
五・七・五の十七音で四季の美しさや心情を詠みあげる「俳句」。
中学校や高校の国語の授業でも取り上げられ、なじみのある句も多くあることでしょう。
今回は、数ある名句の中から「まさをなる空よりしだれざくらかな」という富安風生の句を紹介していきます。
つくば、元日真昼
淑気充満
サザンカ、くれなゐ
揺れて、のんびり
生くることのやうやく楽し老の春
(富安風生) pic.twitter.com/9VSJxSdTAK— 風の駅の伝言板/そよかぜ鼓太郎 (@tokyo21211) January 1, 2018
本記事は、「まさをなる空よりしだれざくらかな」の季語や意味・表現技法・鑑賞文・作者について徹底解説していきます。

ぜひ参考にしてみてください。
目次
「まさをなる空よりしだれざくらかな」の作者や季語・意味

まさをなる 空よりしだれ ざくらかな
(読み方:まさをなる そらよりしだれ ざくらかな)
こちらの句の作者は「富安風生(とみやす ふうせい)」です。
大正から昭和にかけて活躍し、おだやかで平明な俳風で知られた俳人です。

(富安風生 出典:俳句俳話ノート)
季語
こちらの句の季語は「しだれざくら」、春の季語です。
桜の花が春の風物として愛されているのは言うまでもありませんが、桜にもいろいろあります。
「しだれざくら」は漢字で書くと「枝垂桜」、枝が下垂してのび、花を咲かせます。

花が滝の流れのようにも見え、上に上に枝を伸ばす桜とはまた違った趣のある桜です。
意味
こちらの句を現代語訳すると・・・
「まっさおな空から、枝垂桜が垂れ下がって咲いている。」
という意味になります。
この句の生まれた背景
こちらの句は、昭和15年(1940年)に刊行された「松籟(しょうらい)」所収の句です。
富安風生が千葉県市川市の弘法寺(ぐほうじ)にある、樹齢400年の桜を見て詠んだ句と言われています。

弘法寺には、この句の句碑も建てられています。
「まさをなる空よりしだれざくらかな」の表現技法

(弘法寺にある樹齢400年の伏姫桜 出典:Wikipedia)
こちらの句で用いられている表現技法は・・・
- 切れ字「かな」句切れなし
- 「そら」と「しだれざくら」の対比
- 「そらよりしだれざくら」の省略
になります。
切れ字「かな」(句切れなし)
俳句には、切れ字というものがよく使われます。
感動の中心を表す言葉で、「かな」「や」「けり」などがその代表的なものです。「…だなあ」というくらいの意味です。
この句では、「しだれざくらかな」の「かな」が切れ字に当たります。
作者は見事なしだれざくらに感動してこの句を詠んだことが分かります。
また、この句は最後に「しだれざくらかな」としめるので、途中で切れるところはありません。そのため、この句は「句切れなし」の句となります。
「そら」と「しだれざくら」の対比
対比とは、複数のものを並べてその共通点や相違点を比べ、それぞれの特性を一層際立たせて印象的に表現する方法です。
この句では「まさおなる空(青く、高く広がる空)」と「しだれざくら(淡い桜色で枝垂れる桜)」が対比されています。

広々と晴れやかで、色彩イメージも豊かな句となっています。
「空よりしだれざくらかな」の省略
省略とは、本来なら入るべき言葉を省略して印象的を強める技法のことです。
「空よりしだれざくら」という部分は、文法的には「空より枝垂れてきている、しだれざくら」、「空より垂れてくる、しだれざくら」という意味になります。
しかし、「しだれざくら」という名詞の一部の「しだれ=枝垂れ」に、「枝垂れてきている、垂れてくる」という動詞としての働きも求めています。
字数の限られた俳句だからこそ、思い切って省略しているのです。

天から桜の枝が伸びてきているような、見事な枝垂桜が目に浮かびます。
「まさをなる空よりしだれざくらかな」の鑑賞文

【まさをなる空よりしだれざくらかな】の句は、春の桜の美しさを素直に詠みこんだ句となっています。
作者の視点は一度「まさおなるそら」、天に上ります。そしてみごとに花開いた「しだれざくら」の枝を伝わるようにすっと降りてきます。
青い空に映える桜の花、まるで青い空のかなたからスッと枝をおろしてきたような大木の桜なのでしょう。
ひらがなが多用されているところも、春の日のやさしい陽光や、穏やかな風を思わせ、やわらかな印象を与えます。
天から伸びてくるような桜と青空の構図が印象的な上に、しだれざくらのみに焦点を当てて詠み切っているところがシンプルな句と言えます。
知っておきたい!しだれ桜に関する有名俳句【5句】

