春になり暖かくなってくると、空を舞う燕(つばめ)を見かけるようになります。
燕は日本各地に春に渡ってきて軒下に巣をつくり、子育てをします。
燕の子
ちからの限り
口を開け燕の子
早く巣立てと
押し出され*奥にもう一羽いたようです。#俳句 #燕の子 #写真haiku pic.twitter.com/t0ttA3XoA5
— とんぼ (@tonbo_yu_yu) June 11, 2015
今回は、春を代表する鳥「燕(つばめ)」にまつわる俳句を30句紹介していきます。
燕(つばめ)を季語に使った有名俳句【15選】
【NO.1】 細見綾子
『 燕つばめ 泥が好きなる つばめかな 』
季語:つばめ(春)
意味:つばめがたくさん泥の中にいる、そんなに泥が好きなのか。
つばめは、田んぼなどの泥を使って巣づくりをします。燕の季語が3回も出てきてユニークであり、つばめがたくさんいる様子がわかります。口に出して読んでいて楽しくなる句です。
【NO.2】日夏耿之介
『 つじかぜや つばめつばくろ つばくらめ 』
季語:つばめ/つばくろ/つばくらめ(春)
意味:春の突風にのって、つばめがたくさん飛んでいるよ。
つばめには呼び方がたくさんあり、つばくろ、つばくらめともいいます。春の風にのって、たくさんの燕が空を舞っています。飛ぶ燕と風のスピードを感じ、すがすがしい気分になれる句です。
【NO.3】松尾芭蕉
『 盃に 泥な落としそ 群燕 』
季語:群燕(むらつばめ)(春)
意味:どうか盃に泥を落とさないでくれ、群れになって飛んでいる燕たちよ。
群燕は、つばめが群れになって飛んでいる様子をさします。「な~そ」は「~するな、~しないでくれ」という禁止の表現です。飲もうとしている盃に泥を落とされて、困っている作者の様子が目に浮かびます。
【NO.4】正岡子規
『 燕や ひらりひらりと 町の中 』
季語:燕(春)
意味:燕が、ひらりひらりと人の多い町をすり抜けて飛んでいくよ。
ひらりひらりと、の表現がとても軽やかな句です。燕は飛ぶスピードが速い生物です。混雑している町で、人をすり抜けていく燕がうらやましく思えてきます。
【NO.5】杉田久女
『 燕来る 軒の深さに 棲みなれし 』
季語:燕来る(春)
意味:今年も燕がわが家にやってきた、この家の軒の深さに、住みなれたのか。
燕は、1度巣を作った家に、また次の年もやってくることがあります。燕は幸運の象徴ともされ、燕が巣作りをする家は縁起がいいと喜ばれました。今年もやってきた燕を、作者が優しくみつめる様子が想像できます。
【NO.6】小林一茶
『 夕燕 我にはあすの あてはなき 』
季語:夕燕(春)
意味:夕暮れに飛ぶ燕よ、私には明日の泊まる先のあてがないのだ。
夕燕は、夕暮れに飛びまわる燕のことです。燕には、帰る巣がありますが、旅の一茶には泊まるあてがなかったのでしょう。燕のことを、うらやましく思い、どんな生き物にも語りかける一茶の優しさが伝わってきます。
【NO.7】飯田蛇笏
『 昼月や 雲かいくぐる 山燕 』
季語:燕(春)
意味:昼の月が出ている、雲をかいくぐって山を燕が飛んでいる。
1枚の絵のような光景が浮かんできます。月の出ている空を、雲をかいくぐり舞うつばめに、自由さを感じ、清々しい気分がしてきます。
【NO.8】与謝蕪村
『 大津絵に 糞落しゆく 燕かな 』
季語:燕(春)
意味:大津絵に、糞を燕が落としていった。
燕に限らず、糞をしたことを句に詠んだことにびっくりしてしまいます。大津絵とは、神や仏、人や動物をユーモラスに描いた絵で教訓や風刺が書き添えてあります。ユーモアに、ユーモアを重ねたかったのか、絵の風刺が気に入らなかったのか、蕪村が何を思って詠んだか気になります。
【NO.9】加藤楸邨
『 口見えて 世のはじまりの 燕の子 』
季語:燕の子(夏)
意味:燕の子がえさをねだって口をあけている、この子たちの世ははじまったばかりだ。
燕の子は夏の季語です。大きな口を開けて、えさをねだっている様子はとても可愛らしいです。これからの希望が感じられる明るい句です。
