「木枯らし」は、冬の初めに吹く強い風を表す言葉で「木枯」「凩」とも書きます。
現在でも「木枯らし1号が吹きました」というように冬の初めの風物詩として扱われていますね。
下記の俳句のように「木枯らし」という言葉は、江戸時代から多くの俳人に題材にされてきました。
木枯に 岩吹きとがる 杉間かな(松尾芭蕉) #俳句 pic.twitter.com/DVHvnHK9JI
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凩(こがらし)や 妙義が岳に うすづく日(村上鬼城) #俳句 pic.twitter.com/7lAoiguKXk
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今回は「木枯らし(凩)」に関する有名俳句を30句紹介していきます。
木枯らし(凩)に関する有名俳句【前編10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 木枯や 竹に隠れて しづまりぬ 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。竹林では風が遮られてとても静かだ。
竹林は竹が密集して生えるため、強風が吹き付けても竹林の中までは強い風を保てません。外の風の音に比べて葉がこすれる微かな音だけが響く竹林は、静かな環境を好む人にはうってつけでしょう。
【NO.2】松尾芭蕉
『 京にあきて この木枯や 冬住ひ 』
季語:木枯(冬)
意味:京都に何年か住んで飽きたので、木枯らしの吹く田舎へと戻る最中だ。冬の寒さの厳しい住まいも味わいがある。
芭蕉が2年ほど住んだ京都から古巣の江戸へ帰る途中に、愛知県で世話になった門人へ挨拶として詠んだ句です。その前提がないと少しわかりにくい句ですが、木枯らしの吹きすさぶ侘しい住まいと京都の華やかな都を対比しています。
【NO.3】与謝蕪村
『 木枯や 鐘に小石を 吹きあてる 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。鐘に風で巻き上げられた小石が吹き当てられて音が鳴っている。
小石とはいえ石が吹き上げられて鐘に当たるほどの強い風だということがわかる表現です。鐘撞きほどの音は鳴っていないでしょうが、普段はしない音がしていることが想像できます。
【NO.4】与謝蕪村
『 凩や 広野にどうと 吹起る 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。広い野原にどうと音を立てて吹き、土の煙が起きている。
「どうと」という擬音が面白い表現になっています。童話に出てきそうな擬音を伴うことで、強い風が何もない広い野原を吹き荒れていることが実感できる句です。
【NO.5】小林一茶
『 こがらしや しのぎをけずる 夜の声 』
季語:こがらし(冬)
意味:木枯らしが吹いている。夜の音がまるでしのぎを削るようにさまざまな音を立てている。
木枯らしは強風のため、風の音の他になにかが転がる音や木の葉が揺れる音などさまざまな音を立てます。さまざまな音が鳴っていることを「しのぎをけずる」とまるで競い合っているように表すところに、一茶らしさが表れている表現です。
【NO.6】小林一茶
『 木がらしや こんにゃく桶の 星月夜 』
季語:木がらし(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。コンニャクを作る桶の中に星月夜が写りこんでいる。
木枯らしが吹いている日は、上空の雲も早く流れていくため晴天であることが多いです。星月夜とは月が出ていなくても星あかりだけで明るい夜のことで、コンニャク桶に張った水に写った夜空が絵画のように見えたという美しい表現になっています。
【NO.7】池西言水
『 木枯しの 果てはありけり 海の音 』
季語:木枯し(冬)
意味:木枯らしが吹く場所の果てはここにあったのだ。海の音がする。
【NO.8】服部嵐雪
『 木がらしの 吹き行くうしろ 姿かな 』
季語:木がらし(冬)
意味:木枯らしが吹く中で旅立っていく師匠の後ろ姿であることだ。
この句は作者の師匠である松尾芭蕉が旅立つときに詠まれた句です。このときの芭蕉は「旅人と 我が名よばれん 初しぐれ」と詠んでいるため、時雨と対比させて木枯らしを詠み込んだのでしょう。
【NO.9】正岡子規
『 凩や 松葉吹き散る 能舞台 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。松の葉も吹き散って能の舞台に吹き込んでいる。
松は広葉樹と違って一斉に紅葉して葉が落ちるのではなく、季節を通して少しずつ葉を入れ替えます。しかしこの句では、落ちないはずの松の葉も散らせるほどの強い風が屋外の能舞台に吹き込んでいるという、風の強さを強調する効果です。
