俳句は五七五の十七音に季節を表す季語を詠み込んで表現される詩です。
さまざまな季語や技法により風景や心情が鮮やかに描き出されています。
今回は、昭和から現在まで活躍している「角川春樹(かどかわ はるき)」の有名俳句を20句紹介します。
あかあかあか
あかあかあかと
まんじゅさげby 角川春樹!
この俳句好きで花見かける季節になると思い出す、春樹は俳人。 pic.twitter.com/LxTa4mJvCr— ツバキアンナ (@tsubakianna) September 19, 2014
角川春樹の人物像や作風
角川春樹(かどかわ はるき)は、元角川書店の社長で、俳人であるほかに映画プロデューサーや映画監督もつとめている実業家です。
角川書店の創業者である角川源義の長男として1942年(昭和17年)に生まれ、國學院大學の文学部を卒業しました。
角川書店に入社してからは洋画の原作や日本の推理小説家、SF小説家の本を多く出版し、映画と原作を手がけることで利益を上げるメディアミックス方式で知られています。1979年に父が主宰だった俳句雑誌「河」の副主宰と撰者になったことで俳句に傾倒していきました。
1981年に第一句集を発売し、1986年には俳句の総合誌である「俳句研究」を買収したことでも知られています。2018年にも句集を発表しており、現在でも俳人として精力的に活動しています。
【フィルムセンター】本日午後、展覧会「角川映画の40年」に角川春樹さんが来臨されました! ご自身の指揮した数々の映画の資料に再会、当時のことをお話しいただきました pic.twitter.com/cETqal3CYy
— 東京国立近代美術館 MOMAT (@MOMAT_museum) September 29, 2016
角川春樹の第一句集『信長の首』が発表された際に「四畳半的な、せまい世界」を破壊したと俳壇に衝撃を与えました。
角川春樹の有名俳句・代表作【20選】
【NO.1】
『 桜前線 泊まると決めて けむり雨 』
季語:桜前線(春)
意味:桜前線だ。ここに泊まると決めると煙のような雨が降ってくる。
「泊まる」が作者自身なのか、桜前線を擬人化したものかで2つの解釈ができます。「けむり雨」は咲き始めた桜の花と霞のような春雨を表現したものです。
【NO.2】
『 流されて たましひ鳥と なり帰る 』
季語:鳥となり帰る/鳥帰る(春)
意味:流されて魂が鳥となって帰ってくる。
古代の日本では、死んだ人の魂は鳥になるという考え方がありました。また死んだ人の魂は海の向こうに行くという考え方もあり、作者の死生観が感じられる句です。
【NO.3】
『 藤の花 雨の匂ひの 客迎ふ 』
季語:藤の花(春)
意味:藤の花が咲いている。雨の匂いがする客を出迎えた。
満開の藤の花と、その藤の花を伝うようにして降っている雨の風景が浮かんできます。来客が雨の中を歩いてきたので、かすかに雨の匂いがしているのでしょう。
【NO.4】
『 睡り(ねむり)ても 大音響の 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:眠っていてもまるで大音響の音のように感じる満開の夜桜であることだ。
目を閉じて眠っていても桜の花が音のように思い起こされると矛盾する表現を使うことで、満開の夜桜の見事さを称えています。桜の花は音を立てませんが、「大音響」と例えることで圧倒されている様子を例えている句です。
【NO.5】
『 将門の 関八州に 野火走る 』
季語:野火(春)
意味:将門公が支配した関八州に、春先に枯れ草を焼く野火が走っていく。
平将門は平安時代に関東で反乱を起こした武将で、「関八州」とは将門が支配を宣言した関東地方のことです。その際の戦火のように野焼きのための火が燃えている、と壮大な歴史のスケールをもとに日常風景を詠んでいます。
【NO.6】
『 旅びとに 夕かげながし 初蛍 』
季語:初蛍(夏)
意味:旅人に夕暮れの影を流していくように飛ぶ初蛍だ。
夕暮れの暗くなっていく時間帯を歩いて旅する旅人に、蛍がほのかな影を落としています。蛍の飛んでいく様子や影の映り方を「ながし」と表現している映画のような一句です。
【NO.7】
『 向日葵や 信長の首 斬り落とす 』
季語:向日葵(夏)
意味:ヒマワリの花が咲いている。信長の首を斬り落とすように私も生きてやろう。
ヒマワリの花が咲いている。信長の首を斬り落とすように私も生きてやろう。
鑑賞文:作者の代表句の1つで、発表された当時にその大胆かつ剛毅な作風で俳壇に衝撃を与えた一句です。ヒマワリは椿のように花ごと落ちるわけではなく、信長も斬首されて亡くなったわけではありません。この句は作者の生き様を詠んでいるため、字の通りに理解しようとすると意味が通らなくなってしまいます。
【NO.8】
『 存在と 時間とジンと 晩夏光 』
季語:晩夏光(夏)
意味:存在と時間についてジンを飲みながら考える夏の終わりの太陽だ。
