雨上がりの空にかかる綺麗な「虹」。
七虹を見つけると、思わず写真を撮る方もいるのではないでしょうか。
俳句では「虹」は夕立のあとにかかることから、夏の季語とされています。
【七十二候・第十五候】虹始見(にじはじめてあらわる)4/15~19
春が深くなるとともにだんだんと空気が潤ってくるので、雨上がりに虹を見ることが多くなります。雲間から差す柔らかな光に不意に浮かび上がる春の虹。単に「虹」といえば夏の季語ですが「初虹」はその年初めて立つ虹を指します。 pic.twitter.com/QHl5uC5VFV— 暮らしのほとり舎 (@k_hotorisya) April 18, 2017
今回は、そんな「虹」にまつわる俳句(有名俳人の名句+一般俳句作品)を30句紹介していきます。
「虹」を季語に使った有名俳句集【15選】
【NO.1】 松木知子
『 春の虹 あなたに会へるかもしれない 』
季語:春の虹(春)
意味:春の虹が出ています、この虹を見たらあなたに会えるかもしれません。
「虹」は単体で使うと夏の季語ですが、「春」がつくと春の季語となります。「春の虹」は、夏の虹よりも淡く、はかなく消えてしまいます。作者の会いたいあなたはどんな人なのでしょうか。想像がふくらみます。
【NO.2】小林一茶
『 初虹も わかば盛りや しなの山 』
季語:初虹(春)
意味:この春はじめての虹に、しなの山の若葉も盛りの季節だ。
「初虹」とは、春に初めて現れる虹のことです。太陽の光が弱く淡くはかない虹です。あわい虹と、春が来て勢いのいい、たくさんの若葉が春を喜んでいるように感じます。
【NO.3】山口誓子
『 いづくにも 虹のかけらを 拾ひ得ず 』
季語:虹(夏)
意味:美しい虹は、消えてしまうと、その欠片すら拾うことはできないのだなあ。
【NO.4】山口誓子
『 虹の環を 以て地上の ものかこむ 』
季語:虹(夏)
意味:虹の環が、まるで地上のすべてをかこんでいるようだ。
出ている虹が、地上のすべてを包み込んでいるようにみえたのでしょうか。スケールが大きく、印象的な句です。
【NO.5】萩原朔太郎
『 虹立つや 人馬賑ふ 空の上 』
季語:虹立つ(夏)
意味:人や馬で賑わっている空の上に、虹があらわれた。
「虹立つ」とは、虹があらわれる、虹が空に浮かぶという意味です。わいわいと賑わっている街中でしょうか、虹までも街のにぎわいに花を添えています。
【NO.6】日野草城
『 わきもこや 虹をみる眉 明らかに 』
季語:虹(夏)
意味:わが恋人よ、虹をみていて晴れやかな顔になっている。
「わきもこ(吾妹)」とは恋人、妻という意味です。虹をみている恋人を、愛おしそうにみている素敵な句です。
【NO.7】稲畑汀子
『 日の射して どこかに虹の 立ちそうな 』
季語:虹(夏)
意味:雨が上がって日が差してきた、どこかに虹が出てきそうだ。
これから虹が出てくるかもしれない、わくわくする気持ちを詠んでいます。雨が上がると、つい虹を探してしまいたくなる、そんな気持ちを表現した句です。
【NO.8】山口波津女
『 虹立つも 消ゆるも音を 立てずして 』
季語:虹立つ(夏)
意味:虹があらわれるのも 消えるのも 音を立てないものだ。
虹が立つのも消えるのも、音は立てない。「立つ」の使い方も印象的な句です。山口波津女は、山口誓子の妻です。誓子も虹を題材に句を詠んでおり、一緒に詠んだことが想像できる、ほほえましい句です。
【NO.9】星野立子
『 虹立ちし 富士山麓に 我等あり 』
季語:虹立つ(夏)
