最も人間に身近な動物と言っても過言ではない「犬」。
身近すぎたためか、俳句において「犬」の季語は存在しません。
しかし、愛犬とのふれあいの俳句や亡き犬の俳句など、これまでに多くの句が詠まれてきました。
風の春よく似た犬と飼主と #俳句 pic.twitter.com/UaalSZkbfF
— 平坂謙次 (@hedekupauda) February 17, 2018
今回は、犬好き必見の「犬」にまつわるおすすめ俳句【全30句】を紹介していきます。
犬をテーマに詠まれた有名俳句【15選】
【NO.1】 松尾芭蕉
『 草枕 犬も時雨(しぐる)るか よるのこゑ 』
季語:時雨(冬)
意味:旅の途中で一泊すると、時雨が降り続く夜に遠吠えの犬の声が聞こえる。
旅の途中である草枕と、寒い時期に降る時雨という物寂しさを、犬の遠吠えがより一層際立たせています。
【NO.2】与謝蕪村
『 御火(おひ)たきや 犬も中々 そぞろ顔 』
季語:御火たき(冬)
意味:御火たきをやっている。犬も人にまぎれてソワソワした顔で覗き込んでいる。
御火たきとは、11月に新穀感謝の祭事です。神前に五穀・果物・餅・酒等を供え、庭に割木を組み竹を立てて火を起こし、お神酒を注ぎます。
【NO.3】小林一茶
『 春風や 犬の寝そべる わたし舟 』
季語:春風(春)
意味:暖かな春の風が吹いている。犬が渡し船の上に寝そべっていることだ。
春ののどかな風景を描写しています。犬も思わず不安定だろう渡し船の上で眠ってしまうほど、気持ちのいい陽気であることがわかる句です。
【NO.4】宝井其角
『 人うとし 雉子(きじ)をとがむる 犬の声 』
季語:雉子(春)
意味:訪れる人もない庵で犬がなくのは、雉子を見咎めてのことである。
「草庵」との前書きがある句です。訪れる人のいないほどの場所であることを、犬がキジを追い払うという光景で暗示しています。
【NO.5】正岡子規
『 三日月や 枯野を帰る 人と犬 』
季語:枯野(冬)
意味:三日月が見える夕暮れに、草が枯れた道を帰る人と犬がいる。
三日月は夕暮れに西の空に見えるため、夕方に帰路につくか散歩をしている犬と飼い主を表しています。寂しげな三日月と枯野ですが、飼い犬と共にいるだけで暖かな描写に変わる句です。
【NO.6】高浜虚子
『 羽子板を 犬咥え来し 芝生かな 』
季語:羽子板(新年)
意味:羽子板を犬がくわえて走ってきた芝生であることよ。
芝生で羽子板遊びをしている子供たちを見ていたのでしょうか。自分も遊びたいと羽子板をくわえて持ってくる犬のかわいらしさが見てとれます。
【NO.7】正岡子規
『 七夕や 犬も見あぐる 天の川 』
季語:七夕(秋)
意味:七夕だ。犬も空を見上げてびっくりするほどの美しい天の川が出ている。
「犬も見あぐる」と犬の行動を描写することで天の川の美しさを称えています。散歩の途中だったのか、星を見るために外に出たのか、想像がふくらむ一句です。
【NO.8】高野素十
『 木犀(もくせい)の 香や純白の 犬二匹 』
季語:木犀(秋)
意味:モクセイのかぐわしい香りがする。純白の犬が2匹、その香りをかいでいるかのようにたたずんでいる。
木犀はキンモクセイをはじめとする秋に咲く香りの強い花のことです。人間でもどこかで咲いているとキンモクセイの香りだなと気がつくくらい香りが強いので、嗅覚が人間より鋭い犬ならなおさらでしょう。
【NO.9】山口誓子
『 犬の眼の 緑に光る 桜の夜 』
季語:桜(春)
意味:犬の目が光の反射で緑に光っている、桜の咲いている夜であることだ。