【NO.10】正岡子規
『 凩に 大提灯の 静かさよ 』
季語:凩(冬)
意味:この木枯らしに、いつもは賑やかな浅草の大提灯も静かなものだよ。
この句は浅草に行ったときに詠まれた句のため、ここで詠まれる大提灯とは浅草の雷門の大提灯です。大提灯は強風など自然災害が予想されるときは畳まれるため、作者が見た大提灯は畳まれていたのかもしれません。
木枯らし(凩)に関する有名俳句【中編10句】
【NO.11】高浜虚子
『 木枯に 浅間の煙 吹き散るか 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いていて、浅間山から上がる煙も吹き散るだろうか。
浅間山は群馬県と長野県の県境に位置する活火山で、現在も噴煙を上げるなど活発に活動をしています。木枯らしの強い風で、噴煙も吹き飛ばされてくれないだろうかという願望を込めた句です。
【NO.12】夏目漱石
『 凩や 弦のきれたる 弓のそり 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。練習中に弦が切れてしまった弓の反り方よ。
作者は大学院時代まで熱心に弓道を修めていました。友人宛てに「朝夕両度に百本位は毎日稽古致居候」と書くほどに熱心だった作者には、弓を詠んだ句が多くあります。実際に木枯らしが吹いている日に練習をしようとして、弦が切れてしまったときのことを詠んだ句です。
【NO.13】山口誓子
『 海に出て 木枯帰る ところなし 』
季語:木枯(冬)
意味:風が吹き続けて海に出たが、この先は海しかなく木枯らしは帰るところがないのだ。
【NO.14】芥川龍之介
『 凩の うみ吹きなげる たまゆらや 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが海の水を吹き上げて遠くに投げている。一瞬のことだなぁ。
「たまゆら」とは石の玉と玉がこすれ合うことを言い、転じてかすかな音やほんの少しの間、一瞬という意味になります。海水が風に吹き上げられて、一瞬のうちに投げられてしまう荒天の俳句です。
【NO.15】種田山頭火
『 凩のラヂオ をりをりきこえる 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いている夜のラジオは、途切れ途切れに聞こえる。
十六音の字足らずの破調の句です。ネットラジオではあまり天候によって聞こえ方が左右されることは少なくなりましたが、当時のラジオは荒天によって聞こえにくくなることがありました。淡々とした言葉選びが、冬の季節の厳しさを表しているようです。
【NO.16】星野立子
『 木枯や 月いただきて 人急ぐ 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いている。夜空が月をいただくようにして、人は夜道を急いでいる。
木枯らしが吹く寒い夜空に、月が煌々と照っています。寒さと風に追い立てられるように、帰路を急ぐ人々が早足で歩き去っていく風景です。
【NO.17】西東三鬼
『 木枯の 一夜明けたる 道白し 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いて一夜明けた道は、すっかり雪で白くなってしまった。
季節の変わり目として木枯らしを詠んだ句です。それまでの紅葉などが落ちていた秋の道から、一晩で雪で白くなる冬の道に変わってしまうという劇的な変化が目に見えてくるようです。
【NO.18】梶井基次郎
『 凩や 何処(いずこ)ガラスの 割るる音 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。どこかのガラスが割れたような音がする。
作者が活躍したのは主に大正時代で、今のように耐久性があるガラスではありませんでした。木枯らしが吹いて小石が飛んできたのか、見えないところの物音のためいろいろと想像できる句です。
【NO.19】原石鼎
『 木枯や 林の底の 水に月 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いている。林にある水底に月がうつっている。
「底の水」とだけあるため、池なのか水たまりなのか詠んだ人の解釈によってわかれる俳句です。また、木枯らしが吹くほどの強風にも関わらず水面に月がうつるほどさざ波も立っていないため、幻想的な雰囲気を漂わせています。
【NO.20】野村喜舟
『 凩や 蔀(しとみ)下ろして 山河断つ 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いてきたようだ。蔀を下ろして、風ごと山河が見える風景も断とう。
