今回は、「破調」に関するオススメ有名俳句を30句紹介していきます。
母が今日見せてくれた俳句。破調。無季。でも、わかる。 pic.twitter.com/QGdMTPzRxP
— りんたろう (@GbDROQTyZdSiQSr) May 14, 2018
破調とは、俳句の定型詩(五七五)で音数に多少が生じることです。
具体的には「五七五の十七音以外になる俳句」「五七五の句の切れ目と言葉の意味が一致しない俳句」のことを言います。
- 十七音以外になる俳句・・・「字余り」「字足らず」と呼ばれ、五八五で十八音になったり、四七五で十六音になったりする俳句のこと
- 切れ目と言葉の意味が一致しない俳句・・・「句またがり」の俳句のこと
※例えば、「ふりやまず」は意味としてひとつの言葉ですが、五音や七音の切れ目としては「ふり/やまず」と分けられる場合は「句またがり」の俳句になります
破調の有名俳句集【前半15句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 かれ朶(えだ)に 烏のとまりけり 秋の暮 』
季語:秋の暮れ(秋)
現代語訳:気がつくと、枯れ枝にカラスがとまっている。静かな秋の夕暮れだ。
五九五の破調の句です。「烏とまれり」と七音で詠まないことで中句を強調しています。
【NO.2】松尾芭蕉
『 芭蕉野分して 盥(たらい)に雨を 聞く夜かな 』
季語:野分(秋)
現代語訳:野分が吹き荒れ、庵の外の芭蕉に雨風が吹き付けている。家の中ではタライを打つ雨漏りの音をわびしく聞いている夜だなぁ。
八七五の字余りの破調です。漢詩に思いを馳せていたときの句のため、どことなく漢詩的な趣があります。
【NO.3】松尾芭蕉
『 海暮れて 鴨の声 ほのかに白し 』
季語:鴨(冬)
現代語訳:日が暮れた海に鴨の鳴き声がほのかに聞こえ、白いものが見えてくる。
「鴨の声ほのかに」が句またがりの破調です。「白し」については鴨の姿とも、声を白く感じたともどちらにも取れる句です。
【NO.4】松尾芭蕉
『 櫓(ろ)の声波をうつて 腸(はらわた)氷る 夜やなみだ 』
季語:氷る(冬)
現代語訳:川辺で櫓の音が鳴っている。はらわたが凍るような夜に涙が出てくる。
【NO.5】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
現代語訳:旅の途中で病に伏しているが、見ている夢の中では冬の枯れた野原を駆け回っている。
【NO.6】服部嵐雪
『 黄菊白菊 その外の名は 無くもがな 』
季語:菊(秋)
現代語訳:色とりどりに咲く菊の花だが、黄菊と白菊の他はむしろ無い方がよい。
【NO.7】与謝蕪村
『 白梅に 明くる夜ばかりと なりにけり 』
季語:白梅(春)
現代語訳:白梅が夜明けに咲いている。私に残された時間は夜明けまでになりそうだ。
【NO.8】小林一茶
『 ざぶりざぶり ざぶり雨降る 枯野かな 』
季語:枯野(冬)
現代語訳:ざぶざぶと冬の枯れ野に雨が降っていることだ。
【NO.9】小林一茶
『 雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る 』
季語:雀の子(春)
現代語訳:雀の子よ、そこをどきなさい。馬が通りますよ。
【NO.10】小林一茶
『 さくらさくらと 唄はれし 老木かな 』
季語:桜(春)
現代語訳:これがかつては素晴らしいと唄われていた桜なのか。今や老木であることよ。
【NO.11】松尾芭蕉
『 火桶炭団(ひおけたどん)を 喰らふ事夜ごとに ひとつつづ 』
季語:火桶(冬)
意味:火桶炭団が炭を夜ごとに一つずつくらっていくようだ。
作者の時代の暖房器具は炭を使うものでした。火桶と呼ばれる暖房が夜になるたびに炭を一つずつ食べていくようなユーモラスさを七九五という破調で詠んでいる面白い一句です。
【NO.12】与謝蕪村
『 夜桃林(とうりん)を出て 暁(あかつき)嵯峨(さが)の 桜人(さくらびと 』
季語:桜人(春)
意味:夜に桃の林を出て、夜明けには嵯峨の桜を見ている。
九七五と大幅に超過している一句です。これは漢詩調で俳句を詠むという芭蕉も好んだ作風でした。「桜人」とは桜の花をめでている人を指す季語で、桃から桜という花の移り変わりも詠んでいます。
【NO.13】山口素堂
『 目には青葉 山ほととぎす 初鰹 』
季語:青葉(夏)/ほととぎす(夏)/初鰹(夏)
意味:視界には青葉が見え、山ではホトトギスの声が聞こえ、初鰹がおいしい季節だ。
季語が3つ重なる有名な句です。六七五の字余りの句で、破調になっても美しい青葉の様子を詠みたいという作者の気持ちが感じ取れます。
