初夏から夏にかけて旬を迎える「桃」。
とろける舌触りや甘い香りが魅力的ですね。
そんな桃ですが、俳句では【秋の季語】に分類されます。子季語(季語のバリエーション)には「桃の実」「白桃」「水蜜桃」があります。同じ桃でも「桃の花」は春の季語に分類されます。
今回は秋の季語「桃」を使った俳句をご紹介します。
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リス先生
有名俳句だけではなく、一般の方が作った作品まで紹介していよ!ぜひ最後まで読んでね!
桃の季語を使った有名俳句【20選】
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【NO.1】西東三鬼
『 中年や 遠くみのれる 夜の桃 』
現代語訳:私も中年と言われる年になってしまった。夜の闇の中、遠くのほうに桃が実っている
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俳句仙人
ほんのりとした色合いの桃が夜の闇に浮いていると、まるでほのかな明かりが灯っているように見えます。三鬼は女性を句に詠むことが多いようで、この桃も女性を象徴していると言われています。中年になると手の届かない女性……。若く美しい女性に恋焦がれているのでしょうか。
【NO.2】百合山羽公
『 桃冷やす 水しろがねに うごきけり 』
現代語訳:桃を冷やすために冷たい水の中へ浸すと、その水が白銀のように動いたことよ
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俳句仙人
透き通ってきらきらした水の色や動きが鮮やかに立ち現れます。「しろがね」や「うごき」とひらがな表記を用いることによって、水のやわらかさや桃の丸みを感じられる表現になっています。
【NO.3】津田清子
『 指ふれし ところ見えねど 桃腐る 』
現代語訳:指が当たったところは見えないけれど、桃は腐ってしまっている
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俳句仙人
桃を買ったときのあるあるかもしれません。ぶつけたり強く触ったりしたわけではないのに、桃の一部がぐずぐずになってしまっている。桃は繊細な果物です。
【NO.4】友岡子郷
『 海の夕陽 にも似て桃の 浮かびをり 』
現代語訳:海に浮かぶ夕陽に似た様子で桃が浮かんでいる
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俳句仙人
桃の色合いや丸さを夕陽に見立てた句。桃は何処に浮かんでいるのか。台所で桶に張った水に浸されているのか、『桃太郎』のように川に浮かんで流されているのか。想像の余地のある句です。
【NO.5】大木あまり
『 まだ誰の ものでもあらぬ 箱の桃 』
現代語訳:まだ誰のものでもない、箱に入った桃がある
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俳句仙人
ぎっしりと桃の入った箱が、誰に買われることもなく手つかずで置いてある。ピンクの桃が行列のように詰まっている様は、見た目の鮮やかさと匂い立つ甘い香りが伝わって来るようです。一方でこちらも上記の三鬼の句のように桃が女性を象徴していると読めば、若く美しい未婚の箱入り女性のことを詠んでいるようにも解釈できます。
【NO.6】正岡子規
『 病間や 桃食ひながら 李画く 』
現代語訳:病気になっている時に桃を食べる。しかし食べながら描いているのは李の絵だ
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俳句仙人
「病間」とは病気にかかっている間、もしくは病気の少し良くなっている間のことをいいます。子規は体が弱く、病床で過ごすことの多い人でした。これは病床でのひと時を切り取った句でしょう。桃を食べながら似たような果物である李を描くというのはおかしみがあります。しかし実際李は実が硬くて酸味が強く、表面に毛の無い果物で、桃よりはさくらんぼに近いものだそうです。
【NO.7】飯田蛇笏
『 くちふれて 肉ゆたかなる 桃果かな 』
現代語訳:桃をかじろうとすると、やわらかな果肉が口に当たった。豊かな桃の実だなあ
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俳句仙人
桃の口当たりの良さや甘美な香りが伝わってくるような句です。果汁が滴って唇や果肉をてらてら光らせているかもしれません。それを思うと官能的な句でもあります。
【NO.8】夏目漱石
『 姉様に 参らす桃の 押絵かな 』
現代語訳:姉様に差し上げる桃の押絵の美しいことよ
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俳句仙人