蔀(しとみ)とは、寺社でよく見られる、格子状の風雨を避けるための雨戸のようなものです。平安時代から記録に残っている古い建築様式のため、作者が滞在しているのは寺社かそれに準ずる古い建築だと思われます。「山河」と大げさに聞こえる言い回しも、風光明媚な場所に建てられた寺社からの風景ならば納得です。
木枯らし(凩)に関する有名俳句【後編10句】
【NO.21】芥川龍之介
『 木枯らしや 目刺にのこる 海の色 』
季語:木枯らし(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。目刺しには海の色が残っている。
「木枯らしの 果てはありけり 海の音」という俳句を下敷きにしています。木枯らしの行き着く果てだという海の名残を目刺しに感じている面白い一句です。
【NO.22】夏目漱石
『 凩や 海に夕日を 吹き落とす 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。まるで海に夕日を突き落とすような強風だ。
海に沈んでいく夕日が、木枯らしの強い風によって落とされていくようだと詠んで居る面白い俳句です。冬は日が短いので余計に風に吹かれて落とされたように見えるのかもしれません。
【NO.23】杉山杉風
『 凩に 何やら一羽 寒げなり 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしに何やら1羽の鳥が寒そうにしている。
木枯らしの風をうけて寒そうに震えている鳥がいた、と詠んでいる一句です。秋に帰り損ねた鳥なのか、単純に強風に揺れていただけなのから想像が膨らみます。
【NO.24】与謝蕪村
『 凩や この頃までは 荻(おぎ)の風 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いている。この頃までは秋の到来を告げる荻の風に似ている。
萩(はぎ)ではなくススキに似た荻(おぎ)を詠んだ句です。木枯らしが吹き始めていますが、まだ陽気は秋であることを詠んでいます。
【NO.25】正岡子規
『 凩や 迷ひ子探す 鉦の音 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いている中で、迷子を探すために鉦の音を打ち鳴らす。
かつては迷子の子供を探す時には名前を呼ぶ他に金属製の鉦を打ち鳴らしていました。木枯らしもものともせずに子供を探している人達の様子が浮かんできます。
【NO.26】橋本多佳子
『 木枯の 絶間薪割る 音起る 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが止んだ絶え間に薪を割ると、大きな音が起こる。
薪割りをする冬の一コマを詠んだ句です。木枯らしも大きな音を立てていたのか、「絶間」を狙って割ったのに結局大きな音がしていると詠んでいます。
【NO.27】加藤楸邨
『 凩や 焦土の金庫 吹き鳴らす 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹き付けている。焦土の金庫に当たって音が鳴っている。
【NO.28】森鴎外
『 木枯や ひろ野を走る 雲のかげ 』
季語:木枯(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。広い野原を走る雲の影が見える。
強風である木枯らしに乗って動いている雲が野原に影を落としています。強風に乗っているため雲の影もまた「走る」と表現されている面白い句です。
【NO.29】河東碧梧桐
『 凩や 皆くねりたる 磯の松 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いている。みんな幹がくねっている磯の松だ。
海辺にはよく松林を見かけます。自然に形成されることもあれば、防風林として人工的に植えられたものもあるのが特徴です。この句では、海風と木枯らしの両方に晒されている松を詠んでいます。
【NO.30】野村喜舟
『 凩や 崖下はよき 日向ぼこ 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹いているなぁ。崖の下は良い日なたぼっこの場所だ。
木枯らしを遮ることのできる崖の下にいるのでしょう。日当たりもよく風も届かないので、今にもうとうととねむりだしてしまいそうな一句です。
以上、木枯らし(凩)に関する有名俳句集でした!
今回は、木枯らし(凩)に関する有名俳句を30句紹介しました。
風という音を立てたり物を動かしたりする現象について詠むもの、木枯らしが吹いているときの感情を詠むものなど、木枯らしは多くの意味を託される季語です。
木枯らしのような強風が吹いた時には、ぜひ一句詠んでみてください。