「新涼」とは、秋になって涼しくなり始めた気候を表し、俳句において「初秋」の季語になります。
「涼新た」「新たに涼し」「秋涼し」も「新涼」と同様の意味になり、秋の初めの句に登場しやすい季語です。
(※「涼し」だけだと暑さの中にふと感じる涼しさという意味になり、季節は夏です)
秋になって初めて涼しいと感じた時をあらわす季語。「涼し」は、暑さの中にふと覚えた一抹の涼しさをあらわす夏の季語。「涼し」は当然秋の体感なのだが、夏の季語とし、秋の涼しさを「新涼」とあらわすところに、季語の繊細な美意識を見る思いがする。 pic.twitter.com/AqNSjDwL00
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今回は、「新涼」をテーマにしたオススメ俳句20句をご紹介します。
新涼を題材にしたオススメ有名俳句【10選】
【NO.1】高浜虚子
『 新涼の 月こそかかれ 槇柱(まきばしら) 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しくなった夜の月がかかっている。槙でできた柱に。
槙柱とは、スギやヒノキを使った柱です。秋の冴え始めた月がまっすぐ伸びる柱にかかっている風景を詠んでいます。
【NO.2】高浜虚子
『 新涼や 眼鏡をとりて あたり見る 』
季語:新涼(秋)
意味:秋になって涼しくなってきた。メガネをとって、辺りを見回してみる。
秋になったことを風邪などで感じたのでしょうか。
【NO.3】高濱年尾
『 新涼や 朝顔とみに 花多く 』
季語:新涼(秋)
意味:秋らしい涼しさだ。朝顔が特に花を多く付けている。
朝顔は今では夏の代名詞ですが、季語としては秋の季語です。暑い中にも秋めいた涼しさを感じる頃に朝顔は多くの花を付けます。
【NO.4】阿波野青畝
『 これからの 新涼の月 明るくて 』
季語:新涼(秋)
意味:これからの秋の涼しさになる夜空の月は明るくなる。
秋になると空気が乾燥し始め、月や星が美しく輝く季節になります。「これからの」という言葉に、季節が進んで涼しい過ごしやすい気候になることへの期待感が込められている一句です。
【NO.5】正岡子規
『 夕顔と 糸瓜(へちま)残暑と 新涼と 』
季語:新涼(秋)
意味:夕顔とヘチマが植わっている。残暑は厳しいが秋らしい涼しさも出てきた。
正岡子規が病床に着いているときに詠んだ句です。子規の病室の前には、夕顔と喉の薬になる糸瓜が植えられていました。病室から見た季節の移り変わりを、植えてある植物と空気から読み取っている句です。
【NO.6】福田蓼汀
『 新涼の 画を見る女 画の女 』
季語:新涼(秋)
意味:秋の涼しさの中で、絵を見る女性がいる。女性が見ているのは女の描かれた絵だ。
この句には「画を見る女」と「画の女」がいます。女性の見ている絵には女性が描かれていて、絵を見る女性を第三者が眺めている構図です。とても技巧的な句です。
【NO.7】前田普羅
『 新涼や 豆腐驚く 唐辛子 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しい秋だ。豆腐が唐辛子を添えられて驚いている。
涼しげな様子を豆腐に掛けています。そんな涼しげな豆腐に真っ赤で辛い夏のような唐辛子を添えられ、豆腐が驚いているという擬人化の手法です。
【NO.8】加藤耕子
『 鍬洗ふ 新涼の水 日を透かし 』
季語:新涼(秋)
意味:農作業で使った鍬を洗う、涼しさを感じる水が、日の光を透かしてキラキラとしている。
鍬を洗う水に反射する日の光と、涼しげな水の組み合わせが秋の風情を表しています。収穫期を思わせる鍬が秋の恵みを思わせる一句です。
【NO.9】飯田蛇笏
『 新涼の 土のあらはに 黍穂(きびほ)垂る 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しくなってきた秋の畑の土があらわになって、キビの穂が垂れている。
キビは9月の上旬から中旬頃に収穫を迎えます。秋になり、茂っていた草が取り払われて表面が見える畑にキビが重く穂を垂れている、田んぼと稲とはまた違った秋の組み合わせの風景です。
【NO.10】日野草城
『 新涼の 釣瓶(つるべ)漏りつつ 上り来る 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しさを感じる井戸の水が、釣瓶からもれながら上がってくる。