光が反射すると犬や猫は目の色が変わります。そのため、「桜の夜」とありますが、街頭やお祭りの照明など、明かりのある場所で夜桜を見ているという想像ができる句です。
【NO.10】森鴎外
『 打ち倒す ように犬臥(ふ)す 暑さ哉 』
季語:暑さ(夏)
意味:打ち倒されたように犬が寝転んでいるくらい暑い日であることだ。
暑い日に日陰でぺったりと身を伏せて暑さに耐えている犬の姿が見えてきます。あまりの暑さゆえか「打ち倒すように」と犬も相当参っていることが伺える一句です。
【NO.11】 高浜虚子
『 繋がれし 犬が退屈 蝶が飛ぶ 』
季語:蝶(春)
意味:繋がれた犬が退屈そうに見る空に蝶が飛んでいる。
犬小屋などに繋がれた犬が退屈そうにしている様子を詠んでいます。作者も犬と一緒に蝶を眺めていそうな一句です。
【NO.12】夏目漱石
『 犬去つて むつくと起る 蒲公英が 』
季語:蒲公英(春)
意味:犬が去って、むっくとタンポポが起き上がる。
走り回る犬に踏まれたタンポポが、ゆっくりと元に戻る様子を詠んだ句です。まるで犬の様子を伺って体を起こしたようなユーモアのある句になっています。
【NO.13】黒柳召波
『 少年の 犬走らすや 夏の月 』
季語:夏の月(夏)
意味:少年が犬を走らせている夏の月夜だ。
散歩で犬と共に走っている少年を詠んだ一句です。少年とあることから真夜中ということはあまり考えられないので、夕暮れの様子を詠んだものでしょうか。
【NO.14】村上鬼城
『 蟷螂(とうろう)に 負けて吼立つ 小犬かな 』
季語:蟷螂(秋)
意味:カマキリに負けて吼え立つ子犬がいるなぁ。
カマキリの威嚇の構えに驚いてしまい、吠えている子犬の様子を詠んだ句です。子犬も精一杯威嚇している可愛らしい様子が伝わってきます。
【NO.15】前田普羅
『 犬行くや 吹雪の中に 尾を立てて 』
季語:吹雪(冬)
意味:犬が歩いていく。吹雪の中でも尾を立てて。
犬が尾を立てて歩いている時は機嫌が良いときだと言われています。吹雪の中でも散歩が嬉しい様子を詠んだ句です。
犬をテーマに詠まれた一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 夏草の 犬の転げる 窪(くぼ)みかな 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草が生い茂り、犬が転ぶくらいの窪みが隠れていることだ。
夏になって草が生い茂ると、地面の凹凸がわかりにくくなります。犬が喜んで駆け回っていたらうっかりつまずいてしまった、楽しげな犬を眺めている飼い主の視点です。
【NO.2】
『 さ湯に溶く 子犬のミルク 雪もよひ 』
季語:雪もよひ(冬)
意味:子犬用の粉ミルクを白湯に溶く。外は雪が降ってきそうな天気だ。
雪もよひとは雪催とも書き、今にも雪が降ってきそうな天気のことです。
【NO.3】
『 ロボットの 愛犬と見る 冬星座 』
季語:冬星座(冬)
意味:ロボットの愛犬とともに見る冬の星座よ。
犬は犬でもロボットの犬です。生体の犬ではなくロボットですが、ペット同然の扱いをしているのが「愛犬」という単語から伝わってきます。
【NO.4】
『 春の月 犬の散歩を 長くする 』
季語:春の月(春)
意味:春の月が出ている。良い陽気なので、犬の散歩を長くする原因なのだ。
暖かくなった春の月夜に犬を散歩させています。美しい月夜につられてついつい散歩が長引いてしまうのどかな光景です。
【NO.5】
『 春の風 初めて受くる 子犬かな 』
季語:春の風(春)
