
伝統文芸として広く愛好されている俳句。
俳句は常に革新と進歩を続けています。現代俳句の中には「これって俳句なの?」と聞き返したくなるような、口語表現を駆使した自由で新しい句も多く詠まれています。
今回は数ある名句の中から現代を代表する俳人・坪内稔典の句、「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」を紹介していきます。
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ#たんぽぽ #ぽぽのあたり #火事 pic.twitter.com/CEwrFhJNII
— ユキカ (@fjord335) February 21, 2015
本記事では、「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の季語や意味・表現技法・作者について徹底解説していきます。

ぜひ参考にしてみてください。
目次
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の作者や季語・意味

たんぽぽの ぽぽのあたりが 火事ですよ
(読み方:たんぽぽの ぽぽのあたりが かじですよ)
こちらの句の作者は「坪内稔典(つぼうちねんてん)」です。
俳句を詠むばかりではなく、俳句をわかりやすく紹介・解説する活動も広く行っている現代を代表する俳人です。
季語
この句の季語は「たんぽぽ」で、季節は「春」を表します。
たんぽぽは春に黄色い丸い花を咲かせます。鮮やかな色・可愛らしい形から、老若男女を問わず愛される春の代表花です。
硬いコンクリートやアスファルトの隙間など、どんなところでもたくましく根をのばし花を咲かせる生命力の強い植物です。

また、たんぽぽの花は咲き終わると一度茎が倒れますが、綿毛となって種を飛ばすときには再びグッと高く茎を持ち上げ、より遠くに種を飛ばそうとします。子孫を残すため、したたかな戦略をもった植物なのです。
意味
こちらの句を現代語訳すると・・・
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事になっているように感じられますよ。」
という意味になります。作者はこの句について・・・
自作「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」を話題にしたところ、いろんな人がこの句の読みを示してくれて面白かった。「ぽぽのあたり」はどこか。「火事ですよ」とはどういことか。そのあたりで多くの意見があった。もちろん、作者には解答がない。
(出典:俳句グループ「船団の会」)
と述べています。
また、作者は下記2点を俳句の本質であるというスタンスで創作をしています。
- 口誦(こうしょう)性・・・簡単におぼえてどこででも口にできること
- 片言(かたこと)性・・・短い言葉ではあるがその意味するところは深く広く簡単には言い尽くせないこと
そして、坪内氏は多様な解釈が成り立ち、言葉が複層的に意味を持って豊かに展開することをよしとしています。

この句も読む人ごとに自由に解釈ができて、正解・不正解はないのです。
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」が生まれた背景

作者の坪内稔典氏は、以下のように述べています。
「楸邨晩年の句集『怒涛』(1986年)に(中略)「たんぽぽのぽぽと絮毛のたちにけり」があった。私の「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の触媒がこの句などだったかも。」
(出典:俳句グループ「船団の会」)
「楸邨」は「加藤楸邨」という俳人のこと。昭和から平成を活躍した俳人で、幅広い句風で様々な句を詠みました。
「たんぽぽのぽぽと絮毛(わたげ)のたちにけり」は「たんぽぽのわたげが、ぽぽといった様子で立っていることだよ」というくらいの意味です。楸邨は「ぽぽ」を綿毛の様子を表す言葉として使っています。
また、江戸時代の俳諧に下記の句もあります。
「たんぽぽの ぽぽともえ出る 焼野(やけの)かな」
(意味:たんぽぽの芽が、野焼きをした土地からぽぽと芽吹いてきていることよ。)
焼野とは、野焼きをして焦げた大地のこと。「もえ出る」とは「萌え出る」、植物が芽吹くことです。ここでは、「ぽぽ」をたんぽぽが芽吹く様子のたとえとして使っているのです。

これら先行の句の知識もあったうえで、坪内氏の「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」という句が生まれているのです。
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の表現技法

こちらの句で用いられている表現技法は・・・
- 句切れなし
- ひらがなの多用、「ぽ」の繰り返し
になります。
句切れなし
俳句では、一句の中の意味上、リズム上の切れ目を句切れと呼びます。普通の文でいえば句点「。」がつくところで切れます。
この句は、途中で切れることがないため「句切れなし」の句となります。

ちょっと思いついたおもしろいことをささやくような、軽い調子を生み出しています。
ひらがなの多用
「火事」以外の部分がすべてひらがな表記になっていることで、やわらかく・のびやかなイメージが作られています。
また。「たんぽぽのぽぽ」と「ぽ」の音が繰り返されるところもこの句の大きな特徴です。
ひらがなの多用と「ぽ」の繰り返しが、口ずさみやすく、耳に心地よく、ユーモラスな雰囲気を作り上げているのです。
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ(by坪内稔典)」という、好きな一句を思い出す今春初のたんぽぽとの邂逅。ぽぽぽ、っといくつも咲いていた。 pic.twitter.com/qFTSp8ZOk2
— 篁 (@cacaopodist) April 1, 2018
「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の鑑賞文

【たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ】の句は、ユーモラスで口当たりはいいですが、よく考えるとどういう意味なのかと考え込んでしまう不思議な句です。
「ぽぽのあたり」を、鮮やかに花開く満開のたんぽぽの花とも、飛び立とうとしている綿毛とも、いろいろな解釈がなしえます。
どのように解釈しても、春に咲くたんぽぽの花の持つ明るいイメージ、やわらかで平和な印象が感じられる句です。
この「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の句は、作者の八番目の句集「ぽぽのあたり」に載っている句です。句集には、この句に続けて、「たんぽぽのぽぽのその後は知りません」という句が載っています。
なんともとぼけた味わいの句で、「ぽぽのあたり」の火事の煙にまかれてしまったような、不思議でユーモラスな印象があります。
蒲公英のぽぽのあたりが火事ですよ
の詩が強烈すぎて、タンポポみながらぽぽを探す春。 pic.twitter.com/0OBi1x4Wtg
— あやた (@7ajax6) April 17, 2015
知っておきたい!たんぽぽに関する有名俳句【5選】

たんぽぽは春になると咲く黄色の花で、春の代表的な花です。
また、黄色く美しい花と違い、種は綿毛のような形状となって飛んでいくことでまた違った風情を感じるため、花だけではなく綿毛もよく題材にされるのが特徴的です。
俳人たちはたんぽぽのどのような風景を詠んだのでしょうか。

【NO.1】中村汀女
『 たんぽぽや 日はいつまでも 大空に 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:足元にたんぽぽが咲いているなぁ。大空には太陽がまだ高く、春の日の長さを感じられる。

たんぽぽが咲く麗らかな陽気に、太陽がいつまでも大空にある様子から日が長くなったことを実感している一句です。ついこの間まであんなに日が落ちるのが早かったのに、まだ太陽が出ていると驚いています。
【NO.2】高野素十
『 たんぽぽの サラダの話 野の話 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:たんぽぽをサラダにして食べることができる話から、野の草花の話へと話が広がっていった。

たんぽぽのサラダの話から次々と話が広がり、野に咲く花の話まで広がっていく様子を詠んだ句です。もしかすると最初は食べられる野草の話をしていて、そこからどんどん話が弾んだのかもしれません。お互いに意気投合している様子が伺える一句です。
【NO.3】星野立子
『 たんぽぽの 皆上向きて 正午なり 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:正午になり、太陽が高くたんぽぽもみな上を向いている。

たんぽぽの花は太陽の方向を向く習性を持っています。そんなたんぽぽの花がみんな真上を向いているということは、太陽が一番高い位置にあるということで、正午になったんだなと実感できる一句です。日時計ならぬ花時計というオシャレな花の見方をしています。
【NO.4】三橋鷹女
『 あすが来て ゐるたんぽぽの 花びらに 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:たんぽぽの花びらに、明日が来ているように感じる。

たんぽぽの黄色い花びらを見ていると、明日という希望が来ているように元気になる、と詠んだ句です。野原に咲く黄色い花を見ていると悩みが緩和され、明日からも頑張ろうという気持ちになっています。
【NO.5】正岡子規
『 馬借りて 蒲公英多き 野を過る 』
季語:蒲公英(春)
意味:馬を借りて、たんぽぽが多く咲いている野を横切る。

この句は松尾芭蕉の「野を横に 馬引き向けよ ホトトギス」とよく似ています。芭蕉のように野原で馬に乗り、たんぽぽが多い草原を横切っているので、多少は意識して俳句を作ったのでは無いでしょうか。
作者「坪内稔典」の生涯を簡単に紹介!
【市民に親しまれる柿衞文庫へ 伊丹大使の坪内稔典さん(広報伊丹2019年1月1日号掲載)】
伊丹大使で俳人の坪内稔典さん(74歳)が昨年7月、柿衞文庫の理事長に就任しました。
続きはこちら・・・https://t.co/2MRJ489Vcr pic.twitter.com/O3R21ktD4O
— 伊丹市広報課 (@Itami_city_PR) December 28, 2018
坪内稔典(つぼうちとしのり)。俳号は稔典を「ねんてん」と音読みにして使っています。昭和19年(1944年)、愛媛県生まれの俳人であり、研究者です。
とくに正岡子規の研究で業績を上げており、俳句グループ「船団の会」の代表も務めています。
俳句の作風は、軽快でユーモラスなものが多く、口語表現で親しみやすく覚えやすいものが多いという特徴があります。
俳句を詠むだけにとどまらず、俳句を紹介し、解説して世に俳句を広めるための著作も多く、今なお活躍を続ける現代の俳人のひとりです。
坪内稔典のそのほかの俳句

- がんばるわなんて言うなよ草の花
- 三月の甘納豆のうふふふふ
- 春の風ルンルンけんけんあんぽんたん
- 晩夏晩年角川文庫蝿叩き
- 水中の河馬が燃えます牡丹雪
- 魚くさい路地の日だまり母縮む
- びわは水人間も水びわ食べる