この句はハイデガーの『存在と時間』という本がテーマのひとつになっていると言われています。4つの名詞を続けて読むことで、作者は過去から現在、未来へと続く時間の一貫性の中に立っているのだと自解で述べている句です。
【NO.9】
『 遠雷や あるべき場所が 此処にある 』
季語:遠雷(夏)
意味:遠雷が鳴っている。私のあるべき場所はここにある。
この句は父である角川源義氏が亡くなったあとに出版された句集に掲載されています。作者の経歴は波乱万丈ともいうものですが、それでも此処こそがあるべき場所であるという宣言です。
【NO.10】
『 父の日や 本のエンドロールに 父がゐた 』
季語:父の日(夏)
意味:父の日だ。本のエンドロールに父の名前がある。
前句と同じ句集に掲載されています。角川源義氏は角川書店の創業者であり、さまざまな本に携わっていました。本の奥付に父の名前が、父親の人生のエンドロールにその本の名前があるという二つの意味が掛かっています。
【NO.11】
『 あかあかと あかあかあかと まんじゆさげ 』
季語:まんじゆさげ/曼珠沙華(秋)
意味:あかあかと日の光に照らされて真っ赤に咲き誇る曼珠沙華だ。
「あかあか」には赤い色と、「明明」という明るい様子の二つの意味があります。「あか」を繰り返すことによって一面の赤い花とその花を照らす日の光が浮かんでくる写真のような一句です。
【NO.12】
『 風吹くや 傾きやすき 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:風が吹いている。天の川は風で傾きやすいのだ。
天の川は垂直や水平ではなく、傾いて見えることが多い銀河です。その天の川を風で傾きやすいのだと表現している自然の雄大さを表現しています。
【NO.13】
『 あをあをと 瀧(たき)うらがへる 野分かな 』
季語:野分(秋)
意味:青々と滝の水が裏返る台風の日だなぁ。
台風の強風で滝の水が裏返るように落ちていく様子を詠んだ句です。「あをあをと」という表現から台風による大雨の濁流ではなく美しい清流にかかる滝が浮かんできます。
【NO.14】
『 室生寺や すすき分け行く 水の音 』
季語:すすき(秋)
意味:室生寺のススキを分け行っていくような水の音がする。
室生寺は奈良県宇陀市にあるお寺で、紅葉で有名です。紅葉ではなくあえてススキとどこかから聞こえる水のせせらぎを詠むことで、室生寺の荘厳さとわび・さびを感じる雰囲気を表しています。
【NO.15】
『 秋風に 小銭の溜まる 峠神 』
季語:秋風(秋)
意味:秋風が吹く峠道に、お供えの小銭が溜まっていく峠の神様の祠だ。
かつては峠を越える際に、幣などのお供え物をする風習がありました。峠の祠には今でも小銭が秋風に吹かれて溜められていくようにたくさんのお供えがあったのでしょう。
【NO.16】
『 いつの間に うしろ暮れゐし 冬至かな 』
季語:冬至(冬)
意味:ふと振り返るといつの間にか夕暮れをむかえている。今日は冬至なのだなぁ。
冬至は1年で最も夜が長い日であり、夏至と比べると5時間も差があります。家事や仕事に熱中している間に日が暮れていることを「うしろ」という表現がよく表している一句です。
【NO.17】
『 火はわが胸中にあり 寒椿 』
季語:寒椿(冬)
意味:火はわが胸中にあるのだ。寒椿のように赤々と燃える火が。
『火はわが胸中にあり』とは明治時代に起きた竹橋事件を題材に書かれた本の題名で、初版は作者の所属する角川書店から出版されていました。この本を想定していたかはわかりませんが、燃える火と寒椿の赤を掛けた強い信念を感じる句です。
【NO.18】
『 勇魚(いさな)捕る 碧き氷河に 神のゐて 』
季語:勇魚(冬)
意味:クジラを捕る碧い氷河に神様がいるようだ。
「勇魚」とはクジラを表す古語です。氷河のある場所で捕るわけではありませんが、クジラ捕りの勇壮さと氷河の美しさに神秘的なものを見出して作者の想像で書かれた自然崇拝の一句です。
【NO.19】
『 北風吹くや 一つ目小僧 蹤(つ)いてくる 』
季語:北風(冬)
意味:北風が吹いていると、後ろに一つ目小僧がついてくるような気がする。
一つ目小僧は2月8日と12月8日の「事八日」という日に出現すると言われています。主に屋外に出没し、家の落ち度を調べて疫病神に報告するという言い伝えがあり、ちょうどその日に外を歩いていて北風からこの一つ目小僧を連想したのかもしれません。
【NO.20】
『 御仏の 貌(かお)美しき 十二月 』
季語:十二月(冬)
意味:仏様の顔がとても美しく見える十二月だ。
寒くひきしまった空気から、仏像の顔がより一層美しく見えている様子を詠んだ句です。関東地方は特に晴天が続くため、日の光を受けて本当に仏像が輝いて見えたのでしょう。
以上、角川春樹の有名俳句20選でした!
今回は、角川春樹の作風や人物像、有名俳句を20句ご紹介しました。
角川春樹の俳句は、実業家や映画監督らしい着眼点と強い自己投影を伴ったものが多く、現在も新しい俳句が発表されています。
現代俳壇に衝撃を与えた俳句が多いので、ぜひ句集を読んでみてください。