
「秋分(しゅうぶん)」は秋の季語で、現在のカレンダーでは9月23日頃になります。
春分の日と同じく昼夜の長さがほぼ等分になり、冬に向けて昼よりも夜が長くなっていく境目の日です。
秋分の日と言えば昼と夜の長さが同じ日!は知っていましたが何故祝日?
お寺参りの日・先祖供養の日など、宗教的慣例としてのまつりの日だけではなく、広い意味で「祖先を敬い、亡くなった人を忍ぶ日」として国民の祝日制定。
お墓参りの後は当店へ🙋 pic.twitter.com/jQzZDwvp2m— ニューアサヒ岡谷南店 (@okyminami_asahi) September 23, 2015
今回は、そんな「秋分」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介します。
秋分に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】飯田蛇笏
『 秋分の 時どり雨や 荏(え)のしづく 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分のちょうどその日に雨が降っているなぁ。荏胡麻に雫がしたたっている。
「荏(え)」とは荏胡麻(エゴマ)のことで、秋に収穫をむかえるシソ科の植物です。菜種油が主流になる前は縄文時代から使用されていた植物で、今でも「荏原」など名残がある地名があります。
【NO.2】阿部みどり女
『 秋分の 牛生(ぎゅう)といふ町 潮ぐもり 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の牛生という町は海の方がくもっているなぁ。
「牛生」とは宮城県塩竈市にある牛生町(ぎゅうちょう)のことです。作者はたまたま秋分の日に牛生町を訪れて海を眺めていたのでしょう。
【NO.3】飯田龍太
『 嶺聳ちて(そばだちて) 秋分の闇に入る 』
季語:秋分(秋)
意味:山が高くそびえ立っていて、秋分の日を境に夜が長くなっていくように闇に入っていく。
七音と十一音の自由律俳句です。山の中は暗くなるのが早いものですが、そびえ立つ山々が暗くなっていくのを見て秋の夕暮れを感じています。
【NO.4】松村蒼石
『 山かがし 秋分の日の 草に浮く 』
季語:秋分の日(秋)
意味:ヤマカガシが秋分の日の草原に浮くようにいる。
「山かがし」とは毒を持った蛇で、草原などでは注意するように言われている蛇です。そんなヤマカガシがまるで草の上に浮くようにとぐろを巻いている、写真のような一句になっています。
【NO.5】松村蒼石
『 陵守の 父に秋分の 餉(かて)がとどく 』
季語:秋分(秋)
意味:墓守をする父に秋分の日の食事が届いた。
秋分はお彼岸の中日で、地域によっては墓守のように墓の番をすることがあります。そんな墓守をしている父親に食事を届けた時の様子を詠んだ句です。

【NO.6】佐藤鬼房
『 秋分の 湯殿(ゆどの)の岩を 踏みにけり 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日の湯殿の岩を踏んで行った。
「湯殿」とは風呂場や浴室のことを言いますが、この句では山形県にある「湯殿山」も掛かっています。湯殿山は夏の間に修行する地として知られていて近くに温泉もあるため、湯殿山の温泉での様子を詠んだものかもしれません。
【NO.7】岸田稚魚
『 秋分や 葉をみつみつの 翌檜(あすなろ) 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日だなぁ。葉が密のようにしげっているあすなろの木だ。
【NO.8】新田郊春
『 旧家なり 秋分の日の 人出入り 』
季語:秋分の日(秋)
意味:古くからある旧家なのだなぁ。秋分の日のこの人の出入りの多さは。
秋彼岸の中日であることも手伝い、旧家では挨拶回りに訪れる人が多いのでしょう。ふだんは意識していなくても、行事のときになると家の成り立ちについて実感したことがある人は多いのではないでしょうか。
【NO.9】廣瀬町子
『 秋分の 日の音立てて 甲斐(かい)の川 』
季語:秋分の日(秋)
意味:秋分の日に音を立てて流れる甲斐の川よ。
「甲斐の川」は具体的な地名ではなく、山梨県を流れる川のどれかを詠んでいます。秋という台風や秋雨の多い時期に水量を増す川を詠んだ句です。
【NO.10】菅裸馬
