【がんばるわなんて言うなよ草の花】俳句の季語や意味・表現技法・鑑賞など徹底解説!!

 

俳句と聞くと高尚なものと捉えがちですが、実は読み手が気軽に受け取ることができる句も多くあります。

 

今回ご紹介する現代句「がんばるわなんていうなよ草の花」という坪内稔典の句もその一つです。

 

 

本記事では、「がんばるわなんて言うなよ草の花」の季語や意味・表現技法・作者などについて徹底解説していきます。

 

「がんばるわなんて言うなよ草の花」の季語や意味・詠まれた背景

 

がんばるわ なんて言うなよ 草の花

(読み方:がんばるわ なんて言うなよ くさのはな)

 

この句の作者は「坪内稔典(つぼうち としのり)」です。

 

稔典氏は、正岡子規の研究者であり、昭和後期から現在も活躍する俳人です。現代俳句の第一人者の一人として有名で、彼が詠んだ句は国語の教科書にも採用されています。

 

季語

この句の季語は「草の花」で、季節は「秋」を示します。

 

「草の花」とは、道端や野山に咲く秋の花の総称をいいます。

 

野草は春・夏・秋と咲きますが、咲く種類が多いのは秋であるため、秋の季語に分類されています。

 

「草の花」は秋の野草のため小さな花が多く、儚さや「よく咲いたな」といったしみじみした思いを伝えるときに使われています。

 

意味

この句の意味は文章の通りではありますが、もう少し加えて解釈するのであれば・・・

 

「草の花が「がんばるわ」なんて言うんじゃない。頑張って咲いてるじゃないか」

 

となります。

 

この句が詠まれた背景

この句は作者である稔典氏の作風が関係しています。

 

稔典は「口誦性(こうしょうせい)」と「片言性」が俳句の本質であると考えています。

 

「口誦性」とは簡単に口にできるものであること。そして「片言性」とは、俳句は短いからこそ読み手が様々な解釈でき、言葉豊かになるものだとしています。

 

つまり、今回の俳句も誰でも口ずさめ、どのような解釈でもありだと稔典氏自身が考えていることになります。

 

そのため、今回の句は「誰でもどこかで何かあれば思いだしてほしい句」として受け取ることができます。

 

「がんばるわなんて言うなよ草の花」の表現技法

二句切れ

今回は五・七・五の七の部分(二句目)で切れているため、「二句切れ」になります。

 

二句目で切れる理由は「言うなよ」の部分にあります。

 

文法で言えば、動詞+否定形+意味を強める助詞「よ」という形をとっており、作者の感動の中心を表しています。

 

また、「言うなよ(言うんじゃない。)」というように意味の上(句点「。」がつく)でも切れ目ができていますので、「二句切れ」の句ということがわかります。

 

倒置法

倒置法とは、本来の言葉の順番をあえて入れ替えて逆にして、印象を強めたり、余韻を残す表現技法のことです。

 

この句は、一般的な言葉の順番では「草の花がんばるわなんて言うなよ」となります。

 

しかし、今回の句のように「草の花」を末尾に持ってくることで、余韻を持たせ、作者の感じた驚きをより強く伝えようとしています。

 

体言止め

体言止めとは、下五語を名詞または代名詞で締め括る技法のことです。

 

下五語を名詞または代名詞で締め括ることで、詳細な説明を省き、余韻の効果を持たせることができます。

 

今回の句では「草の花」の部分が体言止めにあたります。

 

読み手に対して、苦しいながら頑張っている草の花の姿をイメージさせる効果があります。

 

「がんばるわなんて言うなよ草の花」の鑑賞文

 

【がんばるわなんて言うなよ草の花】は、ふとした時に浮かんでほしいという思いが感じられる一句です。

 

一般的に、鬱になっている人や頑張りすぎている人に「頑張れ」と声をかけるのは逆効果と言われます。

 

周りが見えなくなり、どうしようもなくなってしまった時にこの句があったらどうでしょうか。

 

草の花を自らに置き換えて、この句を想像してみると気づかされることがあります。

 

野に咲く花はきれいですが通りすがりの人たちがじっくり見ることは少ないでしょう。

 

しかし、この句は花を見ている人がおり、声をかけています。

 

つまり苦しい状況にある人に対して「頑張るわなんて言うな」と言っている人がいるということです。

 

自分が気づかなかった人は誰なのかという問題は人それぞれ違いますが、どこかにそっと見守っている人がいるとささやいているようです。

 

苦しくなった時、また苦しそうな人を見た時に思いだしてほしいという優しい応援が伝わってきます。

 

作者「坪内稔典」の生涯を簡単にご紹介!

坪内 稔典(1944年~)。本名と俳号は同じですが読みが異なります。本名は「としのり」で俳号は「ねんてん」です。

 


坪内稔典は愛媛県出身。高校時代から俳句をたしなみ始めたと言われています。

 

俳諧での活動では「現代俳句」の創刊や、「船団」を創刊し「船団の会」の代表を務めています。

 

現代俳句の第一人者の一人としても有名で、句のいくつかが国語の教科書に採用されています。

 

また「正岡子規」「夏目漱石」の研究者としても知られており、京都教育大学名誉教授でもあります。

 

坪内稔典のそのほかの俳句

 

  • 春の風ルンルンけんけんあんぽんたん
  • 晩夏晩年角川文庫蝿叩き
  • 三月の甘納豆のうふふふふ
  • 水中の河馬が燃えます牡丹雪
  • 魚くさい路地の日だまり母縮む
  • びわは水人間も水びわ食べる
  • たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