五・七・五の十七音で情景や心情を詠む俳句は、「句切れ」が重要です。
「句切れ」とは句の切れ目のことで、文章で言えば「。」を付けられる部分です。俳句に「句切れ」を作ることで、句に余韻を残して読み手の想像力を高めたり、作者の感動を強めたりすることができます。
「句切れ」を作るためには、「切れ字」(=「や」「かな」「けり」「ぞ」「か」「よ」など)がよく用いられます。
【切れ字】詠嘆の意を表し言い切った形にする語。
「や」「かな」「けり」など pic.twitter.com/TVCXk0Irly— いながきりえ (@inagakirie) September 5, 2017
今回は、そんな「切れ字」を使ったおすすめ俳句を30句紹介していきます。
切れ字を使った有名俳句【15選】
【NO.1】与謝蕪村
『 菜の花や 月は東に 日は西に 』
季語:菜の花(春)
意味:菜の花が一面に咲いている中、月が東から昇り、太陽は西に沈みかけている。
切れ字「や」を用いて、菜の花の咲く情景が表され、読み手に一面の菜の花を想像させます。「月は東に日は西に」では、月と太陽の壮大な情景が付け加えられ、色彩豊かに春の情景が詠まれた句です。
【NO.2】松尾芭蕉
『 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 』
季語:蝉(夏)
意味:静かだなぁ。岩にしみ入るように蝉が鳴いている。
芭蕉が旅の途中で立石寺という山寺を訪れた際の句です。芭蕉は眼下に見える広大な大地から、現実離れした「閑さ」を感じました。切れ字「や」によって、芭蕉が感じた「閑さ」が強調されています。
【NO.3】中村草田男
『 万緑の 中や吾子の歯 生え初むる 』
季語:万緑(夏)
意味:一面に青々と緑が生い茂る中、我が子にも初めて歯が生え始めてきたことよ。
我が子の成長への喜びと、生命の美しさが「万緑」によって視覚的に表現されています。また、切れ字「や」によって緑が生い茂る情景が表され、「吾子の歯生え初むる」で我が子へと視点が移っています。
【NO.4】飯田蛇笏
『 をりとりて はらりとおもき すゝきかな 』
季語:すすき(秋)
意味:すすきの穂を折り取ると、はらりと手の中に落ちて重さを感じたことだよ。
すべて平仮名であることから、すすきのしなやかさが感じられます。切れ字「かな」は名詞とともに使われやすく、この句では「すすきかな」とされており、作者のすすきへの感動が表現されています。
【NO.5】小林一茶
『 雪とけて 村いっぱいの 子どもかな 』
季語:雪とけ(春)
意味:雪が解けて、子供たちが村いっぱいに外に出て遊んでいることだ。
子どもや動物を愛したと言われる小林一茶の句です。切れ字「かな」によって、子どもへの作者の感動が表現されています。春になって雪が解け、外で嬉しそうに遊ぶ子どもたちの姿が想像できます。
【NO.6】高浜虚子
『 遠山に 日の当たりたる 枯れ野かな 』
季語:枯れ野(冬)
意味:遠くの山には日が当たり明るい様子だが、目の前には暗い枯れ野が広がっているよ。
「枯れ野」は冬枯れの野のこと。遠くに見える山の明るい情景と、近くにある枯れ野の暗い情景が詠まれています。「枯れ野かな」とあるので、感動の中心は「枯れ野」です。枯れ野で感じた寂しさ、遠くに見える光に希望を抱く心情がうかがえます。
【NO.7】与謝蕪村
『 春の海 ひねもすのたり のたりかな 』
季語:春の海(春)
意味:春の海が一日中のたりのたりと波を立てていることよ。
春の海のあたたかさや穏やかさが感じられる句です。「のたりのたり」という擬態語で春の海の穏やかな様子を表しているのが特徴的です。切れ字「かな」により、作者の感動の中心が海の穏やかな様子にあることが分かります。
【NO.8】正岡子規
『 いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 』