『 秋分の 正午の日ざし 真向にす 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日の正午の日差しは真正面から差し込んでいる。
日の光がどの方角から入ってくるかは季節によって変わってきます。この句は春分・秋分の日に真っ直ぐ入ってくるように計算された建物を詠んだ句です。
秋分に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】田平龍胆子
『 秋分の 男松より 夕日さす 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日の男松の影から夕日がさしている。
「男松」とはクロマツの異名です。松の影から夕日がさしている写実的な一句で、その場の様子が目に浮かんでくる一句になっています。
【NO.12】角川源義
『 病者には 秋分もなし 臥(こや)るばかり 』
季語:秋分(秋)
意味:病床に伏せっている者には秋分もないようなものだ。ただ横になっているばかりである。
病に倒れて入院や療養をしていると、外出しなくなるために季節感が薄れてきます。強めの語感のため、作者の切実な思いが伝わってくる句です。
【NO.13】原子公平
『 秋分の 酒杯の微塵 親し恋し 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日は酒盃の塵のように細かいものも親しみ深く恋しくなるものだ。
【NO.14】池田澄子
『 秋分の 灯すと暗く なっていし 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日は明かりを灯すと空が思いのほか暗くなっている。
「秋の日は釣瓶落とし」と言われるように、秋分の日からは日が短くなっていきます。秋分の時点ではまだ等分ですが、それでも夏の日の長さを考えると思いのほか暗くなっているものです。
【NO.15】岩城久治
『 秋分や いそしむこころ やうやくに 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日だなぁ。熱心に勤めている心もようやく秋を実感する。
残暑が続く中でふとした瞬間に秋を感じるような句です。秋分というカレンダーの上の区切りではありますが、「やうやくに」という表現から秋の訪れを喜ぶ気持ちが伝わってきます。

【NO.16】本田ひとみ
『 秋分の日のほとりに やっかいな私 』
季語:秋分の日(秋)
意味:秋分の日のほとりにたたずむ厄介な私の心よ。
十一音と八音の自由律俳句です。俳句というよりはどこか短詩のようなおもむきで、秋分という境目の日にたたずむ自身の覚束さなさが「ほとり」という表現に表れています。
【NO.17】今井千秋
『 秋分の 展墓(てんぼ)日和と なりにけり 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日はお墓参り日和になったことだ。
「展墓(てんぼ)」とはお墓参りのことです。お彼岸の中日である秋分はお墓参りに訪れる人が多く、晴天であれば絶好の「日和」になることでしょう。
【NO.18】藤田哲肖子
『 秋分の日の 花増える町の中 』
季語:秋分の日(秋)
意味:秋分の日は花が増える街の中であることだ。
七音と十音の自由律俳句です。秋はコスモスなど街中に植えてある花が開花し、とてもにぎやかな風景になります。
【NO.19】那須弥生
『 秋分や もみづりはやき 岩蓮華(いわれんげ) 』
季語:秋分(秋)
意味:秋分の日だなぁ。紅葉するのがとても早い岩蓮華である。
「岩蓮華(いわれんげ)」とは葉が蓮の花のような形で越冬する多年草です。岩蓮華の中には紅葉のように赤く色づく種類もあり、まだ秋分なのに紅葉が始まったと驚いています。
【NO.20】日元淑美
『 わが旅の 秋分の日は 晴るる筈 』
季語:秋分の日(秋)
意味:私の旅の秋分の日はきっと晴れるはずである。
実際の旅の途中なのか、人生を旅に例えているのかで解釈が変わってきます。必ずこの日は晴れると自信を持って歩いていく姿が頼もしく感じる一句です。
以上、秋分に関する有名俳句でした!
今回は、秋分に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
秋ということもあり、これから冬に向かう寂しさや、昼が短くなっていく様子を詠んだものが多い印象です。
9月下旬はちょうど残暑も収まりいっそう秋が深まってくる季節なので、ぜひ一句詠んでみてください。