釣瓶とは井戸の上から滑車で下ろして水を汲む容器のことです。引き上げる際に揺れたのか、きらきらと水をこぼしながら上がってくる釣瓶の水に、夏とは違った涼しさを感じさせます。
新涼の季語を使った上手な俳句ネタ【10選】
【NO.1】
『 新涼の 日向日影に ととのひぬ 』
季語:新涼(秋)
意味:秋らしい涼しさは、日向と日影をどちらも平等な涼しさに整えている。
この句は漢字が6個、ひらがなが7個と釣り合っていること、句の中の日向と日影の気温が同じくらいの涼しさで釣り合っていることの二重の意味を持っています。技巧をこらしつつ秋の涼しさの訪れを喜ぶ句です。
【NO.2】
『 新涼や 流れ絶へざる 長良川 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しい秋が来た。秋でも流れが豊富で絶えない長良川であることよ。
長良川は岐阜県から伊勢湾に向けて流れる河川です。雨の多い夏が終わって秋になっても水量が絶えることのない川を称えています。
【NO.3】
『 吊橋や 新涼の風 ほしいまま 』
季語:新涼(秋)
意味:吊り橋だ。秋の涼しい風を欲しいままに受けている。
「吊橋や」と詠嘆を入れることで注目を集め、風という吊り橋の揺れを感じさせる風景をより強調しています。実際に揺れるほどの強風は吹いていないでしょうが、谷間にかかる吊り橋は存分に涼しい風を受けられるでしょう。
【NO.4】
『 気に入りの 靴や新涼 踏みしめて 』
季語:新涼(秋)
意味:お気に入りの靴を履こう。秋の涼しさを踏みしめて出かけよう。
秋は涼しくなり、行楽シーズンになります。「気に入りの靴」と詠んでいることから、ワクワクとした気分で出かけていることがわかる一句です。
【NO.5】
『 新涼や 嫌いなやつの 良いところ 』
季語:新涼(秋)
意味:秋の涼しさを感じる季節だ。時間が経つにつれて、嫌いだった相手の良いところがわかるようになってきた。
新涼という季節の移り変わりと、時間が経つにつれて他者への印象が変わっていく様子を掛けています。共に時間の経過を表す様子を掛けているところがシンプルながらこった仕掛けの句です。
【NO.6】
『 新涼や 回転ドアの 二秒間 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しい空気がする秋だ。回転ドアが開いた2秒間で夏が終わりつつあることを悟った。
ドアが開いたほんの一瞬の風から季節の変わり目を悟る句です。2秒間というわずかな時間が涼しくなり始めた空気の変化をよく表しています。
【NO.7】
『 ビル街に 新涼の風 そっと吹く 』
季語:新涼(秋)
意味:夏はあれだけ暑かったビル街に、涼しげな秋の風がそっと吹く。
ビル街はガラスの反射やヒートアイランド現象で夏の間とても暑くなります。そんなビル街でもさわやかな風が吹き抜けることによって、秋の訪れを感じてほっとする様子が「そっと」という言葉に表れている句です。
【NO.8】
『 髪の色 すこし明るく 新涼に 』
季語:新涼(秋)
意味:髪の色を少し明るく染めよう。季節が秋に変わる涼しい空気に誘われる。
髪の色を変えて心機一転という気持ちが感じられます。秋は涼しく行動しやすいため、何かを始めたり変えたりするのに最適な季節でしょう。
【NO.9】
『 新涼や 山路三里も 苦にならず 』
季語:新涼(秋)
意味:秋の涼しい風を感じることだ。長い山道を登るのも苦にならない気候になった。
真夏の登山は照りつける太陽や変わりやすい天気など、とても大変です。秋になると天気も安定して登りやすい気温になるため、登山やハイキングにうってつけの季節になります。
【NO.10】
『 新涼や 昨日と違ふ 今朝の風 』
季語:新涼(秋)
意味:涼しさを感じるなぁ。昨日の暑さとは違う今朝の風よ。
ふとした瞬間に秋の訪れを感じる、シンプルながら風情ある句です。湿度や気温の違いによって秋だなぁと感じる「新涼や」という詠嘆が朝一番の涼やかな風を感じさせます。
以上、「新涼」をテーマにしたオススメ俳句集でした!
今回は、「新涼」をテーマにした俳句を、有名なもの10選とオリジナルの俳句10選にわけて紹介してきました。
ほんのわずかな空気や風の違いから季節の変わり目を感じる季語のため、行楽地での一句や心機一転の決意を表す俳句が多いのも特徴です。
ふと涼しさを感じたときにぜひ「新涼」という季語を使って一句読んでみてください。