意味:虹の富士山のふもとに私たちがいま、立っている。
虹もあり、富士山もあり、そして私たちもいる。絵画のような素敵な景色の見える瞬間に立ち会えた喜びが、力強く感じられます。
【NO.10】田淵勲彦
『 冬の虹 貧しき町を 吊り上げる 』
季語:冬の虹(冬)
意味:冬の虹が、まるでこのひっそりとさみしい町をつりあげているかのように見える。
虹も「冬の虹」とすれば、冬の季語となります。冬の虹は、時雨の空や、荒波の暗い海から出たりします。立っている虹が、まるでクレーンの手のように見えたのでしょうか。
【NO.11】 大野林火
『 春の虹 消ゆまでを子と 並び立つ 』
季語:春の虹(春)
意味:春の虹が消えるまで子供と並んで立って見ている。
春の虹は夏の虹と違ってすぐ消えてしまいます。そのわずかな時間を子供と並んで見ている親子の様子を詠んだ句です。
【NO.12】高柳重信
『 ゆけどゆけど ゆけども虹を くぐり得ず 』
季語:虹(夏)
意味:ゆけどゆけど、ゆけども虹をくぐれなかった。
虹をくぐってみようと思ったことがある人も多いでしょう。「ゆけど」を3回繰り返すことで、虹は近いように見えて遥か彼方に掛かっているのだと実感している一句です。
【NO.13】鷹羽狩行
『 虹なにか しきりにこぼす 海の上 』
季語:虹(夏)
意味:虹がなにかしきりにこぼしている海の上だ。
【NO.14】三橋鷹女
『 消えてゆく もののしづけさ 夕虹も 』
季語:虹(夏)
意味:夕闇に消えていく物の静けさよ。夕方の虹も消えていく。
虹は空気中の水分が太陽光で輝いているものです。全てが夜の闇に消えていく中では虹でさえも消えていくという、無常観を詠んでいます。
【NO.15】富沢赤黄男
『 あはれこの 瓦礫の都 冬の虹 』
季語:冬の虹(冬)
意味:哀れなことだ。この瓦礫の都に冬の虹が掛かっている。
「瓦礫の都」とは空襲にあった後の東京と言われています。終戦をむかえてなお瓦礫の多い都に、虹だけは変わらず掛かっているという自然と人間の営みの対比です。
「虹」を季語に使った一般俳句作品集【15選】
【NO.1】
『 船頭の はにかみてさす 春の虹 』
季語:春の虹(春)
意味:船頭がはにかんで、春の虹をさした。
【NO.2】
『 結婚写真 フレームは錆 春の虹 』
季語:春の虹(春)
意味:結婚写真のフレームはもう錆てしまっている、外には春の虹が出ている。
春の虹は、淡くはかないものです。楽しかった結婚写真のフレームがさびているのも、すこしさみしく感じます。時の移り変わりのはかなさを感じる句です。
【NO.3】
『 身を捩り 抱き紐の児に 夕虹を 』
季語:夕虹(夏)
意味:夕空に虹が出ているよと、抱っこ紐の児に身を捩って語りかけた。
夕虹は、夕方の空に出ている虹です。身を捩っているのは、帰り道の途中でしょうか、抱っこ紐の子供にやさしいまなざしを向けている様子が想像できます。
【NO.4】
『 虹の根を 見に行くという 子供たち 』
季語:虹(夏)
意味:虹の生えている根っこを見に行くと子供たちが言っているよ。
子供の発想はとても無邪気でかわいらしいものです。虹の根っこには宝物が埋まっている、という童話もあり、うきうきと探検に行く子供たちの様子が伝わってきます。
【NO.5】
『 また来いと 虹立つ修学 旅行かな 』
季語:虹立つ(夏)
意味:また来いと言っているように、修学旅行で虹が出てきた。
学生の思い出に残る修学旅行で、虹も見ることが出来た。とても嬉しい気持ちが伝わってきます。また、遊びに来てねと言ってくれているように感じたのでしょう。
