【春ひとり槍投げて槍に歩み寄る】俳句の季語や意味・表現技法・鑑賞・作者など徹底解説!!

 

短い言葉で詩人の心をうたい上げる俳句。

 

世に俳句をたしなむ人は多く、趣味としても広く愛されています。

 

しかし、名だたる俳人の句はその芸術性の高さも評価されています。時代によって俳句は多様性を見せ、さまざまな句風の句が詠まれています。

 

今回は数ある名句の中から能村登四郎の句春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」をご紹介します。

 

 

本記事では、春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」の季語や意味・表現技法・作者について徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」の作者や季語・意味

 

春ひとり 槍投げて槍に 歩み寄る

(読み方:はるひとり やりなげてやりに あゆみよる)

 

こちらの句の作者は「能村登四郎(のむらとしろう)」です。

 

教員を長く勤め、教え子のことや学校を舞台とした句を多く詠んでいる俳人です。

 

季語

この句の季語は「春」です。

 

春と言うと明るく、楽しげなイメージがありますが、この句は春の歓びと言うよりは「春愁」を詠んだ句です。

 

意味

こちらの句を現代語訳すると・・・

 

「春、学生がひとりで槍投げの練習をしているところで、槍を投げてはまたその槍に歩み寄って拾っていることだ。」

 

という意味になります。

 

この句は、句集「枯野の沖」に収録の句です。昭和45年(1970年)に刊行された作者の第三句集です。

 

作者は長く教師として勤務しており、この句も春の校庭でひとり槍投げの練習をする学生を詠んだものと言われます。

 

「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」の表現技法

 

こちらの句で用いられている表現技法は・・・

 

  • 句切れなし
  • 字余り

 

になります。

 

句切れなし

一句の中で、意味の上、リズムの上で大きく切れるところを句切れと呼びます。普通の文でいえば句点「。」がつくところで切れます。

 

しかし、この句には途中で切れるところがありませんので、「句切れなし」の句となります。

 

「槍を投げて拾い、また投げる」という一連の動作が途切れることなく繰り返されている様子が伝わってきます。

 

字余り

俳句は、五音・七音・五音の組み合わせが原則です。

 

しかし、この句は二句目が八音になっており、七音・八音・五音の律音となっています。このように、字数が多い句を字余りと言います。

 

はるひとり(5) やりなげてやりに(8) あゆみよる(5)

 

あえてリズムを崩すことで印象を強めています。

 

「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」の鑑賞文

 

【春ひとり槍投げて槍に歩み寄る】の句は、「槍投げて槍に歩み寄る」と「槍」という言葉が繰り返されてリズムを生み出しています。

 

槍投げの練習をしている生徒は、「黙々と槍を投げ、拾う」という動作を繰り返しているのでしょう。その繰り返しにリズムが生まれ、作者は眼を離すことができずに見守っているのかもしれません。

 

槍投げは、できるだけ遠くに槍を投げる種目です。遠くに投げられる方がいいのですが、ひとりで練習するとなると、遠くに投げれば投げるほど拾いに行くのも大変になります。

 

一人で黙々と練習に取り組む孤独感、それでも練習を続ける真面目さやひたむきさも伝わってきます。

 

季節は春で、木々が芽吹き、生き物もその気配を増していく頃です。

 

「春」と言う言葉には本来、陽気な明るいイメージがありますが、「春ひとり」とすることで、より孤独な、センチメンタルな雰囲気も漂います。

 

作者「能村登四郎」の生涯を簡単にご紹介!

 

能村登四郎(のむら としろう)は、明治44年(1911年)東京都生まれの俳人です。

 

中学生のころから、伯父に指導を受けて俳句を詠んでいました。

 

國學院大學在学中に林翔と知り合い、二人で短歌雑誌「装填」に短歌を寄せたりしていましたが、廃刊を機に両人とも俳句に転向します。

 

能村登四郎、林翔共に、水原秋桜子に師事、昭和13年(1938年)ころから秋桜子の主宰する俳句雑誌「馬酔木」に投句をするようになりました。

 

それとほぼ時を同じくして教員となります。太平洋戦争に出征していた時期をはさんで、昭和53年(1978年)まで、40年間教師として私立学校に勤務しました。

 

昭和45年(1970年)に俳句雑誌「沖」を創刊、主宰をつとめます。編集は盟友林翔でした。「沖」を通じて後進の俳人の育成にも貢献しました。

 

晩年まで積極的に創作活動を続け、2001年(平成13年)に永眠しました。

 

 

能村登四郎のそのほかの俳句

 

  • 長靴に腰埋め野分の老教師
  • 火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ
  • 一度だけの妻の世終る露の中
  • 厠にて国敗れたる日とおもふ
  • 霜掃きし箒しばらくして倒る