「大寒」は二十四節気の1つで、現在のカレンダーでは1月20日・21日のことです。
期間として立春である2月4日頃までを指すこともあります。1年で最も寒さが厳しい時期とされ、俳句では冬の寒さの厳しさが詠まれる特徴のある季語です。
二十四節気 第二十四節気
【大寒】🔹だいかん
[期間] 1月21日~2月3日ごろ
[意味]「寒の内」の中間にあたる
一年で最も寒い「大寒」"寒の入り"の初日が小寒1/6
"寒の内"とは小寒〜節分の前日まで「冬之夕」横山大観 pic.twitter.com/1p5XbSrjaI
— ふわふわ❄️ (@fuwa_miffy) January 21, 2016
今回は、「大寒」をテーマに詠まれたおすすめ有名俳句を30句紹介していきます。
「大寒」の季語を使った有名俳句【前編10句】
【NO.1】小林一茶
『 大寒の 大々とした 月よかな 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日の月が、とても大きく見える夜であることだ。
冬は空気が乾燥しているため、星や月がよく見えます。厳しい寒さの夜の中、とても大きく見える月を眺める現在にも通ずる感覚の一句です。
【NO.2】高浜虚子
『 大寒の 埃の如く 人死ぬる 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日のホコリのように人が死んでいく。
この句は1940年に作られました。日中戦争が始まっていたこともあり、戦争を踏まえた一句なのではないかと言われています。その他の解釈として、「冬の日の埃のように人の死は呆気ないものだ」という無情感を表現したという説もあります。
【NO.3】高浜虚子
『 大寒に まけじと老の 起居(たちい)かな 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の寒い日に、負けじと老人が日常生活を送っていることだ。
「起居」とは日常生活のことです。寒い日は動きがにぶくなり、外に出るのも億劫になるものですが、年をとると冷えで身体が痛むこともあるでしょう。そんな寒さにも負けずにがんばろうという気概を感じる一句です。
【NO.4】村上鬼城
『 大寒や あぶりて食ふ 酒の粕 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒だ。酒粕を炙って食べよう。
酒粕にもいろいろな種類がありますが、板状に成形した酒粕を炙って食べるのが一般的です。おやつにもなりますが、おつまみにすることが多いため、晩酌中の一コマを詠んでいるのかもしれません。
【NO.5】村上鬼城
『 大寒や 下仁田の里の 根深汁 』
季語:大寒(冬)
意味:寒い大寒の日だ。下仁田の里のネギを使った根深汁を作ろう。
「根深汁」とはネギを切った味噌汁のことです。手軽に作れる冬の味覚で、寒い日に暖かい根深汁は身体があたたまることでしょう。
【NO.6】西東三鬼
『 大寒や 転びて諸手 つく悲しさ 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒で寒い日だなぁ。冬の道で転んでしまって手をついて起きる悲しさよ。
ただでさえ寒い日に転んでしまい、周りの人が歩いている中で手をついて起き上がるもの悲しさを詠んだ句です。寒い日は傷もいっそう痛む気がして、余計に悲しくなっているように感じます。
【NO.7】水原秋桜子
『 大寒の 入日(いりひ)野の池を 見失ふ 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日の夕日はまぶしくて、野にある池を見失うほどだ。
【NO.8】鈴木真砂女
『 働いてゐて 大寒もまたたく間 』
季語:大寒(冬)
意味:働いていると、大寒の日を迎えるのもまたたくような間のできごとである。
お正月から20日程度経過している大寒ですが、働いている人にとってはあっという間に感じることでしょう。句またがりにより「働いてゐて」という言葉がより際立っています。
【NO.9】富安風生
『 大寒と 敵(かたき)のごとく 対ひ(むかひ)たり 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の寒さを敵のように迎えうっている。
寒さに対してどうにか対抗しようとする気合いを感じる一句です。あたたかく過ごすための工夫も必要ですが、寒くても負けないという気持ちこそが大事なのかもしれません。
