様々な種類がある香り豊かな美しい花である「薔薇(ばら)」。
これまで、薔薇の美しい姿は多くの俳人に詠まれてきました。
今回は、そんな「薔薇」に関するおすすめ俳句集【全30句】を紹介していきます。
バラ散るや己がくづれし音の中 中村汀女
薔薇の辺やこたびも母を捨つるがに 石田波郷
ロココ美として極まれる薔薇もあり 京極杞陽 pic.twitter.com/b4fO60AoiY— 高橋和志 (@K5Takahashi) May 17, 2015
俳句における季語「薔薇」について
「薔薇」は、俳句では「夏の季語」に分類されます。一季咲きの薔薇は5月頃が最盛期であるため、薔薇は「初夏の季語」とされています。
(※薔薇は「ばら」または「そうび」と読みます)
薔薇は、赤・ピンク・黄・白など彩り豊かで、現在では数万種以上の品種があります。薔薇の美しい姿は、愛と美の象徴とされてきました。
日本では、古来よりトゲのある「いばら(野ばら)」があり、そこから「ばら」の名前が生まれました。
華やかな薔薇もよいけれど
一重の控えめな野ばらに
惹かれる pic.twitter.com/Tt4gF0acqy— _ (@___shitote__) May 14, 2016
薔薇(ばら)の季語を使った有名俳句【15選】
【NO.1】 中村草田男
『 手の薔薇に 蜂(はち)来れば 我王の如し 』
季語:薔薇(夏)
意味:手にしている薔薇に蜂が来ると、自分が王になったように感じる。
作者が手にした薔薇に寄ってきた蜂。
その蜂の姿は、頭を低くし王へ忠誠を誓う家臣のようです。
【NO.2】中村汀女
『 バラ散るや 己がくづれし 音の中 』
季語:バラ(夏)
意味:自分がくずれる音の中で、バラが散ることだ。
薔薇は散るとき、一枚一枚はらはらと花びらが落ち、姿が崩れてゆきます。
作者が崩れる音の中で、薔薇が散ってゆく。
一枚の絵画を見ているような、美しい句です。
【NO.3】津田清子
『 薔薇の園 引き返さねば 出口なし 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の園は、引き返さなければ出口がわからなくなってしまう。
薔薇園は、西洋的な美しさを感じさせます。
作者は、色とりどりに咲き乱れる薔薇園で、迷宮に入り込んでしまったような錯覚におちいってしまったのです。
薔薇の美しさに魅了されている、作者の姿が目に浮かびます。
【NO.4】山口誓子
『 薔薇熟れて 空は茜の 濃かりけり 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇が咲ききった夕暮れ、空は茜色が濃くなったことだ。
開ききった薔薇の花びらの色と、茜色に染まる夕暮れ時の空。
両者の瞬間的な美しさを詠っています。
【NO.5】大野林火
『 とほるとき こどものをりて 薔薇の門 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の門を通るとき、子どもがそこにいたことだ。
裕福な家にある薔薇の門を、緊張しながら通る作者。そこに子どもがいて、作者の心をほっとなごませてくれたのでしょう。
【NO.6】正岡子規
『 薔薇の香の 粉々として 眠られず 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の香りが粉々としていて眠られない。
作者は、漂ってくる薔薇の香りが気になり、眠りにつくことができません。
「粉々と」した薔薇の香りの表現が、印象的です
【NO.7】西東三鬼
『 薔薇に付け 還暦の鼻 うごめかす 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の花に、還暦の自分の鼻をつけ動かしてみる。
還暦を迎えた作者は、薔薇の花びらに直接鼻をつけその香りを楽しんでいます。
「うごめかす」は、「虫が這うように、もぞもぞと動く」という意味です。
