俳句は5・7・5の十七音の韻律と季語を詠むという決まりを守れば誰でも作れる、日本の伝統的な詩です。
江戸時代に始まった俳句は、現代に到るまで多くの俳人が様々な情景や心情を詠んでいます。
今回は、俳句の意味(俳句とは)や歴史や作り方、有名な季語や有名俳句などを紹介していきます。
8月19日は【俳句の日】
「は(8)い(1)く(9)」の語呂合わせから、正岡子規の研究家である坪内稔典氏が制定。夏休み中の子供たちに俳句への興味を持ってもらおうという意図もある。俳句は五・七・五の十七音から成る定型詩で、世界最短の定型詩であるとされる。#今日は何の日 pic.twitter.com/fGD84vvaX4— 地球くん (@chikyukun) August 18, 2017
俳句とは?簡単にわかりやすく解説
俳句とは、季語を伴う5・7・5の17音で構成される日本固有の定型詩です。
つまり、俳句は【①5・7・5の17音にする】【②季語を入れる】の2点が大原則です。
【例】小林一茶
『 夏草や兵どもが夢の跡 』
【読み方】なつくさや(5) つわものどもが(7) ゆめのあと(5)
【季語】夏草(夏)
【意味】今や夏草が生い茂るばかりだが、ここはかつては武士達が栄誉を求めて奮戦した跡地である。昔のことはひと時の夢となってしまったなあ。
ここからは、大原則2点について簡単に解説していきます。
(1) 5・7・5の17音に収める
俳句の基本ルールとして、最初の5音、中間の7音、最後の5音の17音に収めるというものがあります。
17音から増減する字余りや字足らず、韻律を無視する自由律俳句などの種類もありますが、まずは5・7・5の音に収めてみましょう。
気をつけたいこととしては、文字数ではなく「音(おん)」と表現しているように、読んだ時に17音になっていれば構いません。
「しょ」や「きょ」などは2文字ですが、音としては1音として扱われます。
(2) 季語を使う
俳句には、季節を表す季語を詠むというルールがあります。季語には様々な意味が込められていて、俳句を読む人に作者が伝えたい風景をイメージしやすくする効果があります。
【季語の例】
- 春・・・「春分」「お花見」「桜」「入学式」
- 夏・・・「海」「猛暑」「梅雨」「アイスクリーム」
- 秋・・・「紅葉」「もみじ狩り」「栗」
- 冬・・・「雪」「ゆきだるま」「炬燵」などなど
どの季節にどんな季語があり、どんな意味を持つのかということをまとめた本を「歳時記(さいじき)」と呼びます。
多くの出版社が発売しているので、色々と読み比べてみると面白いでしょう。
俳句の歴史
(1) 俳諧連歌が主流の江戸時代
俳句とは江戸時代に「俳諧」と呼ばれた和歌の一種から派生しています。
和歌の5・7・5の部分と7・7の部分を交互に詠むのが「連歌」と呼ばれる形式で、その中でも滑稽なものや遊びを伴うものが「俳諧」と呼ばれていました。
この俳諧連歌から現在の俳句の原型となった「発句」を独立させたのが松尾芭蕉です。芭蕉は俳諧連歌も多く残していますが、最初の5・7・5の発句だけで独立して鑑賞できる作品を多く残したことで、後の与謝蕪村や小林一茶らに大きな影響を与えました。
(2) 正岡子規による俳句の独立
「発句」と呼ばれていた5・7・5の韻律の歌が「俳句」として定義されたのは、明治時代の正岡子規による提言からでした。
滑稽さを楽しむ従来の俳諧は「連句」と呼ばれるようになり、松尾芭蕉から続く写実・写生を重視したものが「俳句」と呼ばれるようになります。
季語と韻律を守り写実的な描写の俳句の推進者となったのが正岡子規の跡を継いだ高浜虚子で、主宰となった「ホトトギス」は現在に到るまで多くの俳人を輩出している雑誌です。
(3) 無季俳句や自由律俳句の登場
正岡子規の死後の俳壇は、写実を重視し季語を詠む伝統俳句のほかに5・7・5の韻律や季語を詠まない「自由律俳句」や「無季俳句」を重視した荻原井泉水、河東碧梧桐が登場します。
自由律俳句は「層雲」という雑誌で隆盛し、「咳をしても一人」という俳句で有名な尾崎放哉や、「分け入つても分け入つても青い山」という俳句で有名な種田山頭火など、明治後期から昭和初期にかけて多くの俳人を輩出しています。
(4) 現代の俳句
戦時中の新興俳句弾圧事件などの言論弾圧を経て復興した現代の俳句は、松尾芭蕉や正岡子規以来の伝統俳句、河東碧梧桐以来の自由律俳句のほかに、古文のような古い言葉ではなく現在の話し言葉で詠む口語体の俳句が増えています。
また、国際交流を経て外国の風景を詠んだり英語などの外国語で俳句を作ったりする試みも行われていて、国際色豊かな俳句が増えているのが特徴です。
俳句の作り方
(1) テーマや季語を決めよう
俳句で最も大切なことは「何を詠みたいのか」ということです。テーマが決まっていないと季語や使う言葉が決まらないため、行事や動植物、自分の気持ちなど具体的なテーマを決めましょう。
学校や季節の行事、花や鳥、人々の行動などは季語になっていることが多いので、詠みたいテーマが決まったら歳時記などで確認してみてください。
(2) どのような場面でどう感じたのかを考えてみよう
テーマや季語が決まったらどんな場面でどのように感じたかを書き出してみましょう。「暑い」という感覚だけでも、初夏の室内の暑さと真夏の炎天下のグラウンドの暑さでは受ける印象が変わってきます。
