卯の花は、ユキノシタ科ウツギ属のウツギの白い花です。
卯の花は「卯月」という旧暦4月の異称にもなっているとおり、現在では5月中旬から6月頃に花を咲かせます。俳句においては「初夏の季語」となっています。
【卯の花:5月の季語】空木の花のこと。枝先に円錐花序をつけ、多くの白い花を咲かせる。花言葉は、夏の訪れ、秘めた恋。
卯の花も白し夜なかの天の川(池西言水)
卯の花のこぼるる蕗の広葉かな(与謝蕪村) pic.twitter.com/R7MnLOWEw3— うちゆう (@nousagiruns) May 16, 2015
今回は、「小卯の花」に関する有名俳句を20句ご紹介します。
卯の花に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】河合曽良
『 卯の花に 兼房見ゆる 白毛かな 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花の白さに、老齢ゆえに白髪を振り乱して戦っただろう増尾兼房が思い起こされる。
「増尾兼房」とは平安後期の武将で、最後まで源義経に付き従った武将の1人です。『義経記』と呼ばれる軍記物に出てくる架空の人物ですが、平泉の地に咲く白い花に兼房を思い出して詠んでいます。
【NO.2】河合曽良
『 卯の花を かざしに関の 晴着かな 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花を髪に飾るかざしにして白河関を越える晴れ着にしましょう。
「奥の細道」で白河の関を越える際に詠まれた句です。古典にも関所を越えるときは正装するべきであるとあったことから、白い卯の花を飾って旅の中の晴れ着としています。
【NO.3】松尾芭蕉
『 卯の花や くらき柳の 及び腰 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いているなぁ。夜だと黒い影に見える柳の幹が及び腰のように曲がりくねって見える。
夜中の白い卯の花と、黒く見える柳を擬人化して対比した一句です。夜目にぼんやりと浮かび上がる白い花と、そんな花に及び腰になっている柳というユーモアのある表現になっています。
【NO.4】小林一茶
『 卯の花や 水の明りに なく蛙 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いている。白い花が川辺に映り、うっすらと白い水明かりの中で蛙が鳴いている。
「水の明かり」とあるため、薄暗い中でほんのりとした明るさを感じます。夕暮れか朝方か、白い卯の花が映える中で鳴く蛙に思いを馳せた句です。
【NO.5】小林一茶
『 卯の花や 伏見へ通ふ 犬の道 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いているなぁ。毎日のように伏見稲荷へ向かう犬の通り道だ。
「伏見」と読んで連想するのは京都府の伏見稲荷でしょう。狐ではなく犬が毎日のように向かう様子を見て、どんな用事があるのか考えることを楽しんでいます。
【NO.6】向井去来
『 卯の花の 絶え間たたかん 闇の門 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が白く咲き乱れている絶え間が門であろうと叩く闇の中である。
垣根に卯の花が密集して咲いていて、どこが門か分からない夜間の様子を詠んでいます。卯の花が咲いていない場所が門だろうとあたりをつけて叩いているユーモアのある一句です。
【NO.7】加賀千代女
『 卯花や 垣の結目も 降かくし 』
季語:卯花(夏)
意味:卯の花がたくさん咲いている。垣根の結目も卯の花が降ってくるように咲いて隠してしまっている。
【NO.8】森川許六
『 卯の花に 蘆毛の馬の 夜明哉 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲く時期に、芦毛の馬に乗って夜明けに出発することだ。
「蘆毛(あしげ)」とは、馬の毛色のひとつ。一般に灰色の馬のことを指し、肌は黒っぽく、生えている毛は白いことが多いです。こちらの句は、作者が彦根への旅をしている時に詠まれた句です。5月6日の朝のことで、これから江戸を出立する作者の意気込みを感じます。
【NO.9】加藤暁台
『 卯の花の 草にかかれり にはか水 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花の葉に急に水量が増した水がかかっている。
「にはか水」とは急に水量を増す水のことです。川沿いの花を詠んだのか、それとも雨が降った中で詠んだのでしょうか。花に直接水がかかるのではなく、葉にかかることで急な水の気配を表現しています。
【NO.10】池西言水
