俳句は五七五の十七音で構成される短い詩です。
江戸時代に成立した俳句は、明治時代の正岡子規によって近代俳句が成立し、大正時代を経て戦後の現代俳句へと続いています。
今回は戦後以降、現代で活躍した俳人の有名な俳句を40句紹介していきます。
飛び込みのもう真っ白な泡の中 pic.twitter.com/hcelkLSuSW
— M.Metro (@MrMetro4) July 9, 2017
現代の有名俳句【前編10句】
【NO.1】星野立子
『 誰もみな コーヒーが好き 花曇 』
季語:花曇(春)
意味:誰もがみなコーヒーを飲むのを好むような花曇りの日だ。
【NO.2】飯田龍太
『 どの子にも 涼しく風の 吹く日かな 』
季語:涼しく(夏)
意味:外で遊ぶどの子にも涼しい風が吹く日であることだ。
【NO.3】松本たかし
『 チチポポと 鼓打たうよ 花月夜 』
季語:花月夜(春)
意味:チチポポと音を立てて鼓を打って遊ぼうよ、この桜が咲く月夜に。
【NO.4】大野林火
『 子の髪の 風に流るる 五月来ぬ 』
季語:五月(夏)
意味:子供の髪が風に流れるようになびくようになった。5月が来たなぁ。
子供と初夏の日に外に遊びに行った時に詠まれた句です。初夏のさわやかな風が子供の髪を揺らす様子を見て、5月という季節を実感しています。
【NO.5】永田耕衣
『 朝顔や 百たび訪はば 母死なむ 』
季語:朝顔(秋)
意味:朝顔が咲いているなぁ。あと百回母の家を訪れれば、母は死んでしまうかもしれない。
【NO.6】中村汀女
『 外にも出よ 触るるばかりに 春の月 』
季語:春の月(春)
意味:外に出てご覧なさい。触れるくらい大きい春の月が出ていますよ。
【NO.7】鈴木真砂女
『 熱燗(あつかん)や いつも無口の 一人客 』
季語:熱燗(冬)
意味:熱燗を飲んでいる人がいる。いつも無口で1人で訪れるあの人だ。
【NO.8】橋本多佳子
『 星空へ 店より林檎 あふれをり 』
季語:林檎(秋)
意味:星空へ向かうように店からリンゴがあふれているよ。
【NO.9】三橋鷹女
『 みんな夢 雪割草が 咲いたのね 』
季語:雪割草(春)
意味:みんな夢だったのか。雪割草が咲いたのね。
【NO.10】能村登四郎
『 春ひとり 槍投げて槍に 歩み寄る 』
季語:春(春)
意味:この春の陽気に1人、槍を投げて投げた槍に歩み寄る選手がいる。
現代の有名俳句【中編10句】
【NO.11】富安風生
『 生くること やうやく楽し 老の春 』
季語:老の春(新年)
意味:生きていることがようやく楽しくなってきた年をとって迎える新春である。
【NO.12】秋元不死男
『 鳥わたる こきこきこきと 缶切れば 』
季語:鳥わたる(秋)
意味:こきこきこきと缶切りで缶詰を切っていると、空に鳥が渡ってきているのが見えた。
【NO.13】草間時彦
『 逢いに行く 開襟の背に 風溜めて 』
季語:開襟(夏)
意味:あの人に会いに行こう。開襟した襟から入る風を背にためながら。
【NO.14】京極杞陽
『 美しく 木の芽の如く つつましく 』
季語:木の芽(春)
意味:美しい立ち居振る舞いで、木の芽のようにつつましい人がいい。
【NO.15】細見綾子
『 チューリップ 喜びだけを 持っている 』
季語:チューリップ(春)
意味:チューリップが咲いている。まるで喜びだけを持っているような美しさだ。
【NO.16】富安風生
『 まさをなる 空よりしだれ ざくらかな 』
季語:しだれざくら(春)
意味:真っ青な空よりしだれ桜の花が垂れて咲いているなぁ。
【NO.17】森澄雄
『 鳴門見て 讃岐麦秋 渦をなす 』
季語:麦秋(夏)
意味:鳴門海峡の渦潮のように、讃岐の麦畑が渦をなしているようだ。
【NO.18】飯田龍太
『 大寒の 一戸もかくれなき 故郷 』
季語:大寒(冬)
意味:大寒という寒い季節では、木々も葉を落とし一戸の家も隠れることの無い故郷になっている。
【NO.19】金子兜太
『 湾曲し 火傷し爆心地の マラソン 』
季語:無季
意味:長崎で見たマラソンランナーの姿が、体を曲げて火傷して歩く爆心地の人々に見えた。
【NO.20】金子兜太
『 暗黒や 関東平野に 火事一つ 』
季語:火事(冬)
意味:外は真っ暗闇だ。関東平野には火事の明かりがひとつぽつんと見えている。
現代の有名俳句【後編10句】
【NO.21】上田五千石
『 あたたかき 雪がふるふる 兎の目 』
季語:雪(冬)
意味:心があたたまるような雪が降っている。親子で作った雪うさぎの目も輝いているようだ。
【NO.22】有働亨
『 土筆生ふ 蘇我物部の むかしかな 』