しだれ桜は、薄紅色の花を細くて垂れ下った枝につける桜の一種です。
江戸時代でもしだれ桜は俳句に詠まれており、ソメイヨシノや山桜違って風に揺れたり、下から見ると滝のように見えたりと多くの俳人に愛されてきました。

ここでは、「しだれ桜」に関する有名俳句を5句紹介していきます。
【No.1】加賀千代女
「影は滝 空は花なり 糸桜」
季語:糸桜(春)
意味:影は滝のようで、空は花のような糸桜だ。

「糸桜」はしだれ桜と同じ位置の季語です。しだれ桜の下に入ると、枝の影はまるで滝のように見え、見上げた空は満開の桜の花であると詠んでいます。影と空を詠むことによって作者の立ち位置がしだれ桜の下だとわかる表現です。
【No.2】阿部みどり女
「しだれ桜 日傘の中に あるごとし」
季語:しだれ桜(春)
意味:しだれ桜の下に立っていると、まるで日傘の中に立っているようだ。

満開のしだれ桜の下に立つと、日傘の中にいるように日光が遮られる様子を詠んでいます。覆われている分日傘よりも薄暗いですが、その分桜の花に囲まれている豪華さが感じ取れます。
【No.3】泉鏡花
「曙の 墨絵の雲や 糸ざくら」
季語:糸ざくら(春)
意味:曙の墨絵のような雲がただよっている。あそこに咲いているのは糸桜だろうか。

夜明け前の墨絵のように白黒の濃淡で物が見える時間帯を詠んでいる、絵画のような一句です。空にたなびく雲の色と同じような白い色が、地面に近いところでもたなびいていたのでしょう。「雲や」と一度切ってから糸桜を詠んでいるため、読者の目線が一気に糸桜に注目されるような構成になっています。
【No.4】草間時彦
「枝垂桜 しだれざる枝 なかりけり」
季語:枝垂桜(春)
意味:しだれ桜には、しだれていない枝はないのだ。

しだれ桜の元となった「エドヒガン」という桜はしだれた枝を持たない桜です。一方のしだれ桜は必ず柳のように枝がしだれているので、空に向かってのびる枝はしだれ桜には存在しないのだと詠んでいます。
【No.5】山口誓子
「糸桜 垂れたり吾の 胸にまで」
季語:糸桜(春)
意味:糸桜が私の胸のところにまで垂れている。

しだれ桜の枝が自分の胸のところまで垂れてきているという、長い枝に驚いている一句です。驚いているところから、作者はしだれ桜の真下ではなく少し離れたところにいるのかもしれません。それでも自分の胸に届く場所に枝があることに感嘆しています。
作者「富安風生」の生涯を簡単に紹介!

(富安風生 出典:俳句俳話ノート)
富安風生(とみやすふうせい)は明治18年(1885年)愛知県に生まれました。本名は謙次といいます。
逓信省(かつて日本の郵便や通信を司っていた機関)に勤める官吏として働きながら、大正から昭和にかけて句を詠み続けた俳人です。
高浜虚子に師事し、逓信省の俳誌「若葉」を主宰しました。作風は温和で、穏やかな句を詠む俳人として知られました。
94歳の長寿を保ち、多くの後進を育て、昭和54年(1979年)永眠しました。
富安風生のそのほかの俳句

(富安風生句碑 出典:Wikipedia)
- 生くることやうやく楽し老の春
- 門松やあひだあひだの枯柳
- 廂より垂れたる松の初雀
- 蓬莱を掛けてアトリエ新しく
- 春著かな両手に抱いて重き袖
- 初富士を漁師の中に拝みけり
- 国許の母が来て居て二の替
- 初富士の大きかりける汀かな
- 獅子舞の大きな門をはひりけり
- 松立てゝ漂うてをる小舟かな
- 腕きゝの若手揃ひの二の替
- 渡守正月の靴を穿いてみし
- 道の辺や羽子沈みゐる芹の水
- 羽子板や母が贔屓の歌右衛門
- 出初式梯子の空の上天気
- 鯨船松飾してかかりをり
- うらじろの剪りこぼれをる山路かな
- 万歳の三河の国へ帰省かな
- 初富士や茶山にかくれなし
- 島田髷結ひ馴らすなり福寿草







