俳句は「切れ字」と呼ばれる言葉の理解が不可欠です。
「や」「かな」「けり」など種類がありますが、その中でも「けり」だけは詠嘆と過去という複数の意味を持っているため、見分けが付きにくいことが多々あります。
助動詞「けり」の過去と詠嘆の
区別がつかない。— コマヅキ (@junpeh110) November 30, 2013
そこで今回は、助動詞「けり」の違いや見分け方を簡単にわかりやすく解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
目次
助動詞「けり」の詠嘆と過去の違い
(1) 助動詞「けり」の【詠嘆と過去】の意味の違い
助動詞「けり」の【詠嘆と過去】の意味の違いは下記の通りです。
【助動詞「けり」】
- 詠嘆(えいたん)・・・詠嘆の中でも「気づき」のけり。「~だなぁ」「~ことだなぁ」という感動を表す表現。
- 過去(かこ)・・・「伝聞過去」のけり。「誰かから聞いたこと」だけを表す。「あったそうだ」と訳される。
それぞれについて簡単にわかりやすく解説していきます。
(2) 詠嘆の「けり」について
詠嘆の「けり」とは、「そのことに気がついた驚き」を表現する助動詞で、「詠嘆の中でも「気づきのけり」とも呼ばれます。
訳し方は「~だなぁ」「~ことだなぁ」という感動を表す表現になります。
例として、「若鮎の二手になりて上りけり」という俳句は「若鮎が川の中を二手に分かれて上っていくなぁ」という意味です。
作者は無秩序に川を上るのではなく、列を成して川を上っていく鮎の姿に感銘を受けて「けり」を使用しました。
上っていったのを見ただけの感想であれば、完了の助動詞を使って「上りたり」と表現したかもしれません。
(3) 過去の「けり」について
過去の「けり」は「伝聞過去」のけりと呼ばれます。「あった」という単なる過去ではなく、「あったそうだ」と訳されます。
例えば、有名な伊勢物語の一説に「昔おとこありけり」というものがありますが、現代語訳では「昔ある男がいたそうだ」と訳されて、誰かから聞いた過去の話をしているように読めます。
伝聞ではなく直接自分が経験した過去は、「き」という助動詞を使用します。
「けり」は「誰かから聞いたこと」だけを表すことに注意してください。
助動詞「けり」の詠嘆と過去の見分け方
(1) 詠嘆の「けり」になる場合
詠嘆を意味する「けり」は、主に会話文や心の中の描写に使用されます。
また、「なりけり」という断定の「なり」が先につく形を取る場合も詠嘆の意味です。基本的に「けり」という終止形で使用されることが多いです。
和歌や俳句では「けり」が使われる場合は全て詠嘆となります。
過去の助動詞の「き」、行動の完了を表す助動詞の「つ」「ぬ」「たり」があるので、単純に過去のことを詠みたい場合はこちらを使いましょう。
(2) 過去の「けり」になる場合
上記の「なりけり」という形式や会話文・和歌や俳句に使われる「けり」以外は、全て伝聞の過去を意味する「けり」になります。
過去の「けり」にはどの活用形でも使われますが、周囲に係助詞がないかどうか、誰かの心中の話をしていないかどうか、文脈をよく読み取ってみましょう。
俳句において過去や完了を表したい場合は「けり」以外の助動詞を使用します。
例として、俳句で「そこにあったこと」を伝えたい場合は「ありけり」ではなく「ありき」などの表現を使用しましょう。
助動詞「けり」に関連する俳句【5選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 かくれけり 師走の海の かいつぶり 』
季語:師走(冬)
意味:隠れているようだなぁ。師走の琵琶湖にいるカイツブリたちは。
カイツブリは別称を「鳰(にお)」といい、琵琶湖の別称にも「鳰の海」というものがあります。水しぶきを上げて隠れてしまったカイツブリの余韻を楽しんでいる一句です。
【NO.2】小林一茶
『 ほろほろと むかご落ちけり 秋の雨 』
季語:むかご(秋)
意味:ほろほろとムカゴが落ちていくなぁ、この秋の雨に打たれて。
「むかご」とは自然薯や山芋にできる球状の物体で、秋になると熟れて落ちていきます。秋の雨に促されるように落ちていく様子を眺めている一句です。
【NO.3】正岡子規
『 いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 』
季語:雪(冬)
意味:何度も積もった雪の深さを尋ねてしまったことだよ。
積雪の量が例年よりも多かったのか、今どのくらい積もっているのか何度も聞いてしまった作者の様子を詠んでいます。「けり」と詠嘆の切れ字を使用することで、断定ではなくそわそわと落ち着かない作者の心情を表した句です。
【NO.4】高浜虚子
『 桐一葉 日当たりながら 落ちにけり 』
季語:桐一葉(秋)
意味:桐の葉が1枚、日に当たりながらひらひらと落ちていくことだ。
「桐一葉」とは、中国の「淮南子」という古典が出典のひとつの季語で、秋の到来を知らせるものです。桐の葉がひらひらと落ちていく様子に秋を実感しています。
【NO.5】飯田蛇笏
『 くろがねの 秋の風鈴 鳴りにけり 』
季語:秋(秋)
意味:くろがねの風鈴が秋になっても吊るされたまま鳴っているなぁ。
「風鈴」は夏の季語ですが、この句では「秋になっても吊るされている風鈴」を詠んでいるため季語は「秋」になります。物悲しく鳴っている音を聞いて感じ入っている一句です。
さいごに
今回は、助動詞「けり」の意味と見分け方、俳句での使用例について解説してきました。
「けり」は使われているシチュエーションで意味が変わってきますが、俳句で使用される場合は詠嘆の意味であると考えて問題ありません。
「や」「かな」など詠嘆の意味になる切れ字は他にもありますので、ぜひ俳句を作る時の参考にしてみてください。