葡萄は夏から秋にかけて収穫される果物で、「秋の象徴」とも言えます。
葡萄は種類や成長度合い、加工方法で多くの季語があり、季節によって数に差があるのが特徴です。
【葡萄:10月の季語】豊かな実をつけ、つるが伸び広がっていくことから、豊穣や子孫繁栄をもたらす「富の象徴」とされる。葡萄のつるはその伸びていく性質から「縁を繋ぐ」とも。
亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄(川端茅舎)小倉遊亀「古九谷鉢葡萄」 pic.twitter.com/2JP02AwsTj
— うちゆう (@nousagiruns) October 9, 2014
【青葡萄:7月の季語】熟しても果皮が青い種類の葡萄のことではなく、果皮が色づき始める前の未熟の葡萄のこと。葡萄はひと房にたくさんの実をつけることから、実り、豊かさ、子孫繁栄などの象徴とされる。
葉洩日に碧玉透けし葡萄かな(杉田久女) pic.twitter.com/stkG0b5vH4— うちゆう (@nousagiruns) July 4, 2015
この記事では、「葡萄」に関する季語について四季ごとに解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
葡萄の季語にはどのようなものがある?
葡萄は春に植え付けを行い、夏にかけて実を大きく育てるための摘粒や袋掛けなどの作業をして秋に収穫されます。
そのため、葡萄に関する春の季語はほとんどありません。
夏から秋にかけては野生の山葡萄や野葡萄も合わせて最盛期となるため季語が増え、冬になると葉が枯れるため季語は減っていきます。
以下に、季節ごとの葡萄に関する季語を挙げていきますので、参考にしてみてください。
【春の季語】特に目立った季語はない
【夏の季語】青葡萄・氷葡萄・葡萄液・葡萄水・葡萄の花
【秋の季語】葡萄・黒葡萄・野葡萄・葡萄園・葡萄棚・葡萄酒醸す・葡萄紅葉・山葡萄
【冬の季語】葡萄枯る
次に、これらの季語の中から特に知っておきたい季語をピックアップして紹介していきます。
葡萄に関する季語【夏編】
葡萄の花
ブドウの花は5月から6月にかけて咲く黄色い花です。遠目には小さなブドウの房に見える丸い部分から小さく黄色い花が咲きます。ブドウは風で花粉を運ぶ植物のため、ほかの植物の花と違ってほとんど目立ちません。
青葡萄
現在のブドウは多くの品種がありますが、旬は8月から10月上旬と言われています。「青葡萄」とは、まだ熟しきっていない未熟なブドウで、前述のブドウの花が散ったあとの状態のことです。ブドウの粒を減らして大きく育てるための「摘粒」が行われる状態でもあります。
葡萄液
「葡萄液」は、自生するヤマブドウを潰して果汁を取り出したものです。かつてはヤマブドウだけを指していましたが、現在では濃縮果汁のような割って飲むタイプのブドウジュースなども指します。葡萄液は水や炭酸で割ったり、後述のように氷にかけたりと夏の風物詩でした。
氷葡萄
「氷葡萄」は氷水に前述の葡萄液をかけたものです。ここで言う氷水とはかき氷のことで、シロップのようにかけたものだと考えられています。砂糖を使ったシロップが一般的になったのは戦後のため、それまでは貴重な夏の氷菓でした。
葡萄に関する季語【秋編】
葡萄
ブドウはブドウ科ブドウ属のつる性落葉低木で、ブドウ棚と呼ばれる枠組みに枝を巻き付かせて育てます。日当たりがよく水はけのいい土地で育ち、日本では甲府盆地のものが有名です。松尾芭蕉も甲州勝沼に立ち寄った際に一句詠んでいて、江戸時代には既に有名になっていたことがわかります。果実は食用やワインを作るために利用されており、多くの栽培種があるのが特徴です。
野葡萄