また、「嬉しい」や「悲しい」などの感情を詠む場合は「どんな理由で」その感情を抱いたのかという連想が大切になってくるので、ものを見聞きして何を感じたのか、何故その気持ちになったのかをメモしておくのがおすすめです。
(3) 一番伝えたいものを決めよう
季語を使うのが俳句のルールですが、2つ以上の季語を使うと「季重なり」と言われるあまり推奨されない表現になります。
有名な季重なりの句としては、「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という句があり、これは「青葉」「ほととぎす」「初鰹」という季語を3つ重ねることにより初夏の風景を演出している難しい技法です。
例に挙げた句では一つ一つの季語の説明をしたいのではなく、読んだ人たちが想像する「初夏の感覚」が一番伝えたいものでした。季語そのものを伝えたいのか、季語を通して別のことを伝えたいのか、色々と試作してみるといいでしょう。
(4) 5・7・5の形に整えよう
前項で試作して作ってみた言葉を5・7・5の音に当てはめていきます。どうしても字が余る、足りないといったときには、歳時記にもっと良い季語がないか、句集で参考になる表現がないか探してみましょう。
俳句は口に出して読んでみることも大切です。5・7・5の韻律が上手くできているか、繰り返しの表現を使うなどして自分の狙った効果が出ているか、少しずつ調整していきます。
(5) 言葉や順番を入れ替えたり、切れ字を使ったりしてみよう
俳句ではどうしても入れたい言葉があるのに17音には入り切らない、という事が往々に起こります。
そんなときは動詞の省略や切れ字によって1度調子を整えることも必要です。例えばお花見のシーンとわかっていれば「花」という一文字だけで意味が読み取れるように、動詞を省略できるものもあります。
春夏秋冬!知っておきたい季語一覧
俳句の季語は、旧暦(月の満ち欠けを基準とした暦)を元に分類されます。
一方で現在使われているカレンダーは太陽の動きを基準とした新暦を使用しているため、1ヶ月から2ヶ月近くのズレが生じることに注意が必要です。
【旧暦の春夏秋冬】春:1月から3月夏:4月から6月秋:7月から9月冬:10月から12月
【新暦の春夏秋冬】春:3月から5月夏:6月から8月秋:9月から11月冬:12月から2月
以下に、春夏秋冬と暮れ・新年の有名な季語を10個ずつ挙げていきます。
- 【春の季語】桜・梅・桃の花・朧月・鶯・暖か・風光る・たんぽぽ・卒業・猫の子
- 【夏の季語】暑し・涼し・風薫る・若葉・筍・蝉・五月雨・紫陽花・向日葵・祭
- 【秋の季語】月・霧・稲・菊・虫・天の川・七夕・林檎・野分・雁
- 【冬の季語】寒し・雪・氷・枯木・炬燵・蜜柑・マスク・水仙・凩(こがらし)・時雨
- 【暮・新年の季語】大晦日・煤払い・除夜の鐘・元日・初日・初富士・門松・屠蘇(とそ)・七種(ななくさ)・初詣
知っておきたい!俳人が詠んだ有名俳句【5選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 』
【季語】蝉(夏)
【意味】なんと静かなことか。蝉の声が岩にしみ入るように感じる。
松尾芭蕉が山形県にある立石寺というお寺で詠んだ有名な俳句です。「しみ入る」という表現から蝉の声以外何も聞こえない静かな山寺の様子が浮かんできます。
【NO.2】与謝蕪村
『 菜の花や 月は東に 日は西に 』
【季語】菜の花(春)
【意味】菜の花が咲いているなぁ。月は東からのぼり、日は西に沈んでいく。
月の出と日の入りが同時であることから、夕暮れ時の菜の花と空の様子を詠んだものだとわかる句です。菜の花、月、太陽と1度に描写しているまるで絵画のような一句になっています。
【NO.3】小林一茶
『 雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る 』
【季語】雀の子(春)
【意味】雀の子よ。そこをおどきなさい、そこをおどきなさい。お馬が通りますよ。
この句は道端の雀のヒナに対して子供たちが遊んでいる「馬」が来るよ、と呼びかけている様子を詠んでいます。「お馬」という表現から、大名行列が来た時に道端に退く人々の様子を詠んだとも言われている一句です。
【NO.4】正岡子規
『 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 』
【季語】柿(秋)
【意味】柿を食べていると、法隆寺の鐘が鳴っている。
法隆寺を詠んだ有名な俳句です。作者は柿が好物で俳句にも度々登場しています。古い歴史を持つ法隆寺の鐘の音に昔をしのびながら、今の自分の好物を食べている作者の様子を詠んだ句です。
【NO.5】種田山頭火
『 分け入っても 分け入っても 青い山 』
【季語】無季
【意味】分け入っても分け入っても青い山ばかりだ。
この句は季語を含まず17音の韻律でもない無季自由律俳句という区分の俳句です。「分け入っても」を繰り返すことで、歩いても歩いても周りは山ばかりだという情景がイメージしやすくなっています。
さいごに
今回は、俳句の意味や歴史、作り方のコツ、季語や有名な俳句などについて解説してきました。
少ない音数で構成されているので難しいと思われがちな俳句ですが、何を伝えたいのかをはっきりとさせると作りやすくなります。
江戸時代から現代までの俳人のまとめた歳時記や句集が多く出版されているので、色々な作品に触れて自分なりの俳句を作ってみてください。