『 卯の花も 白し夜半の 天河 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花も白く浮かび上がる、夜中の天の川の見事さよ。
卯の花の白さと天の川の白さを対比しています。「天河」は秋の季語ですが、ここでは卯の花の白さを際立たせる役目を果たしているため季語は「卯の花」です。
卯の花に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】井上井月
『 卯の花に 三日月沈む 垣根哉 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花がたくさん咲いている中に三日月が沈んでいく垣根であるなぁ。
三日月の月の入りは21時頃のため、この句は夕方から夜にかけて詠まれています。垣根いっぱいに咲いた卯の花の中に三日月が沈んでいく幻想的な風景を詠んでいます。
【NO.12】正岡子規
『 卯の花に かくるる庵の 夜明哉 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花がたくさん咲いて、その中に隠れている庵の夜明けが来たなぁ。
こちらは卯の花で作った垣根の中にある庵を詠んだ句です。夜明けの光に白い花がぼんやりと浮かび上がっています。
【NO.13】正岡子規
『 おしあふて 又卯の花の 咲きこぼれ 』
季語:卯の花(夏)
意味:押し合いをするようにまた卯の花が咲きこぼれている。
【NO.14】高浜虚子
『 卯の花や 仏も願はず 隠れ住む 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いているなぁ。仏にも願わずに隠れ住んでいる。
卯の花から仏花を連想しています。出家しているわけではないけれど、隠遁生活を送っている自分を客観視した一句です。
【NO.15】星野立子
『 卯の花の 咲けばそぞろに 旅心 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲けば心はそぞろになり旅をしたくなる。
卯の花が咲く5月頃は初夏の陽気となり、絶好の旅日和となります。そんな初夏の訪れを告げる花を見ると、そわそわとする心が抑えられなくなる様子を詠んだ句です。
【NO.16】水原秋桜子
『 卯の花や 判官主従 のこす笈(おい) 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いているなぁ。義経主従が残した笈を見ている。
この句は福島県にある医王寺で詠まれた句です。このお寺には源義経と弁慶主従が使ったとされる経文を背負う笈が残されていて、寺の境内には松尾芭蕉も同じ笈を見た際に詠んだ句碑も建てられています。
【NO.17】山口青邨
『 卯の花や 厨の灯 今は消し 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲く時期だなぁ。キッチンの明かりを今は消して鑑賞しよう。
「厨」は今で言うキッチンのことです。その日の食事の支度は終わったのでしょう、ゆっくりと明かりを消して夜に浮かぶ白い花を鑑賞しています。
【NO.18】上村占
『 卯の花に ねむりの浅き 旅をゆく 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いている頃に、眠りが浅いほど楽しい旅をする。
旅行が楽しみでなかなか眠れない体験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。満開の卯の花が旅の楽しみを誘っています。
【NO.19】檀一雄
『 卯の花に 酔はねば花も 暮れかぬる 』
季語:卯の花(夏)
意味:美しく咲く卯の花に酔わねば花も日暮れを迎えられない。
「暮れかぬる」は春の季語と認定する歳時記もあり、日暮れが遅くなることを意味します。この句では花という単語も合わせて春のような印象を持たせますが、「卯の花」と指定することによって初夏であることを強調する一句です。
【NO.20】角川春樹
『 卯の花や きのふの旅の つづきをり 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花が咲いているなぁ。昨日の旅の続きをしている。
昨日の旅の続きという表現から、実際に旅をしている最中の句とも、空想の中での旅をしている句とも解釈できます。満開の卯の花に誘われて、どこか旅に行ってみたくなる句です。
以上、卯の花に関する有名俳句でした!
今回は、卯の花に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
旅をするには良い気候である初夏の象徴だけあり、旅先での出来事を詠む俳句が多い印象です。
また、白い花が咲き誇る様子をほかの何かに例えられることも多い季語になっています。
初夏の新緑の中で咲いている白い卯の花を見つけたら、ぜひ一句詠んでみてください。