滝はさまざまな風景の俳句に詠まれる題材ですが、季語としては「夏」になります。
「滝のような雨」など例えに使われることも多く、俳句でも例外ではありません。
今回は、「滝(たき)」を季語に使った有名俳句を20句ご紹介していきます。
ほろほろと 山吹散るか 滝の音(松尾芭蕉) #俳句 #春 pic.twitter.com/Xa8I3Y3PAw
— iTo (@itoudoor) March 15, 2016
滝を季語に使った有名俳句集【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 しばらくは 滝にこもるや 夏(げ)の初め 』
季語:夏(夏)
意味:少しの間滝の裏の洞窟にこもっていたら、まるで夏の初めに僧侶が行う修行のようだった。
僧侶は夏の間に一箇所に留まり修行する「夏行」を行います。芭蕉が栃木県にある「裏見の滝」という滝の裏の洞窟にいたときの句ですが、まるで夏行を行っているような気分になったという意味の俳句です。
【NO.2】松尾芭蕉
『 酒飲みに 語らんかかる 滝の花 』
季語:滝(夏)
意味:酒飲みの友人たちに聞かせたいものだ、見事な龍門の滝の上にかかる花の眺めを。
倒置法を用いた一句です。この滝は奈良県吉野にある「龍門の滝」のことで、酒と滝を好んだ古代中国の詩人李白にちなんだ名が付けられています。このときに咲いていた花は吉野の地であるため桜だと思われますが、前書きなどで言及はされていません。
【NO.3】与謝蕪村
『 をちこちに 滝の音聞く 若葉かな 』
季語:若葉(夏)
意味:あちらこちらに滝の音が聞こえる若葉が萌え出た山であることよ。
「をちこち」とは「遠近」と書く古語で、あちらこちらという意味です。若葉で視界がさえぎられているため、あちこちから滝の流れる音のする初夏のさわやかな夏の風景が思い浮かびます。
【NO.4】小林一茶
『 一尺の 滝も涼しや 心太(ところてん) 』
季語:心太(夏)
意味:30cmほどの滝のように落ちてくる滝も涼しいところだ。ところてんを食べよう。
一尺とはだいたい30cmほどの長さのことです。ここではところてんが押し出される様子を滝に例えていて、30cmほどの高さから落ちてくる滝のように透明なところてんについて詠んでいます。
【NO.5】宝井其角
『 奥や滝 雲に涼しき 谷の声 』
季語:滝(三夏)
意味:谷の奥にある滝よ。かかっている雲が日差しをさえぎって涼しい谷の物音であることよ。
日本の山にある渓谷は、滝をともなう急な川であることが多いです。そのため、谷があるということは見えていなくても必ず谷の奥に滝が存在します。谷間に聞こえる音は、川の流れる音の他に滝から水が落ちる音もあるという聴覚に特化した俳句です。
【NO.6】正岡子規
『 秋の山 滝を残して 紅葉哉 』
季語:秋の山(秋)
意味:秋の山は、水の流れる滝を残して紅葉になったことだ。
秋の山は広葉樹が見事に紅葉します。滝の部分だけが岩肌として露出して、そこだけがまるで取り残されたように黒く見えている様子を描いた写実的な俳句です。
【NO.7】正岡子規
『 水飯や 白糸の滝を 汲んで来る 』
季語:水飯(夏)
意味:水飯を作ろう。白糸の滝の水を汲んで来よう。
【NO.8】高浜虚子
『 今一つ 奥なる滝に 九十九折(つづらおり) 』
季語:滝(夏)
意味:今ひとつだけ奥にある滝の前につづら折りの坂がある。
九十九折とは幾重にもくねった坂道のことで、山の奥にある滝にたどり着くための山道を表現しています。登山道は転落の危険を減らすためにつづら折りの坂になっていることが多いため、この滝へ向かう道もそのような登山道だったのでしょう。
【NO.9】高浜虚子
『 神にませば まこと美はし(うるわし) 那智の滝 』
季語:滝(夏)
意味:神に申し上げれば、神がおわす誠に美しい那智の滝であることだ。
「神にませば」の「ませば」には「申す」と「在す」の2つの意味が掛かっています。那智の滝は和歌山県にある滝で、御神体として崇められているのが特徴です。平仮名で表現されているため、どちらの意味にも取れるようになっています。
【NO.10】山口誓子
『 滝落ちて 直ぐ透き通る 神の淵 』
季語:滝(夏)
意味:滝から水が落ちても、すぐに透き通る神のいるような淵であることだ。