【NO.10】飯田龍太
『 大寒の 一戸もかくれなき 故郷 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の寒い日だ。葉が落ちた木々ばかりの故郷は全てが見通せるほどである。
秋までは葉でよく見えない故郷が、落葉した木々だけになりよく見えた、というのが言葉のとおりに取る意味です。ほかにも、このときの作者は故郷で療養している間に兄を戦争で亡くしているため、「かくれなき」としているものは人間関係や自分自身の心情ではないかとも言われています。
「大寒」の季語を使った有名俳句【中編10句】
【NO.11】桂信子
『 大寒の 古りし(ふりし)手鏡 冴えにけり 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の寒い日は、古びた手鏡も冴えて見えるようだ。
「古る」という表現はあまり見ないものですが、「古い、古びた」という意味の古語になります。冴えた冬の日の光が、古びた手鏡も冴えたものに見せたという一句です。
【NO.12】臼田亞浪
『 薬のんでは 大寒の障子を見てゐる 』
季語:大寒(冬)
意味:薬を飲んでは、大寒の日の障子を見ている。
自由律の俳句です。病床で何もすることがなく、薬を飲んではぼんやりと大寒という寒い日の光を透かす障子を見ている様子を詠んでいます。
【NO.13】日野草城
『 大寒や しづかにけむる 茶碗蒸 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日だなぁ。静かに湯気を放つ茶碗蒸しを食べよう。
【NO.14】福田蓼汀
『 大寒の静夜 梁(はり)びしと鳴り 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の寒くて静かな夜に、家の梁がびしりと鳴った。
梁とは、家の中の水平方向に渡してあるものです。木造建築は乾燥などで音を立てることがありますが、大寒という一番寒い日に鳴る音がどこか寂しい雰囲気を感じます。
【NO.15】原石鼎
『 大寒の 狭庭(さにわ)に花も なかりけり 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒は寒いので、この狭い庭に花も咲いていない。
「狭庭」とは見たとおり狭い庭のことですが、一般的な用語ではありません。自分の家の庭を謙遜する意味とも、小さい坪庭のような庭を表すとも言われています。
【NO.16】石田波郷
『 大寒や なだれて胸に ひびく曲 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒だなぁ。胸になだれ込むように響く曲がある。
寒空の下で妙に胸に響く曲がある、という哀愁を感じさせる一句です。音楽は印象的なできごとや初めて聴いた時のシチュエーションなどを思い起こさせるものですが、冬の特別な思い出がある曲を詠んだのかもしれません。
【NO.17】長谷川双魚
『 大寒に 入らむと町の 空古るぶ 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日をむかえようとする町の空は、どこか古びたような色をしている。
古びたような色の空、という感覚的な表現が印象的です。地域によって冬の空の印象は違うことが多く、1年で最も青空の美しい地域もあれば、常に雪を降らせる雲が覆っている地域もあります。古びたとあるので、雲による灰色の空の地域が連想される句です。
【NO.18】長谷川かな女
『 人恋しき 大寒の夜を 訪はれけり 』
季語:大寒(冬)
意味:人が恋しい寒い大寒の日の夜を訪ねられたのだ。
冬は寒さだけでなく夜が長いこともあり、寂しさを詠んだ俳句も数多くあります。冬の中でも特に寒い大寒という特別な日の夜に誰かと会うことは、ほっとしたできごとだったことでしょう。
【NO.19】角川春樹
『 大寒や 赤くふくらむ 岬の雲 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日だなぁ。岬の向こうの雲が赤くふくらんでいる。
朝日とも夕日とも書かれていないため、読んだ人の想像に訴えかける句になっています。赤くふくらんだ雲の向こうに太陽があることを暗示していることもあり、浮かんでくる風景が人によって異なる句です。
【NO.20】阿波野青畝
『 大寒と いへど健なげの ドアーマン 』