「押絵」とは綿を入れた和紙や布を貼り重ねて作る立体的な絵のことです。色鮮やかなちりめん生地なども使用されるようです。「様」や「差し上げる」という言葉が用いられていることから、「姉」は敬うべき大切な人であるとうかがえます。押絵は実の姉にあげたのか、別の年上の女性にあげたのか、はたまた架空の人物か。想像のし甲斐があります。
【NO.9】鈴木鷹夫
『 後朝の ごとく離るる 桃と種 』
現代語訳:桃を切ると、後朝のように名残惜しげに実と種が離れた
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俳句仙人
「後朝」とは男女が一晩愛し合った翌朝のことです。二人は別れがたい気持ちを抑えてそれぞれの生活へ戻っていきます。そんな男女のように、切り分けられた桃の実と中の種は名残惜しそうに見えたのです。
【NO.10】松尾芭蕉
『 我が衣に 伏見の桃の 雫せよ 』
現代語訳:私の衣を伏見の桃の雫で染め上げてください
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俳句仙人
「伏見」は京都の地名です。当時は桃の一大産地だったようです。そこに任口上人という徳の高い有名な俳人がおり、この句は芭蕉がその人にあった時に詠んだそうです。上人を桃に、上人の徳や教えを雫にたとえた句です。
【NO.11】福田甲子雄
『 川底に 盆供の桃の とどまれり 』
現代語訳:川の底にお供え物の桃がとどまっている
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俳句仙人
お盆にご先祖様にお供えしたはずの桃が川底に沈んでいる。落としてしまったのか、転がり落ちてしまったのか。底の桃が見えるということは、浅く透き通った穏やかな川なのでしょう。「盆」と「とどま」るという言葉の組み合わせが、魂がきれいな川にとどまっている様子をなんとなく連想させます。
【NO.12】富安風生
『 白桃を よよとすゝれば 山青き 』
現代語訳:白桃をずずっとすする。果汁をこぼさないように顔を上向きにすると、山が青々としている
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俳句仙人
「よよ」は泣く様子を表す擬態語として使われることが多いですが、飲み物などをこぼしながら勢いよく続けて飲む様子にも使われます。きっと滴る果汁をあふれさせながら桃を食べたのでしょう。桃のみずみずしさと八月頃の山の緑の鮮やかさが清々しい句です。
【NO.13】橋本多佳子
『 白桃に 入れし刃先の 種を割る 』
現代語訳:白桃に包丁の刃を入れると、刃先が種を割った
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俳句仙人
出来事のありのままを詠んだ句でしょうか。刃の中腹でも付け根でもなく刃先が種に当たってしまったというところに、何か感慨があるのかもしれません。
【NO.14】角川源義
『 白桃を 剝くねむごろに 今日終る 』
現代語訳:白桃を丁寧に剥くと今日が終わった
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俳句仙人
桃はやわらかいので、剥くときは実をつぶさないよう丁寧で慎重な動作になります。「ねむごろに」が句の真ん中にあることで、白桃を丁寧に剥くとも丁寧に今日が終わっていくとも読めるところが面白い句です。
【NO.15】森澄雄
『 磧(かわら)にて 白桃むけば 水過ぎゆく 』
現代語訳:川原で白桃を剥くと川の水が流れ過ぎていく
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俳句仙人
水や川とともに詠まれる桃は多いです。川のそばで桃にナイフを入れ、すうっと皮を剥いていくと、まるでそれに合わせたように川の水もさらさらと流れていく。皮を刃で引く感触が思い起こされます。
【NO.16】福永鳴風
『 白桃の 荷を解くまでも なく匂ふ 』
現代語訳:荷解きをするまでもなく桃の香が匂う
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俳句仙人
こちらも桃の香りを詠んだ句。荷物を開けなくとも香る甘い香りが、イメージしやすいです。
【NO.17】川崎展宏
『 白桃の 皮引く指に やゝちから 』
現代語訳:白桃の皮を引っ張って剥く。その指には少し力が入る
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俳句仙人
桃の皮を剥いた経験のある人にとっては共感しやすい句かもしれません。まったく力を入れないわけでも強く引っ張るわけでもない、あの絶妙な力加減が詠まれています。絶妙さは「ちから」というひらがな表記の表現がやわらかを出し、うまく効いています。
【NO.18】伊藤通明
『 白桃の 思ひの色と なりにけり 』
現代語訳:白桃は思いを表す色になったのだなあ
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俳句仙人
