俳句【前編10句】
【NO.1】種田山頭火
『 まっすぐな道で さびしい 』
季語:無季
意味:まっすぐ延びる道を歩いていると寂しくなる。
作者は無季自由律俳句の名手で、この句に限らず季語のない俳句が多いです。まっすぐ延びる道をただ歩いていくしかない、どうしようもない寂しさを詠んだ句になっています。
【NO.2】加藤秋邨
『 柚子の香に 追ひぬかれたる 孤独かな 』
季語:柚子(秋)
意味:ふわりと漂ってくる柚子の香りに追い抜かれていく孤独さであることだ。
柚子の実がなっていたのか、どこかで調理していたのか、ふと漂ってきた香りに季節を感じています。1人で歩いているときに感じたその香りに、どこか寂しさを見出している句です。
【NO.3】種田山頭火
『 ついてくる 犬よおまへも 宿なしか 』
季語:無季
意味:私の後ろをついてくる犬よ、お前も私と同じく宿がないのか。
現在は野犬の姿を見ることは少なくなりましたが、作者の時代にはまだ生息していました。托鉢の当てのない旅を続ける自分についてくる犬も、同じように帰るところがないのだろうかという1人と1頭の寂しい道行きを詠んでいます。
【NO.4】鈴木真砂女
『 白桃を 剥けば夜が来て 孤独が来 』
季語:白桃(秋)
意味:白桃を剥けば夜が来て孤独が来る。
白桃と夜と孤独という一見関連性のないものを並べている句です。白桃を夜に食べる習慣があったのか、夜中の孤独が桃の白さで浮かび上がっている感覚がします。
【NO.5】佐藤鬼房
『 飴舐めて 孤独擬(もどき)や 十三夜 』
季語:十三夜(秋)
意味:飴を舐めて、孤独のような状態になる十三夜の月夜だ。
この句は作者が胃を切除する大病を患った後に詠まれた句です。生死に関する句が多くなる中で、「孤独もどき」とどこかおどけたような表現を使っているところが面白い一句です。
【NO.6】種田山頭火
『 焼き捨てて 日記の灰の これだけか 』
季語:無季
意味:今までの日記を旅に出るために焼き捨てたが、残った灰はたったこれだけなのか。
「灰」は冬の季語ですが、この句が詠まれたのは作者が旅に出る前の9月のことのため、無季としました。今までの積み重ねである日記も、焼いてしまえばわずかな灰しか残らない物悲しさを詠んでいます。
【NO.7】日野草城
『 朔風の 天に円月の 大孤独 』
季語:朔風(冬)
意味:北風が吹く天には丸い満月が輝き、孤独に見える。
「朔風(さくふう)」とは北風のことで、冬の季語です。北風が吹く中で夜空にぽつんと輝く満月を見て、大きな孤独感を感じている一句です。
【NO.8】西東三鬼
『 雑炊や 猫に孤独と いふものなし 』
季語:雑炊(冬)
意味:雑炊を食べよう。猫には孤独という感情がないかのように思える。
自由に振る舞う猫とともに朝食を食べている光景が浮かんでくる句です。猫は1匹で行動していても、孤独など感じていないように振る舞う自由さがあります。
【NO.9】桂信子
『 春灯のもと 愕然と孤独なる 』
季語:春灯(春)
意味:春の夜の明かりの下で、孤独であることを感じて愕然となる。
春は夜桜見物などで夜でも明かりが付いていることがあります。そんな明るい雰囲気の中で、自分が孤独であると気がついて愕然と立ち尽くしている様子が「孤独なる」という最後の句から感じ取れます。
【NO.10】高浜虚子
『 冬ざれや 石に腰かけ 我孤独 』
季語:冬ざれ(冬)
意味:冬になり草木が枯れるようになったなぁ。石に腰かけて自分が孤独であることを実感する。
「冬ざれ」とは、冬になって草木が枯れる状態のことです。庭などの草木の生えていた場所の石に腰掛けて、1人で冬ざれの様子を見る寂しさが伝わってきます。
孤独な気持ちを詠んだ有名俳句【中編10句】
【NO.11】種田山頭火
『 どうしようもないわたしが 歩いている 』
季語:無季
意味:もはやどうしようもない私がただ歩いている。
作者は家族や人間関係、仕事など多くのことに不幸が続いていました。救いを仏道に求め、托鉢を行いながら放浪の旅に出ています。ただ歩くことしかできない我が身の孤独がシンプルな言葉遣いから滲み出ている句です。
【NO.12】稲畑汀子
『 手入れよき 庭が鈴蘭 孤独にす 』
季語:鈴蘭(夏)
意味:手入れが行き届いている庭が鈴蘭を孤独にしている。
手入れが行き届いている庭は、どこにどのような草木が見えるか計算してはいちされています。この鈴蘭は孤独と表現されていることから、たった1輪だけ咲いていたのでしょう。
【NO.13】柴田白葉女
『 したたかに水打ち 孤独なる夕 』
季語:水打ち(夏)
意味:したたかに打ち水をする、孤独を感じる夕方だ。
