菊は9月9日の重陽の節句に欠かせない「秋の花」です。
江戸時代頃から品種改良が行われ、多くの菊が生み出されてきました。それだけに、秋を代表する花として色々な俳句が詠まれています。
早く咲け九日も近し菊の花(松尾芭蕉) #俳句 #秋 pic.twitter.com/gsCKvRrO5b
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冬の日の尚ある力菊残る(高浜虚子) #俳句 #冬 pic.twitter.com/ZPl0ktgphL
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今回は、「菊」を季語に使った有名俳句を20句ご紹介していきます。
菊を季語に使った有名俳句集【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 菊の香や 奈良には古き 仏達 』
季語:菊(秋)
意味:菊の香りがするなぁ。奈良には古い時代につくられた仏様がいる。
旅の途中に奈良に立ち寄ったときの一句で、ちょうど重陽の節句の日でした。多くの家やお寺が菊を飾り香りが漂う中で、古都奈良の清廉な雰囲気がよく表現されています。
【NO.2】松尾芭蕉
『 早く咲け 九日も近し 菊の花 』
季語:菊(秋)
意味:早く咲くとよい。重陽の節句である9日が近いのだ、菊の花よ。
9月9日の重陽の節句に菊の開花が間に合うかどうか、やきもきしている心情を詠んでいます。重陽の節句は江戸時代では重要なお祭りだったため、菊が咲くかどうかは関心事の一つだったのでしょう。
【NO.3】与謝蕪村
『 子狐の かくれ貌なる 野菊哉 』
季語:野菊(秋)
意味:子狐たちが隠れている顔がちらほら見える、野に咲く菊の花畑であることだ。
子狐たちが秋の野原で遊んでいる様子を詠んだ俳句です。観賞用の立派な花をつける菊ではなく、小さく可憐な花をつける野菊というところが子供の狐とよく対比されています。
【NO.4】小林一茶
『 綿きせて 十程若し 菊の花 』
季語:菊(秋)
意味:綿を着せておくと、十歳ほど若返るという「菊の着綿」ができる菊の花だ。
「菊の着綿」とは、重陽の節句の前日の夜に菊の花に綿を被せ、夜露で濡れたその綿で体を拭うと若返り、無病息災になるという風習です。紫式部の「菊の露 わかゆばかりに 袖ふれて 花のあるじに 千代はゆづらむ」という和歌が下敷きにあります。
【NO.5】宝井其角
『 汁鍋に むしり込んだり 菊の花 』
季語:菊(秋)
意味:汁鍋にむしり込んで一緒に煮て食べよう、菊の花を。
一部の地域には菊の花を食べる風習があります。食用菊をさっと茹でて花びらのシャキシャキとした食感を楽しむものですが、「むしり込んだり」という表現から手近にあった菊の花を入れてしまったようにも読み取れる面白さがある句です。
【NO.6】服部嵐雪
『 黄菊白菊 其の外の名は なくもなが 』
季語:菊(秋)
意味:黄菊と白菊、その他の菊の名は無いようなものだ。
江戸時代では菊は頻繁に品種改良を続けられ、多くの園芸品種が誕生しました。花の色も豊富で、ピンクやオレンジ、緑など多種多彩です。そんな状況を踏まえた上で、黄菊と白菊こそが菊であるのにと嘆いているのがこの俳句になります。
【NO.7】服部嵐雪
『 菊添ふや また重箱に 鮭の魚 』
季語:菊(秋)
意味:菊が添えてあるなぁ。行く先々の重箱に魚料理として鮭もある。
【NO.8】正岡子規
『 初霜に 負けて倒れし 菊の花 』
季語:初霜(冬)
意味:初霜が降りて、負けて倒れてしまった菊の花よ。
本来菊の開花時期には霜は降りないことが多いですが、特別寒い日の朝だったのでしょう。せっかく咲いた菊の花が霜に負けてしまった光景の句です。
【NO.9】正岡子規
『 何事も なき世なりけり 菊の花 』
季語:菊(秋)
意味:何事もない世であることだ。菊の花が咲いている。
菊の花は重陽の節句で長寿を願われます。去年と同じように今年も何事もなくまた菊の花が咲く、安定した世の中への願いが込められた一句です。
【NO.10】夏目漱石
『 あるほどの 菊抛げ(なげ)入れよ 棺の中 』
季語:菊(秋)
