基本的に、「五、七、五」の十七音が定型とされる俳句ですが、字余り・字足らずという技法があります。
この字余り・字足らずは、初心者の方にとってとても難しい技法で、「なぜ字を余らせたり、足りなくするの?」と疑問に思う人も多いと思います。
基本的にリズム感とかの問題なんだろうけど、短歌や俳句でどういう時に字足らずや字余りがよしとされるのかわりと謎。なんか感覚的な基準があるんだろうけど。
— 田蛙澄 (@taatooru) September 25, 2018
また、俳句に何文字まで増やしたり、減らしたりすることができるのか気になる人もいらっしゃると思います。
そこで今回は、上級者向けと言われる『字余り・字足らず』の取り入れ方やその効果を、有名句の例を交えながら、簡単にわかりやすく解説していきます。
目次
俳句の字余り・字足らずとは?
字余りとは、「五、七、五」(上五、中七、下五)のうちのいずれかが定型より多いこと、または合計が十七音より多いことをいいます。
字足らずとはその逆で、音の数が定型より少ないことをいいます。
字余り・字足らずの例
- 字余り・・・「6・7・5」「5・7・6」「7・7・5」
- 字足らず・・・「4・7・5」「5・7・4」「5・6・5」
「五、七、五」の定型にのっとると、例えば次のような句になります。
『 古池や蛙飛び込む水の音 』 By 松尾芭蕉
5:ふるいけや
7:かわずとびこむ
5:みずのおと
テンポよく、そして日本人の耳にとても馴染み深い音の並びですよね。
次に、字余り・字足らずを用いた場合はどうでしょう。
はじめに「字余り」の例についてみていきましょう。
『 さればここに談林の木あり梅の花 』 By 西山宗因
6:さればここに
8:だんりんのきあり
5:うめのはな
こちらの句は、上五と中七が字余りとなっており、「さればここに」の印象が強く、作者の意志が読み取れます。
そのため、次の「談林の木あり」が八音でも、すっきりとまとまっていると感じます。
次に「字足らず」の例を見ていきましょう。
『 こんなよい月を一人で見て寝る 』 By 尾崎放哉
6:こんなよい
8:つきをひとりで
5:みてねる
こちらの句は、下五が「見て寝る」と四音で字足らずとなっています。
四音のあっさりとした印象と、「寝る」と終止形で結んでいることにより、一層の寂しさが感じられます。(※こちらの句は、自由律句とする意見もあります)
【CHECK!!】
字余り・字足らずの他にも、定型にとらわれない「自由律」や、二句の区別をつけない「句またがり」という技法があります。これらは混同してしまいがちですが、やはり区別すべきであり、それぞれの用法を押さえた上で効果的に取り入れたいものです。
字余り・字足らずの効果とは?
字余り・字足らずを用いた俳句では、定型に比べ音の増減があることで、少なからず聞き手に違和感を与えます。
これこそがこの技法の効果と言え、作者の伝えたい言葉や情景を浮かび上がらせ、インパクトのある句になります。
前項での例を用いて説明します。
『 さればここに談林*の木あり梅の花 』 By 西山宗因
意味:私たちがここに集まった。梅のように素晴らしい俳句の花を咲かせよう
(※仏教の言葉で、僧たちの寮のようなものをいう)
こちらは、作者の西山宗因が、俳諧たちの集う会にて詠んだ挨拶の句です。
字余りとなる上五の「さればここに」が、同じ意志のもと同じ場所に集まった仲間を歓迎、激励するような印象が強く表現されています。
字余り・字足らずを使う時のポイント
まず念頭に置いておきたいのは、字余り・字足らずは定型から外れているということです。
俳句は最も短い詩の一つとして世界に知られています。そのことからも分かるように、「五、七、五」の十七音という限られた音の中に、季語を入れつつ情景が目に浮かぶような表現ができることを趣としています。
インパクトのある句になるはずと、やたらめったらに用いてしまっては興ざめしてしまいます。
選んだ言葉が字余り(字足らず)だったから、と仕方なく使ってしまうこともNG。あえて使用することで、効果が見込める技法なのです。
また、特に字余りの場合、はじめの上五に用いると、全体の違和感を軽くすることができるとされています(頭重脚軽)。
逆に、中七を八音にする「中八」は全体のバランスが取りにくいため、最も避けるべきと言われています。
さらに、定型にのっとっていないことから、俳句として一段低く見られることもあり、さらに字足らずでは成功することが稀ですので、かなり上達してから使用した方がよいでしょう。
字余り・字足らずは何文字までOK?
字余り・字足らずを用いる場合、原則として文字数の制限はありません。
しかし、俳句の響きなどを考えるとプラスマイナス三音までが限度と言えるでしょう。
音の増減を大きくするほど、全体のバランスを整えるのが難しくなりますので、使う場合はプラスマイナス1音から挑戦してみるのをお勧めします。
字余り・字足らずを効果的に取り入れつつ、いかに耳馴染みしやすい句にできるか、インパクトをもたせられるか…、技術の高さが問われます。
字余り・字足らずを活用した有名俳句を紹介!
ここでは、字余り・字足らずを活用した有名俳句をご紹介します。
【NO.1】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯れ野を かけ廻る 』
季語:枯れ野(冬)
意味:旅の途中で病に倒れ、見る夢は枯れ野を駆け回るような寂しいものばかりだ。
【NO.2】山崎宗鑑
『 手をついて 歌申しあぐる 蛙かな 』
季語:蛙(春)
意味:意味:手をついて座り鳴くあの蛙は、偉い人の前で歌を詠んでいる人のようだなぁ。
【NO.3】小林一茶
『 すずめの子 そこのけそこのけ お馬が通る 』
季語:すずめの子(春)
意味:すずめの子らよ、そこをどきなさい。お馬が通るよ。
さいごに
今回は、俳句の技法「字余り・字足らず」について、例を交えながらご紹介しました。
使用に際してのポイントを押さえても、やはり全体のバランスや聞き手に与える耳馴染みのよさなど、難しい点の多い技法ですね。
まさに上級者向けと言えるでしょう。