季語:雪(冬)
意味:降り積もる雪の深さを、何度も尋ねたことですよ。
病床で寝たきりの子規が、看病する母と妹に降り積もる雪の様子を尋ねたときの句です。「いくたびも」に雪への好奇心が表れています。また、切れ字「けり」が言い切りの形で強い雰囲気を出し、句全体をまとめています。
【NO.9】河東碧梧桐
『 赤い椿 白い椿と 落ちにけり 』
季語:椿(春)
意味:赤い椿と白い椿が、樹の下に色鮮やかな様子で落ちている。
この句は、地面に落ちている花を詠んだという解釈以外に、目の前で花が落ちる様子を詠んだとする解釈もあります。赤と白の色彩が印象的な美しい句です。切れ字「けり」で全体がまとまり、赤と白の椿がより強調されています。
【NO.10】中村草田男
『 降る雪や 明治は遠く なりにけり 』
季語:雪(冬)
意味:雪が降ってきた。いつのまにか明治の時代は遠く過ぎ去ってしまったのだなぁ。
俳句では切れ字は1回とされていますが、この句では「や」「けり」が使われています。「降る雪や」で目の前の情景を詠み、「明治は遠くなりにけり」で思いを述べて、二つの感動を重ねています。
【NO.11】水原秋桜子
『 雛壇や 襖はらひて はるかより 』
季語:雛(春)
意味:ひな壇があるなぁ。襖を取り払われて遥か遠くから見える。
昔の日本家屋では襖を取り外すと大広間にすることができました。この句では遠くからでも見える立派なひな壇に感動している様子が「雛壇や」という切れ字から伺えます。
【NO.12】正岡子規
『 夏草や ベースボールの 人遠し 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が生えているなぁ。ベースボールをしている人たちが遠くに見える。
作詞者は若い頃に野球をよくしていましたが、この句が詠まれた頃には病で出来なくなっていました。「夏草や」と切れ字を使っているところは、かつての自分自身を思い浮かべているのかもしれません。
【NO.13】内藤鳴雪
『 もらひくる 茶碗の中の 金魚かな 』
季語:金魚(夏)
意味:もらってきた金魚は茶碗の中で泳いでいる。
茶碗の中にいる金魚に着目している一句です。適当な入れ物が無かったのか、茶碗という食卓に並ぶ容器で金魚をもらって来ているところに「かな」という切れ字があるため、注目を集めます。
【NO.14】宝井其角
『 名月や 畳の上に 松の影 』
季語:名月(秋)
意味:名月が輝いているなぁ。畳の上には松の影が落ちている。
「名月や」と区切ることで、月の光が明るい夜であることを示しています。畳の上には近くにある松の影が落ちていて、光と影の対照的な風景を表現することに成功している名句です。
【NO.15】杉田久女
『 鶴舞ふや 日は金色の 雲を得て 』
季語:鶴(冬)
意味:鶴が舞っているなぁ。太陽は金色のさに光る雲を得ている。
鶴が舞っている一方で、太陽の近くにかかる雲が金色に輝いているというおめでたい一句です。鶴は地上で舞っていたのか、空を舞っていたのか、想像が膨らみます。
切れ字を使った一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 春雷や 身体ぶつけて 入るドア 』
季語:春雷(春)
「春雷」は3月から5月ごろに発生する雷。「春雷や」で春雷の情景が表され、家の中に入ろうとする様子が「身体をぶつけて入るドア」という語で描写されています。急いで家の中に入ろうとする様子が想像できます。
【NO.2】
『 卒業の 日やハンカチに 馬が跳ね 』
季語:卒業(春)
卒業式の日に別れを惜しむ気持ちや涙を流す姿を詠んだ句です。悲しみと寂しさで声をあげて泣いている様子を、馬が跳ねる時の鳴き声にたとえて「ハンカチに馬が跳ね」と表現しています。
【NO.3】