【NO.10】加藤楸邨
『 燕はや かへりて山河 音もなし 』
季語:つばめかへる(秋)
意味:つばめは早くも、南方へと渡っていってしまい、山も河も音もなくしんと静まり返っている。
つばめは春の季語ですが、「つばめかへる(燕帰る)」は秋の季語です。にぎやかだった山や河も、越冬のためにいなくなる鳥の渡りによって静かになっていきます。季節の移り変わりを感じます。
【NO.11】 向井去来
『 あそぶとも ゆくともしらぬ 燕かな 』
季語:燕(春)
意味:遊ぶともどこかへ行くともわからないツバメが飛んでいるなぁ。
ツバメが飛んでいる様子を、遊んでいるのかどこかへ行くのかどちらだろうと見上げている一句です。春の穏やかな陽気の中でツバメを眺めている作者の様子が浮かんできます。
【NO.12】加藤暁台
『 花の酔 さましに来たか 夕つばめ 』
季語:つばめ(春)
意味:花の酔いを覚ましに来たのか、夕方のツバメよ。
花の間で戯れているうちに酔ってしまっていたのではないかと心配している面白い一句です。酔い覚ましに夕方頃に花の咲いていない場所に表れたのでしょう。作者も花酔いを一緒にさましているのでしょうか。
【NO.13】原石鼎
『 燕飛ぶ 空とおもひぬ 雨ながら 』
季語:燕(春)
意味:ツバメが飛んでいる空だと思った、雨が降っているのに。
ツバメなどの鳥は空気中の水蒸気の濃度によって雨を察知することがあると言われています。それにも関わらず雨の中を飛んでいたので、少し驚いている様子を詠んだ句です。濡れた羽で雨宿りする場所をさがしている様子を詠んでいます。
【NO.14】秋元不死男
『 こころにも 影落しゆく つばくらめ 』
季語:つばくらめ(春)
意味:心にも影を落としていく燕だ。
「つばくらめ」とはツバメの古い言い方です。自由に飛ぶツバメを見ていると、どこか自分と比べてしまって落ち込んでいる様子を詠んでいます。何か悩み事があって、自由に動けない自分と悠々と飛び回るツバメを対比した句です。
【NO.15】川端茅舎
『 燕や 烈風に打つ 白き腹 』
季語:燕(春)
意味:ツバメが飛んでいる。強い風に白い腹を打つように飛んでいる。
強い向かい風を受けながら飛んでいるツバメを詠んだ一句です。見上げている作者からはツバメの白いお腹がよく見えたことでしょう。普段は見られない場所をよく観察している一句です。
燕(つばめ)を季語に使った一般俳句作品集【15選】
【NO.1】
『 つくづくと 海見てをれば 初燕 』
季語:初燕(春)
意味:思いにふけりながら海を見ていたら、初燕が飛んできた。
初燕とは、その年になって初めて目にする燕のことです。はるばる海を渡ってきたのでしょう、もう春が来たなあと、しみじみ感じる時間が切り取られています。
【NO.2】
『 戻す度 燕近づく 砂時計 』
季語:燕(春)
意味:砂時計を何度もひっくり返しているうちに時がたち、つばめが飛んでくる季節が近づいているよ。
時間の経過を砂時計で表現しています。春の訪れが、だんだんと近づいてきて待ち遠しい、明るい気持ちになれる句です。
【NO.3】
『 子育ての 手本となりし 燕かな 』
季語:燕(春)
意味:子育てのお手本のように、つばめが雛を育てているよ。
巣を作り、雛にエサをやるつばめの様子をじっと観察して、感慨にふける作者の様子が想像できます。一生懸命な子育ての様子に、感心してしまいます。
【NO.4】
『 入院や つばめのことも 引き継いで 』
季語:つばめ(春)
意味:入院することになってしまった。毎年来る、つばめのことも引き継いでいかなければ。
つばめの住む家の主として詠まれたものか、または主から家のことを頼まれている人が引き継いでいってほしかったと思っているのか、想像が膨らむ句です。
【NO.5】
『 ツバメたち 巣作りはげむ 屋根の下 』
季語:ツバメ(春)
意味:ツバメたちが屋根の下で一生懸命、巣を作っているよ。
小学生の詠んだ句です。作者は、ツバメが巣作りに、一生懸命励んでいると感じ取りました。熱心に、巣作りを見つめる子供の様子も感じ取れる句です。
