夏の暑い時期に涼しげな音を立てる風鈴は、まさに「夏の風物詩」といえるものでしょう。
風鈴は夏の季語で、風などの気象にからめた句が多く詠まれています。
* 風鈴
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風鈴に
涼しき風の
姿かな
(正岡子規)
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. https://t.co/tkABEBazRv pic.twitter.com/eP0H7tQtaV— Jin (@Jin2271) August 26, 2017
今回は、日本の夏の風物詩「風鈴」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介します。
日本の夏の風物詩「風鈴」に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】与謝蕪村
『 風鈴や 花にはつらき 風ながら 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴っているなぁ。咲いている花には散ってしまいそうなほど辛い風だろうけど。
風鈴は風を受けて鳴るものです。そよ風のような風であれば花が散ってしまうほどの風ではありませんが、「つらき」と表現することで相当な強風が吹いていることを間接的に表現しています。
【NO.2】池西言水
『 ふかぬ日の 風鈴は蜂の やどりかな 』
季語:風鈴(夏)
意味:風が吹かない日の風鈴は鳴らないので、蜂が羽根を休める休憩所にしていることだ。
風のない日の風鈴は、虫にとって適度に日光を避けつつ隠れられる場所として絶好の休憩所でしょう。音だけでなく風鈴の周りの生き物も観察している、作者の目線の鋭さがよくわかる句です。
【NO.3】正岡子規
『 風鈴の ほのかにすずし 竹の奥 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴るとほのかに涼しく思える竹林の奥の家だ。
竹林は葉が密集しているため、なかなか風が届かないという句もあるほど静かな場所です。そんな場所でも風鈴が鳴ると涼しさを感じるという、真夏の中の涼を感じる俳句になっています。
【NO.4】高浜虚子
『 風鈴に 大きな月の かかりけり 』
季語:風鈴(夏)
意味:軒先に吊られている風鈴に、大きな月がかかっていた。
夏の夜の風景を詠んだ句です。軒先に見える風鈴の向こう側に、大きな月がかかっています。大きな、と表現されていることから、ここで詠まれているのは満月でしょう。
【NO.5】日野草城
『 風鈴や 遠くどよもす はたた神 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴っているなぁ。遠くから激しい雷の音が響いている。
「どよもす」は響くこと、「はたた神」とは激しい雷の意味です。風鈴を鳴らしている風が、やがて作者のところまで雷雲を運んでくる前触れのような胸騒ぎを感じます。
【NO.6】水原秋桜子
『 姿見に 見ゆる風鈴 鳴りにけり 』
季語:風鈴(夏)
意味:姿見にうつっている風鈴が鳴っていた。
鏡を使って身支度をしている最中を詠んでいます。ただ見たものをそのまま詠むのではなく、姿見越しに見た風景を詠んだところに洒落っ気を感じる句です。
【NO.7】野村喜舟
『 風鈴や わが家へおろす 天津風 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴っている。我が家へ空高く吹き抜ける天津風をおろす音色だ。
【NO.8】山口誓子
『 風鈴を 吊る海よりの 広き風 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴を吊ると、海から渡ってくる広い風で音が鳴る。
単に海風と書くのではなく、「広い風」と表現することによって海からの強い風を連想させます。海沿いの家の軒先に風鈴が吊られている風景が浮かんでくる句です。
【NO.9】山口青邨
『 風鈴の いづこともなく 鳴るいほり 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴がどこということもなく鳴っている庵である。
「いづこともなく」はどこということもなくという意味です。小さな庵で誰に聞かせることもなく風鈴が鳴っている、侘びの精神を感じさせます。
【NO.10】飯田蛇笏