桃の淡い色合いを「思ひの色」と表現したところがかわいいです。ピンク色なので恋心の色なのかもしれません。思いは読み手の心なのか、桃自身の思いなのか。どちらにしても愛らしい句です。
【NO.19】山口誓子
『 やはらかき 白桃積んで ペダル踏む 』
現代語訳:やわらかい白桃を籠に積み、自転車のペダルを踏んで漕ぎだした
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俳句仙人
白桃のやわらかさとペダルを踏む力強さが対比になっているようで面白いです。ペダルを踏んで漕ぎだすと、風に乗って桃の香りを感じられそうです。
【NO.20】清崎敏郎
『 寄港して 水蜜桃売が 船に来る 』
現代語訳:船が港に立ち寄ると、水蜜桃売りが船内にやってきた
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俳句仙人
桃の船内販売でしょうか。船上で桃の甘い香りがしたら、思わず1つ買ってしまいそうです。
桃の季語を使った素人俳句【10選】
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【NO.1】『 姉ちやんの 大好きだつた 堅き桃 』
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俳句仙人
旧仮名遣いが用いられることによって、作者の年齢が高いまたは古い時代のことを詠んだ句だということがうかがえます。「堅き桃」というのも品種改良されていない昔の桃を連想させるので、時代背景を感じさせます。亡くなったお姉さんを偲んでいるのかもしれません。
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俳句仙人
かわいらしい見た目の桃ですが、「川中島」という名前は確かに強そうです。川中島白桃は、桃の王様と評されるほど実が大きく、贈答用にしても見栄えがするそうです。
【NO.3】『 桃食べる こころはからだ じゅうにある 』
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俳句仙人
甘くてジューシーな桃を食べる喜びが伝わってくるような句です。味覚だけでなく、視覚、嗅覚、触覚が桃に刺激され、おいしさを全身で感じます。
【NO.4】『 反抗期 だけれど桃は 食べて行く 』
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俳句仙人
親と顔を合わせたくはないけれど、剥いて置いてある桃の食べたさには敵わずちゃっかり食べて家を出ていく。思春期のあるあるや子どもっぽい可愛さに笑みがこぼれます。
【NO.5】『 熱出して 桃缶ほどの 甘えんぼ 』
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俳句仙人
熱を出すと体がつらく、誰かに甘えたくなります。その甘えたさの度合を桃缶に例えているところがじょうずな句。ねっとり甘い桃缶は、甘えたい度合もかなり強そうです。
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俳句仙人
少年と桃には共通点があり、それは孤独な種があること。何だか哲学的です。孤独な種とはどんなものでしょうか。種は種単体では花を咲かせることも実を成すこともできないという苦悩でしょうか。
【NO.7】『 一年忌 あの子は桃が 好きだった 』
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俳句仙人
何とも物悲しい句です。亡くなって一年、我が子か好きだった子か友人か。大切な「あの子」に思いを致す様子が読み取れます。
【NO.8】『 吾子の 手の涙のごとき 桃の蜜 』
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俳句仙人
小さな我が子が桃の果汁で手を濡らしながら桃を食べている。その果汁が涙のように見えます。涙のようということは、嬉し涙や悔し涙など、この情景に対して何か感情が存在しているのでしょうか。
【NO.9】『 たわわなる 桃の産毛よ 吾子の頬 』
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俳句仙人
白くて柔らかくて産毛がたくさん生えている桃と、小さい子どもの頬を見比べているのでしょう。確かに似ています。
【NO.10】『 桃食むや ニコニコ顔の 家族かな 』
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俳句仙人
家族団らんの一句。美味しい桃を食べて笑顔になるのは、大人も子どもも同じかもしれません。
以上、桃をテーマにした俳句作品でした!
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リス先生
見た目・香り・手触りなど桃の特徴をじっくり観察して、ぜひオリジナリティのある桃の句を詠んでみてね!