俳句とは、五七五の十七音で構成される短い詩です。
季節を表す季語を詠むことによって、さまざまな風景や心情を表すことができます。
俳句には切れ字や句切れ、倒置法、比喩など多くの技法があり、強調したい事柄や作者の作風によって使われる技法が異なります。
今回は数ある技法の中でも比喩表現にスポットを当て、「比喩」の意味や効果・有名俳句をご紹介していきます。
葡萄食ふ 一語一語の 如くにて
中学生のとき、教科書に載ってた俳句。この句だけは何となく好きで、今も覚えてる。 pic.twitter.com/yrJ8QHb5Bw
— siratuti (@chaicurry) September 20, 2016
朝露が草に降りまくっててすごく綺麗だった
金剛の露ひとつぶや石の上(川端茅舎)
を思い出しましたん(や、草だけど) pic.twitter.com/VrqYve4lvs— ユチコ (@yuchikosan) August 26, 2015
比喩とは?意味や効果について
比喩とは、ある物事を別の物事に見立てて例える技法です。
比喩には「直喩」「暗喩」「擬人法」の3種類があり、俳句では3種類とも使用されます。
- 「直喩(ちょくゆ)」・・・直接何かに例えることで、俳句では「ごとく」や「〇〇のような」といった表現で用いられます。直前の言葉を例えているため、動きが想像しやすくなったり風景や心情をイメージしやすくなったりする効果があります。
- 「暗喩(あんゆ)」・・・「ごとく」のようなわかりやすい例えを用いない比喩の方法で、「隠喩」とも呼ばれます。例えるものと強調したいものを直接「AはBだ」と表現するため、強調したい物事の印象が強くなります。
- 「擬人法(ぎじんほう)」・・・物事を人に例える技法です。人以外のものが主体になっていて、主に動作・性質・外観を人の動きに例えます。無機物など動きがわかりにくいものに生き生きとした印象を与えたり、人間に例えることで作者が強調したいことがイメージしやすくなったりする効果がある比喩表現です。
①直喩 または明喩 「~のようだ」や「~みたいだ」などを使い、たとえるものとたとえられるものをはっきり示す。
②隠喩 または暗喩 たとえるものとたとえられるものをそれとなく示す。「~ようだ」などを使わない
③擬人法 人でないものを人に見立てた表現。— ニクキュウ (@jhondo606) January 20, 2014
〜比喩法〜
直喩
「私は仕事をスムーズにする"潤滑油"のような存在です」暗喩
「私は仕事をスムーズにする"潤滑油"です」擬人法
「俺が、俺たちが潤滑油だ!」— sweets (@jumpuukutiku) November 29, 2015
胃が爆発しそう(直喩)
胃が爆発する(暗喩)
胃がブレイクダンスしている(擬人法)— 爆散オメガ (@MoBacchan) June 14, 2016
比喩を使った有名俳句【前編10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 行く春や 鳥啼き魚の 目は泪 』
季語:行く春(春)
意味:過ぎ去っていく春のような旅立ちの別れを惜しんでいたら、鳥が悲しそうに啼き魚の目に涙が浮かんでいるように見えてくる。
鳥が「鳴く」ではなく「啼く」と表現していることから、擬人法を使用している一句です。前書きでは別離を惜しむ作者と門弟たちの場面が描かれているため、「行く春」を「別離の悲しみ」にも例えています。
【NO.2】富安風生
『 春の町 帯のごとくに 坂を垂れ 』
季語:春(春)
意味:春の町並だ。まるで帯のように坂を垂らしているように見える。
この句では坂を帯に例えています。坂の多い町並みを下から見ると、まるでさまざまな帯があちこちから垂れているように見える様子が連想しやすくなる比喩です。
【NO.3】高野素十
『 春の雪 波の如くに 塀をこゆ 』
季語:春の雪(春)
意味:春の雪は、まるで波のように塀をこえて入ってくる。
春の雪の降り方を波に例えることで、読んでいる人に風景を想像しやすくさせています。書かれていない風の具合で波のような強弱を伴いながら塀をこえてくる雪の様子が映像のように浮かびます。
【NO.4】松本たかし
『 春月の 病めるが如く 黄なるかな 』
季語:春月(春)
意味:春の月が、まるで病気になっているように黄色になっているなぁ。
「病的なまでに」といった例えがあるように、黄色い春の月を病気のように見えると例えています。作者は体が弱く病気がちだったことからいつもより黄色く見える月を病気に例えたのでしょう。
【NO.5】大木あまり
『 悲しみの 牛車のごとく 来たる春 』
季語:春(春)
意味:悲しみが牛車のようにゆっくりと来た春だ。
