「世界で最も短い詩」といわれている俳句。
五七五のわずか17音という非常に短い言葉の中にさまざまな思いを込めて、読み手に想像や連想を喚起させる奥深い文芸です。
今回は、昭和初期の「ホトトギス」の黄金時代を築いたといわれている「山口誓子」の有名な俳句(代表作)を春夏秋冬ごとにご紹介します。
山口誓子(1901-1994)俳人
「一夏の詩稿を浪に棄つべきか」
「金星は低く木犀芬々と」
「凍る河見ればいよいよしづかなり」
エッセイを読んだら、父の会社に来たことがあって驚きました。#作家の似顔絵 pic.twitter.com/b8eIZO4tZ7— イクタケマコト〈テンプレ集出版〉 (@m_ikutake2) October 14, 2014
ぜひ参考にしてみてください。
山口誓子の人物像と作風
(山口誓子 出典:Wikipedia)
山口誓子(やまぐち せいし)は、明治34年(1901年)に現在の京都府左京区で生まれました。
本名は新比古(ちかひこ)といいます。水原秋桜子、高野素十、阿波野青畝とともに「ホトトギスの四S」と評価されました。
大正8年(1919年)に第三高等学校(現在の京都大学)に入学すると、本格的に俳諧の道へ入ります。写生重視の「ホトトギス」から新興俳句運動の「馬酔木」と移り、新興俳句運動の指導者的存在となっていきました。
従来の俳句にはなかった都会的な要素を積極的に取り込み、知的で即物的な句風が特徴です。そして、映画倫理に基づく連作俳句を試みたことでも知られています。
海に出て木枯帰るところなし
山口誓子(俳人) pic.twitter.com/qhzXXNC39T
— 心に残る名言・格言(日本人編) (@kakugen_nippon) September 16, 2016
次に、山口誓子の代表的な俳句を季節(春夏秋冬)別に紹介していきます。
山口誓子の有名俳句・代表作【36選】
(大阪府摂津峡にある山口誓子の句碑「流蛍の自力で水を離れ飛ぶ」 出典:Wikipedia)
春の俳句【9選】
【NO.1】
『 流氷や 宗谷の門波 荒れやまず 』
季語:流氷(春)
現代語訳:海の上を流氷が漂っているよ。宗谷海峡に立つ波は激しく荒れ、止むことがない。
【NO.2】
『 暖かき 燈が廚より 雪にさす 』
季語:暖か(春)
現代語訳:夕飯時、温かい灯りが台所からもれ、雪の上に写っているよ。
【NO.3】
『 桜さく 前より紅気 立ちこめて 』
季語:桜(春)
現代語訳:桜が満開の季節となった。前方から桜の花の紅気がどんどん押し寄せてくるようだよ。
【NO.4】
『 春水と 行くを止むれば 流れ去る 』
季語:春水(春)
現代語訳:春の川の流れに合わせて歩いていたが、ふと足を止めるとあっと言う間に流れ去っていったよ。
【NO.5】
『 探梅や 遠き昔の 汽車にのり 』
季語:探梅(春)
現代語訳:梅の花を探しに行こう。遠い昔に戻ったような汽車に乗って。
【NO.6】
『 春の日や ポストのペンキ 地まで塗る 』
季語:春の日(春)
現代語訳:春ののどかな日だなぁ。ポストのペンキを塗っていた人が地面まで塗ってしまったよ。
【NO.7】
『 名ある星 春星として みなうるむ 』
季語:春星(春)
現代語訳:名のある星々も、春の星になるとみな潤んだような輝きを見せる。
【NO.8】
『 麗しき 春の七曜 またはじまる 』
季語:春(春)
現代語訳:麗しい春の1週間がまた始まるのだ。
【NO.9】
『 せりせりと 薄氷(うすらい)杖の なすままに 』
季語:薄氷(春)
現代語訳:せりせりと音を立てて割れる薄氷は杖のなすがままだ。
夏の俳句【9選】
【NO.1】
『 炎天の 遠き帆やわが こころの帆 』
季語:炎天(夏)
現代語訳:日差しが強い真夏の空の下、遠くに船の帆が見える。あの帆は、私の志の帆でもあるのだよ。
【NO.2】
『 匙なめて 童たのしも 夏氷 』
季語:夏氷(夏)
現代語訳:小さい子どもが、かき氷をひと匙すくうごとにスプーンをなめて楽しんでいるよ。
【NO.3】
『 ピストルが プールの硬き 面にひびき 』
季語:プール(夏)
現代語訳:競泳会場でスタートを固唾をのんで見守る中、スタートを告げるピストルの音が響き渡った。
【NO.4】
『 いづくにも 虹のかけらを 拾ひ得ず 』
季語:虹(夏)
現代語訳:美しい虹は、消えてしまうと、もうどこにもその一片すら拾うことができないのだなぁ。
【NO.5】
『 夏草に 汽罐車(きかんしゃ)の車輪 来て止まる 』
季語:夏草(夏)
現代語訳:夏草が茂っているところに機関車が走ってきて、そのまま止まった。
【NO.6】
『 夏の河 赤き鉄鎖の はし浸る 』
季語:夏の河(夏)
