
「朧月」は、雲に霞んだ月を表す春の季語です。
冬の夜空に輝く冴えた月の光から、春のあたたかい夜にぼんやりと霞む月が季節の変化を感じさせます。
くもりたる古鏡の如し朧月(高浜虚子) #俳句 pic.twitter.com/zr1nNRXNqQ
— iTo (@itoudoor) May 21, 2016
今回は、そんな朧月を使ったおすすめ俳句を20句ご紹介していきます。
「朧月」の季語を使った有名俳句【10選】
【NO.1】 松尾芭蕉
『 花の顔に 晴れうてしてや 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:今が盛りの桜の花に気後れしたのか、月は朧に姿を隠していることだ。
「晴れうて」とは晴れ晴れしいことに気後れする意味で、晴れた夜空の月と掛詞になっています。桜に気後れして空はくもって月が霞んでいるのだろうという意味です。
【NO.2】与謝蕪村
『 さしぬきを 足でぬぐ夜や 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:指貫を足だけで乱暴に脱ぐ夜であることだ。この朧月の夜は。
指貫とは主に公家が着用した袴のことで、若き公家の貴公子を詠んだものとされています。足だけで脱ぐという乱暴さは仕事帰りなのか、艶めいた場面なのか意見が分かれていますが、それすらも朧月に隠しているのかもしれません。
【NO.3】坂本朱拙
『 江戸留守の 枕刀や おぼろ月 』
季語:おぼろ月(春)
意味:主人が江戸に行ったため留守にしているが、心細くて枕元に刀を置いていることよ。この春の朧月の夜は。
【NO.4】向井去来
『 手をはなつ 中に落ちけり おぼろ月 』
季語:おぼろ月(春)
意味:二人がつないでいた手を離した、ちょうどその真ん中に落ちていったことだ。この朧月が。
二人の別れのシーンの句です。手が離れたその空間にちょうど丸い朧月が落ちていく、別れの辛さを歌った句になります。
【NO.5】内藤丈草
『 大原や 蝶の出て舞ふ 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:京都の大原だ。蝶が飛んで舞っている朧月の夜であることよ。
京都の大原は典型的な山里です。気温が暖かくなり、薄曇りで月が朧になる夜に蝶が誘われるように出てきて舞っている、幻想的な光景を詠んでいます。
【NO.6】高浜虚子
『 くもりたる 古鏡の如し 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:錆や汚れの膜でくもっている、古い鏡のようにかすむ朧月よ。
古い鏡と歌っているので、現在のようなガラスを素材とした鏡ではなく、銅などの金属を磨いた鏡です。鯖や汚れなどでぼんやりとしか写らない様子が朧月のようだと例えています。
【NO.7】竹久夢二
『 襟あしの 黒子あやふし 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:女性の襟足にはっきりと見えているほくろがあやしく見える朧月の夜よ。
竹久夢二といえば美人画で有名な画家です。まるでその美人画が浮かぶような一句で、輪郭がかすむ朧月の夜に、はっきりと見えるほくろの対比が艶めいた雰囲気を醸し出します。
【NO.8】稲畑汀子
『 雨いつか 上り雲間の 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:降り続いていた雨がいつの間にか止み、雲間から朧月が覗いているよ。
春の夜によく見られるあたたかな小雨と朧月の組み合わせの句です。1枚の写真のような風景画の俳句になっています。
【NO.9】尾崎紅葉
『 閨(ねや)の戸の 細目にあきて 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:寝室の扉が細く開いていたのか、朧月の光が入ってくる。
閨とは寝室のことを言います。ほんの少し開いた戸から、朧月の微かな光が入り込んでいる、幻想的な光景の句です。
【NO.10】正岡子規
『 敦盛(あつもり)の 笛聞こえけり 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:須磨で討死したという平敦盛の笛が聞こえてくるようだ。この朧月の夜は。
正岡子規が須磨にいるときの一句です。敦盛とは、須磨の地で討死した若き武将で、戦場にも笛を持ち込むほどの名手でした。その敦盛の笛の音が聞こえてくるような幽玄な夜の情景が浮かびます。
「朧月」の季語を使った素人オリジナル俳句【10選】
【NO.1】
『 正解は わからないまま 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:正解がどれかわからないままの朧月だ。
【NO.2】
『 朧月 明日も朝から 忙しく 』
季語:朧月(春)
意味:朧月が見えている。明日も朝から忙しい仕事だ。
仕事からの帰り道でしょう。空を見上げれば朧月が見えますが、明日も朝から仕事だと帰路を急ぐ、現代人の忙しさを表しています。
【NO.3】
『 あてもなく 膨らむ夢や 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:あてもないのに膨らんでいく夢であることだ。あの朧月を見ていると。
輪郭が滲み、さまざまな想像をかき立てられる朧月と、どんどんと膨らんでいく自分の夢を掛けています。はっきりと見えないからこそいろいろな月や夢を想像できるのでしょう。
【NO.4】
『 空削る 薄墨に咲く 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:空を削るような薄い墨を流したような曇り空に、朧月が咲くように輝いている。
朧月になるようなくもった夜空を「空削る薄墨」と表現している、とても詩的な一句です。朧月のぼんやりとした光を、花のように咲くと表現しているのも面白い句になっています。
【NO.5】
『 飛び出せる シーサーの目や 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:薄明かりで見ると飛び出して見えるシーサーの目だ。朧月の夜は。
朧月の薄明かりによる影で、シーサーの目が飛び出ているように見えるという写真のような句です。光の当たり方によっていろいろな見え方が楽しめます。
【NO.6】
『 ペンを置き 体伸ばせば 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:ペンを置いて身体を伸ばすと、窓から朧月が見える。
宿題か試験勉強中でしょうか。ペンを置いて一休みしようと上を見上げた窓に月が見えている、学生のころに一度は経験したことがあるような句です。
【NO.7】
『 薄き雲 朧月夜を プロデュース 』
季語:朧月夜(春)
意味:薄い雲こそが、朧月夜をプロデュースしている。
雲を月を隠すものでなく、朧月夜という美しい光景を作り出しているのだと捉えています。プロデュースという擬人化が新しい一句です。
【NO.8】
『 宴より 分かれて一人 おぼろ月 』
季語:おぼろ月(春)
意味:宴会から分かれて1人きりだ。空には朧月が見える。
春の宴会ということで歓迎会でしょうか。酔い覚ましか、一足先に抜け出したのか、宴会のあとの春の少し寒い夜と朧月の対比に覚えがある人も多いのではないでしょうか?
【NO.9】
『 朧月 スカイツリーの 先っぽに 』
季語:朧月(春)
意味:朧月がスカイツリーの先っぽにのぼってくる。
スカイツリーという塔の先に月がのぼり、ちょうど刺さっているように見える。そんな写真を見たことがある人もいるのではないでしょうか。朧月というにじんだ光と、スカイツリーをはじめとする夜景のはっきりとした光か対比になっています。
【NO.10】
『 紛失の 鍵を探すや 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:紛失した鍵を探しているよ。朧月のわずかな光の中で。
晴れた日の月光はかなり明るいため探し物も容易でしょうが、朧月の夜です。淡い光でなかなか鍵を探すことができない、そんな焦りを感じます。
以上、朧月を季語に使ったオススメ俳句でした!
今回は、季語が「朧月」の俳句を20句ご紹介してきました。
朧気に見える月は幽玄さを見出すもの、艶っぽい雰囲気を醸し出すもの、薄明かりであることを利用したものなど、さまざまな連想を掻き立てる季語です。
春の季語ではありますが、朧月自体は1年を通して見られるので、いろいろと想像してみてはいかがでしょうか。