【NO.14】高橋淡路女
『 永き日の ことに孤独を 愛しけり 』
季語:永き日(春)
意味:春の日が長くなり始めた日の、ことさら孤独を愛している。
麗らかな春の陽気に包まれていますが、作者は孤独を感じています。しかし、その孤独はとても愛すべきものであるとも詠んでいるため、一人の時間を堪能しているようです。
【NO.15】種田山頭火
『 うしろすがたの しぐれてゆくのか 』
季語:無季
意味:私の後ろ姿が時雨のような静かな雨の中を歩いていく。
「しぐれ」は冬の季語ですが、時雨という現象そのものではなく作者の心象を詠んだものとして、無季の俳句とする説が多いです。時雨はしとしとと降り続く冬の冷たい雨で、その中を歩いていく自分を客観視しています。
【NO.16】吉岡禅寺洞
『 白菜の孤独 太陽を見送つている 』
季語:白菜(冬)
意味:白菜が収穫されない孤独。太陽を見上げるようにして東から西へ見送っている。
白菜は畑に直接植えられる野菜であるため、果物などのように地に落ちることができません。そのため、その場から動けない状態を「孤独」と評したのでしょう。
【NO.17】中村草田男
『 涼風は 四通八達 孤独の眼 』
季語:涼風(夏)
意味:涼しい風は往来のにぎやかな通りの中でまるで孤独な人のような眼をしている。
「四通八達(しつうはったつ)」とは、道路が四方八方に通っていること、転じて往来のにぎやかな通りのことです。にぎやかな中を吹く涼しい風を、通りを1人で歩いているように擬人化をして詠んでいます。
【NO.18】三橋鷹女
『 カンナ散り 孤独の日々を 愉しめり 』
季語:カンナ(秋)
意味:カンナの花が散り、孤独な日々を楽しめるようになった。
カンナは夏から初冬にかけて赤や黄色の鮮やかな花を咲かせます。そんな鮮やかなカンナの花が散ってしまったけれど、一人の日々を楽しめるのだという気概を感じさせる句です。
【NO.19】種田山頭火
『 生死(しょうじ)の中の 雪ふりしきる 』
季語:無季
意味:生と死という人生の中で、一人倒れこもうとも道には雪が降り積もる。
旅の途中で雪の中に倒れた際の一句です。実際に雪の中の出来事のため雪を季語にする場合もありますが、この句は仏教的な側面が強い句のため無季としました。「生死」とは輪廻転生を意味し、悩み苦しむ人生は雪が降りしきる道のようなものだという意味で詠まれています。
【NO.20】渡邊白泉
『 トンネルの 口や孤独の 曼珠沙華 』
季語:曼珠沙華(秋)
意味:トンネルの入口にぽつんと孤独に咲く曼珠沙華がある。
トンネルは灰色や黒っぽい色をしていることが多く、その入口に咲いている赤い曼珠沙華はさぞ目立ったことでしょう。1輪だけ咲いている様子に孤独感を覚えています。
孤独な気持ちを詠んだ有名俳句【後編10句】
【NO.21】種田山頭火
『 今日よりや 書付消さん 笠の露 』
季語:露(秋)
意味:今日からは書付を消さないといけない、この笠にたまった露で。
この句は『おくのほそ道』の旅の途中で同行者の曾良が病に倒れたため、1人で旅を続けたときの一句です。笠には「同行二人」と二人旅であることを示す書付をしていましたが、今はもう一人なのだから消さなければいけないという寂しさを詠んでいます。
【NO.22】松尾芭蕉
『 この道や 行く人なしに 秋の暮れ 』
季語:秋の暮れ(秋)
意味:この道を行く人がいない秋の暮れだ。
この句は作者の晩年に詠まれた句です。「この道」とは芭蕉の俳諧の道の例えとされていて、誰1人自分に並ぶ俳人が現れなかったことへの孤独を詠んだ句と言われています。
【NO.23】小林一茶
『 露の世は 露の世ながら さりながら 』
季語:露(秋)
意味:この世は露のように儚い世とわかっていたが、それでもなんと理不尽なことだ。
この句は作者が幼い子供を亡くしたときに詠んだ一句です。「露の世」を繰り返すことで、儚い命が生きる世であることがわかっていても納得できない悲しみと寂しさが感じ取れます。
【NO.24】村上鬼城
『 冬蜂の 死にどころなく 歩きけり 』
季語:冬蜂(冬)
意味:冬蜂が死にどころを失ったまま歩いている。
蜂は冬には活動を停止します。しかし、この句に詠まれた蜂は死なずに衰弱したままよろよろと歩いていたのでしょう。群れを見失い、ただ1匹で歩くことしか出来ない蜂に孤独を見出している一句です。
【NO.25】久保田万太郎
『 湯豆腐や いのちのはての うすあかり 』
季語:湯豆腐(冬)
意味:湯豆腐が湯気を立てている。命の果ての薄明かりとはこのようなものなのだろうか。