現代語訳:日の光が反射する夏の川に、赤い錆止めを塗られた鉄の鎖が浸されている。
【NO.7】
『 蛍獲て 少年の指 緑なり 』
季語:蛍(夏)
現代語訳:蛍を捕まえた少年の指が、蛍の光で緑に光っている。
【NO.8】
『 薔薇熟れて 空は茜の 濃かりけり 』
季語:薔薇(夏)
現代語訳:バラの花が熟れたように鮮やかに咲き、空には夕焼けの茜色の色が濃く出ている。
【NO.9】
『 ゆるやかな 水に目高の 眼のひかり 』
季語:目高(夏)
現代語訳:ゆるやかな川の水の中に、日の光を受けて輝いているメダカの目が見える。
秋の俳句【9選】
【NO.1】
『 かりかりと 蟷螂蜂(とうろうはち)の かほを食(は)む 』
季語:蟷螂(秋)
現代語訳:「かりかり」と音を立てて、カマキリが蜂のかおを食べていることよ。
【NO.2】
『 突き抜けて 天上の紺 曼珠沙華 』
季語:曼珠沙華(秋)
現代語訳:秋の澄んだ青空は突き抜けるように高い。そこへ真っ赤な花をつけた曼珠沙華が、やはり天を突き抜けるように背を伸ばして咲いているよ。
【NO.3】
『 秋天の 下雀斑の こまやかに 』
季語:秋天(秋)
現代語訳:清々しいある秋晴れの日。こまかいそばかすが印象的な子がいるよ。
【NO.4】
『 秋の雲 天のたむろに 寄りあへる 』
季語:秋の雲(秋)
現代語訳:秋の空に浮かぶ雲が、一つまた一つと寄ってきて、いつの間にか大きな塊となったよ。
【NO.5】
『 爽やかや たてがみを振り 尾をさばき 』
季語:爽やか(秋)
現代語訳:爽やかだなぁ。たてがみを振って尾をさばくように振っている馬を見ている。
【NO.6】
『 踏切の 燈にあつまれる 秋の雨 』
季語:秋の雨(秋)
現代語訳:踏切の光に集まっているように見える秋の雨だ。
【NO.7】
『 燃えさかり 筆太となる 大文字 』
季語:大文字(秋)
現代語訳:燃え盛って太い筆で書いたようになる大文字焼きだ。
【NO.8】
『 秋夜遭ふ 機関車につづく 車輛(しゃりょう)なし 』
季語:秋夜(秋)
現代語訳:秋の暗い夜に遭遇した機関車は、後に続くはずの車両が一両も無かった。
【NO.9】
『 一輪の 花となりたる 揚花火 』
季語:揚花火(秋)
現代語訳:一輪の花となった打ち上げ花火だ。
冬の俳句【9選】
【NO.1】
『 スケートの 紐結ぶ間も はやりつつ 』
季語:スケート(冬)
現代語訳:楽しみにしていたスケート。スケート靴に履き替え、靴紐を結んでいる間も心は早く氷の上を滑りたいとはやっていることだよ。
【NO.2】
『 風雪に たわむアンテナの 声を聴く 』
季語:風雪(冬)
現代語訳:吹雪でたわむアンテナから、まるで話し声のような音が聴こえるよ。
【NO.3】
『 海に出て 木枯らし帰る ところなし 』
季語:木枯らし(冬)
現代語訳:吹きすさぶ木枯らしは海に出て行くと、行き場を失い、もう陸に帰ることもない。
【NO.4】
『 除夜の鐘 吾が身の奈落 より聞ゆ 』
季語:除夜の鐘(暮)
現代語訳:除夜の鐘が、自分の身体の奥底から聞こえてくるようだよ。
【NO.5】
『 学問の さびしさに堪へ 炭をつぐ 』
季語:炭(冬)
現代語訳:一人きりで学ばなければならない学問の寂しさに耐えて、灰で白くなった火鉢に炭をつぐのだ。
【NO.6】
『 おほわたへ 座うつりしたり 枯野星 』
季語:枯野(冬)
現代語訳:枯れ野から大海へとゆっくりと居場所を移した星々であることよ。
【NO.7】
『 寒星の 天の中空 はなやかに 』
季語:寒星(冬)
現代語訳:寒い時期に輝く星々が、天の中空を華やかに彩っている。
【NO.8】
『 土堤(どて)を外れ 枯野の犬と なりゆけり 』
季語:枯野(分)
現代語訳:川の堤を歩いていた犬が道を逸れ、枯れ野へと向かう犬になっていった。
【NO.9】
『 雪すべて やみて宙より 一二片 』
季語:雪(冬)
現代語訳:雪が全て止んだけれど、空から一、二片の雪が落ちてきた。
さいごに
今回は、山口誓子の代表的な俳句を36句紹介しました。
「即物非情」の作風が特徴な山口誓子の作品は、鋭い視点で描かれ、とても魅力的なものばかりです。
(※即物非情…感情や主観を交えず、ものそのものをありのままに捉える)
山口 誓子1901年(明治34年)11月3日 - 1994年(平成6年)3月26日没、俳人。
近づくにつれ塔重き 春の暮
天よりも かがやくものは 蝶の翅
潮音寺 春潮の音 聞く寺か pic.twitter.com/IVeBOu2den
— 久延毘古⛩陶 皇紀ニ六八三年令和五年皐月 (@amtr1117) March 25, 2014
最後まで読んでいただきありがとうございました。