『 菜の花や 幸福(しあわせ)ですと 笑いをり 』
季語:菜の花(春)
擬人法を用いて、菜の花が咲く様子が詠まれています。黄色くて明るい菜の花が、まるで「幸せです」と言って笑っているように見えたのでしょう。
【NO.4】
『 五月雨や 祖父の白髪と 将棋盤 』
季語:五月雨(夏)
「五月雨や」で雨の降る情景が表され、「白髪」という言葉で祖父の将棋盤に向かう後姿を読み手に想像させます。二つの情景が上手に詠まれた句です。
【NO.5】
『 部活動 引退の日や 赤とんぼ 』
季語:赤とんぼ(秋)
部活動を引退する時の、切ないような寂しいような気持ちが伝わってくる句です。赤とんぼが飛んでいるのを見ながら、感傷に浸る作者の姿が浮かんできます。
【NO.6】
『 面をつけ 死を覚悟する 暑さかな 』
季語:暑さ(夏)
「面」は剣道の面か、もしくは野球のキャッチャーの面のことでしょう。作者が夏の暑さの中で懸命にスポーツに取り組む姿が浮かびます。「死を覚悟」や切れ字「かな」で暑さが強調されています。
【NO.7】
『 白い息 もうすぐ降るよの 合図かな 』
季語:白い息(冬)
「白い息」で寒さが連想され、さらに「もうすぐ降るよ」で雪を連想させます。作者の、雪の予感にわくわくする気持ちが詠まれています。
【NO.8】
『 夏服の 悟られそうな 鼓動かな 』
季語:夏服(夏)
切れ字によって「鼓動」がより強調され、作者のドキドキが伝わってくる句です。「悟られそうな」という表現から、相手へ恋心を抱いていると想像できます。
【NO.9】
『 秋草に なら泣く訳を 話そうか 』
季語:秋草(秋)
「秋風になら」から、親や友達には話せない胸の内を抱える思春期の心がうかがえます。また、「話そうか」に作者が秋草に心を許す心情が詠まれています。
【NO.10】
『 夏の月 牛のどさりと 生まれけり 』
季語:夏の月(夏)
「どさり」という子牛が生まれ落ちた時の音の表現が印象的な句です。月夜に生まれるところに神秘的なものも感じられます。切れ字「けり」で全体がまとまっています。
【NO.11】
『 咲くと散る 合間で光る 桜かな 』
季語:桜(春)
咲けば散っていく、その合間で輝く桜の美しさを称える詠嘆の「かな」です。咲いてすぐ散ってしまう桜ですが、輝くばかりに咲き誇る様子も散る様子もまた美しいと詠んでいます。
【NO.12】
『 夏草や あらゆる隙間 我がものに 』
季語:夏草(夏)
夏草があらゆる隙間を我が物顔のように生えてくる様子を詠んだ句です。時にアスファルトすら割って生えてくる夏草の生命力への感嘆が「や」に込められています。
【NO.13】
『 名月や ウサギの餅つき 見た人よ 』
季語:名月(秋)
あの美しい名月にウサギが餅を付いているところを見た人はどのような人だったのだろう、と疑問におもっています。「名月や」と区切ることで、月の美しさを称えつつ模様の不思議に思いを馳せている一句です。
【NO.14】
『 古り(ふり)てなを ゆかしき雑木 紅葉かな 』
季語:雑木紅葉(秋)
古びてなお趣のある雑木林の紅葉を賞賛している一句です。雑木の大木が並ぶ林の中で、侘び寂びのような趣を感じ取っていたのでしょうか。
【NO.15】
『 北国や 妖精丸けり 雪景色 』
季語:雪景色(冬)
北国の妖精とはシマエナガを指しています。北国では妖精のような可愛らしい鳥も丸く雪景色に溶け込んでいるのかと感嘆している様子が「北国や」の切れ字に表れている句です。
以上、切れ字を使ったオススメ俳句集でした!
今回は、切れ字を使った俳句を30句紹介しました。
切れ字を使うことで、俳句に詠まれた情景や心情がより強調されます。また、切れ字によって「切れ」を作り余韻を残すことで、読み手の想像力も高めます。
今回ご紹介した俳句を参考にして、切れ字を使った俳句を詠んでみてはいかがでしょうか。