季語:土筆(春)
意味:土筆が生えている。蘇我氏と物部氏の争いもはるか昔のことになったものだなぁ。
【NO.23】赤尾兜子
『 鉄階にいる 蜘蛛智慧を かがやかす 』
季語:蜘蛛(夏)
意味:鉄の階段にいる蜘蛛が知恵を輝かせて階段を登っている。
【NO.24】藤村多加夫
『 秋風や 人は大地に 脚を置く 』
季語:秋風(秋)
意味:秋風が吹いてきたなぁ。人は大地にまるでしっかりと据え付けるように脚を置いている。
【NO.25】森澄雄
『 ぼうたんの 百のゆるるは 湯のやうに 』
季語:ぼうたん(夏)
意味:牡丹の花が百ほど揺れている。まるでお湯の中をたゆたうようにゆらゆらと揺れている。
【NO.26】金子兜太
『 銀行員等 朝より蛍光す 烏賊のごとく 』
季語:無季
意味:銀行員たちは朝から蛍光灯を付けて仕事をしている。まるでホタルイカの放つ光のようだ。
【NO.27】角川春樹
『 遠雷や あるべき場所が 此処にある 』
季語:遠雷(夏)
意味:遠雷の音が聞こえるなぁ。私があるべき場所が此処にあるのだ。
【NO.28】鷹羽狩行
『 日と月の ごとく二輪の 寒牡丹 』
季語:寒牡丹(冬)
意味:太陽と月のような二輪の寒牡丹が咲いている。
【NO.29】友岡子郷
『 跳び箱の 突き手一瞬 冬が来る 』
季語:冬(冬)
意味:跳び箱を跳ぶために突いた手に一瞬冷たい空気を感じ、冬が来るなぁと実感した。
【NO.30】坪内稔典
『 たんぽぽの ぽぽのあたりが 火事ですよ 』
季語:たんぽぽ(春)
意味:たんぽぽの「ぽぽ」のあたりが火事になっているようですよ。
この句について作者は正解の解釈はないと述べています。加藤楸邨の俳句にも「たんぽぽのぽぽ」という表現があり、作者はそこから着想を得ました。
現代の有名俳句【おまけ編10句】
【NO.31】黛まどか
『 待ちし一枚 その中にあり 年賀状 』
季語:年賀状(冬/新年)
意味:待っていた一枚がその中にあるんだ、この年賀状の束の中に。
【NO.32】池田澄子
『 よし分かった 君はつくつく法師である 』
季語:つくつく法師(秋)
意味:よし、分かった。君はツクツクボウシのようにうるさいのだなぁ。
【NO.33】大木あまり
『 木の揺れが 魚に移れり 半夏生 』
季語:半夏生(夏)
意味:木がさわさわと揺れている様子が魚にも移ったように揺れている暑い夏だ。
「半夏生」とは植物の一種でもありますが、7月上旬を表す七十二候の1つでもあります。暑い夏の風に揺れる木々と、合わせるようにゆらゆらと揺れる魚の様子が写実的に表現されている句です。
【NO.34】大高翔
『 何もかも 散らかして発つ 夏の旅 』
季語:夏の旅(夏)
意味:部屋の何もかもを散らかして旅立とう。夏が過ぎ去ってしまわないうちに旅に出よう。
部屋を整理することよりも旅に出たいという作者の衝動が感じ取れる句です。何もかも放り出してでも旅を満喫したいという、夏にぴったりの句になっています。
【NO.35】神野紗季
『 飛び込みの もう真っ白な 泡の中 』
季語:飛び込み(夏)
意味:プールに飛び込むと、もう真っ白な泡の中にいる。
【NO.36】池田澄子
『 じゃんけんで 負けて蛍に 生まれたの 』
季語:蛍(夏)
意味:ジャンケンに負けてホタルに生まれてきたの。
【NO.37】石田波郷
『 プラタナス 夜も緑なる 夏は来ぬ 』
季語:夏は来ぬ/立夏(夏)
意味:プラタナスの葉が夜でも緑色によく見えているほど濃くなった。立夏だなぁ。
【NO.38】坪内稔典
『 がんばるわ なんて言うなよ 草の花 』
季語:草の花(秋)
意味:がんばるわなんて言うなよ、野に咲く草の花よ。
「草の花」とは特定の花の種類ではなく、道や野に咲く花の総称です。ひっそりと咲く花に「がんばった」と思って欲しくない作者の複雑な感情が読み取れます。
【NO.39】黛まどか
『 別な人 見てゐる彼の サングラス 』
季語:サングラス(夏)
意味:別な人を見ている彼のサングラスの奥の瞳だ。
サングラスで隠された彼の目が、自分ではない誰かを見ていることを察知した一句です。顔の向きは変えずに視点だけを移したことを敏感に察した勘が冴え渡っています。
【NO.40】黛まどか
『 旅終へて よりB面の 夏休 』
季語:夏休(夏)
意味:旅を終えて、これからはB面の夏休みだ。
以上、現代の有名俳句40選でした!
今回は、戦後から現在まで活躍した有名な俳人の俳句を40句紹介してきました。
戦後という社会情勢が大きく変化していく中で、昔ながらの古典的な表現を重視する人や新しい表現に挑戦する人など多くの俳句が生まれています。