【NO.14】西東三鬼
『 岩に爪たてて空蝉 泥まみれ 』
季語:空蝉(夏)
意味:岩に爪を立てて空蝉が泥まみれになっている。
【NO.15】富澤赤黄男
『 やがてランプに 戦場のふかい 闇がくるぞ 』
季語:無季
意味:やがてランプの明かりも消え、戦場の深い闇がくるぞ。
破調の有名俳句集【後半15句】
【NO.1】小林一茶
『 下谷一番(したやいちばん)の 顔して ころもがへ 』
季語:更衣(夏)
意味:派手な服装を好む顔をして衣替えをしよう。
八四五の破調で、当時の鞠付き歌から「下谷一番」という言葉を引用しています。
【NO.2】正岡子規
『 春や昔 十五万石の 城下かな 』
季語:春(春)
意味:栄華を極めた春は今や昔、ここが十五万石を誇っていた城下町であることだ。
【NO.3】正岡子規
『 糸瓜(へちま)咲きて 痰の詰まりし 仏かな 』
季語:糸瓜(秋)
意味:薬になるヘチマの花が咲いたが、痰が詰まって私は亡くなることだろう。
六七五の字余りの句で、正岡子規の辞世の句です。薬も既に効果のない身の上を「仏」という言葉で客観的に歌っています。
【NO.4】高浜虚子
『 白牡丹と いふといへども 紅ほのか 』
季語:白牡丹(夏)
意味:白牡丹と言われている花だが、よくよく見るとほのかに紅を差していることよ。
【NO.5】高浜虚子
『 凡そ天下に 去来程の小さき墓に 参りけり 』
季語:墓参り(秋)
意味:去来ほどの偉大な俳人は天下にいないが、そんな偉人には似つかわしくない小さなお墓にお参りした。
【NO.6】中村草田男
『 秋の航 一大紺 円盤の中 』
季語:秋(秋)
意味:秋の航海では辺り一面が紺碧で、まるで青い円盤の中にいるようです。
【NO.7】加藤楸邨
『 木の葉ふり やまずいそぐな いそぐなよ 』
季語:木の葉(冬)
意味:木の葉が散りやまない。急ぐな、急ぐなよ。
【NO.8】芥川龍之介
『 兎も 片耳垂るる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:ウサギも片耳を垂れるほどの暑さの大暑の日だ。
四七五の字足らずの一句です。いつもは立っているものが垂れてしまうほどの暑さが伺えます。
【NO.9】山口誓子
『 声なりしやと炎天を顧る(かえりみる) 』
季語:炎天(夏)
意味:声がしたと思って、暑い夏の中を振り返った。
「声なりしやと」の部分が句またがりになっています。視線の先に蜃気楼や逃げ水が想像できる句です。
【NO.10】角川源義
『 天上大風(てんじょうたいふう) 地上に春の 花きそふ 』
季語:春の花(春)
意味:空は強い風が吹いているが、地上は春の花が競って咲いている。
八七五の字余りの句です。天の大風と地上の花という対比が美しい一句になっています。
【NO.11】三橋鷹女
『 口中一顆の 雹を啄み 火の鳥や 』
季語:雹(夏)
意味:口の中に1粒の雹を啄む火の鳥であるなぁ。
この句は八七五の字余りの句で、自分の気性を火の鳥に例えた一句です。作者は自分自身を燃える炎の鳥と表現していますが、1粒だけくわえている雹が溶けていないことから、氷のような冷静さも持ち合わせていると主張しています。
【NO.12】三橋鷹女
『 この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉 』
季語:紅葉(秋)
意味:この樹を登ったならば、あの伝説にある鬼女になるだろう、美しい夕暮れの紅葉だ。
【NO.13】飯田龍太
『 大寒の 一戸もかくれ なき故郷 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒という最も寒い日は木々が葉を落とすので、1軒も隠れている家がない故郷だ。
この句は二句目と三句目の「かくれなき」が句またがりになっています。「かくれ」と「なき」が分かれることによってどこを見渡しても隠すもののない真冬の故郷の寂しさが強調されている一句です。
【NO.14】池田澄子
『 よし分かった 君はつくつく法師である 』
季語:つくつく法師(秋)
意味:よしわかった、君はツクツクホウシである。
【NO.15】黛まどか
『 待ちし一枚 その中にあり 年賀状 』
季語:年賀状(新年)
意味:待っている一枚がその中にあるのだ、年賀状が。
以上、破調の有名俳句集でした!
今回は「破調」の有名俳句を30句紹介しました。
五七五のリズムは守りつつ自由に表現していく技法は難しいですが、俳句を読む際にぜひ参考にしてみてください。