【NO.6】
『 しわくちゃな 朝を延ばして 燕くる 』
季語:燕くる(春)
意味:しわくちゃな朝を、燕が行ったり来たりして延ばしているようだ。
しわくちゃな朝という表現が想像をかきたてます。何かあった気分を表現しているのか、あわただしい朝なのか、しわしわの洗濯物を干していたのか、そこにスッと横切る燕に心が動かされます。
【NO.7】
『 つばめつばめ 友人はみな 大企業 』
季語:つばめ(春)
意味:つばめが飛んでいる、友人はみな大企業に就職したなあ。
日常のつぶやきのような句です。春は新入社員として働き始める時期でもあります。季節の移り変わりと、自身の抱える思いを俳句に表現しています。
【NO.8】
『 町空の 燕を見上げて 投函す 』
季語:燕(春)
意味:町の空を飛ぶつばめも遠くからやってきた、この手紙を投函して遠くへ届くだろう。
つばめは、人の生活の中で暮らす鳥です。投函する手紙と、遠くから渡ってきたつばめに思いをはせた、発想が素敵な句です。
【NO.9】
『 つばくろの メビウスの帯 かがやけり 』
季語:つばくろ(春)
意味:つばめがメビウスの帯のように空をひるがえっていて輝いている、またこの季節がめぐってきた。
メビウスの帯は、無限にループするため「永遠」を象徴しています。季節の移り変わりをしみじみと感じながら、つばめの輝きに生命感があふれる句です。
【NO.10】
『 夏燕 駅から空へ 飛んでゆく 』
季語:夏燕(夏)
意味:夏の燕が駅から空へと飛んでいく。
夏燕は夏に飛んでいる燕です。雛を育てるため、エサをつかまえては与えるため、せわしなく行き来します。1枚の絵のような風景が想像できます。爽やかな夏の日の様子です。
【NO.11】
『 囀り(さえずり)て 並んで見下ろす 夏燕 』
季語:夏燕(夏)
意味:さえずりながら並んで見下ろしている夏の燕だ。
ツバメの鳴き声がしてふと上を見上げると、2羽並んでこちらを見下ろしていたという様子を詠んでいます。作者のことについて何か燕たちが話していたように感じる句です。
【NO.12】
『 軒の下 寂しさ残す 秋燕 』
季語:秋燕(秋)
意味:軒の下に寂しさを残している秋の燕だ。
燕は秋になると南の方へ渡っていきます。軒下には燕が素を作りやすいので、そこに居たという証拠だけを残して去っていく燕を見て寂しさを感じている一句です。また春になったらやってきてくれるだろうかと軒先を見て感じています。
【NO.13】
『 燕帰る 故郷おもふ 廃線路 』
季語:燕帰る(秋)
意味:燕たちが南へ帰っていく。私も故郷のことを思うこの廃線路の跡よ。
南へ帰る燕と廃線路を見て故郷を思う様子を詠んでいます。廃線になるほど人もいない地域を飛ぶツバメから、郷愁にかられる一句です。作者の故郷も廃線路の先にあるのでしょうか。
【NO.14】
『 しばらくは ハイウェーに沿い 燕帰る 』
季語:燕帰る(秋)
意味:しばらくは高速道路に沿って燕たちが帰っていく。
燕が南へ渡っていく経路と高速道路が重なったのか、群れを成して飛んでいる様子を見かけた一句です。燕たちも高速道路を使って帰省していくようでどこか楽しげでもあります。
【NO.15】
『 燕の巣も 代重ねけり 道の駅 』
季語:燕の巣(春)
意味:燕の巣も代を重ねた道の駅だ。
毎年同じ場所に巣を作るため、何代にもわたって燕たちが子育てをしている道の駅の様子を詠んでいます。「ここにツバメの巣があります」という注意書きを読んだことがある人も多いのではないでしょうか。
以上、燕(つばめ)を季語に使ったおすすめ俳句集でした!
今回は、「燕(つばめ)」を題材にした俳句を、有名なもの15選と一般の方の作品15選にわけて紹介してきました。
つばめは人々の暮らしに身近な鳥です。
今回紹介した以外にも、乙鳥、夕燕、飛燕、ツバメの巣、秋燕など、つばめにまつわる季語がたくさんあります。
春がきたら、つばめを探して1句詠んでみてはいかがでしょうか。