『 風鈴屋 老の弱腰 たてにけり 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴屋の老人が、弱った足腰で立ったことだ。
風鈴屋は今では見かけることが少なくなりましたが、屋台などに売り物の風鈴を吊るして売り歩く人のことです。老人が弱った足腰をおして、風鈴を売り歩いています。
日本の夏の風物詩「風鈴」に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】久保田万太郎
『 風鈴や さして来りし あかるき日 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴っているなぁ。くもった空に明るい日の光がさして来た。
晴天でも風鈴を鳴らす風は吹きますが、夏といえば夕立がよく起きます。夕立のときの風で鳴っていた風鈴に耳を傾けていたら、雲が晴れてきた風景を詠んだ句です。
【NO.12】中村汀女
『 風鈴の そろはぬ音なれ 二つ吊り 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴は2つ吊っても音が揃わないものだ。
風鈴は同じ場所に2つ吊っても、音色が揃いません。風鈴の形や風の入り方などいろいろな理由により、揃わない音色を聞いているのは面白いものです。
【NO.13】室生犀星
『 山ざとに 風鈴きけば さびしもよ 』
季語:風鈴(夏)
意味:山里で風鈴の音色を聞いているとなんと寂しいことだろう。
【NO.14】高橋淡路女
『 風鈴に 起きて寝ざめの よき子かな 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴の音が鳴って起きた子の寝覚めがとても良いことだ。
風鈴のさわやかな音で起きた子供がすっきりとした目覚めをむかえたという、日常の一コマを詠んだ句です。音のさわやかさと子供の良い目覚めを掛けています。
【NO.15】鈴木花蓑
『 風鈴や 家新しき 木の匂ひ 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴が鳴っているなぁ。新しく建てた家が、新しい木の匂いをさせている。
新築の家に吊るした風鈴の音と、新築特有の新しい木の匂いという聴覚と嗅覚に訴えかける句です。真新しい家に調度品をあれこれ置いていく楽しさを感じさせます。
【NO.16】原石鼎
『 風鈴や 畑づかれの あふむけに 』
季語:風鈴(夏)
意味:風鈴の音がするなぁ。畑仕事で疲れて仰向けになっている私のところまでよく聞こえてくる。
家の近くで行っている畑仕事の休憩時間の一コマでしょうか。仰向けになって休んでいる作者の耳にどこからともなく風鈴の音が聞こえてきて、よい休息の時間になっていることが伺える句です。
【NO.17】中村草太男
『 野の軒の 風鈴の音や 世の広さ 』
季語:風鈴(夏)
意味:野原に面した軒先に吊るした風鈴の音がする。この音が聞こえないくらい世の中は広いものだなぁ。
軒先の風鈴の音が届く範囲だろう「野」と、届かないだろう「世」の広さを対比した俳句です。音で世の中の広さを表す面白い表現になっています。
【NO.18】荻原井泉水
『 月光ほろほろ 風鈴に戯れ 』
季語:風鈴(夏)
意味:夏の夜空をほろほろと照らす月光が、まるで風鈴と戯れているようだ。
自由律の俳句です。「ほろほろ」というやわらかいものに使う表現が、風鈴を照らすやわらかい月の光を際立たせています。
【NO.19】平畑静塔
『 陶(すえ)の町 風鈴耳から 耳へ鳴る 』
季語:風鈴(夏)
意味:陶器作りで有名な町だ。陶器製の風鈴が耳から耳へと鳴っている。
「陶の町」とは陶器を作っている街です。風鈴は鋳物と陶磁器のものやガラス製のものがあります。この町では陶器製の風鈴を作っているため、あちこちで売り物の風鈴が鳴っているのでしょう。
【NO.20】高浜年尾
『 風鈴の もとに静かに 居給へり 』
季語:風鈴(夏)
意味:鳴っている風鈴のもとに静かにいらっしゃる人がいる。
「給へり」は尊敬語のため、誰か目上の人が風鈴の下で静かにしている様子を詠んでいます。坐禅や瞑想をしているような静謐さを感じさせる句です。
以上、風鈴に関する有名俳句でした!
今回は、風鈴を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介してきました。
風鈴の音色そのもの以外にも、風や天気の様子、町の様子などいろいろなものを詠めるのが風鈴の魅力です。
ご自宅でも風鈴を吊るして、音色に耳を傾けながら一句詠んでみてはいかがでしょうか。