この句は作者が晩年に詠んだ一句です。湯豆腐から立ち上る湯気に、命の果てに見る薄明かりはこんなものなのだろうかと考えています。人生の終わりを、湯豆腐をじっと眺めながら考えている孤独を感じさせる句です。
【NO.26】三橋敏雄
『 戦歿(せんぼつ)の 友のみ若し 霜柱 』
季語:霜柱(冬)
意味:戦没した友人達だけが若い姿のままだ。霜柱が立っている。
若くして戦没した友人を追悼している一句です。亡くなった友人たちは最後に会った時から歳を取らないため、自分たちだけが老いていき彼らだけが若い、という悲しみと寂しさを霜柱に託しています。
【NO.27】河東碧梧桐
『 一軒家も過ぎ 落葉する風のままに行く 』
季語:無季
意味:一軒家も過ぎて、葉を落とす風が吹くままに進んでいく。
この句は「落葉」が季語になる言葉ですが、一般的な意味として使われているため無季俳句と扱われることが多いです。集落の端にある一軒家も過ぎて、風の吹くままあてもなく一人歩く作者の孤独を詠んでいます。
【NO.28】石原八束
『 あたたかし 背後はいつも 孤独にて 』
季語:あたたかし(春)
意味:あたたかい背後はいつも孤独なのだ。
太陽に当たっている場所は暖かいけれど、日の光が当たっていない背後は孤独であるという面白い発想の一句です。暖かい表と孤独な裏を対比させることで、知人などと会った時の嬉しさと別れの寂しさのように、さまざまなシチュエーションを想定させることもできます。
【NO.29】中村草田男
『 黴る(かびる)日々 不安を孤独と 詐称して 』
季語:黴(夏)
意味:古くなっていく日々への不安を孤独であると詐称して乗り切っている。
「黴る」とは「古くなっていく」という意味も持ちます。過ぎ去っていく日々と自分が古い人間になっていく「不安」を、「孤独である」と誤魔化して生きているのだと自重している一句です。
【NO.30】桂信子
『 散るさくら 孤独はいまに はじまらず 』
季語:散るさくら/落花(春)
意味:桜が散っていく。孤独は今に始まったことではないのだ。
桜が散っていく様子に寂しさを感じるも、今に始まったことではないと自分に言い聞かせている一句です。この句を詠む前に作者に何があったのかとても気になります。自分を奮い立たせているようにも感じる表現です。
孤独な気持ちを詠んだ有名俳句【おまけ6句】
【NO.31】山口誓子
『 一日一日 鰥寡(かんか)孤独の 秋深む 』
季語:秋深む(秋)
意味:一日一日、妻を失った孤独の秋が深まっていく。
作者は1985年に長年連れ添い、看病してくれていた妻を亡くしています。この句は亡くなった妻を悼み、秋が深まっていく様子に寂しさを募らせている句です。
【NO.32】細見綾子
『 孤独なれば 浮草浮くを 見にいづる 』
季語:浮草(夏)
意味:孤独なので、浮草が浮いているのを見に外出しよう。
浮草がぽつんと浮いている様子を自分の孤独と重ね合わせた句です。浮草は夏の季語なので、暑い中に一人散歩に出かけようとしている様子が伺えます。
【NO.33】及川貞
『 孤独かと 問はる湯治の 甲斐の春 』
季語:春(春)
意味:孤独かと問われる湯治中の甲斐の春だ。
山梨県の温泉に1人で湯治に来ているときの句です。同じ湯治客からの「一人で湯治に来たのか」という問いを、孤独を思う俳句に昇華させています。
【NO.34】久保田万太郎
『 煮大根を 煮かへす孤独 地獄なれ 』
季語:煮大根(冬)
意味:煮大根を一人で煮返す孤独は地獄のようだ。
作者は一人息子や妻に先立たれています。1人で料理を作っていると、孤独を感じて地獄のようだと感じているのを、煮大根という時間のかかる煮物で表現した句です。
【NO.35】加藤秋邨
『 すさまじき 孤独や象の 花吹雪 』
季語:花吹雪(春)
意味:すさまじい孤独を感じるなぁ、象に花吹雪が降り注いでる。
象とあることから、桜の季節の動物園を詠んだ句でしょう。周りは花見客も多かった中で、一頭だけ佇む象と美しい花吹雪が対比されています。
【NO.36】大野林火
『 汗の孤独 九十九里浜に 歩み出で 』
季語:汗(夏)
意味:1人で汗をかく孤独だ。九十九里浜で散歩をしている。
九十九里浜という観光地にきて、誰かと遊ぶのではなく1人で汗をかきながら歩いている様子を詠んでいます。どことなく夕暮れの海を連想させる一句です。
以上、孤独に関するおすすめ有名俳句集でした!
今回は、孤独に関する有名な俳句を36句紹介しました。
孤独という言葉の印象から葉が散り寒くなる秋から冬にかけての句が多い一方で、賑わいを見せる春や夏に孤独を実感する句もあり、作者の心情がよく表れています。
孤独に限らず、その時感じた気持ちを即興で詠んでみてください。