意味:春の風を初めて受ける子犬であることよ。
冬に生まれたばかりの子犬でしょうか、寒い冬の風から暖かく花の匂いも漂ってくる春風をうれしそうに受けて走る子犬が見えるようです。
【NO.6】
『 夏草より 紙飛行機や 追う子犬 』
季語:夏草(夏)
意味:夏草の生い茂った野原を走り回るより、紙飛行機を追いかける子犬よ。
野原で遊ぶよりも、飼い主か誰かの飛ばした紙飛行機を追いかける子犬の句です。「子犬」と限定されることで、生い茂る夏草にも負けずに元気に跳ね回っている様子を描写しています。
【NO.7】
『 初夏の野や 愛犬の尾に 草の滴 』
季語:初夏(夏)
意味:初夏の野原だ。愛犬の尾に、夏草の朝露がついている。
早朝の散歩の風景を詠んだ句です。生い茂りはじめた野原の草の朝露が、尾を振っているだろう犬についてきらきらと輝いている様子が浮かんできます。
【NO.8】
『 煙たがる 犬が秋刀魚に 尻尾ふる 』
季語:秋刀魚(秋)
意味:焼いているときは煙たがっていた犬が、焼きあがった秋刀魚を見て尻尾を振っている。
秋刀魚は犬でも食べられる魚です。好物なのでしょうか、焼いている最中は煙を嫌がっていたのに、焼きあがった瞬間にうれしそうに尻尾を振って食べたがる様子を詠んでいます。
【NO.9】
『 番犬と 何か語らう 雪兎 』
季語:雪兎(冬)
意味:番犬と何かを話しているようだ。雪で作った兎と。
雪兎は雪でウサギをかたどったものです。昼間のうちに犬小屋のそばに作って置いておいたのか、まるで二匹で話をしているような後ろ姿が浮かんできます。
【NO.10】
『 冬服を 犬に夫に あつらへる 』
季語:冬服(冬)
意味:冬服を犬と夫にあつらえておこう。
犬も防寒対策として服を着せることがあります。夫と犬を並べて詠むことで、どちらも大切な家族であることが伝わってくる句です。
【NO.11】
『 菜の花の 犬の目線に 咲きにけり 』
季語:菜の花(春)
意味:菜の花が犬の目線で咲いている。
犬の目線と同じ高さで咲く菜の花を詠んだ一句です。菜の花と犬の顔が同じ高さに来ている写真のような風景が浮かんできます。
【NO.12】
『 湯冷めして 靴下はいて 犬のそば 』
季語:湯冷め(冬)
意味:湯冷めをして、靴下を履いて犬の傍に行く。
湯冷めをしていることから暖かい場所に移動したことがわかります。犬はストーブやコタツの所にいたのかもしれません。
【NO.13】
『 雪を見る 犬の鼓動を 胸に抱き 』
季語:雪(冬)
意味:雪を見る犬の鼓動を胸に抱いている。
犬を抱いて雪を見ていることから、小型犬か子犬の飼い主だとわかります。静かに降る雪を眺めていると、腕の中の小さな命をより強く感じるのでしょう。
【NO.14】
『 愛犬の スケッチ浮かぶ 夏空よ 』
季語:夏空(夏)
意味:愛犬のスケッチが浮かぶ夏空だ。
晴れた夏の空を駆け回る愛犬の姿が浮かんでいる一句です。どこまでも広い空を走り回る姿はさぞ可愛らしいことでしょう。
【NO.15】
『 秋寒し 海を見てゐる 犬を見る 』
季語:秋寒し(秋)
意味:秋になり寒くなった。海を見ている犬を見ている。
動詞が3連続している一句です。犬を見る自分をどこか俯瞰しているような感覚を抱かせる効果があります。
以上、犬にまつわるオススメ俳句集でした!
今回は、「犬」をテーマにした俳句を、有名なもの15選と一般の方の俳句作品15選にわけて紹介してきました。
犬を飼っている人も、近所に犬を飼っているお宅がある人も、ちょっとした犬の仕草をぜひ俳句にして詠んでみてください。