牛車はゆっくりと音を立てて動きます。そんな牛車にゆっくりと忍び寄ってくる悲しみを例えた一句です。「来たる春」だけ読むとめでたいように感じますが、悲しみがやってくる悲しみが一層際立ちます。
【NO.6】松尾芭蕉
『 暑き日を 海にいれたり 最上川 』
季語:暑き(夏)
意味:暑い太陽が最上川の流れに乗るように海に入っていく日没だ。
最上川に沿うように沈んでいく太陽が、まるで最上川に押し流されて海に入っていくようだと例えています。川や海の位置関係がわかりやすい一句です。
【NO.7】河合曽良
『 卯の花に 兼房見ゆる 白毛かな 』
季語:卯の花(夏)
意味:卯の花の白さが、白髪を振り乱して戦ったという増尾兼房を思い起こさせる。
【NO.8】小林一茶
『 涼風の 曲がりくねって きたりけり 』
季語:涼風(夏)
意味:涼しい風が路地を曲がりくねるように時間をかけて進やってきた。
涼風が時間をかけてやってくることで、あまり涼しくなくなっていることを暗喩として表しています。江戸時代には表通りに面していない長屋は狭い路地が入り組んだようになっていました。「曲がりくねって」という時間がかかる様子から、表通りは涼しいだろうにという愚痴めいた感情も読み取れる句です。
【NO.9】森澄雄
『 ぼうたんの 百のゆるるは 湯のやうに 』
季語:ぼうたん(夏)
意味:百個はあろうかという牡丹の花が風に揺れている様子は、まるで湯けむりのように見える。
この句では牡丹の花の色は示されていませんが、湯気のようにと例えられていることから満開の白い牡丹の花が連想されます。たくさんの牡丹の花が風で揺らめく様子が映像のように浮かんでくる句です。
【NO.10】日野草城
『 ところてん 煙のごとく 沈みをり 』
季語:ところてん(夏)
意味:押し出されたところてんは、お皿の中に煙のように沈んでいった。
ところてんが容器から押し出されて紐状になって皿に盛り付けられる様子を煙に例えています。煙のように半透明なところてんの色がよくわかる比喩表現です。
比喩を使った有名俳句【中編10句】
【NO.11】飯田蛇笏
『 たましひの たとへば秋の ほたる哉 』
季語:秋のほたる(秋)
意味:亡くなった人の魂は例えるとしたら秋の光の弱い蛍のようなものなのだろうか。
人の魂を蛍の光に例えた句ですが、夏ではなく秋の弱々しい光の蛍を選んでいます。この句は芥川龍之介の早逝を追悼した句で、早すぎる死を惜しむ気持ちが秋の蛍という表現になった句です。
【NO.12】中村草田男
『 秋の航 一大紺 円盤の中 』
季語:秋(秋)
意味:秋の航海の中、周囲は一面の紺色の海でまるで円盤の中にいるように水平線が広がっている。
どこまでも続く水平線を円盤に例えています。体言止めを多用しているため、円盤のように丸く見える海を進む様子に感動している作者の心情がよく表れています。
【NO.13】三橋鷹女
『 この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉 』
季語:紅葉(秋)
意味:この樹を登ると、あの伝説の鬼女紅葉になるだろう美しい夕暮れの紅葉だ。
【NO.14】川端茅舎
『 金剛の 露ひとつぶや 石の上 』
季語:露(秋)
意味:まるで金剛石のように美しい露が石の上に一粒輝いている。
石の上で光っている露を金剛石、ダイヤモンドに例えた一句です。キラキラと石の上で転がり落ちることなく輝く露を一粒のダイヤモンドに見立てています。
【NO.15】中村草田男
『 葡萄食ふ 一語一語の 如くにて 』
季語:葡萄(秋)
意味:ブドウを一粒ずつ食べよう。一語一語文字を読むように噛み締めて。
ブドウを一粒ぶつ食べる様子を、文字を一語ずつ読む様子に例えています。ブドウを一粒ずつ食べていることに加えて、普段の作者の読書の様子も暗示している一句です。
【NO.16】鷹羽狩行
『 日と月の ごとく二輪の 寒牡丹 』
季語:寒牡丹(冬)
意味:太陽と月のように美しく咲く二輪の寒牡丹だ。
大きく丸く咲く牡丹の花を太陽と月に例えています。丸く輝く天体に例えることで、大きな花が一際目立って咲いている様子が浮かんできます。
【NO.17】松本たかし
『 玉の如き 小春日和を 授かりし 』
季語:小春日和(冬)
意味:貴重な玉のようにめずらしい小春日和を天から授かったような暖かい日だ。
玉は宝石のことで、めずらしく貴重なものの例えです。寒い冬の中で不意に訪れた小春日和を貴重なものであるとありがたがる様子が強調されています。
【NO.18】阿波野青畝
『 王冠の ごとくに首都の 冬灯 』
季語:冬灯(冬)
意味:王冠のように輝く首都の冬の明かりである。
この句は終戦後に詠まれています。戦後の復興が著しい東京で一際輝いている冬のネオンサインをキラキラと輝く王冠に例えた一句です。
【NO.19】高浜虚子
『 去年今年 貫く棒の 如きもの 』
季語:去年今年(新年)