意味:ありったけの菊を手向けに投げ入れてくれ、彼女の棺の中に。
作者の親しかった友人の訃報に際して、病床の中で作られた手向けの俳句です。中七に強い命令形を使うことで、病床で動けない我が身と亡くなってしまった親しい人への悲しみの激情が感じられます。
菊を季語に使った有名俳句集【後半10句】
【NO.11】飯田蛇笏
『 白菊の あしたゆふべに 古色あり 』
季語:白菊(秋)
意味:白菊が咲いている。朝に夕べに古くから伝えられる色に染まっている。
「あしたゆふべ」とは「朝夕」と書きます。朝日と夕日に照らされて、真っ白な菊が古くから詠まれる色に染まっている光景を詠んだ句です。
【NO.12】右城暮石
『 どの駅に 下りても菊の 花ありぬ 』
季語:菊(秋)
意味:どの駅に下りても菊の花が飾ってある季節だ。
現在でも駅などで、秋になると菊が飾ってある場所があります。また、駅の近くの花壇などでも菊が植えられていることもあり、まさに「どの駅に下りても」菊の花が出迎えてくれる季節です。
【NO.13】杉田久女
『 しろじろと 花びらそりぬ 月の菊 』
季語:菊(秋)
意味:白々と月光に照らされて、花びらが反っている月夜の菊の花だ。
【NO.14】水原秋桜子
『 菊日和 夜はまどかなる 月照りぬ 』
季語:菊(秋)
意味:菊が咲くよい日和だ。夜は丸くなった月に照らされている。
「まどかなる」とは「円かなる」と書き、月がまん丸になっている満月のことを意味しています。菊の丸い形の花が咲き誇る夜に、月も丸く照っている写実的な俳句です。
【NO.15】星野立子
『 菊日和 美しき日を 鏤めぬ(ちりばめぬ) 』
季語:菊(秋)
意味:菊が咲くよい日和だ。美しい日の光を散りばめて花びらが輝いている。
前句が月夜の様子なら、こちらは昼間の様子です。日の光を受けて、菊の花びらがきらきらと光っている様子を表しています。
【NO.16】河東碧梧桐
『 関跡に 地蔵据ゑけり 菊の秋 』
季語:菊(秋)
意味:関所の跡にお地蔵さまが据えられている。菊の咲く秋の季節だ。
かつて人々の通行を管理した関所の跡も、作者の時代にはすでに役目を終えて整備もされなくなっています。そんな関所跡に交通の安全を願ってかお地蔵さまが据えられ、菊の花が野に咲いている穏やかな風景を詠んだ句です。
【NO.17】芥川龍之介
『 怪しさや 夕まぐれ来る 菊人形 』
季語:菊人形(秋)
意味:不思議な怪しさがあるなぁ。夕暮れが近づく菊人形は。
「菊人形」とは、顔以外の部分を菊の花を使って表現した人形です。服や小物の細部まで菊の花の色や立体感で表現します。昼間ならば花だとわかる菊人形ですが、黄昏どきにはどこか怪しい美しさを感じる俳句です。
【NO.18】加賀千代女
『 菊の香や 流れて草の 上までも 』
季語:菊(秋)
意味:菊の香りがするなぁ。菊の花から流れて草の上までも香りが漂ってくる。
菊の花は強い香りが多く、その芳香を称えられることの多い題材です。ここでは菊の花から離れた野原でも香りが漂ってくる様子を表現しています。
【NO.19】宮沢賢治
『 たそがれて なまめく菊の けはひかな 』
季語:菊(秋)
意味:黄昏どきに、なまめかしい菊の花の気配がする。
黄昏どきとは日が沈む直前の夕暮れのことです。周りがよく見えなくなるため、「誰そ彼」とも言われます。そんな黄昏どきに、姿は見えないけども強い香りを漂わせた菊が近くに咲いている気配を、「なまめく」という花に使うにはめずらしい表現で表した句です。
【NO.20】阿部みどり女
『 夕日いま 百株の菊に 沈まんと 』
季語:菊(秋)
意味:夕日が今、百株ある菊の花の向こうに沈もうとしている。
菊は野生のものもありますが、最近では学校や寺社などで鉢植えで育てられている光景が一般的でしょう。たくさんの菊の花の向こう側に今まさに太陽が沈もうとしている様子が、「夕日いま」という表現から浮かんできます。
以上、菊(きく)を季語に使った有名俳句集でした!
今回は、菊を季語に使った有名俳句を20句紹介してきました。
菊は秋を代表する花であると同時に、重陽の節句という祝い事に使われる花のため、多くの俳句が詠まれている題材です。
菊の花を見かけたら、見事な花を愛でながら一句詠んでみてはいかがでしょうか。