滝つぼは勢いよく水が落下してくるため、泡で白く濁っているものがほとんどです。作者が遭遇したこの滝つぼは、水が落下してもすぐに澄んで透明になるため、神がいるに違いないと考えて生まれた俳句になっています。
滝を季語に使った有名俳句集【後半10句】
【NO.11】阿部みどり女
『 下駄のまま 滝のながれを 歩き見し 』
季語:滝(夏)
意味:下駄のまま滝の流れを歩いて見ている。
滝は観光地になっていることが多く、遊歩道などで歩いて見て楽しめるスポットです。ここでは宿に泊まっているのか、外行きの靴ではなく下駄のままぶらりと散策に出たことが伺えます。
【NO.12】服部嵐雪
『 名月は 絶えたる滝の ひかりかな 』
季語:名月(秋)
意味:あの名月は、流れが絶えた滝から落ちてくる光であるようだ。
滝は土砂崩れなどで川の流れが変わったり、降水量によって一時的に流れが絶えたりします。この句は秋になって流れの絶えた滝で、名月の光が滝になって落ちてくる様子を表現した俳句です。
【NO.13】加賀千代女
『 影は滝 空は花なり 糸桜 』
季語:糸桜(春)
意味:影は滝のよう、空を見上げれば花がある糸桜であることだ。
【NO.14】飯田蛇笏
『 滝しぶき ほたる火にじむ ほとりかな 』
季語:ほたる火(夏)
意味:滝しぶきで蛍の光がにじむ川のほとりであることだ。
蛍が舞う夜の川辺での一コマです。滝のしぶきで水が跳ね、せっかくの蛍の光がにじんで見えてしまうという幻想的な光景を詠んでいます。
【NO.15】高浜年尾
『 滝壺の 水に遊べる 日の斑かな 』
季語:滝(夏)
意味:滝つぼの水にまるで遊んでいるように日差しが斑になって浮かんでいる。
日の光を擬人化した表現になっています。滝つぼの水に差し込む木漏れ日が、風に揺れる木々でまるで遊んでいるようにちらちらと動いている様子を詠んだ句です。
【NO.16】水原秋桜子
『 滝落ちて 群青世界 とどろけり 』
季語:滝(夏)
意味:滝の水が落ちてきて、群青色に染まっている世界が轟いている。
「群青世界」という表現が目を引く俳句です。群青色の深い滝つぼに滝の水が落ちてきて、轟音がしているという視覚と聴覚に訴えかけてくる表現になっています。
【NO.17】川端茅舎
『 滝行者 今あつあつの 昆布茶飲む 』
季語:滝(夏)
意味:滝行をしていた行者が、今熱々のこんぶ茶を飲んで一休みしている。
滝行という浮世離れした修行を行っていた行者が、こんぶ茶という世俗の飲み物を飲んで一休みしているという面白い対比の俳句です。冷たい水とあたたかいこんぶ茶でも対比されており、ひと時の安らぎを感じます。
【NO.18】稲畑汀子
『 滝道を 行くに似合はぬ 靴なれど 』
季語:滝(夏)
意味:滝のある道を行くには似合わない靴だけど、せっかくだからこの靴を履いて散策しよう。
遊歩道のように整備されていても、岩肌や山道に近く歩くのが大変な道が多くあります。作者はお気に入りのオシャレな靴を履いていたのでしょうか、似合わないけれどこの靴で散策したいのだという気持ちがよく表れた俳句です。
【NO.19】山口草堂
『 行く秋の 滝分れ落つ 吹かれ落つ 』
季語:行く秋(秋)
意味:秋の終わりに、滝の水が分かれて落ちていく。風に吹かれて落ちていく。
紅葉の季節が終わり、葉の落ちた冬にさしかかろうとする寂しさを感じる句です。「分かれ落つ」「吹かれ落つ」と2回繰り返すことによって、荒涼とした山の風景をよく表しています。
【NO.20】星野立子
『 初冬や どこに立ちても 見ゆる滝 』
季語:初冬(冬)
意味:初冬がきた。山のどこに立っていても見える滝よ。
枝葉が生い茂っている春から秋の山では見えなかった滝が、葉が落ちて枯れた冬になるとよく見えるようになるという、季節の移ろいを感じさせる一句です。「初冬や」で感嘆の表現を、「見ゆる滝」の体言止めで滝を強調しています。
以上、滝(たき)を季語に使った有名俳句集でした!
今回は、滝を季語に使った有名俳句を20句紹介してきました。
滝は季節を通して好まれる題材であるとともに、何かに例えられることの多い題材でもあります。
水だけではなく花や食べ物にまで例えられるほど多彩な表現の幅を持つ滝を使って、ぜひ一句詠んでみてください。