【NO.6】
『 東京へ 高速バスの 窓に虹 』
季語:虹(夏)
意味:東京へ向かう高速バスから虹が見えた。
東京へは、これから出発するのか帰省するのか、見ている人を応援しているような虹に感じられます。虹は、希望を表現していて、雨上がりの空に元気をくれるようです。
【NO.7】
『 あの虹は きっとうちから 出てるはず 』
季語:虹(夏)
意味:あの虹はきっとうちの家から出ているはずだ。
誰しもが、小さい頃に一度は思ったことがあるかもしれません。虹がうちから生えているかもしれないと考える、とても可愛らしい句です。
【NO.8】
『 水たまり 傘でつつくと ゆれる虹 』
季語:虹(夏)
意味:水たまりにうつった虹を傘でつつくとゆれたよ。
空の虹は、つつけないけれど水たまりの虹をつついたら揺れた、という発想が素敵な句です。空の虹ではなく、水たまりの虹を詠んだことも素晴らしい着眼点です。
【NO.9】
『 吾子二人 あっと指差す 二重虹 』
季語:二重虹(夏)
意味:子供たち2人があっと叫んで二重虹を指差した。
二重虹とは、虹が2本並んで立つことで、とても珍しい虹です。ダブルレインボーともいわれます。あっと指差した2人の子の、はしゃいだ様子が伝わってきます。
【NO.10】
『 虹を背に ペダル踏みしめ 海へ向く 』
季語:虹(夏)
意味:虹を背にして、自転車のペダルを踏んで海へ行くよ。
雨が上がって、虹が出てきた、さあ海にいこう、としているのでしょうか。雨上がりの夏の日のきらきらとした風景が浮かんでくる句です。
【NO.11】
『 初虹の 「ほんの挨拶です」 と消え 』
季語:初虹(春)
意味:今年初めて見た虹が、「ほんの挨拶です」と言うように消えていった。
【NO.12】
『 狐さん 嫁に行く日の 朝の虹 』
季語:虹(夏)
意味:狐さんがお嫁に行く日の朝の虹だ。
「狐の嫁入り」とは晴れた日に雨が降る現象のことです。雨が降る朝の青空に虹が掛かっている神秘的な風景を詠んでいます。
【NO.13】
『 虹立つや 明日への期待 ふつふつと 』
季語:虹(夏)
意味:虹が立つように掛かっている。明日への期待がふつふつと湧いてくるなぁ。
「明日への期待」という部分が、縁起物である虹を見られたことでより良いものになるだろうと喜んでいる一句です。明日何かがあるのか、何も無いけれどよい一日にしたいのか、どちらの解釈もできます。
【NO.14】
『 老犬の 甘えるしぐさ 秋の虹 』
季語:秋の虹(秋)
意味:老犬が甘える仕草をし始める秋の虹がかかる日だ。
肌寒くなってきたのか、甘えるような仕草で飼い主に老犬が甘えています。空には秋の高い空に虹がかかり、夏の終わりを表しているかのようです。
【NO.15】
『 施錠して 見上げる先に 冬の虹 』
季語:冬の虹(冬)
意味:施錠して見上げる先には冬の虹がかかっている。
学校や仕事に行くために自宅のドアを施錠してふと見上げると、そこには冬の虹がかかっていたという一句です。何気ない日常にも虹など自然からの贈り物はあるという感慨深さも感じます。
以上、「虹」を季語に使ったおすすめ俳句集でした!
今回は「虹」について詠んだおすすめ俳句を30句紹介しました。
虹には「朝虹」「夕虹」「春の虹」など、季節や時間帯によってさまざまな呼び方があります。
虹を見つけるとホっとしたり…嬉しくなったり…何かいいことがあるかもと思ったり…嬉しい自然現象のひとつです。
虹を見かけたら、ぜひ一句詠んでみてください。