季語:大寒(冬)
意味:どんなに寒い大寒の日といえども、健気にドアマンは外での仕事をしている。
最近は自動ドアの普及により見かけなくなりましたが、百貨店などでは扉を開けるドアマンがいました。どんなに寒くとも仕事のために外で働き続けるドアマンへの気遣いが「健なげの」という表現から読み取れます。
「大寒」の季語を使った有名俳句【後編10句】
【NO.21】芥川龍之介
『 大寒や 羊羹残る 皿の底 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日が来た。羊羹が少し残っている皿の底だ。
羊羹が薄くお皿に残っている様子を詠んだ句です。大寒という寒い日なので、温かいお茶と一緒に食べたのでしょうか。
【NO.22】富安風生
『 大寒の ただ中にある 身の廻り 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒のただ中にある身の回りだ。
「ただ中」と表現していることから、身の回りが忙しくなっているように感じる句です。寒い日はゆっくりと休みたいけれどそうもいかないと嘆いているようにも読める表現になっています。
【NO.23】桂信子
『 大寒の 河みなぎりて 光りけり 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日の川はみなぎって光っている。
冬は雪解け水などがないため、水量が少なくなる川が多いです。しかし、この句で詠まれている川は大寒という冬のただ中でも豊富な水量を誇り、太陽の光を反射してキラキラと流れています。
【NO.24】鈴木真砂女
『 大寒の 鍋ぴかぴかと 磨きあげ 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒なので、鍋をぴかぴかに磨き上げた。
冬といえば鍋料理が増える季節です。せっかくの大寒だからと日頃使っている鍋を磨き上げるように洗った様子を詠んでいます。
【NO.25】久保田万太郎
『 大寒の 星に雪吊り 光りけり 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の夜の星の下で雪吊りが光っている。
「雪吊り」とは樹木を積雪から保護するための円錐上の囲いのことです。星明かりに照らされていたのか、実際にライトアップされていたのか想像が膨らみます。
【NO.26】西東三鬼
『 大寒の 富士へ向つて 舟押し出す 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の日の富士山に向かって船を押し出す。
冬は空気が乾燥しているため、富士山が遠くからでも良く見えます。この句は距離感については説明していないため、近くに見えているのか遠くに見えているのか色々と想像ができる句です。
【NO.27】鈴木真砂女
『 ふるさとの 大寒の水 甘かりき 』
季語:大寒(冬)
意味:故郷の大寒の水は甘かったなぁ。
【NO.28】細見綾子
『 大寒と きくや時計の ネヂ巻きつつ 』
季語:大寒(季語)
意味:時計のネジを巻きながら、今日が大寒だと聞いた。
時計は今は電池式が主流ですが、ネジを巻いて動かす物も多くありました。世間話の一環として「今日は大寒だ」と話しながら巻いていたのでしょう。
【NO.29】長谷川双魚
『 大寒の 吹けばふくほど 帆が白し 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒の風が吹けば吹くほど帆が白く見える。
「白し」とあるので、この句が詠まれた時は吹雪いていたのかもしれません。風の中でどこまでも白く浮かび上がる船の帆がどこか幻想的な一句です。
【NO.30】皆吉爽雨
『 一輪にして 大寒の椿朽つ 』
季語:大寒(冬)
意味:一輪だけ咲いていた椿が大寒の日に朽ちた。
椿の開花時期は12月から4月なので、この句の椿が早めに咲いて最後の花を落としたのだとわかります。「大寒の椿」と詠んでいることから、1番寒いと言われている日に花が落ちたことに注目している一句です。
以上、大寒に関するおすすめ有名俳句集でした!
今回は、大寒を季語に含む有名な俳句を30句紹介してきました。
大寒の俳句は、1年で最も寒いと言われる気候を反映した俳句や立春の訪れを感じる俳句が多いのが特徴です。
二十四節気という季節の区切りでもある大寒の日の様子を、一句詠んでみてはいかがでしょうか。