「野葡萄」はブドウ科ノブドウ属のつる性落葉低木で、食用にならない野生のブドウです。薮に多く生えていますが、都会の空き地などでも見られます。食用にならないため主に園芸植物として栽培されますが、漢方薬では「蛇葡萄」「蛇葡萄根」という関節痛などに効く生薬として使われてきました。
山葡萄
ヤマブドウはブドウ科ブドウ属のつる性落葉低木で、果実が食用になります。主に山間部に自生し、現在ではジュースやジャムとして利用されることが多い植物です。別名を「エビカズラ」といい、日本の伝統色の一つである赤紫色を「葡萄色」と書いて「えびいろ」と読むほど昔から親しまれてきました。『古事記』などに記されているブドウとはこのヤマブドウのことで、日本古来の在来種としても有名です。
葡萄紅葉
ブドウ科の低木は常緑樹ではないため、秋には紅葉します。一面のブドウ棚が紅葉する風景は圧巻で、冬の訪れを感じさせるものです。色は鮮やかな色ではなく暗褐色のものが多いですが、栽培種ではないヤマブドウなどは明るいオレンジ色になるのが特徴です。
葡萄酒醸す
「ワイン作る」も同じ意味の季語になります。文字通りブドウでお酒を作ることで、完熟したブドウを使って発酵させたお酒です。ワインは戦国時代に日本に持ち込まれましたが、実際に国産ワインが醸造されるようになるのは明治時代から大正時代にかけてになります。そのため、季語として使用されるのは主に大正時代以降の俳句になることに注意しましょう。
葡萄に関する季語【冬編】
葡萄枯る
さまざまな木が冬になって枯れることを意味する「名の木枯る」の子季語の1つです。「名の木」の部分に桜や銀杏といった木の名前を入れて落葉した様子を表します。ブドウは寒さに弱く、藁などを木に巻き付ける囲いをして越冬するのが特徴です。
葡萄に関する有名俳句【4選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 勝沼や 馬子も葡萄を 喰いながら 』
季語:葡萄(秋)
意味:ブドウで有名な勝沼にやってきた。馬を引く馬子もブドウを食べながら歩いている。
山梨県の勝沼は、江戸時代からブドウの栽培で有名な地域でした。馬子のような職業の人々も食べられるほど普及していたと考えられていて、当時の様子を知ることができる一句です。
【NO.2】正岡子規
『 黒きまで 紫深き 葡萄かな 』
季語:葡萄(秋)
意味:まるで黒色に見えるくらい紫色の濃いブドウであることだ。
「黒葡萄」として解釈してしまうとブドウの栽培種の一つになってしまうので注意しましょう。濃い紫色がまるで美しい黒のようだと賞賛している句です。
【NO.3】中村草田男
『 葡萄食ふ 一語一語の 如くにて 』
季語:葡萄(秋)
意味:ブドウを食べる。言葉を一語一語噛み締めるように咀嚼するように感じる。
ブドウを一粒ずつ食べる様子を、本を読むときに一語一語理解して噛み締めていることに例えています。読み飛ばすのではなく、一つずつ理解して読む作者の姿勢が感じられます。
【NO.4】水原秋桜子
『 山葡萄 むらさきこぼれ 山日和 』
季語:山葡萄(秋)
意味:ヤマブドウの紫色の実がこぼれるような天気のいい山日和だ。
ヤマブドウは山地に多く自生します。登山などの際に食べてみる人もいるように、鈴なりのヤマブドウの実が実に登山日和だと喜んでいます。
さいごに
今回は、葡萄に関する季語について、四季別に解説してきました。
山葡萄や野葡萄と栽培種である葡萄の違いや、葡萄を利用した食品など、さまざまな季語があります。
詠まれた時代によって季語が指す食品が変わるものもありますが、俳句が興った江戸時代から親しまれてきた葡萄で一句詠んでみてはいかがでしょうか。
いろいろな季語を使って一句詠んでみてください。