【NO.8】山口青邨
『 バラ高く 港はあまた 船並べ 』
季語:バラ(夏)
意味:高い場所にバラが咲いている。バラが見下ろすようにある港は数多の船が並んでいる。
港には多くの船が並び、それを見下ろすように高い場所にバラが咲いている。
鑑賞:丘の上に咲く薔薇と、港に並ぶ多くの船。二つの対比によって、写真を見ているかのように感じられる句になっています。
【NO.9】高浜虚子
『 己れ棘(とげ)あること知りて 花さうび 』
季語:そうび(夏)
意味:自分に棘があることを知って、薔薇の花が咲いている。
薔薇には、美しい花と反して茎にするどい棘があります。
作者も自分の心の中に棘があると、薔薇の棘を見て感じているようです。
上五と中七が句またがりになっており、「己れ棘あること知りて」となっています。
【NO.10】日野草城
『 薔薇匂ふ はじめての夜のしらみつゝ 』
季語:薔薇(夏)
意味:初めての夜が明ける中で、薔薇の匂いが漂う。
「しらみつゝ」は、夜が明けて徐々に明るくなってゆく様子のことです。
初めての夜が明ける中、あたりには薔薇の香りが漂っている、情緒的な句です。
【NO.11】 金子兜太
『 薔薇よりも 淋しき色に マッチの焔 』
季語:薔薇(夏)
意味:バラよりも淋しい色に見えるマッチの焔の色だ。
マッチの炎はオレンジ色に見えますが、真っ赤なバラと比べるとどこか寂しげであると詠んでいます。バラと炎という違うものを取り合わせて詠んだ面白い一句です。
【NO.12】阿部みどり女
『 ばらに降る 雨とぎれけり 起きて見る 』
季語:ばら(夏)
意味:バラに降っていた雨が途切れたようだ。起きて見てみよう。
バラに当たる雨音が聞こえなくなったので外を見てみようと起き出した様子を詠んでいます。ただ雨音とするのではなく、「ばらに降る」とすることで美しい庭先であることがわかる一句です。
【NO.13】高浜虚子
『 各々の 薔薇を手にして 園を出づ 』
季語:薔薇(夏)
意味:各々のバラを手にしてバラ園を出た。
バラを摘みに来たのか、各々が自分だけのバラを持ってバラ園から出てきた様子を詠んだ句です。人によっていろいろな色や咲き方のバラを選んでいるため、個性が感じられます。
【NO.14】星野立子
『 ばら剪りて ざぶりと桶に 浸けておく 』
季語:ばら(夏)
意味:バラを切って、ざぶりと桶に浸けておく。
「ざぶり」という擬音から1本や2本ではなくかなり多くのバラを摘んだことが分かります。美しい花と裏腹に、桶に浸けておくというどこか雑な措置の差が面白い一句です。
【NO.15】加藤楸邨
『 歯に咬んで 薔薇のはなびら うまからず 』
季語:薔薇(夏)
意味:歯で噛んだバラの花びらは美味しくなかった。
良い香りを放っていたので口にしてみたのでしょうか、あまり美味しくなかったと詠んでいます。エディブルフラワーという食べる花もありますが、ここでは普通に咲いているバラを噛んだのでしょう。
薔薇(ばら)の季語を使った一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 薔薇の香の 少女の影に出会ひたり 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の香りがする少女の影に出会ったことだ。
【NO.2】
『 雨粒の一撃に 薔薇くづれけり 』
季語:薔薇(夏)
意味:雨粒の一撃で、薔薇の花が崩れてしまった。
咲ききった薔薇の花びらが、雨粒の一撃ではらはらと散ってしまった様子を詠っています。
上五と中七が句またがりで。「雨粒の一撃に」となっています。
「一撃に」の語が、読み手の心を揺さぶります。
【NO.3】
『 薔薇の門 出でて働く 人となる 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の門から出て、働く人となる。
自宅の薔薇の門を出て、これから出勤する作者の様子を感じられる句です。
