立夏は二十四節気の1つで、現在のカレンダーでは5月5日-6日頃を指します。
立夏を表す季語としては「夏来る」「夏立つ」「夏に入る」「立夏」などがあります。
【003立夏/鯉がのぼってる】
夏の始まりを示す季語、「立夏」。5月6日から5月20日頃までを指します。一年で最も過ごしやすい季節にふさわしい、爽やかなイラストをお届けします。
ロケ地: 植田バイパス 天津交差点付近 pic.twitter.com/sugMT9jwAP— 東三河二十四節気 (@toyohashi_24) May 22, 2016
今回は、「立夏(りっか)」に関するおすすめ有名俳句を20句ご紹介します。
「立夏」に関するおすすめ有名俳句【前半10句】
【NO.1】横井也有
『 夏立つや 衣桁(いこう)にかはる 風の色 』
季語:夏立つ(夏)
意味:立夏の日が来たなぁ。着物掛けに掛かる着物の色が初夏の風のような色になった。
衣桁とは着物を掛けておく家具のことです。衣桁に掛かっている着物が、冬の寒さに耐える綿入れではなく、涼しさを求める袷(あわせ)と呼ばれる着物に変わったことを風の色に例えて詠んでいます。
【NO.2】上島鬼貫
『 淀舟(よどぶね)や 夏の今来る 山かづら 』
季語:夏の今来る(夏)
意味:淀川を船が行き交っている。夏が今まさに来たような早朝の雲だ。
「淀舟」とは淀川を往来する船を、「山かづら」とは早朝に山の端にかかる雲のことを言います。春分が過ぎて日が長くなり始め、朝から活発に動き出す人々を見て夏の到来を実感している句です。
【NO.3】正岡子規
『 夏立ちし 瓶につつじの 花古き 』
季語:夏立ち(夏)
意味:立夏をむかえた。花瓶にはつつじの花が飾ってあるが、春ではなく夏になったのでもう古い花だ。
つつじは春の季語ですが、ここでは「花古き」と春が終わったことを強調しています。つつじの咲く春が終わり、今日から夏の季節になったとふと気がついたような表現です。
【NO.4】高浜虚子
『 夏立つや 忍に水を やりしより 』
季語:夏立つ(夏)
意味:立夏が来たなぁ。シノブに水をやった途端に。
「忍」とは観葉植物のシダ科の植物で、日本では観賞用として人気があります。シノブは丸く土や木炭などを盛って吊り下げて楽しむ鑑賞法もあり、「吊忍」という夏の季語になるほど見かけるものでした。
【NO.5】高浜虚子
『 彼岸より 庭木動かし 夏に入る 』
季語:夏に入る(夏)
意味:お彼岸の頃から庭の草木を動かしていたら、立夏をむかえてしまった。
ガーデニングに夢中になっていたら、いつの間にか季節が変わっていたという園芸が趣味の人には心当たりがありそうな状況を詠んでいます。春のお彼岸は3月下旬のため、1ヶ月半もあれこれ試していたのでしょうか。
【NO.6】山口誓子
『 汽罐車(きかんしゃ)の 煙鋭き 夏は来ぬ 』
季語:夏は来ぬ(夏)
意味:機関車の煙も鋭く見えるような夏が来た。
煙はふわっとした輪郭であり、あいまいな輪郭の煙ですら鋭く見えるような陽気である、という表現が面白い俳句です。機関車はあまり見なくなりましたが、力強い走りが夏を実感させるのかもしれません。
【NO.7】山口誓子
『 歳時記を 愛して夏に 入りゆけり 』
季語:夏に入り(夏)
意味:歳時記の語る季節を愛して、今日から夏になったのだと実感する。
【NO.8】飯田蛇笏
『 山ふかむ ほどに日鮮か 夏来る 』
季語:夏来る(夏)
意味:山深く分けいるほどに日の光が鮮やかになり、立夏をむかえたのだなぁと感じる。
初夏の山は若葉が日の光に照らされて輝き、鮮やかな緑に色づきます。この句では、そんな初夏の山のさわやかさを存分に表現しています。
【NO.9】高木晴子
『 白々と 立夏の月の 在りどころ 』
季語:立夏(夏)
意味:白々と輝く立夏の月はここに在る。
季節の移り変わりにあわせて、春の曇り空の中にある朧月から白々と照らす月に変化しています。ぼんやりとした光ではなく、辺りを照らすような月の光はここに在るぞと主張しているようです。
【NO.10】阿部みどり女
『 樫(かし)の葉の 旺んに降りて 夏に入る 』
季語:夏に入る(夏)
意味:樫の葉がさかんに視界をさえぎるように降りてきて、夏である立夏をむかえたと実感する。