意味:去年と今年を貫く一本の棒のようなものがある。
去年から今年へ向かう時間の流れを一本の棒に例えています。真っ直ぐに伸びる棒に貫かれるように、自分の信念も真っ直ぐなものであるという解釈もできる句です。
【NO.20】金子兜太
『 銀行員等 朝より蛍光す 烏賊のごとく 』
季語:無季
意味:銀行員たちが朝から蛍光灯をつけて仕事をしている。まるでホタルイカのような明かりだ。
朝から仕事をしている銀行員たちが付けた明かりをホタルイカの明かりに例えています。ほんのりと暗い中で輝く蛍光灯の様子が連想しやすくなる効果のある比喩です。
比喩を使った有名俳句【後編10句】
【NO.21】松尾芭蕉
『 象潟(きさかた)や 雨に西施(せいし)が ねぶの花 』
季語:ねぶの花(夏)
意味:象潟についたなぁ。雨が降っていて、ねぶの花が西施のように俯いている。
ねぶの花を中国の俯く姿が美しいと評判だった西施に例えた一句です。「象潟」とは秋田県にかつてあった風光明媚な観光地ですが、生憎の雨だったようです。そんな中でも俯いているねぶの花の美しさを詠んでいる一句になっています。
【NO.22】正岡子規
『 砂の如き 雲流れゆく 朝の秋 』
季語:朝の秋(秋)
意味:砂のような雲が流れていく秋の朝だ。
秋の雲はハケで引いたような薄い雲が上空に出来るのが特徴です。作者はそんな雲を砂に例えています。枯山水のような砂で出来た美しい雲と清々しい朝の空気が浮かんでくる一句です。
【NO.23】細見綾子
『 菜の花が しあはせさうに 黄色して 』
季語:菜の花(春)
意味:菜の花が幸せそうに黄色に色づいている。
この句は菜の花が幸せそうだと擬人化を使っています。黄色という明るい色からは幸せや元気など前向きな感情を抱く人も多いでしょう。作者も黄色く咲く菜の花に幸せな感情を貰っている様子が伺える句です。
【NO.24】山口誓子
『 風雪に たわむアンテナの 声を聴く 』
季語:風雪(冬)
意味:風雪にたわむアンテナの声を聴く。
「アンテナの声」と擬人化して詠んでいます。この句は作者が阿蘇山の観測所に訪れた際に詠まれた句で、風雪に揺られてたわむアンテナの音を聞いています。今よりも防寒設備も耐久性も低い時代なので、恐ろしい想いをしている様子を擬人化したアンテナに託しています。
【NO.25】山口誓子
『 海に出て 木枯らし帰る ところなし 』
季語:木枯らし(冬)
意味:海に出ても木枯らしには帰る場所がない。
木枯らしを擬人化した一句です。池西言水の「凩の果てはありけり海の音」を下敷きにしていますが、作者が詠んだ木枯らしとは「神風特攻隊」のことだとも言われています。一度出撃したらもう帰る場所のない彼らにどんな想いを馳せていたのでしょうか。
【NO.26】水原秋桜子
『 冬菊の まとふはおのが ひかりのみ 』
季語:冬菊(冬)
意味:冬菊がまとうのは自分の光のみだ。
この句は冬菊が「まとふ」という擬人化を使っています。冬は太陽の高度が低く、すぐに暗くなってしまう季節です。そんな中でも咲く冬菊は自分自身の光をまとって輝くように咲いているのだと詠んでいます。
【NO.27】松本たかし
『 金粉を こぼして火蛾(ひが)や すさまじき 』
季語:火蛾(夏)
意味:金粉のような鱗粉や火花をこぼして火に集まる蛾の勢いが凄まじいなぁ。
【NO.28】高柳重信
『 きみ嫁けり 遠き一つの 訃(ふ)に似たり 』
季語:無季
意味:君が嫁いで行った。その知らせは遠くで受けるひとつの訃報に似ている。
結婚報告を訃報に例えている一句です。作者の好きな人だったのでしょうか、二度と今までの関係には戻れない様子を訃報と例えています。
【NO.29】渡辺白泉
『 戦争が 廊下の奥に 立つてゐた 』
季語:無季
意味:戦争が廊下の奥に立っていた。
戦争という概念を擬人化した一句です。「廊下の奥」というどの建物か明かさないことで、知らないうちに戦争が忍び寄ってきている恐ろしさを詠んだ句になっています。
【NO.30】坪内稔典
『 がんばるわ なんて言うなよ 草の花 』
季語:草の花(秋)
意味:がんばるわ、なんて言うなよ野に咲く花よ。
草の花を擬人化させた一句です。「草の花」とは野に咲く名も無き花を表す秋の季語で、ひっそりと咲く花でも頑張って咲いている、とは言わないでくれよと作者が頼んでいます。作者にとって名のある花も野の花もみな等しく「花」として扱っているのでしょう。
以上、比喩を使った有名俳句集でした!
今回は、比喩表現を使った有名俳句を30句紹介しました。
比喩という技法を効果的に使うためには、物事の観察を怠らない努力が必要です。
特に暗喩は読んだ人が納得できるような例えを使う必要があり、難しい部類に入ります。
強調したいことや共有したい風景・感覚を詠むにはぴったりの技法なので、ぜひ比喩を使って一句詠んでみてください。