【NO.4】
『 赤いばら ないしょの話を してしまう 』
季語:ばら(夏)
意味:赤いばらの花に、内緒の話をしてしまう。
小学生が詠んだ句です。赤いばらに、そっと内緒の話をしてしまう作者の様子が微笑ましい句です。
【NO.5】
『 透明の傘 くるくると 薔薇の雨 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇が咲く雨の中、透明の傘をくるくると回す。
薔薇が咲き誇る雨の中、透明の傘から薔薇の色が鮮やかに見えます。
薔薇を見ながら、傘をくるくると回す、作者の楽しい気持ちが伝わってきます。
【NO.6】
『 ありがとう 素直に言える バラの町 』
季語:薔薇(夏)
意味:ありがとうを素直に言うことができる、薔薇の町のことだ。
薔薇が咲く、美しい街では人々が素直に「ありがとう」を言うことができる町。
薔薇と、人の心の美しさを感じる句です。
【NO.7】
『 薔薇と書く その棘(とげ)ほどに 細く書く 』
季語:薔薇(夏)
意味:薔薇の棘ほどに、細く薔薇という字を書く。
画数が多い「薔薇」の字を、筆で薔薇の棘のように細く書いているのでしょうか。
息を詰めて、作者が「薔薇」の字を書く様子が浮かんできます。
【NO.8】
『 貴方には赤い薔薇 私には白い薔薇 』
季語:薔薇(夏)
意味:貴方には赤い薔薇、私には白い薔薇。
歌っているかのような句です。「赤い薔薇」「白い薔薇」と対比させることで、美しい句となっています。
【NO.9】
『 赤いバラ 私と同じ トゲがある 』
季語:バラ(夏)
意味:赤いバラには、私と同じようにトゲがある。
赤いバラにトゲがあります。作者も、バラと同じように、自分の心の中にトゲがあると感じています。
【NO.10】
『 風に触れ 雨に触れては 薔薇錆びる 』
季語:薔薇(夏)
意味:風や雨にさらされて、薔薇の花がまるで金属に錆がつくように傷んでいる。
薔薇は、風や雨に弱い花です。風や雨にさらされて、薔薇の花がまるで金属に錆がつくように傷んでしまう様子を詠っています。
【NO.11】
『 薔薇咲きて 目に鮮やかな 夏の色 』
季語:薔薇(夏)
意味:バラが咲いて、日に照らされて鮮やかな夏の色をしている。
【NO.12】
『 薔薇の香と 猫の寝息の 柔らかし 』
季語:薔薇(夏)
意味:バラの香りと猫の寝息が柔らかい。
ほのかに漂うバラの香りと、猫の静かな寝息が聞こえるのどかな風景を詠んだ句です。どちらも密やかなものなのだろうという想像が「柔らかし」という表現から伝わってきます。
【NO.13】
『 色変へて 薔薇よく咲けり よその庭 』
季語:薔薇(夏)
意味:色を変えてバラが良く咲いているよその庭だ。
咲いている最中のバラの色は変わらないので、時期をずらして開花するバラが多く植えられているのでしょう。いつ見ても違う色のバラが咲いているよその家の庭を楽しんでいます。
【NO.14】
『 顔寄せて 十九時の薔薇 独り占め 』
季語:薔薇(夏)
意味:顔を寄せて19時に咲いているこのバラを独り占めしている。
「十九時」と指定しているところが特別な時間を過ごしているのだという感覚を強調しています。今この瞬間にこのバラを楽しんでいるのは自分だけという、一種の優越感が伝わってくる句です。
【NO.15】
『 風受けて 笑いさざめく 桃の薔薇 』
季語:薔薇(夏)
意味:風を受けて笑いさざめくように揺れる桃色のバラだ。
桃色の花びらのバラが笑いさざめくように揺れている様子を詠んだ句です。1本だけではなく多くのバラが植えられているのでしょう。
以上、薔薇(ばら)のおすすめ俳句集でした!
今回は、「薔薇」に関するおすすめ俳句を30句紹介してきました。
薔薇は鮮やかな色と芳醇な香りがある花で、薔薇の俳句には、気品さが感じられるものが多くありました。
ぜひこの機会に「薔薇」の美しさを詠った俳句を作って詠んでみてください。