俳句は五七五の十七音に季節を表す季語を詠み込む詩で、江戸時代に成立しました。
風景を詠むだけではなく心情を季語に託したり、風景を見て感じたことを詠んだりするため、俳句には多くの恋愛の句があります。
今回は、そんな「恋愛」に関する有名俳句を20句紹介していきます。
初恋のあとの永生き春満月(池田澄子) https://t.co/NmcmlCXMU1 pic.twitter.com/MC5z9sYmaI
— オクタビオフェルナンデス🏳️🌈 (@okutabio) May 1, 2017
「恋愛」に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 紅梅や 見ぬ恋作る 玉すだれ 』
季語:紅梅(春)
意味:紅梅が玉すだれのように咲いている。どんな風雅な人が暮らしているのかとまだ見ぬ人に恋をするようだ。
平安時代の女性は御簾や几帳で姿を覆っていたため、素顔を見ることはあまりありませんでした。ここではそんな王朝文学の頃の家に例えて、紅梅で見えない家の中に風雅な女性がいるのではないかという想像をしています。
【NO.2】与謝蕪村
『 目に嬉し 恋君の扇 真白なる 』
季語:扇(夏)
意味:目で見ると嬉しいなぁ。恋しいあの人の扇が真っ白で清潔感があるのが良い。
詠んでいる人と「恋君」の性別が不明な一句ですが、一般的には詠み手が女性、扇を持っている人が男性だと解釈されています。人々の集まりの中でも目を引く真っ白な扇を持つ恋しい人に釘付けになっている様子が読み取れる一句です。
【NO.3】小林一茶
『 山猫も 恋は致すや 門のぞき 』
季語:猫も恋/猫の恋(春)
意味:山猫たちも恋はするようだ。門を覗き込むように見ている。
「猫の恋」は春先に猫たちが発情期を迎えることを指す季語ですが、猫に仮託して人間の恋を詠んでいることもあります。この句では猫たちが門越しに見つめあっているとも、猫のようにこっそりと忍んで誰かの家の様子を伺っている人がいるとも解釈できます。
【NO.4】服部嵐雪
『 我恋や 口もすはれぬ 青鬼燈(ほおずき) 』
季語:青鬼燈(夏)
意味:私の恋は口も吸うことが出来ない青い鬼灯のようだ。
「青鬼燈」とは赤く熟す前の緑色の鬼灯のことです。「口を吸う」とはキスのことで、キスもできない初々しい恋心を熟す前の鬼灯に例えています。
【NO.5】宝井其角
『 むかしせし 恋の重荷や 紙子夜着 』
季語:紙子(冬)
意味:昔していた恋の重荷のようだ。この紙子で作られた夜着は。
「紙子」とは江戸時代によく使われていた防寒着で、和紙に柿渋を塗って乾かしたもので胴着や羽織を作るものです。紙で出来ているため軽いものですが、感情は「重荷」と表現しているかつての恋と対照的になっています。
【NO.6】正岡子規
『 恋やあらぬ 我や昔の 朧月 』
季語:朧月(春)
意味:あれは恋だったのだろうか。私だけが昔見た朧月のように曖昧なままだ。
この句は伊勢物語の「月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして」という和歌を下敷きにしています。朧月のようにもやもやとして実態の掴めない恋という感情に思い惑っている一句です。
【NO.7】高浜虚子
『 春雨の 衣桁(いこう)に重し 恋衣 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降り続く中で、衣掛けにはずっしりと重い恋に悩む女性の着物が掛けられている。
【NO.8】杉田久女
『 枯野路に 影かさなりて 別れけり 』
季語:枯野(冬)
意味:枯野の道で、影が重なって別れてきた。
本人たちではなく影だけを映している叙情的な一句です。抱擁して影が重なったあとに、枯野という寂しい道を通って帰らなければならない「別れがたい気持ち」を詠んでいます。
【NO.9】上村占魚
『 ねんごろに 恋のいのちの 髪洗ふ 』
季語:髪洗ふ(夏)
意味:熱心に恋の命と言われる髪を洗っている。
「髪は女の命」と言われますが、ここでは恋する人によく見てもらうために熱心に手入れをする女性の姿を詠んでいます。特別な日ではなく普段からのケアを欠かさないほど相手への思いが強いのでしょう。
【NO.10】芥川龍之介
『 花曇り 捨てて悔なき 古恋や 』
季語:花曇り(春)
意味:桜が咲いて空は曇っている。捨てても悔いがない古い恋だ。