樫は初夏に若葉を茂らせる樹木で、「樫茂る」でも季語となります。この句では、樫の葉が視界をさえぎるように盛んに茂っているので、立夏という季節をむかえるに相応しいという説明に使われています。
「立夏」に関するおすすめ有名俳句【後半10句】
【NO.11】中村草田男
『 毒消し飲むや わが詩多産の 夏来る 』
季語:夏来る(夏)
意味:毒消しを飲もう。私の詩作がたくさんできる夏が来る。
この頃の作者は病気がちだったため、毒消しという表現になっています。そんな病気を吹き飛ばすような夏の訪れで、詩作が捗ると張り切っている様子です。
【NO.12】西東三鬼
『 おそるべき 君等の乳房 夏来る 』
季語:夏来る(夏)
意味:薄いブラウスに盛り上った豊かな胸は、見ないではいられない。彼女たちはそれを知っていて自由に振る舞っている。夏が来たような生命力だ。
かつての女性の衣服は体の凹凸を強調するものではありませんでしたが、戦後になると男性同様ファッションを楽しみ、自らの身体を誇示して自由を謳歌し始めます。そんな姿に夏のようなあふれんばかりの生命力を感じ取っておそれているという意味です。
【NO.13】林信子
『 樹々の香の なかへ入りゆく 立夏かな 』
季語:立夏(夏)
意味:木々の香りがはっきりと感じられる中へ入っていく立夏の季節であることだ。
【NO.14】稲畑汀子
『 原色に だんだん近く 夏に入る 』
季語:夏に入る(夏)
意味:万物の色が原色に段々と近くなっていく。夏の訪れだ。
春の色といえば、桜の淡いピンクやたんぽぽや菜の花の黄色、若葉の黄緑色などパステルカラーが思い浮かぶでしょう。そんな淡い色合いの季節が終わり、濃い緑に青空など原色で構成される色合いの季節が、立夏をむかえたこれからの季節だと表現しています。
【NO.15】久保田万太郎
『 はや夏に 入りたる波の 高さかな 』
季語:夏に入り(夏)
意味:早くも立夏で夏をむかえた波の高さであることよ。
春には穏やかな波の地域だったのでしょう。立夏の日をむかえて早くも夏真っ盛りのような高波に、夏のはじまりを感じています。
【NO.16】佐藤春夫
『 夏立つや 残るは黄なる 花一つ 』
季語:夏立つ(夏)
意味:立夏をむかえ夏になったなぁ。春の名残として残っているのは黄色い花が1つだけだ。
夏が始まると、花の季節から新緑の季節へと変化します。そんな中で、春の名残ともいえる黄色い花が一つだけ咲いていたという印象深い光景を詠んだ句です。
【NO.17】石田波郷
『 プラタナス 夜もみどりなる 夏は来ぬ 』
季語:夏は来ぬ(夏)
意味:プラタナスの濃い緑の葉が、夜になるといっそう濃く見える。立夏の日だ。
プラタナスは街路樹としてよく使われる、大きな葉を持つ落葉樹です。昼間の明るく見える緑ではなく、あえて夜の闇に濃く見える緑を描写しているのが面白い句です。
【NO.18】大木あまり
『 のらのらと 生きて立夏の うすき汗 』
季語:立夏(夏)
意味:のらのらと生きていると、立夏をむかえて薄い汗をかくようになった。
「のらのらと」と独特の表現を使用した一句です。意味の決まっている語句ではないため解釈がわかれますが、野良作業という意味での「のら」で考えると、外で仕事をしていたら汗をかく季節になったという意味になります。
【NO.19】日野草城
『 朝の雨 あらくて夏に 入りにけり 』
季語:夏に入り(夏)
意味:細かい春の雨と違った荒い雨粒の朝の雨で、今日は立夏で夏になったのだと実感した。
春雨は細かい雨粒が降るのが特徴の雨ですが、その日の朝の雨粒は荒いものでした。そんな雨の様子から、今日から夏になるのだと季節の変わり目を実感しています。
【NO.20】中村苑子
『 海の色 まだ定まらぬ 立夏かな 』
季語:立夏(夏)
意味:海の色はまだ春の色と夏の色が混じって定まらない。今日は立夏の日だ。
春の海の色は、海面が霞んで海と空の色があいまいになりがちです。暦の上では夏をむかえた立夏ですが、海の色はまだ春のような霞んだ色と、夏の海のはっきりとした青の間を行き来しています。
以上、立夏に関する有名俳句でした!
今回は、立夏に関する有名な俳句を20句ご紹介してきました。
春と夏の境界でもある立夏は、新たな季節への喜びや季節の変わり目への実感を詠む句が多いのが特徴です。
立夏は現在のカレンダーではゴールデンウィーク頃になりますので、行楽のお供に一句詠んでみてはいかがでしょうか。