曇り空で気分が落ち込みそうになっている時に昔の恋を回想し、あれで良かったのだと整理をつけている一句です。桜と曇り空を見ての一句なので、その季節の頃に苦い思い出があったのかもしれません。
「恋愛」に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】加藤楸邨
『 卒業す 片恋少女 鮮烈に 』
季語:卒業(春)
意味:卒業していく。片思いをしていた少女の姿が鮮烈に焼き付いている。
この句は片思いをしているのが作者なのか少女なのかで印象が変わってくる一句です。少女が片思いをしていた場合は告白などで鮮烈な印象を残して去っていったことになり、作者が片思いしていた場合は恋を告げずに少女の姿を鮮烈に目に焼き付けた、という意味になります。
【NO.12】日野草城
『 岡惚(おかぼれ)で 終りし恋や 玉子酒 』
季語:玉子酒(冬)
意味:思いを告げないまま終わってしまった恋だ。玉子酒を飲んであたたまろう。
「岡惚」とは親しい交際がない相手や、誰かと既に関係を持っている人を密かに恋い慕うことを意味します。終わったと詠んでいるので誰かと結婚してしまったのか、心に感じた寒さを玉子酒であたためようとしているかのようです。
【NO.13】高柳重信
『 きみ嫁(ゆ)けり 遠き一つの 訃(ふ)に似たり 』
季語:無季
意味:君が嫁に行った。私にとっては遠くから来る1つの訃報に似た気分だ。
【NO.14】鈴木真砂女
『 羅(うすもの)や 人悲します 恋をして 』
季語:羅(夏)
意味:夏の薄い着物だ。人を悲しませるような恋をしてしまった。
作者には不義の恋を思わせる俳句がいくつかあり、この句はそのうちの1つです。人を悲しませる恋ということで、誰かのパートナーに横恋慕している自身の姿を薄く透けて見える夏の着物に例えています。
【NO.15】坪内稔典
『 恋人と ポンポンダリア までの道 』
季語:ダリア(夏)
意味:恋人とポンポンダリアの花畑までの道を歩く。
「ポンポンダリア」とは擬音ではなく、球形の花を咲かせるダリアの一種です。擬音ではありませんが、「ポンポン」と調子よく花畑に向かって歩く2人の姿が浮かんでくる表現でもあります。
【NO.16】竹久夢二
『 春寒し 恋は心の 片隅に 』
季語:春寒し(春)
意味:春なのに寒いなぁ。恋は心の片隅に置いておこう。
恋といえば花が咲く春をイメージする人も多いでしょう。作者もその1人ですが!片思いであることの寂しさと春の寒さを掛けて、恋心を片隅に追いやってしまっています。
【NO.17】三橋鷹女
『 鞦韆(しゅうせん)は 漕ぐべし愛は 奪うべし 』
季語:鞦韆(春)
意味:ブランコは漕ぐものであるように、愛は奪うものだ。
「鞦韆」とはブランコのことで、かつて中国で春の行事の1つとされたために春の季語です。この句ではブランコがあれば漕ぐように、愛があれば奪ってしまえという苛烈な心情を表す例えになっています。
【NO.18】大高翔
『 逢ふことも 過失のひとつ 薄暑光(はくしょこう) 』
季語:薄暑光(夏)
意味:会うことも過失の1つになりそうな夏の薄曇りの日光の下だ。
逢瀬を重ねることで想いが深くなり、悪いことをしているような気分になっている様子を、薄曇りの太陽の光が表現しています。また実際に許されない恋をしているという解釈もできる句です。
【NO.19】池田澄子
『 初恋の あとの永生き 春満月 』
季語:春満月(春)
意味:初恋が終わったあとも案外長生きするものだなぁ。春の満月が美しい。
青春時代の初恋を満月を見ながら述懐している一句です。当時は1生に1度と感じるほどの初恋であっても、終わったあとの人生の方が長いのだという感慨と寂しさが読み取れます。
【NO.20】黛まどか
『 可惜夜(あたらよ)の わけても月の 都鳥 』
季語:都鳥(冬)
意味:明けるのが惜しい夜に月の光が差し込み、都鳥の鳴き声が聞こえる。
俳句の中に恋を表す言葉はほとんど出てきませんが、「可惜夜」とは「明けることが惜しい夜」という意味で男女の逢瀬を意味します。また「都鳥」は伊勢物語で詠まれた和歌から恋心を表す鳥として知られていて、夜が明けないでほしい恋人同士の気持ちを詠んだ句です。
以上、恋愛に関する有名俳句集でした!
今回は、恋愛に関する有名俳句を20句紹介しました。
風景や動物に恋心を託したり、はっきりと恋愛感情を詠み込んだりと俳人の作風によって表現方法が変わってくるのが特徴です。
恋愛の俳句を詠む場合は、象徴としての季語や風物に託すかはっきりと詠むか、どんな感情の動きをどう表現したいのかを決めてから詠むといいでしょう。